「これで終わりで、恭生はいいの?」で泣いた。「貴理先輩だけは泣かさないで」でもっと泣いた。「最初の夏、だよね」で決壊した。
ここからは結末まで全部いくよ。貴理の台風の夜の話、河原で恭生がやらかしたことと、そのやり直し、有夏の自己犠牲、冬子が過去をダムの底に沈める話、そして「最初の夏」まで。恭生への文句もちゃんと言う。でも今回はキレるより、泣いた回数の方が多かった。
スコア詳細
「これで終わりで、恭生はいいの?」の話からさせて
構成とか無視して、一番泣いたところから。貴理の台風の夜。
これはね、貴理と恭生が結ばれる夜の話。台風が来てて、恭生が貴理の家に行く。貴理はエプロン姿で夕飯を作って待ってる。ここまでで既にあたしはもうダメで。だってこの二人、その二日前に最悪の形で一回こじれてるんだよ(それは後で書く)。それでも貴理はごはん作って、恭生を家に上げるの。
で、貴理が恭生にコーヒー出すんだけど、飲んだ恭生の顔を見て「恭生、本当はコーヒー嫌い?」って言い当てる。恭生、子供の頃からコーヒー飲めないの。貴理はそれを覚えてる。この一言がすごいんだよ。恭生が大人ぶって強がってるのを、貴理は全部お見通し。恭生の子供っぽさを、貴理だけが知ってる。それって、この二人の時間の長さがそのまま出てる台詞じゃん。
それから貴理が「あの頃から、ずっと恭生に食べてほしくて」って言う。子供の頃、貴理が恭生のためにひどい味の弁当を作ってた話。ずっとだよ。ずっと恭生に食べてほしかったって、こんなさらっと言うの。あたしここで一回止まった。何回も読み返した。
極めつけが、恭生が偶然貴理のショーツを手にしちゃって、貴理が真っ赤になりながら「わたしのパンツ、あげるよ」って言うところ。これ字面だけ書くとバカみたいなんだけど、文脈で見ると、貴理が自分の全部を差し出す覚悟の言い方なんだよ。恥ずかしくてまっすぐ言えないから、パンツに全部託してる。この不器用さ。ずるい。ずるくない?
で、本番になる前に貴理が「これで終わりで、恭生はいいの?」って言う。恭生は最初、手だけで終わらせようとするの。優しさなのか怖さなのか。それを貴理の方から超えていく。「わたしが、痛いっていっても、やめないでいいからね」まで言う。この夜、動いたのは貴理なんだよ。恭生じゃなくて。あたしはここで、貴理という女の子に完全に降参した。
河原の暴走と、それをやり直させた作りの話
で、その二日前。8月16日の夜、河原。ここはキツかった。
探し物が見つからないまま夏の終わりが近づいて、貴理が河原で泣くの。「ダムが出来たら、もう恭生に会えなくなるから、泣いてるんじゃない!」って本心をぶちまける。ここまでは、いい。泣ける。問題はこの直後。恭生が「思い出より、貴理の方が大事な事くらいは、判ってるんだよ」って言った勢いで、貴理を河原に押し倒しちゃうんだよ。強引に。貴理が「い、痛い」「ねえ、恭生、変だよ」って言ってるのに止まらない。
あたし、これ読んでて胸が悪くなった。好きな女の子をこんな形で傷つけるの、あたしの中では一発アウトなんだよ。恭生のバカ。ほんとにバカ。この夜のあと貴理は一日中ベッドで泣いて「もう、恭生に会えない!」ってなる。当たり前でしょ。何やってんの。
……でもね。ここでこのゲーム、逃げないんだよ。この暴走を「なかったこと」にしないの。恭生はちゃんと自己嫌悪でボロボロになって、一回東京に帰ろうとする。そこを英輝が殴って止める。「このままただ逃げ帰ったりしたら、俺は絶対お前をゆるさないからな!」って。で、恭生は台風の夜、もう一度貴理と向き合いにいく。あの台風夜のやさしいシーンは、河原のやり直しなんだよ。同じ二人が、今度はちゃんと言葉と気持ちを重ねてから結ばれる。
この対の作り、頭では巧いと思う。悪いことを悪いまま置いて、それでも二人がもう一度出会い直すところまで書く。逃げてない。だからあたしは、恭生を許してないけど、この物語の書かれ方には頭を下げる。恭生一人だったら5点。この構えがあるから、全体が持ち上がってる。
有夏の「貴理先輩だけは泣かさないで」で号泣した
ここが今作いちばんの号泣ポイント。倉林有夏。
有夏は弓道部のマネージャーで、貴理の二つ下の後輩。父親を事故で亡くしてて、集落のみんなに育ててもらった子。この子が貴理を、本気で、姉というより、もっと深いところで慕ってる。
河原の一件で貴理が泣き崩れたのを見た有夏が、夜、恭生を学校に呼び出すの。そこで何を言うかというと、「あたしの身体なら、いくらだってあげるから」なんだよ。自分の体を差し出すから、だから貴理を泣かせるようなことはしないで、って。「先輩だけは、貴理先輩だけは泣かさないで」って。
待って。待ってよ。まだ15か16の子だよ。その子が、大好きな先輩を泣かせないために、自分をどうなってもいいものみたいに差し出すの。恭生を好きだからじゃない。貴理のためなんだよ全部。あたしこのシーン、声出た。有夏そんなことしなくていいんだよって画面に言った。恭生はちゃんと止めて抱きしめるだけで終わるんだけど、有夏がそこまで追い詰められてたっていう事実が、もう。ダメだった。
しかもこの子、そのあと縁側で恭生に「もし振られたら、今度はあたしが慰めてあげますから」って笑うんだよ。強がりだってわかる。自分の気持ちは全部飲み込んで、貴理と恭生がうまくいくのを願う側に回ってる。有夏が一番、自分の感情を殺してる。この子のことは、あたしはずっと忘れない。
貴理と有夏が二人で立つ、もう一つの結末
貴理の側から夏を追いかけていく章がある。そこでは全然ちがう景色になる。
同じ夏を、今度は貴理の目線で追う話があるんだよ。そこでは貴理は恭生を諦める。で、そのぶん、有夏との距離が縮まっていく。最初は先輩と後輩、姉と妹みたいな関係だったのが、だんだん恋になる。有夏がずっと押し殺してた「先輩……愛してます」が、ちゃんと届く。
すごいのが、貴理がそれを同情で受けないところ。有夏が「同情でつきあってもらったりとか、古積さんの代わりとか、そんなのもイヤだもん」って先に言うんだけど、貴理は「同情とか、そんな理由で、わたしが本当にあんな事をすると思うの?」って返して、「好きよ、有夏」ってちゃんと言う。恭生の代わりじゃない。有夏を有夏として好きになる。この筋の通し方、好き。
恭生と別れたあとの貴理の「わたしの涙は、どこにも残らない」っていう一言があるんだけど、これ、どこにも水として残らない涙、つまり来年ダムに沈むこの集落と重なってて、痛いんだよ。失恋を、ちゃんと失恋として通過して、それでも有夏と二人で立つ。守られて終わるヒロインがいないこのゲームの、いちばんきれいな形だと思った。
冬子の章は、あたしのキャパ外。でも頭は下げる
冬子の側から語られる章。ここは正直、あたしには重かった。
冬子は、昔この集落にいた年上の女の人。父親が不倫の常習犯で、それが集落中に知れ渡って、家族ごと追い出されたの。「集落中の誰もが、わたしと同い年の子供までもが知っていたのだ」って独白がある。子供にまで「お前もスケベな血だ」みたいに言われて育った。だから今は都会で、行きずりの男を渡り歩くみたいな荒んだ暮らしをしてる。ここの描写、あたしにはしんどかった。純愛が好きなあたしの守備範囲じゃない。
この人が集落に戻ってきたのは、全部が水の底に消えるのを見届けるためなんだよね。過去を、自分ごと沈めにきた。で、恭生のまっすぐさに触れて、本気になっちゃう。台風の嵐の夜、なんと貴理の方から冬子に「古積くんを、よろしくお願いします」って恭生を託すの。ここでちょっと待ってってなった。貴理が、恭生を、冬子に。この集落の女の子たちの、譲り合いというか、抱え方の広さよ。
嵐の夜の小学校で、冬子が恭生を試すの。「思い出の品物を、掘り出したい?」って。恭生は「もう、いいです。探す気はありません」「あれはそのまま、ダムの底に沈めておきますよ」って答える。ここでこのゲームのタイトルの意味が全部つながる。掘り起こすんじゃなくて、沈める。過去を未来に持ち越さないっていう選択。冬子が背負ってきた「消えてほしい過去」と、恭生の「もう掘らない」がここで一つになる。あたしはこの人の話を好きにはなれなかった。でも、この一連の書かれ方は美しいと思った。それは認める。恭生が「僕の失恋を、祝われているみたいだ」って言って、冬子が「失恋をではなくて、新しいこれからを祝ってもらっていると思えばいいのよ」って返すの、大人だなあって。あたしにはまだわからん優しさだった。
「最初の夏、だよね」で全部持っていかれた
貴理と結ばれたあとのエピローグ。ここがこのゲームの心臓。
台風の夜のあと、恭生は東京に帰らなきゃいけない。受験生だから。二人で集落の分かれ道まで歩くの。そこで貴理が「来年は、ここはもう、水の底なんだね」って言う。この集落、来年には無くなる。二人が過ごした夏の全部が、水の下。それをわかった上で、恭生と貴理はここまでの夏を「探し物」の物語として過ごしてきた。
台風夜に恭生が言う「ようやくみつけたんだ。たぶん、僕の求めていた、本当の探し物」っていうのがあって。校庭に埋めたガラクタを掘り起こしにきたはずが、本当に探してたのは貴理だった、っていう。あたしこういうの弱いんだよ。名目と本心が最後にひっくり返るやつ。
で、みんなが「最後の夏」って呼んでたこの夏を、貴理が最後に「最初の夏、だよね」って読み替える。集落にとっては終わりの夏。でも、貴理と恭生にとっては、二人が本当の意味で始まった夏。同じ夏に正反対の名前がつく。この一言で、消えていくものの話が、始まっていくものの話にひっくり返る。あたしここで決壊した。号泣した。うまく言えないんだけど、失われることが確定してる場所で、それでも「始まり」を選ぶって、こんなに強いことだったんだって。
数年後の話が、この夏に重りをつける
全部終わったあとに見られる、数年後のおまけの話。これがまた効く。
全ルート終えると、数年後、ダムが完成した式典の場面が見られる。英輝が主役で、そこに大人になりかけの和典がいる。有夏の弟の、あの金魚すくいで無邪気にはしゃいでた男の子。
その和典が、完成式典の真ん中で「こんなダム、絶対ぶっ壊してやるからな!」って叫ぶんだよ。「なんで、なんでボクたちの場所に、こんなもの作るんだよ!」って。あの夏、子供だった子が、失ったものの重さを大人になって理解して、公衆の面前でそれをぶちまける。あたしはこの子を責められない。だってこの子の言うことが、いちばん正しいから。
このおまけがあることで、あの夏の恋の話が、ただの甘い思い出じゃなくなる。誰かの初恋の裏で、一つの集落と、そこで生きてた人たちの居場所が丸ごと消えた。恋が成就したから全部よかった、にしないの。この重りのつけ方に、あたしは、うん。信用できるって思った。
恭生、お前のことはまだ怒ってる。でも
全部終えたあとの、恭生への正直なところ。
恭生は優柔不断だし、河原でやらかしたのは一生忘れない。動くのはいつも女の子の方で、恭生は待ってばっかり。台風夜だって、最後の一歩を踏み出させたのは貴理だった。あたしは感情移入して物語に入るタイプだから、主人公がこう煮え切らないと「動けよ!」ってなる。今回もなった。
でもさ。前に別のゲームで、最後まで一言も背中を押せない主人公にキレたことがあるんだけど、恭生はそこまでじゃなかった。少なくとも、河原のあと逃げようとした自分を、殴られてでも引き返して、貴理に「貴理が好きだよ」ってちゃんと言葉で言えた。「全部わたしのなの! だから、他の女性に手を出したら駄目!」って貴理に独占されて、それを受け止めた。子供が、ちょっとだけ、大人になろうとした。その一歩ぶんは、あたしは認める。認めるけど、河原のぶんはずっと根に持つ。それは別。
8.0——女の子たちが、自分で名前をつけた夏
全部書き終えて、改めて。
このゲーム、貴理も有夏も冬子も、みんな最後は自分で選ぶ。貴理は「最初の夏」って名前を、有夏は貴理と立つ道を、冬子は過去を沈める決断を、自分の手で選び取る。誰も、恭生に選んでもらって終わらない。守られて終わるヒロインが一人もいない。これが本作のいちばんの強さだって、あたしは思う。
マイナスは、恭生の煮え切らなさと河原の一件、それから序盤が長くてしんどいところ。あと冬子の章はあたしの心には重すぎた。そこで満点にはならない。でも、消えていく集落を背景に、女の子たちが自分の夏に自分で名前をつけていくこの感じは、あたしの中でずっと残る。8点。恭生がもう少し早く動ける男だったら9だった。それだけ。
