佳多奈の書かれ方が、完全に解釈一致。久々に本気で推せた子だった。
D.O.が2000年に出した18禁の恋愛ADV。シナリオは山田一、のちの田中ロミオの実質的な処女作です。7年前に母を奪った事故をきっかけに宇宙飛行士の夢を封印した主人公の今村正樹くんが、天美市に戻って6人の女の子と一年弱を過ごす。「サヴァン症候群のヒロイン」とか「金髪の留学生」とか属性だけ聞いてナメてたわたしの完敗でした。このゲームのすごいところは、6人それぞれが「宇宙」あるいは「ルーツ」っていう同じ一点に、別々の動機から繋がってること。とくに天文部のいない教室にいる藤原佳多奈。事故の後遺症を抱えたこの子の行動原理が、序盤から終盤まで一度も崩れない造形に、わたしは完全に持っていかれた。属性じゃなくて、ひとりの人間として全員がそこに立ってる。主人公が最後まで受け身なのと、ルート間の濃淡で点は引くけど、佳多奈に会えただけでやった価値があった。わたしの評価は7.5。
スコア詳細
「全員、宇宙の夢に繋がってる女の子たち」のゲームだった
先に推しを。藤原佳多奈。このゲームで一番好きになったキャラ。
D.O.が2000年に出した18禁の恋愛ADV。シナリオは山田一、のちの田中ロミオの実質的な処女作で、発売順では『加奈 〜いもうと〜』の次ですけど、書かれたのはこっちが先らしいです。主人公の今村正樹くんは、7年前に母を奪ったロケット燃焼実験の事故をきっかけに、宇宙飛行士になる夢を封印して幽霊部員になってる高2。天美市に戻ってきた彼が、瞳・佳多奈・恭子・蘭子・ゆかり・サーシャの6人と、四月から十二月の一年弱を過ごす。攻略ヒロインは6人。
わたしは「サヴァン症候群のヒロイン」とか「フスクス王国の留学生」とか、属性だけ聞くと身構えるタイプなんです。設定が派手だと、キャラがその設定を背負わされてるだけの飾りになりがちで。属性で記号化されたキャラがポーズを取ってるだけなら即閉じる。
で、結論。ナメてたわたしが悪かった。このゲームのすごいところは、6人それぞれが「宇宙」あるいは「ルーツ」っていう同じ一点に、別々の動機から繋がってることなんです。テーマがどうこうっていう話はわたしはうまく言えないんですけど、全員がちゃんと同じ方向を向いてるのは感じる。その上で、一人ずつの行動原理がブレてない。とくに藤原佳多奈。あの子のために、わたしはこのゲームを覚えておく。
焦るんじゃなくて、ゆっくり夢を取り戻していく話
この作品の手触りは、ノスタルジーと再生でできてる。
舞台は天美市っていう工業都市。正樹の母はここのロケット研究所に勤めてて、7年前の燃焼実験の事故で亡くなる。正樹はその傷から逃げるように一度この街を離れて、一年半前に戻ってきた。だから物語はずっと「忘れたくても忘れられない、郷愁にも似た想い」っていう空気で満ちてる。母の働いていた廃工場跡を正樹が訪ねるところから始まるんです。
そこに、母の元同僚で元宇宙飛行士のジョン・ウィリアムズが「太平洋上にSAS(国際航宙科学大学)が作られる」っていう話を持ってくる。子供の頃に宇宙飛行士を夢見ていた正樹が、封印してた夢を否応なく思い出す。物語の縦軸はずっとこれ。正樹がもう一度「宇宙へ行きたい」と言えるようになるまでの話なんです。そして、その背中を押すのが6人のヒロインそれぞれ。誰のルートを選ぶかで、誰が正樹を再起させるかが変わる。
関西弁の親友・慎太郎、ブルマと女子高生に執着する困った大人のジョン、保健室で日本酒を「水」と言い張る養護教諭の朝末先生、攻略はできないけど存在感が異常に強い天文部部長の二ノ宮天子先輩。脇のキャラもちゃんと立ってて、世界が正樹のためだけにあるわけじゃない感じが出てる。山田一らしいコメディと、しんみりした感情の振れ幅が、全編で噛み合ってます。
6人、全員ちゃんと「立ってる」
もう一度。一番の推しは藤原佳多奈。でも全員に語ることがある。
藤原佳多奈
藤原佳多奈。事故の後遺症で表情と言葉を失っていて、教室にほとんど来ない、保健室で寝起きする1年生。最初はオウム返しをするだけの「不思議ちゃん」に見える。でもこの子、記憶力は天才級で、何かを失ったというより「選んで決める」ができなくなってる子なんです。この行動原理が一貫してるから、終盤の展開が刺さる。属性じゃなくて、ちゃんと固有の考え方を持ったひとりの人間。わたしが推す理由は全部そこにあります。
星見瞳・相馬蘭子・真田恭子
瞳は「Passion is power」が口癖の脳天気な天文部の子で、正樹を半強制的に部活に引き戻すキーパーソン。蘭子は陸上の特待生で、人見知りが激しくて瞳以外とは距離を置く孤高の子。恭子は剣道部主将の年上で、気だるげでマイペースなのに誰かの姉みたいに庇護してくる人。この3人、表の属性のさらに奥に、それぞれ抱えてる重いものがあって、それが終盤に開く。表面で済ませてないのが良い。とくに瞳の脳天気と蘭子の孤高は、どっちも「そう振る舞う理由」がちゃんとある。
山本ゆかり・サーシャ・ノーブルグ
ゆかりは1年下の後輩で、迎賓館のウェイトレスで、押しが強くてちゃっかりしてて、即決即行型の元気少女。サーシャは「ティーナ」名義で潜入留学してる、日本語が「〜ですです」な天然の金髪留学生。この2人はスケールがでかい展開を背負うんですけど、それでも芯がブレない。ゆかりの「あきらめるのってキライだから」も、サーシャの「誰かが傷つくのはいや」も、最後までその核のまま動く。詳しい顛末はネタバレあり版で全部語りました。
佳多奈の造形が、属性じゃなくて行動原理だった
わたしの評価基準はひとつ。このキャラを好きになれたか。解釈一致か。
佳多奈の何が良いって、序盤に置かれた一見ただの奇行が、終盤にちゃんと意味を持つことなんです。オウム返し、じゃんけんで毎回グーを出すこと、シャツが濡れても着替えないこと。最初これを「記号化された不思議ちゃん」だと思ってたら、養護教諭の朝末先生がこの子の行動を丁寧に言葉にしてくれて、全部に理由があるとわかる。意味不明な行動だと思ってたものが、実は一貫した行動原理だった。これに気づいた瞬間、わたしはこの子を完全に推すと決めました。
こういう「障害を抱えた子」って、エロゲーだと「守られる側」「泣かせるための装置」になりがちじゃないですか。属性として消費される。でも佳多奈は違う。終盤、この子は自分の意志で大きく変化する。そしてその変化が、ちゃんとこの子の中で繋がってる。何も失ってなかったものと、本当に失われていたものが、ここではっきり分かれて、回復が「能力を取り戻す」話じゃないことがわかる。属性キャラには絶対に書けない、行動原理の一貫した転換。解釈一致。これ以上ないくらいの解釈一致でした。尊死。
瞳と蘭子も同じ理由で良い。瞳の脳天気は、実は意志でできてる。「笑うの」って自分に課したルールなんです。蘭子の孤高は、罪悪感で走り続けてた裏返し。2人とも、表の属性が剥がれた奥に、ちゃんと一貫した動機が置いてある。恭子の異常に強い庇護欲も、ある喪失が原点で、それを知ると全部腑に落ちる。ライターがこの子たちをわかってる。だからヒロインの魅力は8.5、キャラの一貫性は8.0です。
関係性が、過去の清算でちゃんと動いてる
キャラ単体だけじゃなくて、関係性の動き方の話も。
このゲームの関係性は、ほとんどが「過去の清算」で動きます。正樹とヒロインの多くは、子供時代に何かしらの繋がりがあって、それが事故や別れで一度切れてる。蘭子とは決定的に傷つけ合った記憶があるし、佳多奈とは事故の発端を共有してるし、瞳とは交わした約束がある。再会した今、その切れた糸をもう一度結び直していく過程が、この作品の関係性の核なんです。新しく好きになるんじゃなくて、昔の傷をほどいて好きに戻っていく。この手触りが丁寧で良い。
とくに語りたいのが、ヒロインたちが「同じ言葉」や「同じ場所」を二度繰り返す構造。蘭子は過去に言って拒絶された台詞を、もう一度言って今度は受け入れられる。瞳は子供の頃の約束を、大人になってもう一度果たす。同じモチーフの一度目と二度目で、決別を恋愛に書き換える。この反復の使い方が、関係性の変化を実感させてくれるんです。スケールの大きいサーシャやゆかりのルートでも、芯にあるのはこの「もう一度繋ぎ直す」感覚で、ブレてない。詳しい顛末はネタバレあり版で全部書いたので、クリアした人に読んでほしい。
Hシーンについても触れておく。わたしにとってHシーンは積み上げた関係の集大成かどうかが全てで、実用性の話はしない。このゲームのHシーンは1ヒロインにつき1〜2回の節度型で、全部それぞれのキャラの感情の到達点として置かれてる。とくに佳多奈のシーンは、この子の核を全部含めて抱くという構造になっていて、このキャラにしか成立しない。日常の正樹とHシーンの正樹がちゃんと同じ人間で、急にキャラが別人になる破綻はどこにもない。そこは全シーン信頼できました。
減点は2つ。主人公の受け身と、ルート間のムラ
褒めてばかりもいられない。引っかかったところもちゃんと話します。
主人公の正樹くん。観察と内省の人で、地の文のモノローグはちゃんとキャラとして立ってる。母の工場跡で「つわものどもが夢のあと」と自嘲する皮肉屋っぽさとか、罪悪感を長く引きずる不器用さとか、内面は確かにある。無個性ではない。ただ、この人の行動の起点が全部「誰かに見つけてもらう」ことなんですよ。正樹が自分から「宇宙に行きたい」と望んで動く場面が、なかなか来ない。瞳に部活へ引き戻され、ジョンに問われ、ヒロインのほうが先に踏み込んで、火をつけて、正樹はそれを受け止めて立ち上がる。わたしは主人公がヒロインを好きになる「理由」と「動き」が見える作品が好きなので、ここは点を引きます。内面はある。でも好きになる過程を主人公の側から見せてくれる量が足りない。だから主人公の造形は6.0。
もうひとつはルート間の濃淡。佳多奈ルートと瞳ルートの掘り下げが圧倒的に厚いのに対して、他のルートはヒロイン本人と過ごす濃密な時間にムラがある。設定が大きいルートは、その設定の処理に尺を取られて、ヒロイン個人の細かい仕草を積む時間がちょっと食われる。佳多奈があれだけ立ってるぶん、他のルートで「もうちょっとこの子を見せて」って思う瞬間が出てくる。キャラが良いだけに、もっと均等に時間が欲しかった。この物足りなさで、ボリュームと密度は6.5に留まります。
7.5——佳多奈に会えただけで、やった価値があった
このゲームを覚えておく理由は、ひとつでいい。
藤原佳多奈。事故の後遺症を抱えて、教室にいない子で、奇行に見えた行動の全部に理由があった女の子。序盤から終盤まで、この子の行動原理は一度も崩れなかった。「サヴァン症候群の不思議ちゃん」っていう属性じゃなくて、「藤原佳多奈」という一貫したひとりの人間として、空を見ていた。ライターがこの子をわかってる。それだけでわたしには十分です。
瞳の脳天気が約束でできてたことも、蘭子の孤高が罪悪感の裏返しだったことも、恭子の庇護欲の原点も、サーシャやゆかりの芯のブレなさも、全部ちゃんとそのキャラの核から出てた。6人全員わかってる。崩れない。減点は、正樹が最後まで「見つけてもらう」のを待ってる受け身の男だったことと、ルートごとの濃淡にムラがあったこと。だから7.5。満点には届かない。届かないけど、佳多奈というキャラに会えたという一点で、わたしの中で長く残るゲームになった。田中ロミオの原点が気になる人にも、属性で身構えがちな人にこそ、この6人に会ってみてほしい。
