伊頭悦子のレビュー — 家族計画

伊頭悦子
伊頭悦子
スナック「悦子」ママ・人間観察三十年
8.2/10
8.2 / 10

血の繋がりがない者同士が、本当の家族になろうとする。こういうのに、アタシは弱いのよ。

身寄りのない若い男が、ふざけた中年に誘われて、血の繋がらない者ばかりの「擬似家族」に放り込まれる。最初はごっこ遊びに見えるでしょ。アタシも半分そう思ってたのよ。でも、この寄せ集めの連中、一人ずつまともじゃない過去を抱えてて、それを見せ合いながら、少しずつ血の通った家族になろうとしていくの。結末には触れずに、なぜアタシが泣かされたかを話すわ。

スコア詳細

主人公の造形 9
キャラ間の関係性 9
ヒロインの魅力 8
エンディングの満足度 8
ボリュームと密度 8
序盤の掴み 7

「家族の話だから、ママは泣くと思う」って常連が置いていったの

二〇〇一年に出た作品なんだってね。手に取ったのは、いつもの常連さんが「ママ、これは家族の話だから、絶対泣くと思う」ってカウンターに置いていったからなのよ。家族の話、ねえ。アタシ、その手の言葉には警戒するの。安い「家族っていいね」を見せられても困るからね。

主人公は沢村司っていう、身寄りのない若い男。行き倒れの中国の女の子・春花を拾ったところを、広田寛っていうふざけた中年に「家族計画をやらないか」って誘われるの。古い高屋敷家って屋敷に、血の繋がってない者ばっかり集めて、無理やり父・母・姉妹・兄って役を振って一緒に暮らす。司は「家族なんかいらない」って突っぱねるんだけど、末莉って最年少の子に泣きつかれて、兄役で混ざることになる。

家には毒舌の家主・青葉、能面みたいな便利屋・、ぽややんとした母役・真純がいてね。最初は寄せ集めのドタバタなのよ。でもこの寄せ集め、みんな一人ずつ、何かを抱えてる気配があるの。置いていった常連さんは正しかった。アタシ、カウンターでしっかりやられたわ。

第一印象——傷の出し方が、嘘くさくなかったわ

この作品の人間はね、傷の負わせ方が地に足ついてたのよ。家族ものって、安っぽくやると「みんないい人」になりがちでしょ。ここはその逆。集まった連中、全員どっか影を抱えてるの。それも、わざとらしい不幸自慢じゃなくて、現実にいそうな抱え方をしてた。

まず寛ね。ふざけた中年で、部下の名前を「中川君、中島君、中山君」って毎回間違える。最初は「なんだこの変なおじさん」って思ってたわ。ところがこの男、賑やかに振る舞ってるくせに、ふとした拍子に、笑ってるおじさんが一番痛いものを抱えてるって匂いがするの。どんな事情かはネタバレありの版で話すけど、こういう「明るさで蓋をしてる人」って、現実のカウンターにもいるのよ。一番よく笑う人が、一番しんどいものを抱えてたりする。その描き方が、擦れてなかったわ。

沢村司——「いらない」と言いながら、放っておけない男だった

司ね。アタシ、この男のことは早い段階で「腹は据わってる」って見たわ。無愛想で面倒くさがりで、口では「家族なんかいらない」って言ってるくせに、目の前で弱ってる子を放っておけないの。行き倒れの春花を拾い、末莉に泣きつかれたら兄役を引き受ける。口と体が逆なのよ、この男は。

なんでそんなに「家族なんかいらない」って突っぱねるのか。それがね、この男なりに理由があるの。「失うのがイヤだから、俺は一人でいたんだ」っていう台詞があってね。深く関われば、いつか失う。失うのが怖いから、最初から関わらない。臆病なんじゃなくて、傷つくのが人より早くわかってる男なのよ。うちのお客さんにも、離婚を二度やって以来「もう誰とも深く付き合わない」って決めた人がいたわ。傷を避ける人ほど、本当は誰より家族を欲しがってるの。

この司って男は、口は悪いくせに、行動でちゃんと示すのよ。優しさを言葉にしないで、勝手に背負って、勝手に引き受ける。こういう不器用な男、現実にもいるのよね。こういう男がいたら苦労しないのに、って思いながら、いるところにはいるって信じたくなる。この男はいい男だわ。詳しい行く末はネタバレありの版で話すけど、最後にこの男が辿り着くところには、アタシ、ころっといったわ。

準・末莉・真純——みんな、自分を安く見積もりすぎてる子たちなのよ

ヒロインたちはね、それぞれ「自分なんか」って思い込んで生きてる子たちなの。可愛いだけの子は一人もいない。みんな、現実に放っておけない弱さを抱えてた。

準は能面みたいに無表情で、何を考えてるかわからない子でね。最初は「変わった子ね」くらいに見てたわ。でも、この無表情の下に、人を信じきれない深い理由があるって、だんだん伝わってくるの。心を閉じてる子って、冷たいんじゃなくて、本当はものすごく傷つきやすいのよ。それが見えてきたとき、アタシはこの子が放っておけなくなったわ。

末莉は愛想笑いがうまくて、自分のことを「いらん子」なんて呼ぶ子。明るく見えるんだけど、その明るさが痛々しいの。愛されることに、まるで対価がいると思い込んでるみたいなところがあってね。こういう子は、現実でも放っておけないでしょ。真純はぽややんとした母役で、料理が抜群にうまいんだけど、「自分を必要としてくれる人」にすがりたい弱さがある。三人とも、共通してるのは「自分の値打ちを安く見積もってる」ところなのよ。みんな、もうちょっと自分を大事にしなさいって思うんだけど、そこが切なくて、可愛いの。この子たちが少しずつ「自分は家族の一員でいていい」って思えていく過程を、ぜひ見てやってほしいわ。

この家族、本物か——血が繋がってないからこそ、選んだ家族なのよ

家族ってね、選べないものでしょ。生まれた家がそのまま家族で、当たりも外れも引き受けるしかない。アタシも、お客さんの愚痴を三十年聞いてきて、いやっていうほどそれを見てきた。この作品が見せようとするのは、その逆なのよ。血が繋がってないからこそ、自分の意思で「家族になる」と選んだ連中の話。これは本物か。アタシはずっと、そこを裁きたかったの。

最初はね、嘘くさいと思ってたのよ。寛が無理やり役を振って、初対面の他人に「はい今日から父と母と姉妹です」なんて、そんなの上っ面のごっこ遊びでしょって。実際、家主の青葉なんて「私は家族愛なんて信じていない」「最初から、家族でも何でもなかった」って突き放してる。アタシもその青葉に半分賛成だったわ。よその子をいきなり家族って呼べるほど、人間は単純じゃないのよ。

でもね、この連中、一緒に暮らすうちに、ぶつかって、ちょっとずつ素の顔を見せ合っていくの。飯を作って、食って、けんかして、相手のしんどいところに気づいて、放っておけなくなる。ごっこ遊びだったはずのものに、少しずつ本物の体温が通っていくのよ。一番「信じない」って言ってた人間ほど、いざとなると一番身内をかばう。口と行動が逆なの。一番愛が深い人間ほど、それを認めないものなのよ。うちのカウンターでも、いつも旦那の悪口ばっかり言ってる奥さんが、旦那が倒れたときに誰より取り乱したわ。そういうものなの。

血の繋がりがないからこそ、この連中は「この人を家族にする」って一人ずつ選んでる。生まれで決まった家族より、よっぽど覚悟がいるのよ。アタシの三十年で見てきた一番強い家族はね、血じゃなくて、選び合った人たちだったわ。離婚した親より、よその子を引き取って腹を括った人のほうが、よっぽど親だった。この作品は、それを嘘くさくなく見せようとしてる。だから刺さるの。きれいごとじゃない、痛みを伴った家族の作り直しだから、刺さるのよ。

序盤の長さと、横道の話——人間ドラマだけでよかったのに、とは思ったわ

褒めてばかりもなんだから、引っかかったところも正直に言うわ。まず序盤ね。アタシ、序盤で掴まれないと閉じる女なのよ。これは最初、ふざけた小ネタが続いて、誰が誰だかわかるまでに少し時間がかかった。

寛がボケて、真純がドジって、春花がチャイナ訛りでしゃべって、賑やかな隣人まで絡んでくる。賑やかなのはいいんだけど、肝心の「この人たちが何を抱えてるのか」がなかなか見えてこなくてね。この擬似家族のドタバタを楽しめるかどうかで、最初の入りが変わると思う。アタシは中盤、一人ずつの事情が見えてからぐっと入れた。でも最初で気合いを入れさせられたのは事実だから、そこは正直に引いておくわ。だから掴みは満点にはできなかった。

それと、家族の話とは別に、外から不穏なものが忍び寄ってくる展開があってね。緊張感を出すための仕掛けなのはわかるんだけど、アタシ正直、その物騒なくだりは、人間ドラマの邪魔に感じたところもあったの。傷を抱えた連中が家族になっていく話だけで、十分重かったのよ。ただ、長いのは許すわ。五人ぶんのルートがあって、それぞれちゃんと事情を掘って、ちゃんと向き合ってる。長い割に薄い作品なら時間を返してって言うけど、これは中身が詰まってた。各ルートに、忘れられない場面があったもの。

8.2——恋を見てきた女が、家族の作り直しに泣かされた話よ

最終的に八・二。アタシが付けた点数としては、かなり高いほうよ。序盤のもたつきと、物騒な横道がなければ、もう少し上だったかもしれない。でもね、終わったあとに残ったものが、それを補って余りあったの。

アタシはずっと、恋愛を見る目だけで生きてきた女なの。男が信用できるか、女が自分を持ってるか、恋がちゃんと終わるか。それで作品を裁いてきた。でもこの作品はね、恋愛の評価軸だけじゃ測りきれなかったわ。司とヒロインたちの恋は確かにあるんだけど、本当に重かったのは、生まれで決まらない家族を、自分を安く見積もってた連中が、自分の意思で選び取ろうとするところだったの。みんな一度は「自分なんか」と思ってた。それでも誰かに選ばれて、誰かを選び返して、家族になろうとする。

この結末がどうなるかは、ぜひ自分の目で確かめてやってほしいのよ。アタシは最後、カウンターでひとり、しばらく動けなかったわ。歳をとると涙腺が緩くなっていけないね。まあ、よかった。恋ばっかり見てきたアタシに、家族は血じゃなくて選ぶものよって、もう一度教えてくれた作品だった。それだけで、十分だわ。