加藤萌絵のレビュー — 家族計画

加藤萌絵
加藤萌絵
推しの行動原理を見抜く女
8.7/10
8.7 / 10

準の書かれ方が、完全に解釈一致。久々に本気で推せた子だった。

D.O.が2001年に出した18禁の恋愛ADV。身寄りなくふらついてた主人公・沢村司くんが、血の繋がらない者たちで作る「家族計画」に巻き込まれて、古い日本家屋で擬似家族の生活を始める。「能面の便利屋」とか「毒舌の家主」とか属性だけ聞いてナメてたわたしの完敗でした。このゲームのすごいところは、5人のヒロインそれぞれが「家族」っていう同じ一点に、別々の欠落から繋がってること。とくに能面で拒食の高屋敷準。最初は何を考えてるか読めないこの子の行動原理が、序盤から終盤まで一度も崩れない造形に、わたしは完全に持っていかれた。属性じゃなくて、ひとりの人間として全員がそこに立ってる。しかも恋愛が常に「家族」という器の中で動くから、関係の変化に普通の倍の重さがある。主人公の司も、受け身に見えて自分の意志でちゃんと動く。わたしの評価は8.7。

スコア詳細

ヒロインの魅力 9.0
キャラの一貫性 9.0
キャラ間の関係性 9.5
感動・カタルシス 8.5
Hシーンの関係性 8.0
主人公の造形 8.0

「血が繋がってない6人が、家族になっていく」のゲームだった

先に推しを。高屋敷準。このゲームで一番好きになったキャラ。

D.O.が2001年に出した18禁の恋愛ADV。身寄りなくふらついてた主人公の沢村司くんが、行き倒れの中国の少女・春花を拾ったのをきっかけに、広田寛っていう胡散臭い中年に「家族計画」へ勧誘される。古い日本家屋「高屋敷家」に集められたのは、寛を父・真純を母とした血の繋がらない擬似家族。姉妹は家主の青葉、便利屋の準、不法滞在の春花、家出小学生の末莉。司は「家族なんて要らない」と拒みながら、末莉に懇願されて家長代理として加わる。攻略ヒロインは青葉・末莉・春花・準・真純の5人です。

わたしは「能面の拒食キャラ」とか「毒舌の家主」とか、属性だけ聞くと身構えるタイプなんです。設定が記号的だと、キャラがその記号を背負わされてるだけの飾りになりがちで。属性で記号化されたキャラがポーズを取ってるだけなら即閉じる。

で、結論。ナメてたわたしが悪かった。このゲームのすごいところは、5人それぞれが「家族」っていう同じ一点に、別々の欠落から繋がってることなんです。テーマがどうこうっていう話はわたしはうまく言えないんですけど、全員がちゃんと「家族」っていう同じ穴を抱えてるのは感じる。その上で、一人ずつの行動原理がブレてない。とくに高屋敷準。あの子のために、わたしはこのゲームを覚えておく。

夏の古い家で、血の繋がらない6人が食卓を囲む話

この作品の手触りは、猛暑の生活感と、家族への飢えでできてる。

舞台は猛暑の夏。セミと夕立の中、高屋敷家っていう古い日本家屋で、6人の擬似家族生活が始まる。父役の寛が会社員ふうの軽妙なおふざけをして、母役の真純が天然ドジで手料理を作り、春花が無邪気にチャイナ服で動き回り、準は能面で便利屋稼業をして、末莉が愛想笑いで全員を媒介して、青葉だけは家主特権で他人と距離を取る。この生活パートの密度がすごいんですよ。血が繋がってないのに、飯を食って喧嘩して、だんだん本物の家族みたいになっていく手触りが、丁寧に積み上げられてる。

でもこの作品、ただのほのぼの擬似家族モノじゃない。それぞれのヒロインが、過去に重い欠落を抱えてる。準は家族にまつわる深い傷を持ってるし、末莉の愛想笑いには理由があるし、青葉は庭を掘り続ける執着がある。家族計画っていう器の中で、一人ずつの過去が少しずつ開いていく。そして外からは、春花の出自に絡んだ不穏な影が忍び寄ってくる。コメディと、しんみりした感情と、緊張感が、夏の一軒家の中で同居してる。山田一らしい狂騒と、人情ドラマの振れ幅が、全編で噛み合ってます。

父役の寛、便利屋の準と双子の、司の職場の店長で胡散臭い、司を慕う劉の妹・、口癖が「おうおうおう」の隣人・伊佐坂。脇のキャラもちゃんと立ってて、世界が司のためだけにあるわけじゃない感じが出てる。

5人、全員ちゃんと「立ってる」

もう一度。一番の推しは高屋敷準。でも全員に語ることがある。

高屋敷準

高屋敷準。能面みたいに無表情で、感情を一切表に出さなくて、「いくら出す?」が口癖の金第一主義に見える便利屋。しかもこの子、他人の作った料理を一切受け付けない。最初はオウム返しならぬ、何を考えてるか読めない「拒食キャラ」に見える。でもこの子、その体質にも能面にも、決定的な理由があるんです。この行動原理が一貫してるから、終盤の展開が刺さる。属性じゃなくて、ちゃんと固有の考え方を持ったひとりの人間。わたしが推す理由は全部そこにあります。

高屋敷末莉・高屋敷青葉

末莉は最年少で、愛想笑いがめちゃくちゃ上手で、自分を「いらん子」って卑下するのが極端な子。寛=父・真純=母・司=兄って役割を強引に貼って、家族計画の接着剤になるキーパーソン。青葉は高屋敷家の家主で、「私は家族愛なんて信じていないのよ」って言い切る痛烈な毒舌家。料理も家事も拒否して、毎日庭を掘り続けてる。この2人、表の属性のさらに奥に、それぞれ抱えてる重いものがあって、それが終盤に開く。表面で済ませてないのが良い。とくに末莉の愛想笑いと青葉の毒舌は、どっちも「そう振る舞う理由」がちゃんとある。

王春花・板倉真純

春花は中国から密航してきた少女で、チャイナ服しか持ってなくて、明るくて天真爛漫で運動神経抜群。「謝謝、哥哥」が口癖。真純は30歳の母役で、料理が抜群に上手で麻雀の鬼神なのに、ぽややんとして主体性が極端にない人。この2人はスケールの大きい背景や過去を背負うんですけど、それでも芯がブレない。春花の家族思いも、真純の「必要とされたい」も、最後までその核のまま動く。詳しい顛末はネタバレあり版で全部語りました。

準の造形が、属性じゃなくて行動原理だった

わたしの評価基準はひとつ。このキャラを好きになれたか。解釈一致か。

準の何が良いって、序盤に置かれた一見ただの奇行が、終盤にちゃんと意味を持つことなんです。能面、無表情、「いくら出す?」の金第一主義、そして他人の料理を一切受け付けない拒食。最初これを「無感情な拒食キャラ」だと思ってたら、この子の過去が開いた瞬間、全部に理由があるとわかる。意味不明に見えた体質と態度が、実は一貫した行動原理だった。これに気づいた瞬間、わたしはこの子を完全に推すと決めました。

こういう「重い過去を背負った子」って、エロゲーだと「守られる側」「泣かせるための装置」になりがちじゃないですか。属性として消費される。でも準は違う。この子、見えないところで自分なりに別の家族を支えようと動いてる。金第一主義に見える行動が、実は全部その目的のためだった。何も求めてないように見えて、誰よりも家族を求めてた。属性キャラには絶対に書けない、行動原理の一貫した造形。解釈一致。これ以上ないくらいの解釈一致でした。尊死。

末莉と青葉も同じ理由で良い。末莉の愛想笑いは、人に捨てられないための処世術なんです。「いらん子」って自分を卑下するのも、ちゃんと過去と繋がってる。青葉の毒舌は、家族愛を信じられなくなった裏返し。家族愛を信じないって公言する子が、誰よりも家族の絆に執着してる。2人とも、表の属性が剥がれた奥に、ちゃんと一貫した動機が置いてある。ライターがこの子たちをわかってる。だからヒロインの魅力は9.0、キャラの一貫性は9.0です。

恋愛が「家族」という器の中で動くから、関係の変化が重い

キャラ単体だけじゃなくて、関係性の動き方の話も。

このゲームの関係性のいちばんの特徴は、恋愛が常に「家族」という器の中で動くことなんです。司とヒロインの距離が縮まると、それは同時に擬似家族の形が変わることになる。普通の恋愛ADVなら「主人公とヒロインが両思いになる」だけのところに、このゲームは「欠けた家族が一個ずつ修復される」っていう重さが乗る。誰を選ぶかで、誰の家族の傷が埋まるかが変わるんですよ。だから関係の変化に、ただの好感度上昇じゃない手応えがある。ここがこの作品の関係性の核で、わたしはここに9.5を付けます。

媒介者が末莉なのも効いてる。寛=父、真純=母、司=兄、っていう役割を末莉が強引に貼っていくんですけど、最初は記号だった役割が、生活を重ねるうちに本物の感情を帯びていく。一緒に飯を食って、喧嘩して、誰かが家を出ようとすると本気で引き止める。偽物として始まった家族が、いつのまにか本物として機能してる。その「役割が感情に変わっていく」過程が、夏の生活パートでちゃんと積まれてるから、終盤に器が揺らいだときの痛さが段違いになる。詳しい顛末はネタバレあり版で全部書いたので、クリアした人に読んでほしい。

Hシーンについても触れておく。わたしにとってHシーンは積み上げた関係の集大成かどうかが全てで、実用性の話はしない。このゲームのHシーンは、全部それぞれのキャラの感情の到達点として置かれてる。とくに末莉のシーンは、この子の「捨てられたくない」という核を全部含めて結ばれる構造になっていて、このキャラにしか成立しない。日常の不器用な司とHシーンの司がちゃんと同じ人間で、急にキャラが別人になる破綻はどこにもない。そこは全シーン信頼できました。

司が「捨てない」と自分で言い切る。減点はルート間のムラ

褒めてばかりもいられない。主人公と弱点もちゃんと話します。

主人公の司くん。この人ね、最初は受け身に見えるんですよ。「家族なんて要らない」って言い張って、仕方なく家族計画に入る。でもこの子、無個性な受け身主人公とは違う。「失うのがイヤだから、俺は一人でいたんだ!」って叫ぶように、家族を拒絶してるんじゃなくて、深く渇望してるから怖くて拒絶してる。この矛盾が地の文でずっと一貫してて、ちゃんと内面のある人間として立ってる。そして物語が進むと、自分の過去ときちんと向き合って、自分の意志で家族を選び直す場面が来る。萌絵は主人公が自分から動く理由が見える作品が好きなので、ここはちゃんと評価します。だから主人公の造形は8.0。受け身に見えて、芯はちゃんと能動的なんです。

満点まで届かない理由も正直に言います。ルート間の濃淡にムラがあるんですよ。準と末莉ルートの掘り下げが圧倒的に厚いのに対して、設定が大きく動くルートは、その背景の処理に尺を取られて、ヒロイン本人と過ごす濃密な時間がちょっと食われる。準があれだけ立ってるぶん、他のルートで「もうちょっとこの子を見せて」って思う瞬間が出てくる。あと、父役の寛のおふざけパートと、シリアスな展開の温度差が、たまに乗り切れない箇所もある。キャラが全員あれだけ立ってるだけに、もっと均等に時間が欲しかった。この物足りなさで、満点ではなく8.7に留めます。

8.7——準に会えただけで、やった価値があった

このゲームを覚えておく理由は、ひとつでいい。

高屋敷準。能面で、拒食で、「いくら出す?」が口癖の金第一主義に見えた子が、その態度の全部に理由があった女の子。序盤から終盤まで、この子の行動原理は一度も崩れなかった。「能面の拒食ヒロイン」っていう属性じゃなくて、「高屋敷準」という一貫したひとりの人間として、ずっと家族に飢えていた。ライターがこの子をわかってる。それだけでわたしには十分です。

末莉の愛想笑いが処世術だったことも、青葉の毒舌が家族愛への執着の裏返しだったことも、春花の家族思いも、真純の「必要とされたい」の核も、全部ちゃんとそのキャラの傷から出てた。5人全員わかってる。崩れない。しかも疑似家族っていう器の中で恋愛が動くから、関係性の変化に普通の倍くらいの重さがある。減点は、ルートごとの濃淡にムラがあったことと、おふざけとシリアスの温度差。だから8.7。満点には届かない。届かないけど、準というキャラに会えたという一点で、わたしの中で長く残るゲームになった。属性で身構えがちな人にこそ、この血の繋がらない6人に会ってみてほしい。