準の「おなか、すいたよぉ」は、全部わかってた人にしか書けない。
ネタバレなし版で言えなかったことを全部書いちゃいます。第一の推しは高屋敷準。能面のあの子が、なぜ他人の作った料理を一切受け付けないのか。その理由が、妹の景を庇って毒入りスープを一人で飲み干した過去だと知った瞬間、わたしは持っていかれました。青葉の「宝物」が空っぽの缶だったこと。末莉の「おにいさん」が104号室と中崎家を経てたどり着いた言葉だったこと。春花の「みんな、家族でいてね」がなぜ自己犠牲になるのか。真純の「自分を鍛えてよ」がなぜ依存からの卒業なのか。判定基準はひとつ、5人がルート間で別人にならず、解釈一致のまま動いていたか。結論、ヒロインは全員わかってる。崩れない。そして司が「失うのが嫌だから一人でいた」男から、自分の意志で「家族は捨てない」と言い切る男になるまで、ちゃんと能動的に動く。だから8.7。
スコア詳細
「血が繋がってない6人が、家族になっていく」のゲームだった
先に言っておく。このゲームで一番好きになったのは高屋敷準。そして二番が末莉。
D.O.が2001年に出した18禁の恋愛ADV。身寄りなくふらついてた主人公・沢村司くんが、行き倒れの中国の少女・春花を拾ったのをきっかけに、広田寛っていう胡散臭い中年に「家族計画」へ勧誘される。古い日本家屋「高屋敷家」に集められたのは、寛を父・真純を母とした血の繋がらない擬似家族。姉妹は家主の青葉、便利屋の準、不法滞在の春花、家出小学生の末莉。司は「家族なんて要らない」と拒みながら、末莉に懇願されて家長代理として加わる。攻略ヒロインは青葉・末莉・春花・準・真純の5人です。
わたしがこのゲームを覚えておく理由は、5人それぞれが「家族」っていう同じ一点に、別々の傷から繋がってることなんです。準は家族に殺されかけたから家族を欲しがる。末莉は家族にいらん子扱いされたから家族を作りたがる。青葉は家族との絆を空っぽの缶に埋めてる。春花は密航してきて家族がいない。真純は依存できる相手を家族に求める。みんなバラバラの欠落なのに、最後はひとつの食卓に集約していく。テーマがどうこうっていう話はわたしはうまく言えないんですけど、全員がちゃんと「家族」っていう同じ穴を抱えてるのは感じる。その上で一人ずつの行動原理が立ってるかを、ここから検証していきます。
準の「おなか、すいたよぉ」は、わかってる人にしか書けない
高屋敷準。このゲームで一番好きになったキャラ。先に全部言っちゃいます。
準は能面みたいに無表情で、感情を一切表に出さなくて、「いくら出す?」が口癖の金第一主義に見える便利屋。しかもこの子、他人が作った料理を一切受け付けない。受け付けるのはブロック栄養剤と水だけ。最初これを「拒食キャラ」って属性で済ませたら殴られる。この体質には、決定的な理由があるんです。
毒スープと、妹を守った子
準は双子の妹・景と一緒に、子供の頃にひどい母親のもとで育った。その母が「娘たちが夫を誘惑した」って決めつけて、毒入りスープを食卓に出すんです。準は妹の景を守るために、自分が先に一人で飲み干して、血を吐いて倒れた。そして母はそれを笑って見てた。この子が他人の料理を食べられないのは、好き嫌いじゃない。家族に殺されかけた記憶そのものなんですよ。能面なのも、感情を表に出さないのも、金にしか頼らないのも、全部この一点から出てる。行動原理が一貫してるから、終盤が効くんです。
あしながおねーさんと、家族の食事
金第一主義に見えるこの子が、実は「あしながおねーさん」として、育ての親のうぐいす学園の子供たちに、匿名で金とプレゼントを送り続けてた。家族に殺されかけた子が、自分の代わりに別の家族を作ろうとしてる。準ルートでは、その施設を維持するために危険な仕事に手を出して失敗して、施設が崩壊して、自殺まで考える。「お金じゃ、何も解決できないよ!」って叫ぶこの子が、ずっと言わなかった本音を漏らす。「家族が欲しくて欲しくて……欲しくて」。能面の裏に、これがあったんです。
そして救われ方が完璧なんですよ。春花の無条件の許しと、あしながおねーさんの絵が見つかることと、最後に「家族の食事」。他人の作った料理を受け付けなかったこの子が、家族が作ったオムライスを前に「おなか、すいたよぉ……」って言う。毒スープから始まった子が、家族の食事で終わる。食べられなかった子が、食べられるようになる。これ以上ないくらいの解釈一致。尊死。ライターが準をわかってる。拒食という症状を、ちゃんと物語のいちばん奥まで一本の線で繋いでる。完璧。
末莉の「おにいさん」は、ぜんぶ「いらん子」の裏返しでできていた
高屋敷末莉。愛想笑いの達人。その笑顔の裏に、一番重いものを隠してた子。
末莉は最年少で、愛想笑いがめちゃくちゃ上手で、寛を父・真純を母・司を兄に強引に設定して、家族計画の接着剤になる子。自分を「いらん子」「便所コオロギ」って卑下するのが極端で、大袈裟に転ぶし、男同士のBL小説を書いてる妄想癖もある。最初はこの愛想笑いが、ちょっと過剰に見える。でもこの子、この笑顔は人に捨てられないための処世術なんですよ。
種明かしが重い。末莉の両親はこの子を「いらん子」扱いして、夫婦仲も最悪で、結婚記念日に末莉が「行かないで」って叫んだとき一瞬立ち止まったけど、結局それぞれ別の場所で野垂れ死ぬ。引き取られた親戚の中崎家では、長男の良太から性的虐待を受けてた。家賃2万円の「魔の104号室」っていう、4人自殺した呪い物件に住んでたこともある。この子が「家族を作りたい」って必死なのも、愛想笑いで全員を繋ごうとするのも、全部「捨てられた子」の裏返しなんです。解釈一致。
極めつけが告白の場面。末莉ルートで司が三百万円を払ってこの子を引き取って、その夜、末莉がタオルケット一枚で「こんなものくらいしか……支払えません……」って体を差し出す。司はそれを拒絶する。ここで末莉が「優しくしてくれてもよかったっ!」「甘えたかったっ!」「わたしのことを一番想ってくれる人を、わたしは好きになったんですっ!!」って叫ぶ。体でしか愛を支払えなかった子が、初めて「想い」で好きと言える。「家族の好きとは別に、ちゃんと好きなんです」って区別までできるようになる。そして10年後、3児(若葉・純・遥香)の母になって、再建された高屋敷家で家族計画が全員再集合する。「おかえりなさい、わたしのおにいさん」。いらん子だった子が、いちばん大きな家族を作る。完璧。
青葉の「空っぽの缶」と、真純の「自分を鍛えてよ」
この2人は、過去に置いてきたものと向き合うために、家族を必要とした子たち。
高屋敷青葉 ── 解釈一致
青葉は高屋敷家の家主で、痛烈な毒舌家で、「私は家族愛なんて信じていないのよ」「親が子供を道具にする時代なのよ」って言い切る、冷淡で排他的な子。料理も家事も拒否して、毎日庭を掘り続けてる。掘ってるのは、幼少期に祖父と一緒に埋めた「宝物」。最初これを変人の執念だと思ったら、ここがこの子のすごいところなんですよ。春花ルートで実際に掘り出すと、缶の中は空っぽなんです。青葉が探してたのは、お菓子の中身じゃなくて、祖父との絆そのものだった。形のないもの、失われた幼少期に、ずっと執着してた。家族愛を信じないって公言してる子が、誰よりも家族の絆を掘り続けてた。この矛盾が、この子の全部なんです。解釈一致。
青葉の本性が出るのが、マフィアに襲われる場面。あれだけ毒舌で他人を突き放してたこの子が、司に「立って、逃げなさい」「司、生きることは、問答無用なのよ」「あなたに恩を売ってあげるわ」「生き残って、死ぬ気で返しなさい」って、自分を盾にして司を逃がす。家族愛を信じないと言いながら、行動は完全に家族のそれ。末莉ルートでは末莉を炎から救い出すときに左腕に大火傷を負って、その後ずっと長袖で傷を隠す。口で否定したぶんだけ、行動で証明する子なんですよ。このツンの裏が一度も崩れない。解釈一致。
板倉真純 ── 解釈一致
真純は30歳の元秘書で、家族計画では「母」役。料理が抜群に上手で麻雀の鬼神なのに、ぽややんとしてて主体性が極端にない人。この人の核は「自分を必要としてくれる人」への異常な執着で、それは詐欺師の添田に騙されて、母の結婚資金まで全部奪われた過去から来てる。添田は今も真純に連絡してきて、真純は未練というより、依存する相手を求めてる状態なんです。
真純の良さは、その依存からちゃんと卒業するところ。真純ルートのいちばん刺さる場面で、真純が添田に「人を愛する前に……まず自分を鍛えてよ……」って言って決別する。「必要とされたい」だけで生きてきた人が、初めて自分の足で立つ。そして司に「司くんが、わたしのこと一番に考えてくれるなら……ここにいてもいい」「司くん、わたしの旦那様になってくれるんだ?」って、依存じゃなくて対等な選択として愛を返す。「ずっと可愛がってね、ツバメさん?」の甘えも、添田に向けてた依存とは質が違う。春花ルートでは放火のとき両手に大火傷を負って司を救い出して、その火傷の痛みに付き合う日々が愛情になっていく。最後は遺影を並べる家庭まで築く。依存から始まった人が、看取る側になる。解釈一致です。
春花の「みんな、家族でいてね」が、自己犠牲としてブレない
王春花。一番明るいのに、一番過酷な背景を背負わされた子。
春花は中国から密航してきた少女で、チャイナ服しか持ってなくて、明るくて天真爛漫で運動神経抜群。「謝謝、哥哥(お兄ちゃん)」「ばさら、ツカサ」「カップラーメンより簡単」みたいな独特の言い回しで、家族計画にすぐ馴染む。このノリの良さ全開の子が、実は上海蛇頭組織「地龍」の陳星に日本へ送り込まれて、途中で台湾マフィアに奪われて、混合ドラッグ「虹」を持って逃げてきた抗争のど真ん中にいる子なんです。明るさと背景のギャップがすごい。
春花の核は「自分のせいで家族を巻き込みたくない」っていう一点で、これが全ルートでブレないんですよ。マフィアの抗争が高屋敷家に忍び寄ってくると、春花は自分から去ろうとする。「ニューカンさんにわざとつかまって、わたし不法入国者したアルって言う」って、わざと捕まって家族から離れようとする。末莉ルートでは「家族計画を壊さないため」に自ら去る。極めつけが「みんな、わたしがいなくなったあとも、家族でいてね」。自分が消えても、家族だけは残ってほしい。密航してきて家族を持てなかった子が、自分以外の家族を守るために消えようとする。この自己犠牲が、明るさの裏でずっと一貫してる。解釈一致。
春花ルートでは一度中国に帰国するんですけど、後年、劉の「家属貿易公司」で働いてて、真純と司が高屋敷家を再建したときに日本に戻ってきて再集合する。準ルートでは、その劉のもとで働いてる春花が、自殺寸前の準を救う鍵になる。準を無条件で許すのが春花なんです。家族を持てなかった子が、いちばん家族のために動く。明るいだけのチャイナ娘で終わらせなかった。「ツカサには、もう相手がいるよ」って身を引くときの強がりも、この子の自己犠牲の核そのまま。バカみたいに明るくて、芯はずっと家族思い。解釈一致でした。
関係性が「疑似家族」という一個の生き物として動いてる
キャラ単体だけじゃなくて、6人の関係性の動き方が、このゲームの本体です。
このゲームの関係性のすごさは、恋愛が常に「家族」という器の中で動くことなんですよ。司とヒロインの距離が縮まると、それは同時に擬似家族の形が変わることになる。準を選べば、毒スープで壊れた「母娘」が「家族の食事」で上書きされる。末莉を選べば、いらん子だった末莉が司を兄から夫にして、自分の家族を作り直す。恋愛単体じゃなくて、欠けた家族を一個ずつ修復していく構造になってる。だから関係の変化に、ただの好感度上昇じゃない重さがある。これがこの作品の関係性の核で、わたしはここに9.5を付けます。
媒介者が末莉なのも効いてる。寛=父、真純=母、司=兄、っていう役割を末莉が強引に貼っていくんですけど、最初は記号だった役割が、生活を重ねるうちに本物の感情を帯びていく。父役の寛が「本日19時45分をもって、家族計画を終了する」「私には、妻と子供がいる」「本物のな」って終了を宣言したとき、司が寛を殴るんです。偽物の家族のはずなのに、終わりを告げられて本気で殴れるくらい本物になってた。役割が感情に変わる瞬間が、ちゃんと描けてる。寛が本物の家族を失った穴埋めに家族計画を始めた、っていう真相も、この器の構造を裏から支えてる。
Hシーンについても触れておく。わたしにとってHシーンは積み上げた関係の集大成かどうかが全てで、実用性の話はしない。このゲームのHシーンは、全部それぞれのキャラの感情の到達点として置かれてる。とくに末莉。「こんなものくらいしか支払えません」って体を差し出したのを司が一度拒絶した上で、半年契約を経てちゃんと「想い」が通ってから結ばれる。「脳、とけました」「明日も、しましょうね♪」って、体でしか愛を知らなかった子が、初めて安心して甘えられる場所を手にする。準のシーンも、他人に触れられることを拒んでた子が司にだけ体を許す意味があって、関係の集大成になってる。日常で不器用だった司が、ベッドで急に別人の鬼畜になる、みたいな破綻が一切ない。キャラ崩壊ゼロ。そこは全シーン信頼できました。
司が「捨てない」と自分で言い切るから、この話は閉じる
主人公の話を、ちゃんとします。萌絵は受け身主人公に厳しいので。
主人公の沢村司くん。この人ね、最初は受け身に見えるんですよ。「家族なんて要らない」って言い張って、末莉に懇願されて仕方なく家族計画に入る。でもこの子の根っこには、ちゃんと能動的な感情の理由がある。「失うのがイヤだから、俺は一人でいたんだ!」「こういう感情を味わうのがイヤだったから、俺は一人でいたんだ!」「なかった方がマシなんだよっ!!」って叫ぶ。家族を拒絶してるんじゃなくて、深く渇望してるから怖くて拒絶してる。この矛盾が地の文でずっと一貫してて、無個性な受け身主人公とは違うんです。
そして司には、自分の過去を引き受ける場面がちゃんとある。司は両親がバスの転落事故で死んで、自分は「捨てられた」って長年思い込んでた。でも親戚の大場から、両親が前後から司を包んで衝撃を吸収したから司だけが生き残った、っていう真相を聞かされる。捨てられたんじゃなくて、命がけで守られてた。ここで司が「俺は、家族は捨てない」「捨てるもんか」って自分の意志で言い切る。受け身で始まった男が、自分の歪んだ記憶を訂正して、能動的に家族を選ぶ。萌絵は主人公が自分から動く理由が見える作品が好きなので、ここはちゃんと評価します。末莉に「いっそ俺が、おまえをもらってしまおうか」って自分から踏み込むのも良い。だから主人公の造形は8.0。
満点まで届かない理由も正直に言います。マフィア抗争の処理に尺を取られるルートがあって、春花の背景なんかは設定が大きいぶん、ヒロイン本人とのいちゃつく時間がちょっと食われる。準と末莉ルートの掘り下げが圧倒的に厚いのに対して、青葉ルートはやや駆け足で、「もうちょっとこの子の毒舌の裏を見せて」って思う瞬間が出てくる。キャラが全員あれだけ立ってるぶん、ルートごとの濃淡にムラがある。あと寛のおふざけパートと、抗争のシリアスの温度差が、たまに乗り切れない箇所もある。この物足りなさで、満点ではなく8.7に留めます。
8.7——準の「おなか、すいたよぉ」に会えた価値があった
このゲームを覚えておく理由は、ひとつでいい。
高屋敷準。能面で、拒食で、「いくら出す?」が口癖の金第一主義に見えた子が、実は妹を守って毒スープを飲み干した子で、あしながおねーさんとして別の家族を支えてた子で、最後に「おなか、すいたよぉ……」と言って家族の食事を口にする女の子。能面という記号の裏に、こんなにも一貫した行動原理が積み上げられてた。「拒食のヒロイン」っていう属性じゃなくて、「高屋敷準」という一人の人間として、ずっと家族に飢えていた。ライターがこの子をわかってる。それだけでわたしには十分です。
末莉の「おにいさん」がいらん子の裏返しだったことも、青葉の空っぽの缶も、真純の「自分を鍛えてよ」も、春花の「みんな、家族でいてね」も、全部ちゃんとそのキャラの傷から出てた。5人全員わかってる。崩れない。しかも疑似家族っていう器の中で恋愛が動くから、関係性の変化に普通の恋愛ADVの倍くらいの重さがある。減点は、ルートごとの濃淡にムラがあったことと、抗争パートとおふざけパートの温度差。だから8.7。満点には届かない。届かないけど、準というキャラに会えたという一点で、わたしの中で長く残るゲームになった。家族の食卓に、ちゃんと座れてよかったね、準。
