触手陵辱ホラーの看板を掲げながら、その裏で「記憶」の構造を組んでいる作品。
2002年、colors。「魔法少女アイ」シリーズの第2作。触手・薬物・陵辱を主体にした18禁のホラーADVで、見た目の第一印象は看板そのものだ。だが共通ルートを長く進めていくと、この作品が本当に扱っているのは「主人公が忘れ続けている何か」だと分かってくる。岡島秋俊(おかじま・あきとし)という冴えない二浪の予備校生を主人公に据えて、彼の喪失感を背骨に通している。プレイ前は正直、陵辱系の一本として身構えていた。やってみると、設計に芯があった。そこを構造から見ていく。
スコア詳細
掴みに二枚の顔がある
この作品は、開幕でいきなり異物を見せてから、平凡な浪人生の日常に落とす。
冒頭は不穏な悪夢の断片だ。少女がもう一人の女に縋るような、意味の掴めない場面。その直後、話は秋俊の予備校のありふれた日常に切り替わる。模試で居眠りして紫(もちづき・ゆかり)にからかわれ、学費を気に病み、アパートに越してきた管理人・メグ(かがの・めぐ)にほのかな好意を抱く。この生活感が丁寧だ。主人公が「なんとなく生きている冴えない浪人生」として、ちゃんと造形されている。
その日常に、化け物が割り込んでくる。秋俊は公園で、触手を振り回す怪物「ゆらぎ」と、赤い双剣でそれと斬り結ぶ少女を目撃する。少女は「魔法戦士リン」と名乗る。ここで一つ、静かなフックが置かれる。リンは目撃者の秋俊に記憶消去の魔法をかけようとして、失敗するのだ。「なぜこいつだけ効かないのか」。この小さな引っかかりが、後々まで効いてくる。掴みの段階で作品の芯にそっと触れておく。地味だが、うまい置き方だ。
3年前、秋俊の故郷那火根(なかね)町を「大地震」が襲い、彼は友人を失った。それ以来「何か大切なことを忘れているのではないか」という感覚がずっと消えない。この喪失感が、日常パートの底に一貫して流れている。おかしな体質と、消えない喪失感。二枚の顔を持った掴みが、静かに物語の背骨を予告している。
共通ルートは長い。だが掛け合いが持たせている
この作品は共通ルートをかなり長く取る。そこを退屈にさせないのが、キャラの掛け合いだ。
最初に秋俊宅へ転がり込むのがリンだ。気が強くて口が悪く、やたら大食らい。続いて寡黙無表情の戦士アイ(かがの・あい)が加わり、騒がしい共同生活が始まる。ファミレスでの大食い対決、じゃんけんの妙な意地の張り合い。アイが「キミ、チョキって言ったのに」と真顔で傷つく場面など、無表情キャラの内面が崩れる瞬間の書き方が細かい。紫が「岡チン」と絡んでくる予備校のやり取りも軽快で、日常の緩の部分が生きている。
このシリーズは前作でシリアス一辺倒だったと聞くが、本作はコミカルな掛け合いをかなり足している。硬派な怖さは薄まったが、長い共通ルートを飽きさせずに運ぶ手段としては機能している。緩急の「緩」がちゃんと機能する作品だ。情報を出すたびに謎も増える運びも丁寧で、化粧品会社アルケーが絡む事件、元クラスメイトの美景(みやひろ・みかげ)の再登場と、伏線らしきものを小出しにしながら舞台を広げていく。テンポは悪くない。
背骨は「記憶」だ
日常と戦闘の裏で、この作品はずっと一つのことを問い続けている。秋俊は何を忘れたのか。
序盤で置かれた「記憶消去が効かない体質」という引っかかりは、単なる主人公補正ではない。秋俊が戦士と「融合」できる稀有な人間だという設定と、彼が「大切な何か」を忘れているという喪失感。この二つが、物語を進めるにつれて一本の線で結ばれていく。バラバラに見えた要素が同じ根から出ていたと分かる瞬間の作り方が、この作品の設計のいちばんの見どころだ。何が伏線で、何がその回収なのか。それはクリアしてから、もう一本のほうで具体的に語りたい。
時系列の作りにも触れておく。現在の事件を追いながら、この作品はもっと古い過去を少しずつ覗かせてくる。冒頭の悪夢、メグの妙に翳のある素振り、アイの抱える言葉にならない何か。現在だけの一本道ではなく、過去が何層か下に沈んでいる気配を、序盤から漂わせている。その過去がどう現在と繋がるかが、この作品の構造の核心だ。ここも真相はクリア後に。ただ、匂わせの置き方が丁寧で、「この気配は回収される」という信頼をプレイヤーに持たせてくる。その信頼の作り方は巧い。
Hシーンについても正直に書いておく。飛ばさず全部やった。触手・薬物・陵辱が中心で、合意の場面はごく少ない。快楽より、支配と不快感を描くことを選んでいる。これが物語の文脈ときちんと噛み合っているかどうかは、各ヒロインの結末に踏み込む必要があるので、クリア後に改めて語る。少なくとも、おまけとして雑に置かれてはいない。それだけは言っておく。
惜しい点——反復と、終盤の畳み方
芯は良い。だからこそ、弱点がはっきり見える。
共通ルートを長く取ったあと、終盤で各ヒロインの結末が happy と暗い側に枝分かれする構成になっている。この分岐の思想自体は面白い。ただ、暗い側の描写が一つの型に寄りすぎている。誇り高い、あるいは純粋な女性が貶められていく、という同じ動作が反復される。個々の場面は文脈と繋がっているのだが、量が積み上がると、後半は同じ図案を見せられている感覚が出てくる。設計の意図は分かる。分かるからこそ、量が意図を薄めているのが惜しい。
ヒロインごとの分岐の重みも、揃っていない印象がある。しっかり枝として立っているヒロインと、そうでないヒロインの差がある。同じ「共通長→分岐」の枠のはずなのに、枝の太さにばらつきがあって、構成の狙いが全ヒロインで均等には効いていない。この不均衡は、詳しくはネタバレ版で。
そして終盤の畳み方に、物足りなさが残った。これだけ記憶と過去の構造を積んでおきながら、最後の決着がやや局地的で、続きに預けたような余韻で終わる。実際、当時から「終わり方が中途半端」という声はあったようだ。私も近い感触を持った。芯の設計が良いだけに、着地でもう一段の跳躍が欲しかった。もったいない、と思う。
7.4——看板の裏に、真面目な設計がある
触手陵辱ホラーという入口で敬遠するには、構造がもったいない作品だ。
冴えない主人公の喪失感を背骨に通し、序盤の小さな引っかかりを終盤で回収し、長い共通ルートを掛け合いで飽きさせずに運ぶ。この芯はしっかりしている。一方で、暗い側の描写の反復、ヒロイン間の分岐の不均衡、そして終盤の畳み損ねが、全体を押し下げる。良い設計と、それを薄めてしまう量。この差し引きが7.4だ。過去と記憶を扱う手つきは巧いのに、一本の作品として均すと届ききっていない。その「あと一歩」の感触が、この点数に出ている。
「『カガノアイ』って読むのか? ・・・あれ、なんだろ・・・どこかで聞いた名前のような・・・」
— 岡島秋俊
この戸惑いが何なのか。既視感の出所がどこにあるのか。その答えにたどり着く道筋こそが、この作品の設計のいちばん良い部分だ。消された記憶の正体と、時系列の畳み方、各ヒロインの結末については、クリア後のレビューで踏み込んで語った。7.4。看板で判断してほしくない一本だ。
