伊頭悦子のレビュー — Remember11 -the age of infinity-

伊頭悦子
伊頭悦子
人間観察30年のスナックママ
7.0/10
7.0 / 10

仕掛けより、子を亡くした夫婦の傷のほうが本物だったわ。

雪山の避難小屋に、見ず知らずの大人と子どもが閉じ込められる。墜落事故から始まる極限の共同生活で、人がどう弱くなって、どう優しくなるか。アタシが本作で読んだのはそこよ。意識がどうとか時間がどうとか、難しい仕掛けの作品らしいんだけど、アタシはそっちは正直あまり追えなかったの。でもね、その仕掛けの下で苦しんでる人間の傷だけは、ちゃんと地に足ついてた。特に子を亡くした夫婦の描き方。あれだけで、この作品をやった甲斐があったと思える。7.0は、その人間の生々しさへの点数よ。

スコア詳細

キャラ間の関係性 8
登場人物の生々しさ 8
序盤の掴み 8
主人公の造形 7
テーマ・メッセージ性 7
エンディングの満足度 4

難しそうな話を、お客さんに押し付けられた話

きっかけはお客さん。「悦子さん、これ頭使いますけど人間ドラマがすごいんで」って渡されたのよ。

うちの常連にね、こういう小難しいゲームばっかりやってる人がいるの。普段アタシはそういうのには手を出さないんだけど、その人が「これは人の心の話だから、悦子さんならいけます」って妙に推してくるもんだから、受け取ったわけ。それが『Remember11』っていう作品でね。2004年に出たものらしいわ。アタシそういう業界のことは全然詳しくないから、お客さんから聞いた知識を書いてるだけよ。CだのKIDだの、アルファベットがいっぱい出てきて、ちんぷんかんぷんだったわ。

どういう話かっていうとね。2011年の冬、飛行機が雪山に墜落して、生き残った人たちが避難小屋に閉じ込められるの。登山家、OL、女子大生、子ども。年齢も立場もバラバラの、お互い見ず知らずの人間が、雪と寒さと食糧不足の中で一緒に暮らさなきゃいけなくなる。一方でもう一つ、スフィアっていう医療施設のほうでも、別の人間たちが奇妙な状況に置かれてる。この二つの場所で同時に話が進んでいくのよ。

正直に言うとね、設定の説明を読んでる時点で「アタシ、これ理解できるかしら」って不安だったの。でも、お客さんが「人間ドラマがすごい」って言った意味は、やってみてすぐわかったわ。仕掛けはともかく、そこに出てくる人間の傷が、血の通ったものだったのよ。

雪山の小屋——閉じ込められた人間の本性が出るのよ

本作で一番アタシが「これは現実だわ」って思ったのは、雪山の小屋の中の空気だったの。

考えてみてよ。飛行機が落ちて、たまたま生き残った見ず知らずの人間が、狭い小屋に閉じ込められる。外は吹雪。食糧は限られてる。救助はいつ来るかわからない。こういう状況に放り込まれたら、人間の本性って嫌でも出るのよ。最初は協力的でも、日が経つにつれて、誰がどれだけ食べたとか、誰がサボってるとか、そういう小さな不満が積もっていく。本作はそこをちゃんと描いてた。

避難小屋のリーダー役になるのが黄泉木っていう登山家でね。35歳で、サバイバルの知識があって、追い詰められた状況でもみんなを落ち着かせようとする男。こういう男がいると、それだけで集団が保つのよ。アタシ、この黄泉木っていう人にはずっと安心して付いていけたわ。腹の据わった大人の男っていうのは、こういうのを言うのよね。

逆に、扱いに困るのがっていうOLの女性。プライドが高くて、見栄っ張りで、雪山だっていうのにハイヒールで来ちゃうような人なの。黄泉木をアゴで使うし、わがままだし。最初アタシは「この女、面倒くさいわ」って思ってたわ。でもね、こういう人いるのよ。追い詰められると余計に意地を張る人。弱さを見せられなくて、強がることでしか自分を保てない人。スナックのカウンターでも、こういうタイプは何人も見てきた。本作の黛は、ただの嫌な女じゃなくて、ちゃんとそういう「強がる弱さ」を持った人間として描かれてたの。だから後半で印象が変わっていくのよ。

そこに女子大生のこころっていう20歳の子と、子どもが一人混じる。この年齢も立場も違う人間たちが、極限の中でどう関係を結んでいくか。誰が誰を庇って、誰が誰を疑うか。アタシ、こういう集団の力学を見るのが好きなのよ。本作はそこを生活実感のある手触りで書けてた。これは大きいわ。

子を亡くした夫婦——ここが本作の心臓よ

本作でアタシが一番ちゃんと向き合ったのは、ある夫婦の傷だったわ。

詳しくはネタバレになるから踏み込まないけどね。本作には、子どもを亡くした親が出てくるの。それも、ただ病気や事故で亡くしたんじゃなくて、もっと理不尽な形で奪われた子どもの話。その親が、その傷を抱えたまま、本作の物語の中を生きてるのよ。

この描き方がね、アタシにはこたえたの。子を亡くした親の悲しみを、淡々と描いてるのよ。泣きわめくんじゃないの。もう淡々としてるの。でもね、淡々と話せるようになるまでに、この人がどれだけ壊れて、どれだけ自分を立て直したか。それが行間から滲んでくるの。淡々としてるのは、悲しみが消えたからじゃない。悲しみと一緒に生きる練習が、やっと済んだだけなのよ。スナックで、子どもを亡くした客の話を聞いたことが何度かあるの。具体的には書かないけどね。みんなそうなのよ。最初は話せない。何年も経って、やっと淡々と話せるようになる。本作のこの親の語り口は、まさにそれだった。

子どもを大人がどう守るか、守れないか。これは本作の通奏低音みたいなテーマでね。亡くした子のこと。今そばにいる子のこと。守りたかったのに守れなかった後悔。守るために自分が壊れていくこと。本作は、いろんな形でこの「子どもと大人」の関係を描いてた。アタシ、この手のテーマには弱いのよ。歳をとると、子どもを守れなかった大人の後悔っていうのが、他人事じゃなくなってくるの。

仕掛けの作品だって聞いてたから、アタシは正直、人間の傷はおまけ程度かと身構えてたの。違ったわ。人間の傷のほうが本体で、仕掛けはそれを際立たせる器だった。少なくともアタシにはそう読めた。だからアタシみたいに難しい理屈が苦手な人間でも、ちゃんと刺さる場所があったのよ。

主人公が二人いるのよ——一人を深く追えないのは、ちょっと寂しい

本作は視点になる主人公が二人いるの。これがアタシには、良し悪し両方だったわ。

一人は雪山側の女子大生・こころ。もう一人は施設側にいるっていう21歳の大学院生ね。この二人の視点を行き来しながら、二つの場所の話が並行して進んでいくの。それぞれの場所で、別々の謎と、別々の人間関係がある。構造としては面白いし、二つの場所が少しずつ繋がっていく感じは、続きが気になって先に進む手が止まらなかったわ。序盤の掴みはとても強かった。墜落事故から始まるから、つかみどころは申し分ないの。アタシ、序盤で掴まれないと続けられないタイプなんだけど、本作は最初からぐっと引き込まれたわ。

悟のほうはね、合理的で、ちょっとクールな男なの。妹を亡くした過去を抱えてて、その妹のために自分の人生を賭けてるところがある。こういう、目的のために腹を括ってる男は、アタシは嫌いじゃないわ。こころのほうは、感情に正直で好奇心旺盛な子。子どもを守ろうとする母性的なところがあって、そこは好感が持てた。二人とも、それぞれ芯はある人間として書けてたと思う。

ただね、アタシの好みとしては、一人の人間を最初から最後まで深く追いたいのよ。「この男、最終的にどういう男になるか」を見届けるのが、アタシの一番好きな読み方なの。それが二人に分かれてると、どうしても一人ひとりとの距離が少し浅くなるの。悟もこころも、それぞれ良かった。でも、誰か一人を骨の髄まで知れたかって言われると、そこまでではないのよ。これは構造上しょうがないんだけどね。主人公の造形を7に止めたのは、こういう理由よ。一人ずつは悪くない。でも、深さは分散しちゃうの。

一つ、覚悟しておいてほしいことがあるの

本作を人に勧める時、アタシは必ず一言添えることにしてるわ。

具体的なことはネタバレになるから、ここでは書かないでおく。クリアした人は、ネタバレのほうで続きを読んでちょうだい。そこで本音をちゃんと書いたから。ただ、一つだけ先に言っておきたいことがあるのよ。本作は、終わり方で人を選ぶっていうこと。

アタシはね、投げっぱなしの話が一番嫌いなの。恋愛でも人生でも、ちゃんとケジメをつけて終わらせるっていうのが、一番大事だと思ってる。始めるのは誰でもできるのよ。でも、腹を据えて終わらせるのは、それなりの覚悟が要る。本作の終わり方について、アタシが何を感じたかは、ネタバレのほうに全部書いた。ここで言えるのは、「すっきり全部解決して終わる話を期待してると、肩透かしを食らう可能性がある」っていうことだけよ。

逆に、足りない部分を自分で考えて埋めるのが好きな人には、たぶんアタシよりずっと刺さると思うわ。あれこれ仮説を立てて、答えのない問いを楽しめる人。そういう人にとっては、本作はむしろたまらない作品なんじゃないかしら。アタシみたいに「出された話はちゃんと閉じてほしい」っていうタイプとは、相性が分かれるところなのよ。これは作品の出来というより、向き不向きの話。だから勧める時は、相手の性格を見てからにしてるの。

ただね、これだけは言える。終わり方がどうであれ、雪山の小屋の人間たちと、あの夫婦の傷を見られただけで、アタシはこの作品をやった意味があったと思ってる。それは終わり方とは別の話よ。

7.0——人間は地に足ついてた。あとは終わらせ方をどう受け止めるか、よ

トータルで7.0。良かったところと、点を削った理由を整理しておくわ。

良かったのは、何度も書いた通り人間の描き方ね。雪山に閉じ込められた大人たちの集団力学。追い詰められた時に出る、人間の狡さと弱さと優しさ。子を亡くした夫婦の、淡々とした傷。子どもを守ろうとする大人たち。これらは全部、ちゃんと血が通ってたわ。難しい仕掛けの下で苦しんでる人間の感情が、理屈の苦手なアタシにもちゃんと届いたの。関係性で8、登場人物の生々しさで8、序盤の掴みで8。ここは素直に高く付けたわ。

点を削ったのは、二つ。一つは主人公が二人に分かれてること。これはアタシの好みの問題でもあるんだけどね。一人の人間を深く追えないのは、アタシのタイプの読者にはちょっと寂しいの。もう一つは、さっき触れた終わらせ方。これについてはネタバレのほうで腹の中を全部書いたから、興味があれば読んでちょうだい。ここでは「エンディングの満足度を一番低く付けた」とだけ言っておくわ。あれだけ血の通った傷を描く力があるんだから、なおさら最後まで責任を持ってほしかった、っていうのがアタシの本音よ。

誰に勧めるかと言われたら。極限状況での人間ドラマが見たい人には合うと思うわ。それと、答えのない謎を自分で考えるのが好きな人。逆に、すっきり解決して気持ちよく終わりたい人には、覚悟が要る作品ね。アタシ自身は、終わり方では不満が残ったけど、人間を見られた満足のほうが上回ったわ。だから差し引きで7.0。

……アタシ、最後にこれだけ言わせて。本作の登場人物は、みんなちゃんと生きてたわ。雪山の小屋の人たちも、あの夫婦も、子どもたちも。架空の人間を「生きてた」って書くのはおかしな話なんだけどね、でも本当にそう感じたのよ。その人間を最後まで見届けさせてもらえなかったのが、ただただ心残りでね。それがアタシの7.0よ。クリアした人は、続きの話を書いてあるから寄ってちょうだいね。