キャラクター詳細 — リフレインブルー
elf『リフレインブルー』(1999年・Windows・18禁)の登場人物を、正体と結末まで解説する。本作は、主人公の松永善博が7年前に過ごした夏の出来事を、誰と向き合う話かによって違う形で語り直す。そのため、どの話での出来事かをできるだけ添えた。年齢は作中に数字で示されたものだけを記した。各人物の「ネタバレ詳細」を開くと、素性や過去、最後がどうなるかまで踏み込む。
ちびキャラ画像は『リフレインブルー』のキャラクターを基に当サイトで作成した二次的イラストです。原作の著作権は現在の権利者に帰属します。
松永善博
| 読み | よしひろ(少女は「よしひろくん」とひらがなで呼ぶ) |
|---|---|
| 役割 | 主人公。バス会社の添乗員で、東陽学園のサマースクールに付き添って7年ぶりに蜻蛉海岸へ来る |
| 年齢 | 24歳 |
| 外見 | 背が高い(7年前の深景の言葉)。右膝に古傷がある |
添乗員になって2年。東陽学園の1週間のサマースクールに付き添い、7年前の夏を過ごした海辺へ戻ってくる。生徒の面倒見はよい。一人称は今は「僕」で、7年前は「俺」だった。
7年前、陸上の長距離に打ち込んでいたが右膝の骨にひびが入って走れなくなり、周りの励ましを疎んで家を出た。バスで見つけた静かな海で降り、そこで出会ったのが深景である。添乗員を選んだのは「あちこち旅をしていれば、いつかまた、どこかで…あの人に会えるんじゃないかと思ってさ」という理由からで、深景が描いた海の絵の小さな額縁を、今も持ち歩いている。
7年前の別れは、話ごとに違う。雫の話で見る7年前の夢では、深景は最後の夜に重い病を打ち明け、翌朝のバス停で「来年の夏」の再会を約束して去るが、翌年は来なかった。奈緒の話では置き手紙を残して消え、善博は帰る朝、絵の裏の2枚目の手紙で初めて死を悟る。つぐみの話では、はじめ「婚約していた」と偽って語り、のちに病で死んだこと、それを知りながら止められなかったことを明かす。ちなつの話の回想には死の影が無く、置き手紙で去った深景の真意を「僕を『大人にする』ためだった」と受け取り、ちなつを突き放す理由にする。深景の話では、7年前をやり直して最期まで側にいることを選び、宿で看取る。
どの版が本当にあった7年前なのか、作中で明確な答えは示されていない。額縁の絵も、雫に預ける、海に返す、由織に贈る、と相手によって行き先が変わる。
学生ではなく働く大人の主人公で、目の前の相手との恋は、いつも7年前の恋との折り合いとして描かれる。雫や由織には深景を重ね、ちなつには深景から受けた別れ方をなぞる。誠実さと身勝手さが同じところから出ていて、ヒロインの側から見ればそこが弱点になる。
「なんで俺が…俺が何か、悪いことをしたのかって…ずっと思ってた」7年前、膝を痛めて陸上をやめたことを深景に打ち明けて
「出来ない約束なんて、しない方がいい。その方が…お互いにとって、きっといい」「また会える」と約束してほしいと泣くちなつに
「まあ、確かに…彼女が婚約していたには違いない。でもその相手は、死神だったってわけだ」つぐみに偽っていた7年前の恋の結末を、自分で言い直して
「海……か」7年ぶりに蜻蛉海岸へ着いて
「深景さん、好きだ!!本当に、好きだった!!誰よりも誰よりも、深景さんが好きだった!!」奈緒の話の最後、深景の2枚目の手紙を読んで岬から海へ
「それが、僕の選んだ運命だから」/「おかえり、深景さん」深景の話の最後、旧七夕の夜の砂浜で
深景
| 読み | みかげ(本人の名乗りは「深いに景色の景って書いて、深景」) |
|---|---|
| 役割 | 7年前の夏、蜻蛉海岸で善博と恋人になった一人旅の画家。姓は作中に出ない |
| 年齢 | 善博より「いくつか、年上」(7年前の時点) |
| 外見 | 艶やかな長い髪、白い肌、瑠璃色の瞳 |
7年前の回想に現れる女性。写真ほどの大きさの風景画を描きながら一人で旅をしていて、岬の先端を「特等席」と呼んでいた。行くあてのない善博を自分の宿に泊め、走れなくなった話を聞くと「善博くんには、走るのをやめて立ち止まることが、必要だったのよ。…人生という旅の途中でね」と受け止めた。
なぞなぞを出すのが好きで、からかわれるとむきになる年上の恋人だったが、時折その瞳に翳りが差し、「不意に私が消えてしまいそうな気がするの」と言っていた。海の絵に名前をつける宿題を善博に出したまま、その絵を残して去った。
病。骨の悪性腫瘍で、肺にも転移していた。雫の話で善博が見る夢の中、問い詰められた深景は「私ね、死ぬの」と告げ、「お医者様には、あと3ヶ月間持ちこたえられたら、いい方だと言われたわ。…3ヶ月前にね」と続ける。絵を描く旅に出たのも、時間が無いと知ったからだった。
深景の話。善博の記憶からは、深景の存在そのものが消されていた。思い出した善博は、深景と結婚して暮らす夢の日々を経て7年前に戻り、最期まで側にいることを選ぶ。深景は手の痛みに耐えて描いた海の絵を「私が生きていたという証」として託し、「私は…海で待ってる…」と言い残して宿で息を引き取る。善博は糸を断つことに同意して彼女を忘れ、深景は、自分の死に付き合わせた償いとして「私ではない、本当の運命の人」に出会ってほしかったと独白する。その言葉どおりなら、ほかのヒロインとの出会いは彼女が織り合わせたものだった。旧七夕の夜、少女の姿で待っていた深景は、善博に迎えられて海へ帰る。
織姫と深景が同じ存在なのかは、作中で明確な答えは示されていない。深景自身の暮らしや家族はほとんど描かれず、回想と夢、手紙、そして少女の姿を通してしか現れない。
「私ね、死ぬの」雫の話、7年前の最後の夜の夢で
「おそらく、善博くんがこの手紙を読んでいる頃には、私はこの世にはいないでしょう。ずっと隠していてごめんなさい」奈緒の話、額縁の絵の裏に残した2枚目の手紙
「私は…海で待ってる…。海で…あなたが来るのを…待っているから…」深景の話、宿で息を引き取る前に
「善博くんはね、私が…初めて、好きになった人…」深景の話、目が見えなくなった床の中で
「私を好きになってくれた『あなた』へ…ありったけの『ありがとう』」深景の話の最後に置かれた手紙の結び
「私が見ている海と善博くんが見ている海は、きっと違う色をしているもの」7年前の岬で、絵の具の色の話をして
「夜の海は夜空を映す、黒く磨かれた鏡なの」旅館の夜のなぞなぞ「世界で一番大きな鏡って、なんでしょうか?」の答え
「たとえ私がいなくなっても、私は海で待っています」奈緒の話、1枚目の置き手紙
「う…3は3でも、上の方の3だったのよ」体育の成績「3」を善博にからかわれて
少女
| 読み | 作中で名乗らない |
|---|---|
| 役割 | 天山荘のまわりに現れる幼い女の子。善博を「よしひろくん」と呼び、この海辺に伝わる七夕のおとぎ話を少しずつ語る |
| 年齢 | 本文に明示なし |
| 外見 | 濡れたような黒髪で、背丈は善博の肩ほど。透き通るほど白い肌。真夏でも海の水のように冷たい手 |
7年前に深景と過ごした砂浜で、初対面のはずの善博を「よしひろくん」と呼ぶ。名前を訊かれても「うん、おしえてあーげない」。寮に住むのは管理人とお手伝いだけで、寂れた海辺に子供がいるはずはない。夜の縁台に現れては、漁師の彦星が砂浜に倒れていた娘・織姫を助ける七夕のおとぎ話を、何日かに分けて語る。幼い話しぶりなのにどこか大人びていて、「やさしいよね、よしひろくんって」と善博の内側を言い当てる。冷たい手で善博を一面青の「海のくに」へ連れて行き、手乗りの小さな象と遊ばせたこともある。
正体。深景の話の最後、旧七夕の夜の砂浜で「…深景さん」と呼びかけられた少女は、深景の声で七夕の結末を語る。天の国の1年は地上の7年で、織姫は7年目の七夕にやって来た。「だけど本当は言いたかった。私が深景なんだって、言ってしまいたかった…」。善博が思い出すはずはないと知りながら待っていた深景は、「この身体は借り物だから、海に返さなくちゃ」と海へ帰っていく。翌朝、少女が「これはみんな、わたしが育てたの」と言ったコスモス畑は枯れていた。コスモスは深景の好きな花だった。
振り返ると。最初の砂浜で「どうして来たの、もう来なくてもよかったのに」と言う場面があり、深景を思い出しかけた善博は「だめだよ、おもいだしちゃ」と金縛りにされる。最後の線香花火の夜には、織姫が何年経っても来なかったところまで話を進め、「よしひろくんは…再会できたとおもう?」と訊く。善博が「会えなかったんじゃないかな」と答えると、「じゃあね、さようなら…よしひろくん」と去る。誰とも恋人にならずに海辺を去る結末では、名前を明かさないまま「だいじょうぶ、きっとまたここに来るから」と見送る。
由織の話では「くすくす…ねえ、だあれ、みかげさんって?」と訊く場面もある。深景の話以外で少女が何者として振る舞っているのか、7年前に深景が聞かせた「海童女ちゃん」の話とつながるのかは、作中で明確な答えは示されていない。
「よしひろくんは、うんめいって信じる?」縁台で七夕のおとぎ話を続けながら
「くすくす…だといいね」七夕の話はハッピーエンドなのかと訊かれて
「海の中…おかあさんの中にいるから、ゾウさんも、赤ちゃんみたいにちっちゃいの」「海のくに」の小さな象について
「だめだよ、おもいだしちゃ」深景の話、深景を思い出しかけた善博に
「せっかく、忘れさせてあげたのに…。みんな無駄になってしまったじゃない」旧七夕の夜、思い出してしまった善博に
「そうね…私、子供の姿でいるうちに…心まで子供になっちゃったみたい…」「だから…ね、善博くんに甘えさせて…」旧七夕の夜、深景の声で
「時間が…止まってしまえばいいのに…」海へ帰る直前に
「だって、わたし、こどもじゃないもの」線香花火を先にどうぞと言われて
岩崎ちなつ
| 読み | ちなつ |
|---|---|
| 役割 | サマースクールの参加者。東陽学園1年の演劇部員として紹介され、善博を「おにーさん」と呼んで慕う |
| 年齢 | 本文に明示なし |
| 外見 | 短い髪。顔立ちも性格も、年齢よりずっと幼く見える |
行きのバスの窓から海を見てはしゃぎ、善博の席を取り、ごはんを取ってくる、明るくて甘えん坊な女の子。善博を最初は「添乗員さん」、すぐに「おにーさん」と呼ぶようになる。世話を焼くのは演劇部の先輩の杉野治美で、子供っぽいちなつを何かとたしなめる。髪を伸ばさない理由を訊かれても「どーせ、ちなつには似合わないもん」と言うばかりで、わけは頑なに話さない。
素性。ちなつは東陽学園の生徒ではない。治美の従妹で、治美が演劇部の後輩「岩崎ちなつ」の名前を借り、元気づけようとサマースクールに連れてきた。母の千亜希を亡くしたあと、研究者の父は海外へ渡り、幼いちなつを杉野家に預けた。別れ際に交わしたのは「泣かない」という約束と、「戻ってきたときは、たくさん泣いても甘えてもいい」という指切りだった。治美によれば、ちなつは本当は人見知りで、明るさは無理をして作っている。
告白と別れ。最終日、夕陽の海で9月に遠くの街へ転校することを打ち明け、父との約束を初めて破って泣き、「ちなつね…おにーさんのこと、好きだよ」と告げる。善博は答えないまま、日が沈むまで隣にいる。夜、また会えると約束してほしいと頼まれても、善博は「いや、もう会えないよ」と退け、口づけで言葉を遮って「これでもう…忘れて」と言い残す。その深夜、部屋を訪ねてきたちなつは、この気持ちは忘れると約束し、サヨナラする前に何かを残してほしいと求める。傷跡になってもいいと言うちなつに、善博は、絶対に忘れると約束させて応じる。出発の朝、ちなつは何も言わない。
数年後。引っ越したばかりの街で、善博は髪を長く伸ばして大人びたちなつと偶然に再会する。「約束、守れなかったよ。出来ない約束だったよ」と、あの夜の「忘れる」約束を守れなかったと泣くちなつに、善博は「もう我慢しなくてもいいよ」と応え、ちなつは声を上げて泣き出す。父と交わした「たくさん泣いても甘えてもいい」という約束が、ここで別の形で果たされる。
この話の回想では、7年前の深景も「もう会えない」と告げ、別れの前に「ひとりの女として…私を抱いて欲しい」と求めて善博に断られたあと、去っている。善博はその別れ方を、今度は自分がなぞる。一方で、ちなつの別れ際の求めには応じる。再会の場面がその決断を問い直すが、ちなつの涙は、善博が過去と向き合うための鏡として置かれている面が強い。
「ホントのお姉ちゃんでもないくせに!!」夕食の席で治美に
「ちなつだって、いろいろガマンしてきたんだよ…。たくさん、たくさん…お父さんと別れるときだって、学校のみんなと別れるときだって…ずっとガマンしてきたんだから……」素性が分かった日の夜、善博に
「ちなつだって、みんなと卒業したかったんだよ…。転校なんて、したくなかったんだよ…」夕陽の海で転校を打ち明けて
「今日の日に…さようなら…」夕陽が沈むのを見送って
「ねえ、それでもダメなのかな。やっぱり忘れなきゃダメなのかな。また我慢しなくちゃダメなのかな?」数年後の再会で
早瀬雫
| 読み | はやせ しずく |
|---|---|
| 役割 | 東陽学園の3年生。クラスで孤立していて、ほとんど口を利かない。兄との約束で、岬に「海の詩」を聴きに来ている |
| 年齢 | 本文に明示なし |
| 外見 | 腰の下まで届く長い髪を、厚手のリボンでポニーテールにまとめる。前髪を垂らし、指は細い。瑠璃色の瞳 |
朝の散歩の途中、寮の裏の林で露草を見つめていた無口な少女。言葉を区切るように「…はい」「…すみません」と話し、暑さが嫌いで水泳の授業を抜け出しては岬に隠れる。そこで耳を澄ませているのは、兄が聴かせると約束した海の詩で、「見ているんじゃなくて…聴いているの…」と言う。無断で授業を休んで呼び出されても「怒られるのは…慣れてます…」。管理人が保護している怪我をしたカモメに熱心に餌をやり、スイカは「血の色をしているから」嫌いだという。
兄と家族。幼い雫は近所の子供たちの輪に入れず、味方は兄だけだった。兄は雫に「嫌い」と言わない約束をさせ、「…俺と同じ歳になったら、聴かせてやるよ」と海の詩を約束した。その兄は「人魚に恋をして…行ってしまった…」。父は母に「なぜよりによって、出来の悪い方が残ったんだ」と言い、雫はそれを聞いていた。兄の死そのものは描かれず、雫と父の言葉からうかがえるだけである。
海との和解。オリエンテーリングで罵られて置き去りにされ、カモメに指を噛まれた日、雫は「兄さんを奪った海なんて…嫌い」と泣く。善博は夜の砂浜で、ウミガメの子が一斉に海へ還るのを見せ、それは「約束だからなんだよ」と語る。翌日、雫は海の詩が「聞こえる」と兄に別れを告げ、初めて海に入って心から笑う。夕方には深景の代わりに「約束…守ってくれて、ありがとう…」と善博に告げる。雫に深景を重ねて抱きしめた善博に、雫は「だから今は…私を…その人だと思ってください」と身代わりを申し出て、二人は浜で結ばれる。花火の夜、善博は深景の絵を雫に「預ける」。翌夏、大学生になって泳ぎ始めた雫と、善博は初めて深景の墓に参り、「さようなら、深景さん」と告げる。
7年近く避けてきた墓の前に善博を立たせるのは雫の話だけで、深景の死をいちばん正面から受け止める話になっている。ただ、雫が深景の身代わりとして善博の約束を引き受ける形には危うさがあり、雫自身の想いは言葉少なにしか示されない。深景の話では、絵を持っていた雫が「詩が…届きましたから」と善博に返すが、なぜ雫の手にあるのかはその話の中では説明されない。
「見ているんじゃなくて…聴いているの…」「心の耳を…傾けていれば…きっと…」岬で海の詩に耳を澄ませて
「海の水…涙の味が…します…」「でも…嫌いな味じゃ…ありません…」初めて入った海で転んで
「約束ですから…お返しします…」「詩が…届きましたから」深景の話で、海の絵を善博に返して
「兄さんを奪った海なんて…嫌い」海の詩はもう聞こえないと言って
「人はいつか、心の中でも死んだ人とは別れなくてはならないんですね。それはとても辛いことですけど…そうしないと、前へは進めないから…」翌夏、深景の墓参りで
「ありがとう、会いに来てくれて」「約束…守ってくれて、ありがとう…」深景の代わりに、善博の頬を両手で包んで
「汗をかくのは、今も嫌いですけど…実は暑いのは、もう嫌いじゃありません」「暑いと…泳げますから」翌夏の再会で
「はい…悪い子…です」消灯に遅れたことを咎められて
森沢奈緒
| 読み | なお |
|---|---|
| 役割 | 東陽学園の生徒。ブラスバンド部でフルートを吹き、先輩の伊藤に誘われてサマースクールに参加した。去年も参加している |
| 年齢 | 本文に明示なし |
| 外見 | 頭のおだんごとえくぼ。最近まで髪を下ろしていた |
飯ごう炊さんでかまどに苦戦していたところを善博に助けられ、失敗したカレーを持ってくる律儀な生徒。几帳面で謝ってばかりいるが、「ふっふっふっ、森沢は七色の声の持ち主なのです」と茶目っ気も見せる。運動は苦手で、去年の水泳の授業では足をつって溺れかけた。山頂の「特等席」で善博が添乗員になったわけを聞くと、自分にも「いろんなことを教えてくれた人」がいたと漏らし、「もう…想い出、ですよね?」と確かめるように言う。
センパイ。奈緒にはセンパイと呼ぶ恋人がいた。小学生の頃に近所へ越してきた人で、フルートも東陽学園も彼を追って選んだ。1年前の夏、交換留学生としてウィーンへ発つセンパイを笑顔で見送ったその夕方、誰もいない家のテレビで、乗客名簿と大使館の確認を伝える速報を見る。作中は事故の種類も「死」という語も出さず、奈緒も「センパイは遠くへ行ってしまいました…海の彼方へ」としか言わない。去年と変わらない海を見るたびに想い出が戻り、善博に惹かれるほど自分を許せなくなる。深夜、腰まで夜の海に浸かって放心していた奈緒を、善博は背負って連れ帰る。
変わってもいい。星空の下で、善博は深景から聞いた、星空さえ「100万年後」には変わるという話をして、「だから、奈緒ちゃんも変わったっていいんだよ」と言う。最終日、奈緒の励ましで、飛ぶのを怖がっていたカモメのジョナサンが飛び立つ。奈緒はセンパイの写真の裏の言葉を読んで笑い、写真を破って海に撒く。センパイと約束した岩陰で「私じゃだめですか?」と想いを伝え、その岩陰で二人は結ばれる。奈緒は来年、自分が留学して「彼の夢の続き」を継ぐと決める。善博は「待ってるよ」と約束する。帰る朝、善博は岬で絵に「夏の幻」と名づけ、絵の裏に深景の2枚目の手紙を見つけて、絵を海へ返す。
想い出を海に返すという同じことを、奈緒と善博がそれぞれに行う、対になった作りの話である。センパイの事故は、深景の話で新婚の世界のテレビが伝える「1年前の今日」の飛行機墜落事故と重なって見えるが、同じものかは作中で明確な答えは示されていない。写真の裏の言葉も最後まで明かされない。
「自分を変えようと思ったなら、やっぱりそれまでの自分には、けじめをつけなくちゃダメ…ですよね」サマースクール3日目の夜につぶやいて
「私…変わっても…よかったんですね…」「変わったっていいんだよ」と言われ、泣きながら
「でも、もう遅いですよーだ」センパイの写真の裏を読んで笑い、破って海に撒く前に
「棘だらけの想い出を抱いて生きるのは、もういやなの」夜の海から連れ帰られて
「彼の気持ちは、永遠に変わることはありません…。変わるとしたらそれは、私の気持ちだけです」星空の下でセンパイのことを語って
「私じゃだめですか?私が松永さんの特別な人にはなれませんか?」センパイと約束した岩陰で
「私が留学から戻ってくるまで…それまで、待っててくれますか?」最後の夜の花火大会で
「だって、管理人さんだって『おい、人間』…なんて呼ばれたら嫌でしょう?」カモメに名前をつける理由を話して
津賀島つぐみ
| 読み | つがしま つぐみ(名は本人いわく「ひらがなで」) |
|---|---|
| 役割 | 東陽学園の1年3組。関西弁で話し、撮った写真を売るなどの「商売」をしている |
| 年齢 | 本文に明示なし |
| 外見 | 小柄。大きな肩掛けカバンに赤い背表紙の手帳、使い捨てカメラを持ち歩く |
「ウチは1年3組出席番号31番の津賀島ゆうもんです~」と名乗る関西弁の1年生。生徒を撮った写真を1枚200円で売り、山登りでは虫よけを売って荷物持ちを請け負い、階段でぶつかった善博には慰謝料10万円を約束させる。「これはウチが、商売としてやってることですから」と言うとおりお金には細かいのに、自分が撮られるのはひどく嫌がり、集合写真では「写真に撮られると、魂を抜かれて寿命が縮んでまうんよ」と身を伏せる。山で足首を捻挫して善博に背負われたときは、「ウチ、誰かにおんぶなんてしてもらったん、これが初めてなんや…」と漏らす。
偽りの想い出。廃線のバス停の堤防で、つぐみは10年ほど前にこの海の旅館に泊まり、竜宮城へ行こうとミドリガメを海に流したという想い出を語る。だがそれは由織から聞いた話だった。つぐみは人から聞いた想い出話をノートに書き溜め、自分のものとして話していた。稼いだお金も、すべて募金している。最終日、善博は無断でつぐみの部屋に入ってノートを読み、旅館の廃墟で、7年前に深景と植えた月下美人を「来たときには、もう咲いとった」と言うつぐみの嘘を暴く。
母。つぐみに残っていた本当の想い出は、捨てられた日のことだった。母は男に捨てられたのをつぐみのせいにして殴り、蹴り、ある日遊園地で初めて甘えさせて赤い風船をすべて買い与えると、バス停に娘を置いたまま迎えに来なかった。胸には赤ん坊の頃に熱い油を掛けられた火傷の痕があるが、誰が掛けたのかを作中は名指ししない。その後、つぐみは津賀島の家の子になった。「この痕がある限り…」と泣くつぐみを、善博は「僕が、愛してあげる」と受け止め、痕に口づけする。旅館の廃墟で、二人は結ばれる。
その後。善博も、7年前の恋を「婚約していた」と偽って話していたと打ち明け、深景が病で死んだことを語る。つぐみは恋人にはならず、帰る朝、慰謝料込みの請求書と、代金が『想い出』となっている領収書を渡して別れる。7年後、妻と娘を持つ父になった善博の前に、絵本作家になったつぐみが名乗らずに現れ、デビュー作『つきとにんぎょひめ』のあとがきで「添乗員さん」に礼を記す。
偽りの想い出を抱えた二人が、互いの嘘をほどく話である。ただ、つぐみを無断で撮ったり部屋に入ったりする善博のやり方は、本人も「空き巣まがい」と認めるとおり乱暴で、虐待の重さに比べると立ち直りまでが駆け足に見える。
「ウチが欲しいもんは、お金じゃ買えへんし…」稼いだお金の使い道を明かして
「今、ウチ、主役やな!」初めて自分の写真を撮らせて
「きっともうすぐ、添乗員さんにも届くから…」深景の話の最終日に
「ウチな、募金しとるんよ。せやから、1円だって、自分の財布に入れたことはあらへん」夜、善博と仲直りして
「この痕がある限り…ウチには想い出作る資格なんてあらへんのや…。一生、嘘つきのままなんや…!」旅館の廃墟で、火傷の痕のことを明かして
「ウチ、添乗員さんに会えてよかった」最終日、砂浜で善博に
「いきなり海に放り込まれて『わっ、ここはいったいどこなんや~』って思うたやろなぁ」流したミドリガメの気持ちを想像して
「(あ~、あかん、ジンマシン出てまいそうや~)」敬語で書いた手紙の途中で
川奈由織
| 読み | かわな ゆおり(幼い頃のあだ名は「ゆうちゃん」) |
|---|---|
| 役割 | 天山荘のお手伝い。寮ができた3年前から住み込みで働き、花壇でアスターを育てている。管理人の息子ユウキの母親代わり |
| 年齢 | 22歳(8月6日の誕生日で23歳) |
| 外見 | 善博の目には「いいとこのお嬢様っぽい」。雫より少し背が低い |
関西弁の管理人と一緒にサマースクールの一行を迎える、おっとりした女性。低血圧で毎朝10分散歩し、露草やアサリにまで「さん」を付けて呼ぶ。花壇の花については「お花は愛情を込めて育てると、そのお礼にきれいに咲いてくれるんですよ」と語り、いたずらをしたユウキには善博へ謝らせて「あとで謝りたいと思っても、謝れないこともあるんです」と諭す。育ちの良さがにじむのに、なぜこの寂れた海辺で働いているのかは話さない。
川奈の娘。酒の席で管理人に「川奈のお嬢さん」と呼ばれると、由織はその呼び方をやめてほしいときっぱり断る。子供の頃は執事が付く家の娘で、竜宮城の乙姫に憧れて砂浜でカメを待っていた。夢の中で、善博は少年の「ボク」としてその少女に出会って「ゆうちゃん」とあだ名を付け、ふたりで「たまて箱」を砂浜の松の根元に埋める。帰っていくゆうちゃんは「わたしは、この海でまっています」と言い残すが、「ボク」が善博だとは作中で明かされない。つぐみが自分の想い出として語ったミドリガメの話も、もとは由織の想い出だった。
別れと再訪。23歳の誕生日、善博は深景の海の絵を贈り物にして「僕は由織さんじゃなくちゃ、だめなんだ」と告げ、その夜、二人は由織の部屋で初めて結ばれる。最終日の夜、7年前に善博と深景が旅館の庭に植えた月下美人を、由織が3年前から手入れして咲かせてきたと分かる。深景を求めてしまったことを詫びる善博に、由織は「知ってましたよ」と言い、一緒に来てほしいという願いには首を振る。帰る朝、花言葉は「永遠の別離」だと告げてアスターの種を渡す。1年後の夏、紅いアスターの花束を抱えた善博が戻り、紅のアスターの花言葉は「私の愛は、あなたよりも深い」だと告げる。由織の独白は「やっと、青い風が吹いた…」。
善博の中の深景を知ったうえで身を引ける、ヒロインの中でいちばん大人の人物として描かれる。そのぶん、家を出た理由も、埋めたたまて箱の行方も最後まで描かれず、夢の少年との約束は伏線のまま残る。
「お花には、お花の時間があるんです」誕生日の日に
「私は風になりたい…」誕生日の日、岬で
「松永さんはここへ来た。私はここにいた。…ただ、それだけのことだったんですから」善博を追うよう勧める管理人に
「その川奈のお嬢さん…という呼び方は、出来れば控えるようにしていただけませんか?」酒の席で管理人に
「大切なのは、今の気持ちです」「それに私たちが出会えたのも…松永さんがその方を愛されたからではありませんか?」深景を求めたことを詫びる善博に
「松永さん、素敵な恋をありがとうございました」別れの夜に
「わたしは、この海でまっています」夢の中、執事に連れられて帰る幼い由織
「お客さあん、終点ですよー」酔いつぶれた管理人を揺すって
「…減ります」つまみ食いを「減るもんでもなし」と言う善博に
その他の登場人物
到着した夜の夢で「私は織姫…」と名乗り、善博の運命の糸を織る者として語りかける声。仮止めの糸はもう要らないと言いかけるが、善博が頼むと「また運命を巡りなさい」と告げる。その夢の終わりには『私は、海で待っています』という言葉が響く。3日目の夜には「あなたに近い運命を持った、この人の糸を…」と、ヒロインたちとの糸を結ぶと言う。深景の話では、深景との糸を断てば出会ったこと自体が無くなり、悲しみから解かれると告げ、拒んで織機を荒らした善博の意識を落とす。7年前の死別のあとで同意を得て糸を切り、もう夢には現れないと別れを告げる。少女が語る七夕の話の織姫と同じ名だが、深景と同じ存在なのかは作中で明確な答えは示されていない。声だけが語るバッドエンドの語り手が誰なのかも、作中で明確な答えは示されていない。
東陽学園3年5組で、サマースクールの実行委員。演劇部の先輩としてちなつの世話を焼き、「添乗員さんは、ちなつのことを子供っぽいなって、思ってるのよ」とたしなめる。実はちなつの従姉で、幼い頃から同じ家で育った。元気づけようと、演劇部の後輩「岩崎ちなつ」の名前を借りてちなつを連れてきたのは治美である。ちなつに「ホントのお姉ちゃんでもないくせに!!」と叫ばれると「そうね…ちなつの言う通り。私はちなつにとって、姉でも何でもないわよね」と返し、最終日には、ちなつの目の前で善博に口づけして諦めさせようとするが、芝居だと見抜かれて「ウソ」と言われる。「ちなつ、恋をして寂しさが癒せると思ってるなら、それは大きな間違いよ」と諭して、善博に「あの子に、諦めさせてあげてください」と頼む。雫の話では、雫がオリエンテーリングで置き去りにされたことを善博に伝える。雫とは同じクラス。
名前は作中に出ない。関西弁で、善博を「兄ちゃん」、由織を「おじょうさん」と呼ぶ。寮の裏の菜園でスイカを育て、春先に保護した翼を傷めたカモメの世話をしている。奈緒が「ジョナサン」と名づけたそのカモメが飛び立つと、「まっ、これも姉ちゃんのおかげやけどな。あいつに代わって、俺からも礼を言うわ」と奈緒に礼を言う。ユウキの父で、アメリカ人の元妻とは離婚した。酒にはめっぽう弱い。由織の話では、去っていく善博を追うよう由織に勧め、「心にもないことを言うときには、もうちょっと、それらしい顔をするもんやで」と言う。
金髪碧眼の7歳。由織と同じ8月6日生まれで、由織を母親代わりに慕い、近づく善博を「おまえ」と呼んで目の敵にする。冷水を浴びせ、おもちゃの鉄砲で撃ち、寝ている善博の額に『米』と書く。それでも、自分のいたずらで由織が謝ろうとすると「ゆおりはわるくない。わるいのはおれだ。だから、ゆおりはあやまるな」と止める。善博は「ユウ坊」と呼んで相手をする。普段は父方の祖父母に預けられていて、休みの間だけ寮に来ている。
バスケ部の副キャプテンで、ビーチバレー大会を言い出した男子。センパイがいた頃から2年近く奈緒を口説き続け、センパイを失った奈緒をサマースクールに誘った。奈緒の話では奈緒をマネージャーに誘い、善博に「もう森沢さんに構わないでくれよな」と迫って、「試させてもらうからな」と言い捨てる。自分を「お調子モン」と言いながら、奈緒のことだけは「本気だから」と言う。直後に善博を深夜のラウンジへ呼び出す差出人のない手紙が届くが、誰が出したのかは作中で明かされない。
森先生はサマースクールを引率する体育教師で、つぐみのクラス(1年3組)の担任。無断で授業を休んだ雫を呼び出す。豊嶌先生は保健の女性教師。
名前は作中に出ない。背の高いフルート奏者で、奈緒とは小学生の頃に同じ登校班だった。東陽学園の交換留学生に選ばれ、一流の演奏家を目指してウィーンへ発った日の夕方、テレビの速報に乗客名簿と大使館の確認が流れる。見送る奈緒への言葉は「ああ、またな」。奈緒によれば、星を指して「あの星を奈緒だと思う…もし辛いことがあっても、あの星を奈緒だと思って頑張るんだ…」と言っていた。寄せ書きノートに挟まれていた写真の裏に言葉を残していたが、その文面は示されない。
名前は作中に出ない。海に深く潜るのが好きな人で、幼い雫のたった一人の味方だった。雫に「嫌い」と言わない約束をさせ、「…俺と同じ歳になったら、聴かせてやるよ」と海の詩を約束した。深い海の光と闇のあいだにある「本当の青」を語り、「このまま海に身を任せて沈んでしまおうか」と口にしていた。いなくなったことは語られても、死そのものは描かれない。雫の話の最後の夜には、兄の声が「海の詩…あれはお前のために詠った詩なんだ」「お前はな、ひとりじゃないんだ」「いつでも海に来い」「もう、泣くなよ」と告げる。
雫の過去の場面に出てくる。兄がいなくなったあと、父は母に「なぜよりによって、出来の悪い方が残ったんだ」と言い、雫はそれを聞いていた。母は「あなた…もしそんなこと雫が聞いたら…」と制する。父は、雫が翌春に進む大学の卒業生でもある。
父は植物を研究する大学の先生で、「小泉さん」と呼ばれる。妻の千亜希を亡くしたあと海外の大学に招かれ、幼いちなつを杉野家に預けて単身で渡り、長いあいだ連絡しなかった。別れ際にちなつと「泣かない」約束をし、戻ってきたらたくさん泣いても甘えてもいいとも約束した。近く帰国して、ちなつと一緒に暮らすことになっている。千亜希の死因は語られない。ちなつ本人の名字も作中に出ない。
名前は作中に出ない。遊園地で「つぐみ、今日はたくさん甘えてもいいのよ」と初めて娘を甘えさせ、赤い風船をすべて買い与えた日に、「ここで待っているのよ」とバス停に置き去りにして、二度と迎えに来なかった。そのときの呟きは「…これで、最後だからね」。つぐみの記憶では、男に捨てられたことを娘のせいにして、殴る蹴るを毎日のように繰り返していた。
つぐみの話の7年後に出てくる、善博の娘。本屋で人魚の絵本をねだり、名乗らない絵本作家(つぐみ)と話して、デビュー作『つきとにんぎょひめ』を選ぶ。もうすぐ生まれる赤ちゃんの「お姉ちゃん」になる。深景の話の新婚の世界では、本屋で善博を「パパ!」と呼ぶ女の子として現れ、善博に既知感を抱かせる。善博の妻は、名前も素性も作中に出ない。