この主人公、信用できるわ。腹が据わってる。
「義務」という制度を背負った社会で、更生を請け負う男の話。設定の重さに負けず、森田賢一という主人公がぶれない。ヒロインたちの「欠け」も、関係性の積み上げも、腑に落ちるやり方で描かれてるわ。テーマが重すぎて息の詰まる場面もあったけれど、それを含めて、しっかり読ませる作品だったわね。
スコア詳細
「義務」という設定に引かれて
車輪の国、向日葵の少女は、2004年にSca-diが手がけたビジュアルノベルよ。
犯罪を犯した人間が「義務」という制度のもとで人権を一部剥奪され、更生するまで「執行人」の監督下で生活する——そういう社会を舞台にした作品なのよ。主人公の森田賢一は、その執行人を務めながら、3人のヒロインと向き合っていくわ。
ヒロインはそれぞれ事情を抱えてる。天才的な知性を持つさち、何かを内側に抱えた委員長の灯花、幼なじみの夏咲。恋愛ものとして軽く楽しむより、各キャラの「欠け」を一緒に抱えていく物語として読めるわ。
この主人公は、信用できる
アタシ、長年スナックで人を見てきたのよ。男が「誠実です」と言っても、それが本物かどうかは、態度の端々に出るものなの。
上辺の親切と、腹が据わった誠実さは、全然違うのよ。森田賢一は、後者だったわ。口数は多くないし、感情的でもない。でも、義務の執行という重い立場を引き受けながら、一切逃げないのよ。ヒロインたちの事情と正面から向き合って、自分の限界も知りながら、それでも踏みとどまる。
こういう人間は、実際にいるのよね。常連さんの中にも何人かいたわ。大きな声を出さない人ほど、いざとなったとき動揺しない。賢一はそういうタイプだったのよ。
ヒロインたちの「欠け」が、記憶に残る
ヒロインが可愛いだけのゲームは、読んでいる間は楽しくても、後から思い出そうとすると霞んでいくのよ。この作品のヒロインたちは違ったわね。
さちは天才だけど、まなという子を拾い育てることで、ようやく「普通の生活」を手に入れようとしてる。灯花は委員長として周囲を取り仕切りながら、「あなたからわたしへはこわいから」という言葉を口にする場面がある。その一言に、彼女が持つ脆さが全部詰まってるわ。
人間、強さと弱さを同時に抱えてるものよ。それをちゃんと描けてるヒロインは、読み終えたあとも頭の中に残るのよね。
「さあ、めしあがれっ!」——積み上げがあるから届く
関係性の描き方が丁寧なのよ、この作品。序盤から各ヒロインとの交流が積み重なっていて、だからクライマックスの場面が動くのよ。
灯花が料理を振る舞う場面で、「さあ、めしあがれっ!」と言う瞬間がある。短い台詞なのに、なぜかそこで胸に来たわ。積み重ねがあるから、一言が重くなるのよ。テクニックで感動させようとする作品じゃなくて、キャラを描いた結果として感情が動く。その順序が正しいの。
法月という師匠格のキャラとの関係性も面白かったわ。「すぐ無駄口をたたくのがお前の欠点だ」なんて言いながら、賢一を一番高く評価してる。ああいう不器用な愛情の示し方、アタシは好きよ。
テーマの重さと、息の詰まる場面
「車輪」がある種の拷問器具を指す言葉だと、作中で明言される場面がある。万物は流転する、車輪のように——という詩的な表現の裏に、もっと暗い意味が隠れてるのよ。そういう仕掛けは巧いと思ったわ。
ただ、テーマが重くなるにつれて、息が詰まる場面も出てくるのよ。義務制度の是非、更生とは何か、人権とは何か。哲学的な問答が続く中盤は、少しペースが落ちると感じたわね。
アタシみたいに人間をずっと見てきた人間は最後まで付き合えるの。でも、軽くギャルゲーを楽しみたい人には、中盤がちょっとしんどいかもしれないわ。
7.9——ぶれない人間が、ぶれない物語を作る
主人公が信用できる作品は、長く読んでいられるのよ。賢一がぶれないから、ヒロインたちの変化が映えるし、関係性の積み上げが意味を持つ。
テーマが重すぎて少し息が詰まった場面はあったし、テンポ的に引っかかる箇所もあったわ。でも、それを含めて誠実に作られた作品だったのよ。読み終えたあとに、嫌な後味が残らない。これが一番大事なことだとアタシは思ってるわ。
7.9点。信用できる主人公と、記憶に残るヒロインたちに、この点数を付けるわ。
