加藤萌絵のレビュー — STEINS;GATE

加藤萌絵
加藤萌絵
キャラ萌え至上主義
9.0/10
9.0 / 10

岡部の厨二病が「テンプレ厨二病」じゃなくて「11歳のあの日」と地続きで動いてる、これは公式が最高。

2009年10月、5pb.×MAGES.のXbox360専用ソフトとして発売された科学アドベンチャー。本作のすごいところは、岡部倫太郎の「鳳凰院凶真」という厨二病設定が、ただのテンプレ厨二じゃなくて、ちゃんと彼自身の過去と動機を背負って動いてる点です。「狂気のマッドサイエンティスト」とか「機関」とか「エル・プサイ・コングルゥ」とか、表面だけ見たら典型的厨二病キャラなんだけど、この設定が「11歳のあの日」と接続されてるのが分かった瞬間、わたしの中で全部ひっくり返った。解釈一致。そして紅莉栖のツンデレも完璧。岡部と紅莉栖、この二人を書いた林直孝さんは「わかってる」。総合9.0。

スコア詳細

主人公の造形 10
ヒロインの魅力 9
キャラ間の関係性 9
設定の整合性 9
感動・カタルシス 9
伏線と回収 8

「タイムトラベルもの」のジャケで構えてたら、ちゃんとキャラを愛してる作品だった

本作の入口について書きます。わたし、ジャケと宣伝文句で一回構えました。

2009年10月15日、5pb.×MAGES.がXbox360専用ソフトとして出した科学アドベンチャー。前作「CHAOS;HEAD」(2008年)の流れを汲むシリーズ第2弾で、シナリオは林直孝、キャラクターデザインはhuke、原案は志倉千代丸。主人公が「狂気のマッドサイエンティスト」を自称する厨二病キャラ、ヒロインが天才物理学者の女子高生、舞台が秋葉原、題材がタイムマシン——この組み合わせを聞いた時点で、わたしの中ではちょっと身構えました。こういう「設定盛り盛りのSFキャラ」って、ともすると「設定の置物」になっちゃってキャラが立たない作品が多いんですよ

でも実際にプレイしてみると、本作は「タイムトラベルもの」を題材にしながら、キャラを設定の置物にしないで、ちゃんと一人ひとりに「この子はこういう過去があってこういう動機で動く」っていう内側を埋めた作品でした。主人公・岡部倫太郎くんの「鳳凰院凶真」は、ただの厨二病キャラのテンプレ設定じゃなくて、ちゃんと彼自身の過去と接続された動機を背負った仮面なんですよ。これに気づいた瞬間、わたしの中で全部評価が変わった。詳しくはクリア後にもう一本のほうで書いた。

物語の舞台は2010年7月から8月の秋葉原。岡部くんは「未来ガジェット研究所」というラボを構えて、幼なじみの椎名まゆりちゃん、親友の橋田至くん(通称ダル)と日常を送ってる。そこに天才物理学者の牧瀬紅莉栖ちゃんが加わって、電子レンジ改造ガジェットがメールを過去に送れる「タイムマシン」だったことが判明する——っていう導入です。わたしがプレイしたのは2010年のPC版(全年齢)ですね。原作のXbox360版とほぼ同じシナリオらしいです。

プレイ前の警戒は完全に外れました。岡部くんと紅莉栖ちゃん、この二人がキャラとして本気で書かれてるのが分かるんですよ。ライターがキャラの内面を本気で考えて書いてる。これは公式が最高。

主人公・岡部倫太郎——「テンプレ厨二」じゃない「動機ある厨二」

本作で一番評価したいのは主人公・岡部くんの造形です。

岡部くんは18歳の大学1年生で、自分のことを「鳳凰院凶真」と名乗り、「狂気のマッドサイエンティスト」を自称してる。「機関」「運命石の扉」「エル・プサイ・コングルゥ」っていう独自の語彙を頻繁に口にして、ケータイで誰もいない「機関」と通話するふりをする。表層だけ見ると典型的な厨二病キャラ。一見すると「ライターが厨二病ネタを書きたかっただけ」のキャラに見える危険があります。

でも本作はここが違うんですよ。岡部くんの「鳳凰院凶真」は、ちゃんと「11歳の頃のある体験」と接続されてて、彼が今もこの仮面を被り続けている理由が、物語の中で説明される組み方になってる。「狂気のマッドサイエンティスト」っていう自称は、ただの中二病的な背伸びじゃなくて、誰かを守るために必要だから演じ続けてる仮面なんですよ。解釈一致。この「仮面の起源」に気づいた瞬間、岡部くんの全行動が再解釈される。詳しくはクリア後にもう一本のほうで書いた。

もうひとつ感心したのは、岡部くんが「完璧な厨二病ヒーロー」じゃないこと。彼は階段7階分でへばるし(「階段を使うべきじゃなかったかもしれん……。キツすぎ……」)、運動が苦手だし、ループの中では精神的にどんどん消耗していく。本作の中盤以降、岡部くんは「狂気のマッドサイエンティスト」の仮面を被ったままでは支えきれない場面に何度も追い込まれる。そこで仮面が割れる瞬間が描かれる。これは作者がこのキャラを「設定の置物」にしないで、「一人の人間」として書いてる証拠

分析モードで言うと、岡部くんの厨二病設定は「キャラ造形の上位レイヤー」として機能してます。下位レイヤーには「11歳の体験」「まゆりへの保護欲求」「ループで精神を擦り減らす普通の青年」っていう生の彼がいて、その上に「鳳凰院凶真」という仮面が重ねられてる。岡部くんは仮面を被ったまま日常を生きて、仮面が必要な場面では強化して、仮面が割れる場面では泣く。「狂気のマッドサイエンティスト」が、ちゃんと「キャラ」として動いてるんですよ。これは作者がこのキャラを愛して書いてる。

萌絵基準で主人公の造形10は滅多に出ないんですけど、岡部くんは10です。「鳳凰院凶真」を「テンプレ厨二病」じゃなくて「動機ある厨二」として組んだのが見事すぎる。このキャラを書いたライターは「わかってる」

牧瀬紅莉栖——ツンデレ造形の解釈一致度が高すぎる

メインヒロイン・牧瀬紅莉栖ちゃんの造形について書きます。

紅莉栖ちゃんは18歳でアメリカのヴィクター・コンドリア大学を17歳で飛び級卒業した天才物理学者。Science誌掲載の論文持ち、ATFのゲスト講演者、表面はツンデレ、本質は真面目すぎるくらい真面目。岡部くんに「クリスティーナ」とか「助手」とか勝手にあだ名を付けられて、毎回「いや、だから私はクリスティーナでも助手でもないって言っとろう——」って怒る。これは典型的なツンデレヒロインの記号セットです。

でも紅莉栖ちゃんがすごいのは、ツンデレの「ツン」と「デレ」の両方に、ちゃんと固有の動機が乗ってることなんですよ。「ツン」の側は、父・牧瀬章一との確執から来てる。父からの剽窃に深く傷ついてて、その話題に触れると脆くなる。岡部くんに気を許せないのは、彼女が父との関係で受けた裏切りの記憶が、他者を信用するハードルを上げてるから。一方の「デレ」の側は、根が真面目で優しい彼女が、岡部くんの「鳳凰院凶真」の仮面の下の本物の彼に気づいて、共鳴していく過程として書かれてる。ツンとデレが、それぞれ別の固有動機から動いてる。これは「テンプレツンデレ」と「動機あるツンデレ」の決定的な違いです。

分析モードで言うと、紅莉栖ちゃんは「ATFで講演する天才物理学者」「@ちゃんねるでオカルト板に書き込む18歳の女の子」「父との関係で傷を抱える娘」「料理が下手な普通の人間」っていう複数の側面が、同一人物の中で矛盾なく統合されてる。普通のツンデレヒロインって「表層ツン・本質デレ」の単純な二層構造なんですけど、紅莉栖ちゃんは多層構造で、それぞれの層に固有のエピソードがある。これは作者がキャラを多面的に書いてる証拠

有名な「バカなの? 死ぬの!?」っていう罵倒も、ただのツンデレの記号じゃなくて、彼女がアメリカ生活で身につけた英語混じりの罵倒の癖(怒ると「マザーファッカー!」が出る)として、文化的バックグラウンドに整合してる。ダル談では『不思議の国のアリス』由来って言われてるんだけど、それも紅莉栖ちゃんの読書傾向(古典・英語文学)に整合する伏線として読める。細部まで動機の整合性を取ってる

ヒロインの魅力は9点。10にしなかったのは、わたしの萌え軸では岡部くんの動機の組み方のほうがより尖って見えたから、っていう個人的な順位の問題です。キャラとしての完成度は最上位クラス

岡部×紅莉栖——「クリスティーナ」「助手」と呼ばれる関係性の積み上げ

この二人の関係性について書きます。

岡部くんと紅莉栖ちゃんの関係は、最初は「警戒対象の謎の少女」と「厨二病のおかしな男」から始まります。岡部くんは紅莉栖ちゃんを「機関のエージェント」として警戒し、紅莉栖ちゃんは岡部くんを「英雄気取りのHENTAI童貞」として呆れる。お互いに「変なやつ」と認識し合うところから始まる。

そこから関係性が変化していく過程が、本作のキャラ間関係性の本領発揮ポイントです。岡部くんは紅莉栖ちゃんを「クリスティーナ」「助手」と呼ぶようになる。紅莉栖ちゃんは毎回「いや、だから私はクリスティーナでも助手でもないって言っとろう——」って抗議するけど、抗議そのものがこの関係の中の定型になっていく。呼ばれる側が抗議し続けることで、呼ぶ側との関係が固定化されるっていう、ある種の儀礼的なやり取り。これが二人の関係の核になります。

面白いのは、岡部くんの「クリスティーナ」「助手」呼びが、紅莉栖ちゃんを軽く扱っているわけではないことなんですよ。むしろ岡部くんは紅莉栖ちゃんを心の底では「天才」として尊敬してる。タイムリープマシン理論を提唱した紅莉栖ちゃんに「お前は……天才だ……」(初タイムリープ成功直後)って素直に告げる場面もある。「クリスティーナ」「助手」呼びは、岡部くんが照れ隠しに使う固有のあだ名で、彼女への敬意と親密さが同居した呼び方なんですよ。これは作者が二人の関係を細かく考えてる証拠

そして二人の関係は、物語の進行とともに「研究仲間」から「お互いに必要不可欠な存在」へと変化していく。詳しくはクリア後にもう一本のほうで書いたんだけど、本作の中盤以降、岡部くんが紅莉栖ちゃんに対する自分の感情を遅まきに自覚する場面が来る。この自覚の遅さが、彼ら二人の関係の積み上げに必要な時間として、ちゃんと書き込まれてる。「すぐに好きになる」じゃなくて「いつの間にか必要不可欠になっていた」っていう過程を、共通シナリオの厚みでしっかり描いてる。これは関係性として完成度が高い

キャラ間の関係性9点。10にしなかったのは、紅莉栖ルートの一部の感情整理がもう少し丁寧でも良かったと感じたから。これも詳細はクリア後にもう一本のほうで書いた。

ラボメン全員に動機がある——脇キャラの解釈一致度

岡部・紅莉栖以外のキャラもざっくり見ていきます。

椎名まゆりちゃん——「トゥットゥルー♪」「えっへへー♪」が口癖の脳天気な幼なじみキャラ。これも表層だけ見ると典型的な「ふわふわ系幼なじみヒロイン」のテンプレなんですけど、まゆりちゃんも下層に固有の過去と動機を持ってる。岡部くんと11歳の頃に共有した体験があって、その時の経験が「鳳凰院凶真」設定の起源になってる、ということが物語の中で明かされる。まゆりちゃんは岡部くんの厨二病設定の「共犯者」なんですよ。詳しくはクリア後にもう一本のほうで書いた。鈍くさそうに見えて実は岡部くんの感情変化を一発で見抜く瞬間があって、その敏感さがキャラとして光ってる。解釈一致

橋田至くん(ダル)——岡部くんの親友、ピザオタの@ちゃんねらー。「常考」「乙」「ktkr」を多用するネットスラング塗れの一人称「僕」のキャラ。テンプレオタクキャラの記号で固められてるけど、ダルくんはクラッキング作業に入ると別人になる職人気質の側面を持ってる。岡部くんの突拍子もないアイデアを実装するハードウェア+ソフトウェア両刀使いとして、ラボの技術担当を一人で支えてる。これは「ただのオタクキャラ」じゃなくて「ちゃんと役割を持ったキャラ」っていう作者の意図が見える。

桐生萌郁ちゃん——常にパープルのケータイを握りしめて、会話のほぼすべてをメールで行う無口な子。「ケータイ依存」っていう一つの記号で立ってるキャラなんですけど、本作の中でこのケータイ依存に固有の動機があることが分かってきます。これは詳しくはクリア後のほうで。

漆原るかくん——柳林神社の巫女で、岡部くんの「弟子」として「清心斬魔流」を継承してる男の娘キャラ。「ボク」一人称、巫女装束、引っ込み思案で涙ぐみがちっていうのが基本パッケージで、ここに「男の娘」属性が乗る。るかくんの個別ルートでは、Dメールに絡む独自の展開があるんだけど、それも詳しくはクリア後のほうで。

フェイリス・ニャンニャンちゃん——秋葉原のメイドカフェ「メイクイーン+ニャン²」の人気No.1メイドで、語尾「ニャ」「ニャン」を伸ばす天真爛漫キャラ。本名は秋葉留未穂で、実は秋葉原再開発の責任者の家のお嬢様っていう二重生活設定。岡部くんの「鳳凰院凶真」設定に喜々として乗っかってくれる数少ないキャラで、「凶真と契約者」っていう独自の関係を結ぶ。フェイリスちゃんは岡部くんの厨二設定の最大の理解者ポジション。これは作者がフェイリスちゃんを「岡部の妄想に付き合う優しいキャラ」じゃなくて「岡部と同じ妄想を本気で生きるキャラ」として書いてる

阿万音鈴羽ちゃん——岡部くんが間借りしてるブラウン管工房のバイトで、自転車テクニック自慢のボーイッシュ少女。この子の正体と動機については完全にネタバレ領域なので別ページで書いた。とにかく言えるのは、鈴羽ちゃんも固有の動機を背負って動いてるってことです。

本作のラボメンは全員、テンプレ属性で固められた上で、その下に固有の動機が埋め込まれてる。これは作者がキャラ全員を愛して書いてる証拠。脇キャラまで動機が整理されてる作品って意外と少なくて、本作はこの点で「わかってる」作品。公式が最高

9.0——キャラの完成度で稼いだ満点近い数字、ただし萌絵基準で10にはちょっと届かない

最終評価を整理します。

本作のメインキャラは、全員固有の動機を持って書かれてる。主人公・岡部くんの「鳳凰院凶真」設定が動機ある厨二として組まれてるのが本作の最大の武器です。岡部くんの厨二病が「テンプレ厨二」じゃなくて「11歳の体験」と接続された動機ある仮面として書かれてるから、彼の全行動が解釈一致する。これは作者がこのキャラを本気で考えて書いてる証拠

紅莉栖ちゃんもツンデレの「ツン」と「デレ」がそれぞれ別の固有動機から動いてる多層構造で、テンプレツンデレヒロインじゃない。父との確執と、岡部くんへの共鳴という二つの動機が、彼女のツンデレを別の意味のあるものに変えてる。これも解釈一致。

岡部×紅莉栖の関係性も、「すぐに好きになる」じゃなくて「いつの間にか必要不可欠になっていた」っていう過程をしっかり描いてる。共通シナリオの厚みが関係性の積み上げに使われてる。これは作者が二人を本気で書いてる証拠。脇キャラのまゆりちゃん・ダルくん・萌郁ちゃん・るかくん・フェイリスちゃん・鈴羽ちゃんも全員固有の動機があって、誰一人「ただのテンプレ」になってない。

スコア内訳は主人公の造形10(岡部くんの厨二設定の動機接続が最上位)、ヒロインの魅力9・キャラ間の関係性9・設定の整合性9・感動9(紅莉栖ちゃんとの関係性、ラボメン全員の動機の組み方)、伏線回収8(後半の伏線回収はすごいんだけど、わたしの語彙ではちょっと分析しきれない領域があった)。総合9.0です。

10にしなかった理由は二つ。一つは、わたしの萌え軸では岡部くんの動機の組み方が10で、それ以外のキャラがそれに引き寄せられて9に集まる構図になってしまったから。各ヒロインの個別ルートで「萌絵的に推せる」レベルに到達したのは紅莉栖ちゃんとまゆりちゃんで、フェイリスちゃん・鈴羽ちゃん・るかくんは「キャラとしては完璧だけど個別の恋愛として萌えるかは別」っていう距離感がありました。これは個人的な萌え軸の問題です。

もう一つは、本作はキャラ萌え作品としてだけ評価するのは違うかもしれないという気がしてること。本作はたぶん「SF構造ものとしての本気作品」なので、栞さん・マルチナさん・仁先生あたりがもっと本作の本領を語ってくれてる。SF構造としての分析はそっちに任せます。わたしの仕事はキャラへの愛で語ることなので。

……でも、SF構造の作品って「キャラを設定の置物にしちゃう」のが普通なんですよ。本作はそれをやってない。SF構造の作品でありながら、キャラ全員に固有の動機を埋め込んで、誰一人「設定の道具」にしてない。これは作者がキャラを愛してる証拠。それだけは言えます。総合9.0——「ほぼ全てのキャラに一貫した動機がある。わかってる作品」っていうわたしの基準で9点の作品です。

岡部くんの「鳳凰院凶真」の本当の起源、紅莉栖ちゃんとの別れのシーンの動機分析、まゆりちゃんの「もう、いいんだよ」っていう一言の重さ、各ヒロインのルート別解釈一致度についてはネタバレあり版で全部書きました。プレイ後に読んでほしい。