伊頭悦子のレビュー — 好き好き大好き!

伊頭悦子
伊頭悦子
この人間、本物っぽかった?
7.0/10
7.0 / 10

この男はダメ。でも、こういう男が実在するのは知ってる。それだけの書き方だった。

拉致監禁・ラバーフェチ——どう聞いてもアタシの好みじゃない。でも「人間ドラマとして面白い」って言った人の言葉が気になって手を取ったのよ。やってみたら、主人公の心理を正面から書いた作品だった。こういう男がなぜこうなったか、逃げずに書いてある。蒲乃菜——主人公に監禁されるヒロインよ——も、ただの被害者として終わらない。重い内容が多くてアタシには荷が重かったけど、序盤で掴まれてから最後まで離せなかった。7.0。

スコア詳細

主人公の造形 8
ヒロインの魅力 6
キャラ間の関係性 7
序盤の掴み 9
ボリュームと密度 6
テーマ・メッセージ性 6

こんな男の話、正面から書けるものかと思ってたわ

1998年、13cm(VisualArts傘下)。プレイしたのはWindows版よ。

お客さんに勧められたの。「ちょっとクセが強いけど、人間ドラマとして面白いから」って。拉致・監禁・特殊性癖——どう聞いてもアタシの守備範囲じゃない。でも「人間ドラマ」って言葉が引っかかって。

主人公は「ラバリスト」よ。ラバー素材への異常な執着を持つ男で、通学電車でずっと見てきた女子高生の天城蒲乃菜(あまぎほのな)を、亡き祖父の工場跡の地下室に拉致監禁する。ラバースーツラバーマスクで包んで、自分だけの「偶像」として持とうとする話。大学後輩の木更津みるく、幼なじみの藤堂莉果天童瑠香、元塾講師の須玉ゆかりが絡んで、全11エンディングに分岐する。

人間ドラマかどうか、やってから判断しようと思ったの。

この男はダメね。でも書き方には、年季があったわ

「ダメに決まってる」は最初から言えた。犯罪者だもの。

でもアタシが見るのはそこじゃなくて、こういう男の心理をどう書いたか。ラバーフェチの起源が序盤に語られる。幼少期に見た一つの光景から始まった執着が、どう育って、どう蒲乃菜への行動に繋がったか——筋が通ってる。共感できるかどうかは関係ない。「こういう人間が実在する」という説得力があったのよ。

うちに来るお客さんでね、ここまで極端じゃないけど、好きな人を遠ざけてしまう男が何人かいたのよ。「近づきすぎたら壊れる」という恐怖で動く男。このゲームの主人公はその極端な形だと思うのよ。

「ボクはラバリストなんだ」という言葉が物語の中で何度か出てくる。消え入るような声で初めて自分の倒錯を口にする場面——書いた人がちゃんと考えてた証拠よ。主人公の欲望の核心については、クリアしてから読んでほしい方にもう少し話すわ。

蒲乃菜という子——難しい立場に置かれたヒロインだったわ

被害者なのは当然。監禁された女子高生よ。

でもこの子を単純な被害者のまま固定しなかった。最初は恐怖、次に混乱、そして「なぜ私だったのか」という問いが中心に出てくる。その変化を書いた人は、ちゃんとこの子を人間として見てたと思う。

どう変わっていくかはネタバレになるから言えないんだけど——最後の方の蒲乃菜には、アタシはちょっと黙ってしまった。「この子、もっとしっかりしなさい」って言えない状況よ。言葉が出なかった。

自分を持てているかという意味では、普通の基準では測れないヒロインよ。でも人間として書かれていたかという意味では、嘘くさくなかった。

最初で掴まれた。でもルートによって密度が違いすぎた

アタシ、序盤で掴まれないと続けられないの。これは掴まれた。

冒頭からいきなり始まる。猶予なしで、「どうなるのか」が気になって止まれない。重い内容だからこそ、続きを読みたいという力になった。ここは素直に評価するわ。

ただ、11エンディング全部の密度が均一じゃなかった。メインの蒲乃菜ルートには厚みがある。でもみるくとのルート、莉果と瑠香との分岐は、あっさりしすぎていて人間として掘り下げが足りない。序盤の期待値に対して、サブルートは肩透かしを食らった気がした。

工場の地下室という狭い舞台が最後まで続くのも特徴よ。閉塞感がずっとある。やめようと思いながら続けてしまう、その息苦しさ自体が物語として機能してたのよ。

正直しんどかった。でも一箇所だけ、うなったの

アタシ、こういう重い内容は得意じゃないのよ。

鬼畜系と言うのかしら、読んでいて「これはちょっと」と思う場面が何度かあった。特殊性癖の描写も、アタシにはついていけない部分が多い。エレナちゃんに任せておきたい領域よ、笑って読んでるから。

でも一箇所だけ、人間として納得がいった場面がある。ネタバレになるから詳しくは言えないけど、主人公が蒲乃菜に対して「できない」場面。欲望があるのに、肉体がそれを拒否する。その理由が、偶像化という心理から来ている。

好きすぎて傷つけられない——この矛盾、ここまで極端じゃなくても現実でも見てきたのよ。そこだけは、人間として一番正直な場面だったと思うわ。

7.0——この男はダメ。でも人間として書いた痕跡があった

7.0よ。

この男はダメね、当然。でもなぜこうなったかを正面から書いた。主人公の心理描写に中身がある。蒲乃菜も単純な被害者で終わらせなかった。序盤の掴みは本物で、地下室の閉塞感は最後まで機能してた。

サブヒロインルートの薄さは残念だった。重い内容が続くアタシには荷が重い部分も正直あった。恋愛ゲームとして手に取ると期待と違うかもしれない。

でも「人間ドラマとして面白い」って言ったお客さんの言葉は、外れてなかった。こういう男が存在することを、ちゃんと書いたゲームよ。

「こういう男、実際にいる」と思わせる書き方をしたゲームは、そう多くないわ。ダメ男でも、ちゃんと人間として描けたら届く。7.0。

— 伊頭悦子