加藤萌絵のレビュー — てんたま -1st Sunny Side-

加藤萌絵
加藤萌絵
解釈一致が全て
8.2/10
8.2 / 10

公式わかってる。椎名×花梨カプ、解釈一致でしかない。

KID製の全年齢恋愛ADV。見習い天使・花梨が居候して椎名を幸せにしようとする話。わたしが見たいのはキャラとカプの解像度——その軸で言うとこの作品、公式がちゃんとわかってる。花梨の発話パターンがブレてないし、椎名×花梨カプの積み上げが段階を踏んでるし、サブカプ(千夏×貴史)の関係性もちゃんと並列で動いてる。椎名の鈍さを「ウジウジしてる」って批判する人いるけど、それ動機からして一貫してるから、わたしはキャラ崩壊じゃないって言いたい。

スコア詳細

ヒロインの魅力 9
キャラ間の関係性 9
設定の整合性 8
感動・カタルシス 8
エンディングの満足度 8
主人公の造形 7

天使ものは正直警戒してた

「天使×純愛」って、ぶっちゃけ警戒する側だった。

KIDが2001年にPS1で出して翌2002年にWindows版が出た全年齢恋愛ADV。わたしがプレイしたのはWindows版。一年前に恋人を亡くした主人公・椎名のところに、見習い天使の花梨が「あなたを幸せにするですの!」って卒業試験のために居候を始める話。

正直に言うと、天使ものってわたし警戒してたんですよ。「ふわふわした萌え属性を盛っただけ」になりがちだから。「ですの」とか「天使だから人間に恋しちゃダメ」とか、全部テンプレでまとめられて、キャラとして立ってない作品が多いんです。

……でも、これは違った。プレイしたら、花梨というキャラがちゃんと立ってた。「ですの」が記号じゃなくて、花梨の人格として馴染んでる。これはわかってる作者が書いた「天使もの」だ。

花梨というキャラの解像度

「ですですぅ!!」と「ですの」の使い分けに気づいた瞬間、ちゃんと書かれてるって確信した。

花梨の語尾、ぱっと見は「ですの」一辺倒に見える。でも実際にプレイしてると、テンションによって語尾が微妙に変化する。普段は「ですの」、興奮すると「ですですぅ!!」、感情が溢れた時は「ですですですぅ!!!」って濁点と長音が増える。ガラポン抽選でぬいぐるみの欲望が爆発する時の「ぬいぐるみがほしいですですぅ!!」、あれは花梨にしか出せない発話だ。普通の女の子じゃこういうリズムにならない。

これは語尾の話だけじゃなくて、花梨というキャラの「テンションの上下のパターン」がちゃんと一貫しているってこと。料理が成功した時はテンション最大、失敗した時は落ち込むけど立ち直りが早い、椎名のためを思って動く時は語尾が引き締まる——細かい使い分けがある。「ですの」を機械的に貼り付けてるんじゃなくて、花梨の感情の動きが語尾の揺れに反映されている。これがちゃんとできてる作品って、本当に少ない。

そしてもうひとつ大事なのが、花梨が自分の恋心を「胸が痛いですの」「病気になっちゃったのかな」って認識する場面。これも花梨にしか出せないセリフなんですよ。だってこの子、天使だから「恋」っていう感情の概念を学校で習ってない。だから「胸が痛い=病気」っていう推論をする。これがキャラの背景設定(天使)と矛盾なく繋がってて、「設定がちゃんとキャラの行動原理に効いてる」状態になっている。公式わかってる。

椎名の「鈍さ」、わたしは弁護したい

他のレビュワーが椎名を「ウジウジ」「動かない」って批判してるの、わたしは違う見方をしてる。

椎名は花梨が明らかに想いを向けてきても「妹みたいな気がしてくる」って言い続ける。これを「鈍い」「動かない」「もどかしい」って受け取る人は多い。実際わたしも最初はちょっとイライラした。でも途中で気づいた——これ、キャラ崩壊じゃなくて、むしろキャラの動機から見れば完全に整合性のある反応なんだ。

椎名は一年前に恋人を病気で亡くしてる。その喪失をまだ整理できていない。そういう人間がいきなり次の恋愛に向かえるかっていうと、向かえないでしょう。「妹みたい」っていう距離感の取り方は、本人が無意識に「恋愛として見ない」ことで自分を守ってる行動なんですよ。鈍いんじゃなくて、防衛機制として鈍いふりをしている。これは喪失を抱える人間の動機として、めちゃくちゃリアルな反応だ。

つまり椎名の鈍さは「動かない主人公」っていうご都合主義じゃなくて、「動けない理由がちゃんとある主人公」なんですよ。これがわかると、椎名の受け身さは弱点じゃなくて造形の一部として読めるようになる。わたしはこのキャラ、嫌いじゃない。むしろ「ちゃんと過去を引きずってる主人公」として動機が一貫してて、好き。

もちろん、「ちゃんと動機が一貫してても遅いものは遅い」っていう批判は妥当。だから主人公スコアは7止まりにしてる。でも、キャラ崩壊じゃないってことは強く言いたい。

椎名×花梨カプの積み上げ方が丁寧

わたし、カプ観察として見てたら、このカプ完全に解釈一致だった。

椎名×花梨カプの積み上げ、段階を踏んでる。最初は「天使と試験対象」っていう非対称な関係から始まる。花梨が一方的に椎名を幸せにしようとして、椎名はそれを受け入れる側にいる。ここまでは「家事をする居候」って距離感。

そこから、椎名が花梨に何かを返そうとし始める段階に入る。花梨が落ち込んだ時に椎名が気にかける、花梨が体調を崩した時に椎名が看病する——立場の非対称が少しずつ崩れて、お互いを気にかける関係に変わっていく。この変化が、シーンの積み重ねで描かれている。「ある日突然好きになった」じゃなくて、「気づいたら気にかける時間が増えてた」っていう自然な変化。

そして花梨が自分の感情の正体に気づき始める段階。椎名が他のヒロインと話してると胸が痛い、でもそれが何なのかわからない——っていう花梨の困惑が、ちゃんと「初恋を知らないキャラ」として描写されている。この時の花梨の動揺と、椎名がまだ気づいてない状態の対比が、カプ観察としてもうたまらない。「気づいて……気づいてあげて……」って画面の前で言いたくなる。

このカプの良いところは、二人の感情の温度差がちゃんとずれた状態でしばらく続くこと。同時に好きになる二人じゃなくて、片方が先に走って、もう片方が追いつく構造。この「追いつく」までの時間が、わたしにとってはこのゲームの一番おいしいところだった。バカップル(褒め言葉)になるまでの過程が丁寧。

サブカプの千夏×貴史も解釈一致

わたし、千夏×貴史のカプも好きだった。バカップル(褒め言葉)予備軍として最高だ。

篠崎千夏相沢貴史のカプ、いわゆる「素直になれない幼馴染み」テンプレ。千夏は貴史を5歳から好きで、貴史は女好きキャラを装ってるけど実は千夏への想いがある。テンプレ自体は古典なんですよ。

でも、この二人のカプが解釈一致だなって思ったのは、それぞれの「素直になれない理由」がちゃんとキャラの性格に紐づいてるから。千夏は「気が強くて、自分から好意を出すと負けた気がする」っていう動機で素直になれない。貴史は「軽薄キャラを演じることで、本気の感情を出さないでいい場所を作ってる」っていう動機で素直になれない。動機が違うから、二人がすれ違う時の言い回しも違う。これがちゃんと書き分けられている。

椎名がこの二人の間に入って、第三者として観察する場面が結構ある。椎名が「貴史って実は千夏のこと好きだろ?」みたいに問い詰めると、貴史が珍しく動揺する——あの場面、貴史の軽薄キャラの仮面が一瞬剥がれるシーンとして、すごく良かった。あの貴史の動揺の言い回し、「う、うるせーな」みたいな、軽薄キャラとしては「らしくない」反応で。でもこれが「貴史の本気の動揺は、軽薄キャラの仮面が剥がれた時に出る」っていうルールを作って描写されてる。わかってる。

椎名×花梨と千夏×貴史、二つのカプが並列で動いていて、それぞれ別の動機で別の積み上げ方をしている。これが見られるだけでこのゲーム、わたし的には合格点を超えてる。

弱点:メイン以外のヒロインの掘り下げが薄い

花梨ルートに比べると、サブヒロインの掘り下げが明らかに浅い。

これだけはちゃんと言っておきたい。花梨と千夏×貴史以外のヒロイン——初音、真央、結花、理香子——のルートは、明らかに花梨ルートよりボリュームが少ないし、キャラの動機の掘り下げも浅い。

これはたぶん、花梨がメインルートとして設計されていて、他のヒロインルートが分岐ルートとして用意されている構造の必然なんだと思う。だから「花梨ルートの精度はめちゃくちゃ高いけど、サブヒロインルートは標準」っていう仕上がりになってる。マルチエンドギャルゲーとしては、サブヒロインの掘り下げにもっと尺がほしかった。

あと、Win版で追加された初音と真央。この二人、設定としては悪くないんだけど、追加ルートとして突っ込まれた感が拭えない。とくに二人の関係(友達同士で同じ椎名を好き)がちゃんと描けてれば、それだけで結構深いカプ観察ができたはずなのに、そこを掘り下げきれてない。尺が物足りなかった。ボリュームスコアを6にしてるのはここのバランスが理由。

逆に言うと、花梨ルートの完成度は本当に高い。総合点を引っ張ってるのは間違いなく花梨だ。「メインルートに全リソース突っ込んだ作品」っていうのは、メインルートが好きな人には刺さるけど、サブヒロインに刺さった人には物足りない可能性がある。

8.2——「公式わかってる」って何度も思った

花梨というキャラが立ってて、椎名×花梨カプの積み上げが段階を踏んでて、サブカプも並列で動いている。それだけで合格点。

このゲームのスコアを8.2にしたのは、花梨というキャラの解像度と、椎名×花梨カプの積み上げの丁寧さ、そして千夏×貴史の並列カプの完成度の三つを評価したから。サブヒロインの掘り下げが浅いのと、椎名の動きの遅さが減点要素だけど、メイン軸の完成度がそれを補ってる。

「天使もの」と聞いて警戒してたわたしが、花梨というキャラに刺さってここまで書いてる時点で、この作品はちゃんと「キャラを立てる」っていう仕事をしてる作品だと思う。記号的な属性で組み立てたキャラじゃなくて、ちゃんと動機がある、ちゃんと反応に一貫性がある——そういうキャラが書けてる。公式わかってる。何度もそう思った。

サブヒロインルートの掘り下げや、結花・理香子ルートの解釈、グッドエンドの解像度については、ネタバレあり版で語ります。ネタバレあり版のほうが、わたしのカプ観察の本領発揮になるはず。