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田中穂乃火のレビュー(ネタバレあり) — WHITE ALBUM

田中穂乃火
田中穂乃火
感情で全部受け取る
7.0/10
7.0 / 10

由綺の「冬弥君の為に、歌うんだから」で泣いた。マナの「絶対に、藤井さんのところに行くんだから」でまた泣いた。はるかの「行かなきゃ」「どこに?」「…由綺のとこ」で号泣した。

ここからはネタバレ全部いくよ。由綺ルートの『音楽祭』当日朝のシーン、マナの独り立ち、はるかの2バージョンのエンド、美咲ルートの「裏切り」の後の『WHITE ALBUM』を一緒に聴く春、理奈の引退、そして弥生ルートのつらさ。全ヒロイン分の感情の話。冬弥への怒りも引き続きぶちまけるよ。

スコア詳細

ヒロインの魅力 9
感動・カタルシス 8
キャラ間の関係性 8
エンディングの満足度 7
主人公の造形 5
序盤の掴み 5

由綺の「冬弥君の為に、歌うんだから」のシーンの話

由綺ルートの最後のシーンの話。あれだけは絶対外せない。

由綺が緒方英二っていうプロデューサーに「愛してる」って告白されちゃうの。で、キスも許しちゃう。それを冬弥に泣きながら告白するんだよ。「気がついたら私…私、緒方さんと…キス…してて…。抱きしめ…られてて…」って。これだけで結構もう、由綺かわいそうすぎて読んでて胸ぎゅーってなったんだけど。

その後、由綺が冬弥の部屋に駆け込んでくる。冬弥はそこで初めて由綺を抱く。Hシーンの最中に由綺が「胸…小さいし…。身体だって…そんなに綺麗なかたちしてないし…」って言うのね。アイドルなのにこれ言うの、由綺らしすぎる。事後に「冬弥君で…よかったって思う…」って恥ずかしそうに言うシーン、もう……ね。

でも問題は翌朝なんだよ。由綺が朝、部屋を出る前に「冬弥君の為に、歌うんだから…!」って言って『音楽祭』に向かう。物語ここで切れる。『音楽祭』本番のシーン、由綺ルートでは描かれない。結果(理奈が最優秀賞、由綺が2位)は他ルートで分かるんだけど、由綺ルートはここで終わる。

このカット、最初は「えっ、終わり? 本番は?」って思った。でも何回か噛みしめてると、これでいいんだって思えてくる。由綺がアイドルとして勝つかどうかじゃなくて、「冬弥のために歌う」って言えた、その一点で物語が成立してる。結果じゃなくて意志。これを最後のセリフに置いた、っていう作りに、なんていうか、好感持った。あたしは由綺ルートが本作の正解だと思う。なんで歌うのか、誰のために歌うのか、ってのを由綺自身が答えた瞬間で切るの、由綺へのリスペクト。

マナの独り立ち——「絶対に、藤井さんのところに行くんだから」

マナの話。これも泣いた。

マナの家庭、想像してたよりキツかった。風邪で寝込んだ冬弥の部屋でマナが本音漏らすシーンがある。「私、家族なんて、いないから…」って言う。父さんは外国、母さんは仕事優先で家にいない、毎日独居状態。「ママなんか、家にいないから…いつも仕事であちこち出かけてて、家になんか帰ってこないから…」「ママは、それでも帰って来ない。代わりに、私に間抜けな家庭教師を一人つけただけ…」。「間抜けな家庭教師」って冬弥のことなんだけどさ、自虐の中に冬弥への信頼が混じってるのね。

マナルートでマナが処女を捧げる夜が来る。「藤井さんで…よかった…」「私、ファーストキス…」って言う。これだけ聞くと普通の純愛シーンっぽいんだけど、マナがその後で由綺が冬弥の恋人だと知ってしまうんだよ。マナが冬弥に向かって「私が、お姉ちゃんの恋人を取っちゃうわけにはいかないでしょ?」「私、誰も裏切りたくないもの…」って言う。マナ……。

マナにとって由綺は「お姉ちゃん」なんだよ。家族がいないマナにとっての疑似家族。それを自分のために壊せない、って自分で決める。15、6の子がそれ決めるの、つらすぎない?

で、ここからがすごい。マナは独り暮らしを始めるって決めるんだよ。「私、大学に行く…。ほんとに、独りで暮らす…」って。引っ越しの車内で「絶対に、藤井さんのところに行くんだから…覚悟してなさいよ…」って笑顔で去る。「私が来るまで、せいぜいお姉ちゃんとラブラブしてなさいよね、藤井さん…!」とも言う。

……ね。この「絶対に行くんだから」「覚悟してなさいよ」、これあたしのなかでは「絶対行かないんだろうな」の意味なんだよ。子どもの強がり。大人になって自立して、その時はもう冬弥のところには行かないんだろうな、ってマナ自身がわかってるから言える別れの言葉。マナがマナとして立ち上がる物語として、最高だった。それは冬弥がマナを抱いたから起きたんじゃなくて、マナが自分の家族の話を冬弥に話せた、っていうあの一点が転換だったんだと思う。ふつう、家庭の問題って、自分以外の誰かに話せるようになった瞬間に、人は動けるようになる。マナはそれを冬弥相手にやった。冬弥は何もしなかった。ただ聞いた。それだけでも、まあ、価値はあったってことにする。

はるかの2エンドの話——「行かなきゃ」「どこに?」「…由綺のとこ」

はるかのエンディング、2バージョンある。両方やった。両方泣いた。

1個目が、共同浴場で冬弥とはるかが結ばれた後、はるかが「行かなきゃ」「どこに?」「…由綺のとこ」って言って、自転車で去ってくバージョン。冬弥を由綺のところに送り出して、自分は身を引く。

このシーン、はるかの少ない言葉だからこそ刺さる。「行かなきゃ」だけで「あ、これははるかが冬弥との関係を切る決断したんだ」ってわかる。で、行先を訊かれて「…由綺のとこ」って答える。自分のところじゃなくて、冬弥が行くべき場所を指定する。これがはるかの「冬弥」「ん?」「うん」しか喋らないキャラの最大の発話なんだよ。たった三言で、自分と冬弥と由綺の関係性を全部整理してる。あたし泣いた。号泣した。文字数少ないから余計に効く。

2個目が、春先の青空エンド。「目…潤んでるよ…?」「ん…? 風…強いからね…」っていうお互いに涙を隠す会話があって、最後に口づけして終わる。これも好き。「冬弥」「うん」だけの最後の会話。共通ルートでずっと「冬弥」「ん?」しか言ってこなかったはるかが、最後も「冬弥」「うん」で終わるの、すごく一貫してる。

2エンドあるのが、はるかというキャラの幅をちゃんと示してて好き。マナみたいに「身を引くしかない」じゃなくて、はるかは「身を引くも引かないも自分で選べる人」として書かれてる。それが嬉しい。「幼なじみが最後に身を引く」みたいなテンプレで一本道にしなかった、そのリスペクトを感じる。あたしはどっち派かって言ったら、別れエンドの方が泣ける。でも青空エンドの方が好き。両立する。

美咲ルートはあたしは怒ってる

美咲ルートの話。これは怒りながらいくよ。

美咲ルートの分岐がクリスマスイヴ=由綺の誕生日=由綺のライブ当日。冬弥が「由綺のライブを諦めて美咲を呼ぶ」を選ぶ。これあたしには無理なんだよ。美咲は何にも悪くない。美咲は手作りチーズケーキ持って来て、「私……初めて…だから……」って処女を捧げる。美咲側は本当に冬弥が好きで、誠実なんだよ。「だって、私、藤井君のこと……好き…だから…」って言う。

問題は冬弥なんだよ。Hシーン中の地の文に「映像が白く霞み麻痺してゆく頭の中で、一瞬だけ美咲さんの顔に由綺の顔が重なった気がした」って書かれてる。これ書かれた瞬間、美咲がかわいそうすぎて画面殴りたくなった。お前ライブ放棄して美咲呼んでおいて、美咲を抱きながら由綺の顔重ねるな! 冬弥!

その後、美咲が由綺に全部告白する。「私……いいんだ…」「だから、ね、藤井君…」「戻ってこなくたって……よかったのに…。約束なんか…」って身を引こうとする。美咲、優しすぎる。由綺は「結局、私、冬弥君を、嫌いになんてなれないから…」って身を引く。「私、冬弥君が、ずっとずっと、私の側にいてくれるんだと勘違いしてた」「自分が成功すればするほど、冬弥君ももっともっと私を好きになってくれるなんて思いこんじゃって…」って自分を責める。由綺、何にも悪くないのに自分を責めるなよ……。

エンディングは美咲と冬弥が春先の街でミュージックショップに行って、由綺と理奈のコラボアルバム『WHITE ALBUM』を取り上げて「一緒に聴きましょ…」って言って終わる。これがね、二段構えで残酷なの。由綺の歌を、由綺を裏切った二人が一緒に聴きながら歩く。その風景が美しく書かれてる。「裏切り」のあとに何が残るかを書ききってる。

あたしの好みではない。でも書き方は丁寧。美咲のキャラを愛する手つきは一貫してる。美咲を悪役にしないで、美咲を愛したまま、美咲と冬弥が背負ったものをちゃんと書いてる。だから怒りながらも、評価はしてる。これがあたしの結論。怒ったまま読み終わったし、怒ったまま「悪い話じゃなかった」って認めるしかない。

理奈ルートはふわっと終わる、けど好き

理奈の話。短めに。

理奈は『音楽祭』で最優秀賞を獲った直後、突然の引退宣言する。記者会見で芸能界から消える。「あれから理奈ちゃんの引き起こした騒ぎは容易には収まらなかった」って後日談が地の文で書かれて、数か月後、海辺で水着姿の理奈と冬弥が再会する。「いつまでだってここにいたい感じね…」って静かに笑う理奈の前で、結ばれる。

これね、最初は「えっ、引退してまで冬弥なの?」って思った。でも理奈ルートで「冬弥君って、すごいのね…。喫茶店と、TV局と、それに家庭教師でしょう…?」「本当に…熱心に生活しているのね、冬弥君って…」って理奈が冬弥に言うシーンがあるじゃん。「私って、これしかなかったから…」「ひょっとしたら、別のいろんな世界だってあったのかな、なんて…」って続ける。理奈にとって冬弥は、自分が選ばなかった別の人生の象徴なんだよね。「歌手じゃない理奈」の可能性。それが芸能界を捨てる動機になった、って読むと、ちょっと納得できる。

別バージョンで雪ので偶然再会してクリスマスツリーの下でキスするエンディングもある。理奈が「日本だと、キスはスキャンダルのしるしだものね、まだ。…感謝のしるしじゃなくて。だから…こんな風に、ね…」って言うシーンが好き。理奈の口から「スキャンダル」って言葉が出ること自体が、理奈の人生がそういう世界だってのを思い出させる。アイドルとして生きてきた人の、束の間の人間としての時間。それを冬弥が共有してる。雪が止んだら理奈は車に乗って去る。あれは別れの儀式だ。

弥生ルートはつらい。ほんとつらい

弥生ルートの話。これは正直なところを。

弥生は冬弥に対して、車内で一方的な性的奉仕——シートベルトに縛りつけて、パイズリとフェラチオ——をする。連続射精させる。冬弥側は地の文で「強姦されてる気分だったけど、それでも俺の心を占める感覚は、理不尽にも、快感だった」って書く。これ、読んでて気持ち悪い、っていうのが第一感想だった。あたしの守備範囲じゃない。

でも弥生が後で全部告白するシーンが来るんだよ。「処女を捧げた相手なのに、何の感情も、何の愛情も感じられず…ただ……嘘寒くて…」「それから、悪戯半分に女性の方々と愛し合うことを覚えました」「私は、由綺さんを愛しております」「彼女を抱きたい、とも、何度も思いました。一つになりたい、と。自分が女性だろうと男性だろうと」って。弥生は由綺を愛してる。でもそれを伝えられない。だから冬弥を通じて、由綺の隣にいる男に「契約」って形で関わろうとする。

弥生が「私は、藤井さんを愛してはおりません」って明言したまま体だけ交わる関係——「契約」——が成立する。クリスマスイヴに冬弥のアパートで弥生が冬弥の乳首を責めて手淫だけで3回射精させるシーンがあって、冬弥が「藤井さんの身体…女性の方みたいですね…」って言われて、事後に泣く。「…弥生さん……俺のこと、好き…?」って訊いて、弥生は「いいえ」って答える。「キスしていい?」「ええ…」で終わる。

……あたしには本当につらかった。弥生の事情は理解した。「私、これまで誰かを好きになった事がございませんでした」「由綺さんにお会いするまでは…」っていうあの一文、わかる。わかるけどあたしには、誰も救われてないこの関係性、見てるのが苦しい。冬弥に対する弥生の「ご不満…でした?」「気持ち…よく…ありませんでしたでしょうか…?」って言葉、感情がなくて怖い。

でも「私、冬は好きですわ」って弥生が冬弥のアパートで雪を見上げて呟くシーンは、ね……。あの一瞬だけ弥生が人間に見える。共通会話の世間話で前にも同じセリフ言ってたんだよこの人。その時は何の意味もなかったセリフが、ここで意味を持つ。これは美しいと思った。物語的に必要なシーンってのは、わかる。あたしには重すぎたけど、書かれるべき話だったとも、ちょっと思う。これでもう一回プレイしようとは思わない。けど、弥生というキャラが書かれたことには、頭を下げる。

冬弥、お前は最後まで動かなかった

全ルート終えた後の、冬弥への評価。

結局冬弥は最後まで動かなかった。由綺ルートでも、由綺が部屋に駆け込んでくるのを待ってから抱いた。マナルートでも、マナが「藤井さんで…よかった…」って先に許してから抱いた。はるかルートでも、はるかが「冬弥」「ん?」って先に決めてから結ばれた。美咲ルートですら、美咲が手作りチーズケーキ持って来てくれたのを受け止めただけ。弥生ルートに至っては、弥生が一方的に仕掛けてきたのに乗ったまま終わった。理奈ルートでも、理奈が引退してから海辺で会いに行った。

冬弥が能動的に動いたシーン、ほぼない。地の文で「俺は、由綺を愛してる」「俺は、こんな美咲さんから離れなきゃいけないのかな…」みたいな内語は山ほどある。けど行動はない。これがね、シナリオ書く人の意図的な造形なんだろうな、ってのは何回も書いた。ヒロイン側の決断にスポットライト当てるための装置として冬弥がいる。それはわかる。

けど。けどさ。最後の最後で、由綺が「冬弥君の為に、歌うんだから…!」って言って部屋を出てった時、冬弥が「行ってらっしゃい」とか「大丈夫だ」とか、なんかさ、ひと言、由綺の背中を押すセリフあってもよかったでしょ。地の文で内語するだけじゃなくて。それがあれば9点だった。なかったから7点。それだけ。

7——ヒロインの力だけで、ここまで来たゲーム

全部書き終えたところで、改めて。

このゲーム、ヒロインの力だけで成立してる。由綺の健気さ、マナの強がり、はるかの少ない言葉、美咲の優しさ、理奈のプライド、弥生の冷たさの奥。6人全員が、それぞれの選択を自分でする。これが本作のいちばんの強さ。

由綺の歌「WHITE ALBUM」の歌詞「すれ違う毎日が 増えてゆくけれど お互いの気持ちはいつも 側にいるよ」「過ぎてゆく季節に 置いてきた宝物 大切なピースの欠けた パズルだね」「白い雪が街に 優しく積もるように アルバムの空白を全部 埋めてしまおう」っていうの、すごい。「会えない」を肯定する歌として書かれてる。劇中で由綺が歌ったって設定で、このゲームのテーマと完全に重なってる。歌詞だけで一段、感情持ってかれた。

由綺ルート、マナルート、はるかルート、この三つだけは絶対やってほしい。冬弥は許さない。けど由綺たちは尊敬する。それが正直な気持ち。7点。冬弥がもうちょっと動ける男だったら8点だった。それだけ。