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本多チエのレビュー — ビ・ヨンド(ネタバレあり)

本多チエ
本多チエ
コメディ番長
7.8/10
7.8 / 10

前半のコメディが本物だったから、レ'ンの「こんどはいいこにしてたよ」が刺さった。

ネタバレ込みで本作の評価が変わる点が一つある。1〜8章のコメディが「後半シリアスへの助走」として機能しているかどうか、だ。プレイ前は「ギャグ→シリアスの転換」を都合の良い帳尻合わせとして疑ったけれど、実際に通してみると、前半のコメディが本物だったから後半が効く、という構造になっていた。エバの「全裸転送」も「マイクロブラックホール」も、笑いが蓄積しているから、9章での崩壊と「こんどはいいこにしてたよ」の重さが来る。コメディを馬鹿にしていた自分を訂正する。

スコア詳細

コメディの完成度 9
コメディ→シリアス転換 8
キャラクターの個性 8
レ'ンの登場と衝撃 8
ヒロイン別ED満足度 7
Hシーンのノリ 6

前半コメディの本物度——笑いの品質検定

コメディ番長として、まず1〜8章の笑いの採点から。

エバの「全裸転送事件」は合格。宇宙空間で窒息死しかけている人間を救った結果として、装備ごと全裸で見知らぬコロニーに転送するという帰結の組み立てがきちんとできている。「ただいまお昼寝中です。ご用の方は、お手数ですが後日お越し下さい 敬具」という、寝ている魔王の代わりにレンが送る通信文も同様で、「意図と結果のすれ違い」という笑いの基礎ができている。

フェイの「タコ踊り」「ふぇ?」は、天然系のコメディとして機能している。ハンター艦隊を率いて魔王に挑んで全滅する流れも、エバのくり返しパターンとは違う「勢いの空回り」という別種の笑いになっている。アメジストの皮肉は知的コメディとして独立していて、フェイとエバとのトリオで作る笑いのバリエーションが一章〜八章の長丁場を単調にさせていない。

主人公の「ぬぅ?」「成り行きであってな、私のせいでは……」という受け流しキャラが、全員の暴走を吸収するスタンスとして機能しているのも良い。主人公が強すぎる作品でコメディが成立するのは、主人公が問題を解決しすぎないからだ。この作品では主人公は圧倒的な能力を持ちながら、社会的な問題(エバへの義理、フェイの就職先、アメジストの家出)については全く解決できない。その格差が笑いになっている。コメディ9点の根拠はそこ。

9章の急転直下——レ'ンが来た時に前半の全てが変わる

「みつけた……みつけたよ……あたしの……マスター……」から始まる転換について。

レ'ンの初登場は八章末だが、本格的な正体開示は九章だ。「4千年間、ずっと独りぼっちだった……闇の中で……ずっと震えてた」「マスターになら殺されてもいい……でも嫌われるのは……憎まれるのはイヤ」という台詞が、前半八章のコメディ調とどれほど落差があるかを、実際に通しで読んでみると骨身に沁みる。

レ'ンは「あたし」一人称で、レンの「です・ます敬語」と区別される。この表記上の差が、4千年の孤独の重さを担っている。前半でレンの「マスター……」という敬語の可愛さを積み重ねておいて、同じ外見の存在が「あたし」という幼い一人称で「怖かった」と言う。前半のコメディが消えるわけではないけれど、同じ景色が別の意味で見え始める。

終盤「ますたぁ……こんどは……いいこに……してたよ……ほめてくれるよね」という台詞が来た時、あたしには前半のドタバタ全部が「報酬の準備」だったと分かった。コメディと悲劇が同じ器に入っている、という構造は作り込みが必要で、実際に機能しているから評価できる。コメディ→シリアス転換8点の根拠。黒大将という地の文の呼称が、後半の重みと対比をなしているのも見逃せない。

7.8に止める理由——コメディとして誠実だが、後半の重さに構成が追いつかない場所

7.8という評価の根拠と、8に届かない理由はこうや。

前半コメディは本物だと評価する。転換後のシリアスも、レ'ン関連のシーンは間違いなく機能している。ただ、ヒロイン別エンディングの満足度にバラツキがある。チャイムルートのEND7(夢オチ)は転換後の余韻を消費するが、コメディ的なサービスとシリアスの余韻が競合していて落ち着きが悪い。アメジストのEND6(子供たちに伝説を語る母)は適切な落とし所だが、アメジストがコメディキャラとして機能していた時間に比べてシリアス積み上げが薄い。

Hシーン評価は6点のまま維持する。チャイムとの過去時代のHシーン(6章)は場面の文脈として機能しているが、エバの初H(薬剤過剰投与)はコメディとHシーンの接合として強引に映る。フェイアメジストのHシーンも総じてコメディトーンで統一されており、それ自体はキャラと合っているが「Hシーンとしての必然」という観点では弱い。

1996年の作品として前半コメディ9点は本当に評価している。そして後半のレ'ン関連は8点。その中間あたりで足踏みしている部分が7.8にまとめた。コメディ作品として本物の笑いを作り、シリアスへの転換も成立させた。この作品のコメディは正直に言って面白かった。7.8。