主人公の恭生はね、優柔不断でやきもきさせられる子。でも、この夏に出てくる女たちが、みんな地に足がついてた。だから採点が割れたわね。
来春にダムで水の底に沈む集落で、東京から来た受験生の男の子がひと夏を過ごす、っていう恋愛ものよ。2002年に出た作品らしいわ。うちの常連さんに「ママ、こういう静かな話も好きだろ」って勧められて手にとってみたの。主人公の古積恭生って子は、正直アタシの好みからは外れる優柔不断な子でね、最初の三十分は何度か閉じそうになった。でも幼なじみの貴理ちゃん、弓道部の後輩の有夏ちゃん、都会から夏だけ戻ってくる年上の冬子さん、この女三人の生き方が地に足ついてたから、最後まで付き合えたのよ。
スコア詳細
常連さんに「静かな話も好きだろ」って勧められた話
お客さんでね、昔この手のゲームをやり込んだって人がいてね。
「ママ、派手じゃないけど、じわっと来るやつだよ」って勧めてくれたの。アタシ、ゲームってそんなにやらないんだけど、「ダムに沈む村の、最後の夏の話」って聞いて、ちょっと気になっちゃってね。消えていく場所の話って、人間がむき出しになるでしょ。だからやってみたのよ。
舞台は、来年の春からダムの貯水が始まって、水の底に沈むことが決まってる山間の集落。家は順番に取り壊されてて、住人は秋までに出ていく。名実ともに「最後の夏」を迎えてる村なの。そこに、古積恭生って東京の受験生が、子供の頃から世話になってた爺さんの家に、ひと夏だけ下宿にやって来る。表向きの目的は「子供の頃に校庭に埋めたものを、沈む前に掘り起こす」こと。でも本音は、幼なじみの貴理ちゃんに会いたいから。それは本人もうすうすわかってる。
恭生の周りには、女の子が何人かいる。三年半ぶりに再会する同い年の幼なじみ・貴理ちゃん。弓道部で貴理ちゃんを慕う二学年下の後輩・有夏ちゃん。それから、昔この村に住んでて今は都会で暮らしてる、二つ年上の冬子さん。この冬子さんが、なにかを確かめるみたいに夏だけ村に戻ってくるの。季節は夏の終わり、集落最後の夏祭りから、お盆過ぎの台風の夜まで。「会いたい時に会えない」がずっと通底してる話で、まあ、現実の恋愛と地続きよね、そういうもどかしさは。
恭生はね、やきもきさせる子よ
主人公の話を先にするわ。これは外せないから。
古積恭生はね、悪い子じゃないの。真面目で、受験勉強もちゃんとやってる。爺さんの家に「ただいま」って自然に馴染む素直さもある。でも肝心のところで、いつも一歩引くのよ。貴理ちゃんに気持ちがあるのに言葉にしない。有夏ちゃんの好意にも曖昧なまま。「そりゃ、僕は阿呆だよ。子供だよ」「僕が弱虫だっただけだ」って自分で言うんだけど、自分でわかってるなら動きなさいよ、って何度もつぶやいたわ。
謝れない、決められない、気持ちはあるのに口に出せない。こういう男はね、アタシ、カウンター越しに何百回と見てきたのよ。うちの常連さんにもいたわ。奥さんへの不満はうちでこぼすのに、家では何も言えない人。気づいたら奥さんが出ていって、後になって「なんで言わなかったんだろう」って後悔する。恭生には、その素質がある。優しさが行動にならない男の、いちばん危ういところを持ってる。
この夏、恭生は一度、取り返しのつかないことに近いことをやらかすの。詳しくはもう一本のほうで話すけど、焦った男が、逃げ場のない相手に自分の弱さをぶつける、っていう最低の一歩を踏む。アタシはそこで一回、この子に見切りをつけかけた。ただね、そのあとで彼がどう落とし前をつけるかで、評価は少しだけ戻る。戻るけど、満点にはならない。だから造形点は五。恭生って子は「現実によくいる、やきもきさせる男」を、良くも悪くも書ききってる。それは認めるわ。
貴理ちゃんはね、強がりだけど芯がある
貴理ちゃんの話。この子は好きだったわ。
市村貴理ちゃんは恭生と同い年の幼なじみで、弓道部の選手。父親がダム工事の現場責任者で、そのせいで村ではずっと「余所者」扱いされてきた家の子なの。母親は祖母の看病で家を出てて、父親と二人暮らし。家事も全部この子が背負ってる。子供の頃から同級生に虐められてきた孤独もある。要するに、早くに大人にならざるを得なかった子。だから軽口には「縮まないわよっ!」って強気で返すし、弱音は滅多に見せない。
でもね、この強がりの下に、ちゃんと気持ちが詰まってるのよ。恭生に会えなくて寂しいのに「私、明日はお部屋でおとなしくしてるね」って強がる。忙しい相手に「たまには会いに来てよ」って言えばいいのに、言わない。この不器用さが、いじらしいのよね。アタシなんかは「もっとわがまま言いなさい」って思っちゃうけど、この我慢が積み重なってるからこそ、後半で気持ちが溢れる瞬間に重みが出る。
この子がいいのは、待つだけの女じゃないってこと。ここぞって時には、ちゃんと自分から動く。自分の気持ちを、自分の言葉で決めにいく強さがある。強がりで、不器用で、でも芯は通ってる。アタシは、こういう子を応援したくなるのよ。恭生にはもったいないくらいの子だわ。
有夏ちゃんは、ちょっと心配になる子
後輩の有夏ちゃんの話。この子はね、見ててハラハラするの。
倉林有夏ちゃんは貴理ちゃんの二学年下、弓道部のマネージャー。母子家庭で、父親を事故で亡くしてて、村のみんなに父親代わりに可愛がられて育った子。表向きは元気で無邪気で、夏祭りでは浴衣を着て、恭生に「か、可愛いですよ、カメ……」なんてカメ好きを告白して場を凍らせたりする、そういう子。
でもこの子、貴理先輩のことを、本気で慕ってるの。姉としても、それ以上のものとしても。そして自分より先輩のために動こうとする。「もし振られたら、今度はあたしが慰めてあげますから」なんて、健気を通り越して、自分を後回しにしすぎる。アタシ、こういう子を見ると「あんた、もうちょっと自分を大事にしなさい」って言いたくなるのよ。人のために身を投げ出すことを愛だと思い込んでる子は、たいてい自分がいちばん傷つくから。
この子がどう報われるか、どこで自分の幸せを掴むかは、物語の中で分かれていくの。詳しくはもう一本のほうで話すけど、アタシは「身を引く役」で終わらない有夏ちゃんが見たかった。ちゃんと誰かに選ばれて、笑ってる有夏ちゃんが、いちばんいい。そう思いながら見てたわ。
冬子さんは、アタシの本領の女
年上の冬子さんの話。ここはアタシの得意分野よ。
小川冬子さんは、恭生より二つ年上。昔この集落に住んでたけど、今は都会暮らしで、夏に一人でふらっと戻ってくる。旅館に一人で泊まって、サングラスをかけて、爪を長く伸ばして、都会の女の匂いをまとってる。村の景色を眺める時の、どこか冷めた距離の取り方。この人には、村を出ざるを得なかった訳があるの。その中身はもう一本のほうで話すけど、懐かしくて帰ってきた、っていう単純な人じゃないのは、序盤の佇まいだけで伝わってくる。
こういう女ね、アタシのカウンターにいたのよ。若い頃に故郷で嫌な思いをして、都会に出て、自分を擦り減らしながら生きてきた人。故郷が嫌いなのに、心のどこかでずっと縛られてる。うちの常連さんにもいたわ。冬子さんの、大人ぶった物言いの奥にある寂しさは、演技じゃない。年季の入った、血の通った女だった。恭生みたいな真っ直ぐな若い子と並ぶと、彼女がどれだけ擦れてきたかが際立つの。
冬子さんの側から見た夏は、貴理ちゃんたちの物語とはまた別の温度で進んでいく。都会で身につけた諦めと、この村で少しずつほどけていく何か。アタシは正直、この冬子さんの夏が、この作品でいちばん刺さった。若い子の初恋も可愛いけど、大人の女が自分の傷とどう折り合いをつけるか、そっちのほうがアタシには近いのよ。歳をとると、こういう女の背中にぐっと来ちゃっていけないね。
序盤と長さの話
プレイの手触りを率直に書くわ。
序盤がね、長いのよ。集落に着いて、爺さんと再会して、貴理ちゃんと軽口を叩いて、校庭を掘って、また日常。この繰り返しがしばらく続くの。アタシ、序盤で掴まれないと続けられない人だから、最初の三十分で何度か閉じそうになった。誰かに言ったら「後半で効いてくるから」って言うんだけど、それはそうかもしれない。でも最初の損は大きいのよ。ここで脱落する人が一定数いるのも、わかる気がするわ。
あとね、この作品は「その場に居るだけ」の時間が長いの。夏の集落の空気、川の音、縁側でのお茶、祭りの支度。人によっては、この何も起きない時間こそが宝物なんでしょうね。実際、空気の作り方は上手いのよ。消えていく村の、二度と戻らない夏を、ちゃんと肌で感じさせる。ただアタシみたいに「人間の話」を早く聞きたいせっかちな人間には、この静けさが少しじれったかった。
とはいえ、その「何でもない日常」を延々やったからこそ、終わりが近づいた時の喪失感が効く、っていうのは理屈ではわかる。全部が水の底に沈むと知ってるから、その日常の一コマ一コマが惜しくなる。だからボリュームの評価は五。長すぎでも短すぎでもなく、「もう少し削れたでしょ、でも削ったら空気も痩せたかもね」っていう、微妙なところよ。
Hシーンについて少しだけ
アタシはもうそういう年齢じゃないから、感情の整合性だけ見るわね。
この作品のHシーンはどれもキャラクターごとにHシーンが「関係が決まる瞬間」に置かれてる。だいたいは、それまでの気持ちの積み上げがあってのものだから、唐突さはあまりない。「ここまでの流れがあってのこれなら、まあ、わかるわ」って思えるものが多かった。感情の根っこがないまま身体だけ、っていう安っぽさはない。この点はアタシも評価する。
ただ一つ、序盤に近いところで恭生が起こす一件だけは、アタシは受け入れられなかった。好き合ってるのは間違いないの。でも、相手の怖がる顔を見ないで自分の焦りをぶつけるのは、愛情じゃないでしょ。そこの是非は、もう一本のほうでたっぷり話すわ。逆に言えば、その一件があるからこそ、あとで気持ちを言葉でやり直す場面が効いてくる、っていう作りにはなってる。
あと、冬子さんに関わる場面は、他の女の子たちとは温度が違うの。大人の女の、割り切った距離感と、その奥で少しずつ動いていく本音。ここは若い子の純朴な恋とは別の物差しで見なきゃいけない。年齢を重ねた女から見ても、このあたりの書き分けは腹が据わってると思ったわ。
6.5——恭生はやきもき。でも女たちが地に足ついてた
採点の話。割れた採点になったわね。
主人公の恭生はね、アタシの目には「やきもきさせる、優柔不断な男」。これは譲れない。「いるのよ、こういう男」っていうリアリティはあるけど、アタシは恋愛ものの主人公に、腹の据わった男を期待しちゃう人だから。序盤の長さと、静けさに慣れるまでの我慢も、正直きつかった。掴みの弱さがこの作品の一番の損よ。
それでも六点台の半ばまで来たのは、この夏の女たちが、みんなちゃんと自分の足で立ってたから。貴理ちゃんの強がりの下の芯。有夏ちゃんの、危ういほどの健気さ。冬子さんの、擦れた大人の女の寂しさ。三人とも、恭生に振り回されるだけのお人形じゃない。それぞれが自分の人生の中で動いてる。この女たちを書けたのは、作者の誠実な仕事よ。
それにテーマが強いの。来春に水の底へ沈む村、二度と戻らない夏、掘り起こすはずだった思い出。過ぎたものにどう区切りをつけるか、っていう話を、ダムっていう消えない形でやってる。恋愛ものを綺麗事で終わらせなかった、その一点は評価する。だからひっくるめて6.5。恭生の煮え切らなさに付き合うのが本当にきつい人にはおすすめしないけど、アタシみたいに「やきもきする男ウォッチング」と、地に足ついた女たちを見るのが好きな人には、ちょうどいいかもしれない。各人の結末と、恭生の落とし前は、もう一本のほうで詳しく話すわ。
