来年ダムに沈む集落の、最後の夏。貴理と有夏に泣かされて、恭生にはちょっとキレて、それでも「またやりたい」と思った。
2002年のlightの恋愛ADV。主人公の古積恭生は東京の受験生で、子供の頃から世話になってきた山あいの集落へ、ひと夏の下宿にやってくる。その集落は、来春ダムの底に沈むことが決まってる。つまり「最後の夏」。幼なじみの市村貴理、弓道部の後輩・倉林有夏、都会から戻ってきた年上の小川冬子。この夏の女の子たちが、みんな強くて、みんな自分で選ぶ子で。あたしは貴理と有夏で泣いた。恭生の煮え切らなさには何度もキレた。それでも総合で8。理由をこれから話す。
スコア詳細
「消えることが決まってる場所」で始まる話
まず、この夏がどういう夏かの話から。
主人公の古積恭生は東京の高校3年生で受験生。子供の頃から夏になると、山あいの小さな集落にある爺さんの家に下宿しにきてた。今年もそのつもりで来る。ただ、今年は事情が違う。この集落、ダムの底に沈むことが決まってるの。来春、貯水が始まる。家は順に取り壊されて、みんな秋までに出ていく。だからこれが、集落にとって名実ともに最後の夏。
この「消えることが最初から決まってる」っていう設定、始めてすぐ効いてくる。ふつうの夏休みものだと、日常がずっと続く前提でのんびり見てられるじゃん。でもこれは違う。バスを降りた瞬間から、全部が終わりに向かって進んでるってわかってる。だから、なんてことない縁側のお茶とか、河原の石ころとか、そういう景色が全部ちょっと切ない。うまいなあって思った。
恭生は子供の頃、幼なじみの市村貴理と一緒に、小学校の校庭に何かを埋めてるの。それを、集落が沈む前に掘り起こそう、っていうのが恭生がこの夏やろうとしてること。この探し物を軸に、貴理や、弓道部の後輩の有夏、親友の英輝を巻き込んで、校庭を掘る夏が始まる。そこに、都会から戻ってきた年上の冬子が現れる。
あたしはこういう歴史とか詳しくないんだけど、これ2002年の作品なんだよね。20年以上前。それでこの、地味だけど芯のある泣かせ方ができてるのは、正直すごいと思う。派手な仕掛けはない。田舎の夏がただ淡々と過ぎていくだけ。なのに終わる頃には涙腺がぐずぐずにされてる。そういうゲーム。
まず貴理の話をさせて
このゲームの真ん中にいる子。市村貴理。
貴理は恭生の幼なじみで、同い年。弓道部の選手で、家ではダム工事の現場責任者をやってる父親と二人暮らし。母親は病気のおばあちゃんの看病で家を離れてて、貴理が家事を全部やってる。この子の背景がまず健気なんだよ。しかも、貴理の父さんは集落に外から来た技術者だから、集落の人たちからずっと「よそ者」扱いされてきた。貴理も同級生からいじめられて育ってる。ダムを作る側の娘として、沈む集落で孤立してた子なんだよ。
で、この子、素直じゃないの。恭生に「背、随分伸びたね」って言っといて、軽口返されると「縮まないわよっ!」って反射でつっぱねる。三年半ぶりに再会した幼なじみに、まず強がる。でも会話の端々で、ずっと恭生のこと想ってたのが漏れちゃう。この漏れ方がいちいちかわいくて、あたしは早々に貴理の側の人間になった。
好きなのは、貴理が恭生の子供っぽさを全部わかってるところ。恭生が大人ぶって強がっても、貴理には見透かされてる。子供の頃からの積み重ねが、そういう細かい台詞の一つ一つに乗ってるんだよ。長く一緒にいた二人にしか出せない空気。それをちゃんとテキストで作ってくれてる。貴理のクライマックスは、もう一本の方でたっぷり語った。とにかく貴理は最高。それだけは先に言っておく。
有夏がね、反則なんだよ
貴理の次に持っていかれたのが有夏。倉林有夏。
有夏は貴理の二つ下の後輩で、弓道部のマネージャー。父親を事故で亡くしてて、母子家庭で育った子。集落のみんなに父親代わりに可愛がられて大きくなった。だから、この集落が消えるっていうのは、この子にとって「育ての親を全員失う」みたいな話でもあるんだよね。
最初は元気で無邪気な後輩ちゃんとして出てくる。夏祭りで浴衣着て、恭生に自分のカメ好きを告白して場を凍らせたりする、そういうちょっと変な子。でもこの有夏が、貴理のことを本気で、深いところで慕ってるの。先輩と後輩、っていう距離じゃない。もっと切実な感情。
この子が物語のある場面で見せる自己犠牲が、あたしの今作いちばんの号泣ポイントだった。詳しくはもう一本で書いたけど、まだ幼い子が、大好きな人のために自分をどうなってもいいものみたいに差し出す、その覚悟。あたし声出た。有夏そんなことしなくていいんだよって画面に叫んだ。この子のことは、ずっと忘れない。
冬子はあたしにはちょっと大人すぎた
三人目、小川冬子。この人だけ、刺さり方が違った。
冬子は、昔この集落に住んでて、今は都会で暮らしてる年上の女の人。サングラスかけて、オープンカーに乗って、爪も長くて、集落の中では明らかに浮いてる。恭生や貴理たちが高校生の夏をやってる横で、一人だけ大人の女の時間を生きてる。この対比がまず絵になる。
この人には、この集落にまつわる重たい過去がある。それが何かはここでは伏せるけど、都会での暮らしぶりも含めて、けっこう荒んでる。純愛が大好物のあたしからすると、冬子の章はちょっと守備範囲の外だった。正直、読んでてしんどい時間もあった。
ただ、この人が集落に戻ってきた理由と、恭生と関わっていく中で少しずつほどけていく感じは、書かれ方としては丁寧だと思った。あたしが好きになれなかっただけで、雑に扱われてるキャラじゃない。むしろこの人の章を「真のメイン」って呼ぶ人がいるのもわかる。あたしの感情がついていけなかった、それだけの話。大人の恋がわかる人には、たぶんここが一番刺さる。
で、恭生への文句を言わせて
ここは言わないと進めない。主人公の話。
恭生がね、動かないんだよ。真面目で、勉強熱心で、悪い子じゃない。でも、肝心なところで動けない。心の中では「貴理が好きだ」みたいなことをずっと言ってるくせに、それを行動に移すのが遅い。遅すぎる。あたしは主人公に感情移入して物語に入るタイプだから、こういう煮え切らない子だと「言えよ!」「動けよ!」って一緒にやきもきしちゃうの。今回もずっとやきもきしてた。
しかも中盤、恭生が一回とんでもないやらかしをする。何をやったかはネタバレになるから伏せるけど、あたしはそこで本気で恭生に腹が立った。好きな子を傷つける形のやつで、あたしの中では一発アウトに近い。この時点で正直「この主人公、無理かも」って一回思った。
ただ、フォローしておくと、恭生は最後まで動けないまま終わる子ではない。友達に殴られてでも引き返して、自分の口でちゃんと想いを言葉にするところまではいく。子供が、ちょっとだけ大人になろうとする。その一歩ぶんは、あたしも認める。認めるけど、中盤のやらかしはずっと根に持ってる。それとこれとは別。
序盤は長い。でも、あとで効いてくる
手触りの話。ここは正直に。
序盤が長い。ひたすら田舎の夏の日常が続く。校庭を掘って、縁側でお茶飲んで、河原を歩いて、また掘って。正直、中盤に入るまで「これいつ動くんだろう」って思ってた。派手な事件が起きないから、集中が途切れそうになる瞬間が何回かあった。あたしと同じで序盤でダレる人、たぶんいると思う。
でもね、これ最後までやると、あの長かった日常が全部効いてくるんだよ。なんでもない会話とか、掘っても掘っても何も出てこない校庭とか、あれが全部「消えていく時間」を体に染み込ませるための時間だったんだって、終わってから気づく。だから、途中で投げないでほしい。あたしみたいに一回ダレても、粘った先にちゃんとご褒美がある。
あと、集落の空気の作り方がすごくいい。バスが1日4便しかないとか、旅館が鍵もかけない不用心な構えだとか、そういう細かい描写で、この村がどんなところかが手触りで伝わってくる。消えると決まってる場所を、消える前にちゃんと生きてる場所として書いてる。この没入感は、テキストだけのゲームでここまでやれるんだって素直に感心した。
8.0——女の子たちが自分で選ぶ夏だから
採点の話。
貴理、有夏、そして冬子。このゲームの女の子たちは、みんな最後は自分で決める。誰かに選んでもらって、守られて終わる子が一人もいないの。自分の夏に、自分で名前をつける子たちなんだよ。これが本作のいちばんの強さで、あたしがこの点数をつけられる理由。ヒロインの力で持ってるゲーム。
マイナスは、恭生の煮え切らなさと中盤のやらかし、それから序盤の長さ。あと冬子の章はあたしの心には重すぎた。だから満点にはならない。でも、来年沈むって決まってる場所で、それでも「始まり」を選ぶ子たちの話は、あたしの中でずっと残る。8点。恭生がもう少し早く動ける男だったら9だった。それだけ。貴理と有夏に会うために、途中でダレても最後までやってほしい。各ルートで泣いたところは、もう一本の方で全部話した。
