ストーリー詳細 — 僕と、僕らの夏
本作は同じひと夏を複数の視点で描くザッピング構成。表シナリオ(恭生・貴理視点)で貴理・有夏・三角関係の各結末へ分岐し、裏シナリオでは冬子の視点から同じ夏が描かれ、すべてを越えた先に数年後の後日譚が置かれる。 ▼詳細を読む はネタバレを含みます。 プレイ済み設定をするとアコーディオンがデフォルトで展開されます。
序章 — ダムに沈む集落へ
東京の高校3年生・古積恭生は、受験を控えた夏休みに、子供の頃から幾度も世話になってきた山あいの集落へやってくる。来春には貯水が始まり、この集落はダム湖の底に沈む。名実ともに「最後の夏」を迎えた村で、恭生はひと夏の下宿生活を送ろうとしていた。
バスを降りた広場で恭生を最初に出迎えるのは、三年半ぶりに会う同い年の幼なじみ・市村貴理。彼女はダム建設現場の責任者・市村章の一人娘で、来年取り壊される家で父と二人暮らしをしている。久しぶりの再会は軽口の応酬から始まるが、恭生は内心、子供の頃から憧れてきた貴理の父・章のことを口にする。
「ようやく、お前の親父さんくらいにはなれたかな」
— 恭生、貴理との再会で
恭生が世話になるのは、独居老人・本庄英助の家。口は悪いが情の深い英助は、屋根裏部屋を恭生にあてがう。英助は集落のダム反対派の中心人物のひとりで、立ち退きまで意地を通そうとしている。
「家に帰った時はこんにちはではなく、ただいま、じゃ」
— 英助、恭生を迎えて
恭生には、この夏ひそかに果たしたい目的があった。子供の頃、貴理とともに小学校の校庭に「埋めたもの」がある。ダムに沈む前に、それを掘り起こす。翌日、校庭で同郷の親友・原英輝と、貴理の弓道部の後輩・倉林有夏に再会した恭生は、二人を巻き込んで穴掘りを始める。やがてそこへ、十数年前にこの集落を離れて都会で暮らす年上の女性・小川冬子が、なにかを確かめるように戻ってくる。ここから物語は、同じ夏を異なる視点で辿るいくつもの道筋へと分かれていく。
表① 貴理 — in the height of summer 貴理エンド
恭生視点で進む、メインヒロイン・貴理との道筋。穴掘りの日々を重ねながらも、恭生は貴理に想いを告げられないまま夏の終わりが近づいていく。8月16日の河原で、恭生の抑えていた感情が一度、決壊する。
河原の夜:8月16日、校庭での作業を終えた恭生と貴理は河原に立つ。ダムに沈む集落の話から、貴理は涙ながらに本心を漏らす。
「ただ、ダムが出来るからって泣いてるわけないじゃない。ダムが出来たら、もう恭生に会えなくなるから、泣いてるんじゃない!」
— 貴理、河原で
その言葉に突き動かされた恭生は、衝動のまま貴理を抱いてしまう。思い出よりも貴理の方が大事だと自分でも分かっていながら、伝える順序を取り違えた行為だった。貴理は泣きながら恭生を拒み、二人の関係は深い傷を負う。
「思い出より、貴理の方が大事な事くらいは、判ってるんだよ」
— 恭生、河原での衝動の直前に
帰京の決意と英輝の拳:自分のしたことに打ちのめされた恭生は、いったん東京へ逃げ帰ろうとする。英助に滞在延長を願い出ても「ここは、お前の家じゃ」と一蹴され、それでも恭生の心は折れかけている。そこへ親友・英輝が立ちはだかる。8月18日の朝、英輝は恭生を殴り倒し、逃げるなと怒鳴りつける。
「いいか、このままただ逃げ帰ったりしたら、俺は絶対お前をゆるさないからな!」
— 英輝、恭生を殴ったあとで
英輝は、恭生を引き留めようとしているのは自分なのだと打ち明ける。親友の本気に背中を押され、恭生は集落に留まることを選ぶ。
台風の夜:その夜、集落は台風に見舞われる。英助は「今晩は帰ってこんでもええぞ」と恭生を送り出す。恭生は貴理の家を訪ねる。最初はぎこちなく構えていた貴理だが、エプロン姿で食事を出し、二人で食卓を囲むうちに距離が縮まっていく。貴理は恭生のコーヒー嫌いを言い当て、子供の頃から恭生に食べてほしくて料理を覚えたのだと打ち明ける。
「あの頃から、ずっと恭生に食べてほしくて」
— 貴理、台風夜の食卓で
恭生は河原のことを謝り、はっきりと想いを告げる。貴理はそれを受け入れ、二人は結ばれる。手だけで終わらせようとする恭生を、貴理の方から引き留める。
「これで終わりで、恭生はいいの?」
— 貴理、台風夜に
貴理を腕の中に抱きながら、恭生はこの夏ずっと探していたものの正体に気づく。
「ようやくみつけたんだ。たぶん、僕の求めていた、本当の探し物」
— 恭生、貴理を抱きしめながら
翌朝の分かれ道:8月19日、恭生は東京へ戻る。村はずれの分かれ道で、二人は別れの時を迎える。来年にはここが水の底になることを噛みしめながら、貴理は恭生の言葉を引き継ぐように呟く。
「来年は、ここはもう、水の底なんだね」
「最初の夏、だよね」
— 貴理、分かれ道で
「最後の夏」であるはずのこの夏を、二人は「最初の夏」と呼び直す。再会を約束し、貴理自身も東京の大学を受験する決意を口にして、表①は穏やかに閉じる。
分岐(バッドエンド):8月16日の河原で恭生が別の選択をした場合、貴理との関係は修復されないまま決定的に決裂する。台風の夜の和解は訪れず、夏は傷だけを残して終わる。
表② 有夏 — a side role 有夏エンド
同じ夏を、今度は貴理の視点から描く道筋。恭生への想いを胸の奥に沈めた貴理が、慕ってくれる後輩・有夏との関係へと歩み寄っていく。
諦める貴理:表②は貴理のモノローグを軸に進む。彼女は恭生を想いながらも、自分よりも恭生の方がずっと辛いのだと言い聞かせ、自分の気持ちを表に出すまいとする。
「でも、駄目。だって、わたしよりずっと、恭生の方がつらいに決まってる」
— 貴理、モノローグ
有夏の想い:弓道部のマネージャー・有夏は、姉のように慕う貴理を一途に想っている。貴理を泣かせる者は許さない、貴理が泣かずにいてくれればそれでいい。年下で、子供で、そんな資格はないと言いながらも、有夏は貴理への想いを抑えきれない。
「先輩……愛してます」
— 有夏、貴理に
同情や恭生の代わりではいやだと言い張る有夏に、貴理は次第に心を開いていく。恭生との恋を手放した貴理が選び取るのは、自分を真っ直ぐに慕ってくれる後輩の手だった。
残らない涙:恭生との別れを耐えながら、貴理は自分の涙がどこにも残らないことを噛みしめる。ダムに沈む集落で流した涙も、いずれ水の底に消えていく。
「わたしの涙は、どこにも残らない」
— 貴理、別れの場面で
表③ 三人の夏 合意エンド 教室BE
恭生・貴理・有夏の三人が、それぞれの想いを抱えたまま落ち着いた関係に至る道筋。だが選択を誤ると、8月17日の教室で凄惨な結末へ転落する分岐も用意されている。
三人の合意:貴理は有夏への想いと恭生への想いの両方を抱えたまま、それを同情では片付けられないものとして引き受ける。
「同情とか、そんな理由で、わたしが本当にあんな事をすると思うの?」
— 貴理、有夏に
恭生・貴理・有夏は、奪い合うのでも切り捨てるのでもない、三人での穏やかな関係に落ち着く。貴理は東京の大学を受験する決意も示し、夏のあとへ続く道を描いてみせる。
教室バッドエンド(8月17日)
8月17日、恭生は教室で有夏と二人きりになる。河原の一件で傷ついた恭生に、有夏は「貴理を泣かせないでほしい」と訴え、そのためなら自分の身体を差し出すとまで言う。
「先輩だけは、貴理先輩だけは泣かさないで」
— 有夏、教室で
ここで恭生が有夏と関係を持ってしまう分岐に入ると、その現場に英輝が踏み込む。親友の凄まじい失望と怒りが恭生に向けられ、恭生は教室で英輝に殴打される。言い訳を求めながら、それでも言葉にならない英輝の慟哭が、この夏で最も救いのない結末を刻む。
「言い訳、しろよ。してくれよ……」
— 英輝、教室BEで
裏 冬子 — blue marbles 冬子エンド
表シナリオをすべて越えると開かれる、年上の女性・冬子の視点で描かれる夏。かつてこの集落を追われた彼女が、ダムに沈む故郷で恭生と出会い、嵐の夜にひとつの結末へとたどり着く。
都会から戻る女:裏シナリオは都会のマンションで始まる。冬子は行きずりの男を渡り歩く荒んだ生活を送りながら、自分を冷たく見下ろしている。
「メチャクチャにしてやりたい……この、目の前の、愚かな女を」
— 冬子、都会での独白
8月1日、冬子は一人で戸田旅館に到着する。両親は来ないと嘘をついての帰省だった。彼女は本庄英助の家を訪ね、古風な挨拶で旧交を温める。集落で恭生と再会した冬子は、何度かドライブに同行するうち、恭生の真っ直ぐさに少しずつ心を動かされていく。一線は越えないと決めていたはずだった。
追われた過去:冬子がこの集落を離れた理由は、父の女遊びにあった。父の不倫は集落中に知れ渡り、同い年の子供までもがそれを知っていた。冬子は「スケベな血」とからかわれ、家ごと追い立てられるように村を出た。
「集落中の誰もが、わたしと同い年の子供までもが知っていたのだ」
— 冬子、過去を振り返って
彼女がこの夏戻ってきたのは、忌まわしい記憶ごと、すべてが水の底に消え去るのを見届けるためだった。だが寂れた商店街を歩きながら、冬子は自分が変わってしまったことを、必ずしも嘆くべきではないのかもしれないと思い直す。
「変わってしまったと、自分を嘆いていたけれど。それは、本当は自然なことなのかもしれない」
— 冬子、独白
託される夜:8月18日、台風の夜。戸田旅館の前で、冬子は思い詰めた様子の貴理と出くわす。恭生との関係に踏み出せない貴理は、冬子に恭生を託す。
「古積くんを、よろしくお願いします」
— 貴理、冬子に
嵐の小学校:冬子は宿を引き払い、公衆電話から恭生に学校で待つと告げる。嵐の小学校で再会した二人。冬子は恭生の心を確かめるように、子供の頃に埋めた「探し物」を掘り出したいかと問う。恭生はもう探す気はないと答える。
「思い出の品物を、掘り出したい?」(冬子)
「もう、いいです。探す気はありません」(恭生)
「あれはそのまま、ダムの底に沈めておきますよ」(恭生)
— 嵐の小学校で
過去を掘り返さず、沈めたまま前へ進む。その答えに、冬子は自分が許され、新しい未来へと進めることを知る。失恋を悼むのではなく、これからを祝ってもらえばいい。嵐の夜の教室で、冬子と恭生は結ばれる。
「恨まないで、許してあげて」
— 冬子、嵐の小学校で
冬子の結末には複数のバリエーションがあり、嵐の小学校の夜のほか、二人きりのドライブを軸にした道筋など、いずれも冬子が過去のトラウマと和解し、恭生とともに集落の外の時間へ踏み出す形で閉じる。
「when one was a boy」 — 後日譚 後日譚
表・裏のすべてを越えた先に置かれる、数年後の後日譚。集落はすでにダム湖の底に沈み、その上に完成したダムの竣工式典が、原英輝の視点で描かれる。
ダム完成式典:あの夏から数年。立派に完成したダムの竣工式典に、かつての集落の人々が集まる。大人になりかけた英輝は、水の底に消えた故郷を見下ろしながら、あの夏を思い返している。
和典の叫び:式典の最中、有夏の弟・倉林和典が、こらえきれずに声を上げる。あの頃まだ小学生だった少年は、自分たちの居場所を奪ったものへの怒りを、公衆の面前でぶつける。
「なんで、なんでボクたちの場所に、こんなもの作るんだよ!」
「こんなダム、絶対ぶっ壊してやるからな!」
— 和典、ダム完成式典で
整然と進む式典の空気を切り裂く子供の叫びは、大人たちが飲み込んでしまった本音そのものだった。英輝はそれを止めることも諭すこともできず、ただ受け止める。失われた集落の記憶を、子供の声が代弁する。沈んだ村と、そこで過ごした「僕らの夏」の余韻を残して、物語は静かに幕を下ろす。
エンディング一覧
| 種別 | エンド名 | ルート | 結末概要 |
|---|---|---|---|
| GE | 最初の夏 | 表① 貴理 | 台風の夜に貴理と結ばれ、翌朝の分かれ道で「最初の夏、だよね」と再会を約束して別れる。 |
| BE | 河原の決裂 | 表① 貴理 | 8月16日の河原で恭生が選択を誤り、貴理との関係が修復されないまま決定的に決裂する。 |
| GE | 残らない涙 | 表② 有夏 | 貴理視点。恭生を諦めた貴理が、慕ってくれる後輩・有夏との関係を選び取る。 |
| GE | 三人の夏 | 表③ 三角関係 | 恭生・貴理・有夏の三人が、奪い合わず切り捨てない穏やかな合意の関係に落ち着く。 |
| BE | 教室の慟哭 | 表③ 教室分岐 | 8月17日の教室で恭生が有夏と結ばれ、踏み込んだ英輝に殴打される凄惨な結末。 |
| GE | 嵐の小学校 | 裏 冬子 | 貴理から恭生を託された冬子が、台風の夜の小学校で恭生と結ばれ、過去と和解する。 |
| GE | 冬子・別バリエーション | 裏 冬子 | ドライブを軸にした道筋など、冬子が恭生とともに集落の外の時間へ踏み出す複数の結末。 |
| 後日譚 | when one was a boy | 後日譚 | 数年後のダム完成式典。英輝視点で、和典が「こんなダム、絶対ぶっ壊してやる」と叫ぶ余韻を残して閉じる。 |