ストーリー詳細 — EVE new generation
本作は、私立探偵・天城小次郎と内閣情報調査室の捜査官・法条まりなの二つの視点を切り換えながら進む一本道のアドベンチャー。物語の分岐は無く、二人がそれぞれの場所で過ごした同じ日々が、最後にひとつの場面で合流して1つの結末に至る。このページでは日付ごとに、二人の視点で起きたことを並べて紹介する。 ▼詳細を読む はネタバレを含みます。 プレイ済み設定をするとアコーディオンがデフォルトで展開されます。
序章 二つの夜(8月9日深夜〜8月10日未明)
お盆休みで人の消えた真夏の街。港の倉庫街で、私立探偵の天城小次郎は記憶を失った少女と出会い、黒服の男から彼女を奪って逃げる。同じ夜、内閣情報調査室の法条まりなは、デパートの屋上から投身しようとする青年に行き合う。青年はまりなを名指しで待っていて、テロの予告と1本のペンダントを残して落ちていく。二つの夜は、まだ誰にも結びついて見えない。
小次郎深夜の倉庫街で、小次郎は飛んできた蜜蜂に驚いてパッションフルーツを落とす。見知らぬ少女がそのひとつを拾い、海へ投げ捨てた。そこへ黒服の男が現れ、少女を連れ戻そうとしながら、小次郎には口止めの小切手を投げ渡す。ちょうどそのとき、元の職場である桂木探偵事務所の所長・桂木弥生からTV電話が入り、請けたばかりの人捜しの依頼で捜している少女の画像が送られてくる。画像は目の前の少女と同じ顔だった。小次郎は男を殴り倒して少女を連れて逃げ、マネキン倉庫でマネキンに二人の服を着せてモーターボートに乗せ、囮として炎上させて追っ手をかわす。逃げ切ったあと、少女が教えてほしいと言った名前は、小次郎の名ではなく自分自身の名前だった。彼女は記憶を失っており、手がかりは薬指にはめた蜜蜂の形の銀の指輪だけだった。
まりな同じころ、泥酔して終電を逃したまりなは、イースタンデパートの屋上に人影を見つけ、非常階段を駆け上がる。待っていた青年はまりなの名前を知っていて、ずっと見ていたと言う。この世界から孤独を拭い去らなければならない、その先の新しい世界では永遠の共感と永遠の愛が約束されている。青年が語る理想に、まりなは、社会に適応できない自分を正当化しているだけだと正面から言い返す。青年は胸のペンダントをまりなに託し、もう一度会ったときに自分に渡してほしいと頼んで、手を離した。左手の平には蜜蜂のタトゥがあった。
「テロだよ……。BOJの……テロ……。」(屋代那由太。作中ではまだ名前の分からない「青年」)
青年が落ちた直後、港の方角で爆発が起きる。まりなの側では最後まで追及されないこの爆発は、小次郎が仕掛けたボートの囮だった。青年の名が屋代那由太であること、「BOJ」が実は「VOJ」の聞き違いだったことは、ずっとあとになって分かる。
第1章 日銀襲撃(8月10日)
小次郎は小切手の名義人・大隈朋義を追って、まりなは青年が言い残した「BOJ」を日銀のことと読んで、それぞれ日銀へ向かう。営業場で顔を合わせた直後、武装グループが突入し、見学ツアーの子供たち15人が人質に取られる。その夜、警察病院の施錠された病室から少女が消え、小次郎の事務所には記憶を失った少女が「テレポーテーション」の話を持ち帰ってくる。
小次郎桂木探偵事務所で荒れる少女を持て余した小次郎は、依頼から降りると宣言する。別れ際、少女の左の手の平に油性ペンで依頼の名前「紀瀬木乃依」を書いてやるが、少女は自分の名前ではないと否定し、自分は蜂の子供だと言って薬指の指輪を見せた。依頼人は「ミゾグチ」と名乗る女性で、尾行の写真には小切手の男と同席する姿が写っていた。小切手の文字から振出元のみなもと銀行麻山支店を割り出した小次郎は、支店長から、大隈朋義が日銀の情報システム局の局長だと聞き出して日銀へ入る。営業場でまりなに、命が惜しければ帰れと忠告された直後、車両2台が突入して覆面の3人が威嚇射撃を始め、見学ツアーの子供15人が人質に取られた。まりなとカウンターの陰で犯人が子供だと見抜いた小次郎は、背後に現れた機動隊装備の4人目の犯人にスタンガンで倒される。倒れる直前、彼はその顔に「乃依!」と叫んでいた。
まりなテロの予告を上司の本部長に一蹴されたまりなは、有給休暇を取って単独で日銀を調べ、そこで通信社GPAの記者ミカエル・ベルンシュタインと情報を交換する。日銀の幹部が民間銀行に圧力をかけて市民団体に巨額の不正融資をさせている、という話だった。襲撃後、まりなは目隠しされ、子供たちとスクラムを組まされて人間の盾として地下4階の発電室の前まで連れて行かれる。犯人たちは「作戦」「リハーサル」と口にする計画的な集団で、しかも全員が子供だった。解放されたまりなは、犯人を無傷で捕らえることを条件に突入を命じるが、その直前、人質の少年が発電室から出てきて、犯人をやっつけたと告げる。15人の子供が犯人4人からスタンガンを奪って返り討ちにしたのだという。
警察病院に収容された犯人4人は全員が記憶喪失を訴え、男の子3人の右の二の腕には『B』の一文字のタトゥがあった。その夜、9階の施錠された病室から、犯人の少女「乃依」が窓だけを開けて消える。直前に訪ねてきたのは、まりなの同僚の鐘本美奈代だった。一方、事務所の前に戻ってきた記憶喪失の少女は、自分には瞬間移動の力があるらしいと打ち明ける。大五郎が今日から探偵犬だと聞いて、小次郎の前で初めて笑った彼女は、正式に依頼をする。日銀に行っていないことの証拠と、失われた記憶を探してほしい。小次郎は蜜蜂の指輪を担保に預かり、自分にだけは絶対に嘘をつくなという条件で引き受けた。まりなはタトゥスタジオの彫り師から『B』のタトゥの出所としてクラブ『ハイヴ』の名を聞き出し、蜜蜂、Bee、『B』、HIVE(蜂の巣)がひとつにつながることに気づく。
のちに分かることだが、この人質事件は、人質役の15人と犯人4人の計19人がそろって仕組んだ芝居だった。発電室の中で犯人4人と人質側の4人が服を取り替えて入れ替わり、記憶喪失も演技だった。警察病院から消えたのは乃依ではなく、入れ替わった少女の鐘本リエで、彼女を連れ出したのは母親の鐘本美奈代だった。
第2章 一つ目の殺人と大停電(8月11日)
少女は大学病院のMRI室から姿を消し、小次郎は蜜蜂の糸をたどって児童養護施設ラベイユにたどり着く。まりなは「エイプの家」だと案内された古い洋館で射殺死体を見つけ、その場で殺人犯にされる。夜、二人は青坂のホテルで合流するが、警官隊に包囲され、首都圏が闇に沈む。
小次郎朝の問診で、少女の左の太ももの内側に本人の筆跡で「アルトをさがして」と書かれているのが見つかる。脳神経外科医の獅子渡のもとで受けた検査では、少女は今日の日付を8月6日と答え、MRIの撮影中に停電が起きた隙に、外から鍵のかかった部屋から靴ごと消えた。小次郎は、情報屋の三六九から聞いた施設の一覧とハチミツのビンのラベルの綴りを結びつけ、フランス語で蜜蜂を意味する児童養護施設ラベイユを突き止める。門柱の紋章は指輪と同じ意匠だった。園長として現れたのは前日の爆発現場で会った女性・紀瀬木エフィで、二人は今日が初対面だという建前で話をする。エフィは乃依の画像に見覚えがないと嘘をつきながら、在籍者名簿のDVD-ROMを貸してくれた。中庭では依頼人「ミゾグチ」が芝生の手入れをしていて、少年から本名がツユザキマユミだと教えられる。その夕方、小次郎は激しいめまいに襲われ、雨の洋館の書斎で法条まりなが老人に銃を向けている幻を見る。夜には大隈が部下8人を連れて事務所に押し入り、弥生を人質に家宅捜索をして、自分は組織の命令で動いているだけだと言い残した。弥生のネット調査で、エフィがNPO『ブラー』の主宰でデボラ製薬の社長でもあり、大隈がブラーの幹部、ツユザキが婦人部長だと分かる。
まりな日銀の営業場からは3千万円が消えていた。本部長と話している最中、内調の本部が一時停電する。まりなはマンガ喫茶で人質だった子供たちと再会し、その中のアルトという少女が、ハイヴを知っていると自分から申し出る。エイプの住まいを知っているというアルトに案内されたのは、小湊財閥の総帥・小湊龍司の別宅の古い洋館だった。2階の窓をよぎる影を見て入り込んだまりなは、地下室で小湊の射殺死体を見つける。胸に3発、薬莢はまりなの銃と同じ種類。玄関を開けると何十人もの警官に囲まれていた。小湊本人が死の直前に、法条まりなに殺されると110番していたのだ。取り調べに来た鐘本は、線条痕の一致、通報の録音、1年前の件という動機を突きつける。まりなはミカエルがトイレの窓の下から差し入れた老婆のシリコンマスクと変声器で警察署を脱走し、ミカエルが偽名で押さえた青坂のホテル1536号室に身を隠す。部屋にいたアルトに、リエという友達の苗字を尋ねると、答えは「鐘本」だった。
合流呼び出された小次郎がホテルのドアを開けると、老婆のマスクを着けたまりなと、小次郎を知っているという見知らぬ少女がいた。ホテルは警官隊に包囲され、3人で逃げる途中に停電が起きる。少女は小次郎をエレベーターから突き飛ばし、取り残された小次郎は警官を叩きのめして自分も逃亡者になる。地下駐車場に着いたケージにはまりなとリネンボックスだけが残り、少女は消えていた。ミカエルの小型タンクローリーのタンクに隠れて逃げる途中、二人は情報を突き合わせ、日銀の人質事件が19人全員の共犯だったと見抜く。まりなは真犯人を「ヤエダハツミ」という女性ではないかと睨んでいた。午後11時55分、首都圏全域が停電し、満天の星の下、事務所に戻った小次郎の前には、消えたはずの少女がいた。中央公園の噴水の前で、少女はクロノスに食べられた子供たちの話をし、耳だけは食べられずに残ったのだと言う。
小湊を撃ったのは紀瀬木乃依で、まりなの銃の線条痕は、昼の停電の隙に内調のデータベースのほうが書き換えられていた。110番の声も変声器でいくらでも作れる。まりなを洋館へ導いた「アルト」は、実は乃依だった。エレベーターの消失は、ケージにいた乃依とエフィが16階を経由して時間をずらしたトリックだったことが、終盤で明かされる。
第3章 二重身体と二つ目の殺人(8月12日)
停電明けの街で、小次郎はエフィから鏡像段階と「二重身体」の講義を受け、弥生は紀瀬木家の戸籍謄本を掘り当てる。まりなは左肩に蜜蜂のシールを貼ってハイヴに潜り込む。夕方、小次郎は大隈邸の地下スタジオで、信じたくない光景を目撃する。その夜、少女は連れ去られ、小次郎も意識を失う。
小次郎ラジオは前夜の停電で原発2基と火力14基が止まったと伝える。三六九は、ミゾグチがもう一社に「アルトを捜してくれ」と依頼していたと報告する。少女を連れてラベイユを訪ねると、エフィは少女を見るなりトレイを取り落とし、涙ながらに抱きしめた。少女は身動きひとつせず、そのまま倒れる。エフィは、乃依とアルトは自分の娘の双子で、二人は同一人物、ふたつの肉体にひとつの人格が宿った二重身体なのだと語り、鏡像段階に至る前から二人を同一人物として育てたと告白する。
「教育です。」(紀瀬木エフィ。小次郎の「人体実験だな……?」に答えて)
中庭の仔犬3匹は、父がミニチュアシュナウザーなのに純粋なビーグルとして生まれた、母犬のクローンだった。直後に廊下を逃げる人影を追った小次郎は、履物から、逃げたのは乃依でホテルで会ったのはアルトだと見分け、ひとつの肉体にふたつの人格が宿る二重人格だと結論する。獅子渡は、少女の記憶喪失の原因がデボラ製薬の極秘の薬物BLD-Vectamideだと突き止め、記憶を取り戻す拮抗薬を3本渡す。弥生が足で集めた戸籍謄本には、乃依とアルトが双子として記され、アルトは1年前に事故で亡くなったことになっていた。創設者は紀瀬木初海で、本籍も現住所も研究施設も沖岸島。まりなの言う「ヤエダハツミ」と名前が重なった。名簿のDVD-ROMからは、警察病院から消えた少女が鐘本リエだと割れる。夕方、大隈邸の地下スタジオの調整室で、小次郎はマジックミラー越しに、ロウソクの明かりの中で「法条まりな」が大隈の眉間を撃ち抜く瞬間を見てしまう。夜、少女に記憶回復の注射を打ち、島津川の花火大会へ連れて行くと、少女は「あ、でもあれは、アルトがやったことだから。」と口を滑らせ、まもなく黒塗りの車に連れ去られる。ケイタイのGPSを追って飛び乗った埠頭のクルーザーは無人で、小次郎は背後からスタンガンを浴びて倒れた。
まりな指名手配中のまりなは、三六九に老婆のマスクと変声器を着けさせて代役に立て、離れたビルの屋上から無線で本部長と話す。前夜の停電はジャガーノートと名乗る集団のサイバーテロで、作戦名は「Vector of Juggernaut」。あの青年の言葉は「BOJ」ではなく「VOJ」だった。日銀の地下金庫からは6トンの金塊が奪われていた。本部長は約束を破って鐘本と第六機動隊で席を包囲し、捕まったのは三六九だった。まりなは彫り師から、蜜蜂を表すものなら絵でもよいと教わり、左肩の裏に蜜蜂のシールを貼ってハイヴに入る。中には人質だった15人全員がいた。捕まえたアルトの口から、19人全員が共犯であること、記憶喪失が演技だったこと、計画を立てたのが大隈で、自分は大隈から鐘本リエを通じて指示を受け、まりなを洋館へ案内したことが語られる。夕方、まりなは大隈本人と向き合うが、その場面は途中で切れる。電力が戻ったあと、ミカエルから大隈朋義が殺されたと電話が入る。凶器の弾は、まりながミカエルから借りている拳銃と同じ9mmパラベラム弾だった。ミカエルの調べで、小湊が約半世紀前に結婚した相手が旧姓・矢枝の初海で、ブラーの創設者が紀瀬木初海だと分かる。二人はミカエルの操縦する水上飛行機で沖岸島へ飛ぶ。
殺されたのは大隈朋義ではなく、大隈の名を騙ってブラーに潜入していた公安の鹿取宏務で、撃ったのはまりなに変装した乃依だった。鹿取と大隈は住まいを入れ替えていて、小次郎が行った家とまりなが行った家は別の場所だった。二人は同じ時刻に、別々の家にいたのである。
沖岸島(8月13日〜8月14日)
本土から約1000km離れた沖岸島。まりなが会う島の人々は、誰もが口をそろえて「今日は8月7日だ」と言う。森の小屋で待っていた老婦人・紀瀬木初海は、逆にまりなを殺人犯と呼ぶ。小次郎は廃校の保健室で縛られた状態で目を覚まし、島じゅうの謎かけを解きながら紀瀬木の家を探す。二人の時間は、この島でいったん食い違う。
まりな8月13日、旅館の番頭も、祭りの準備をする島民百人以上も、今日は8月7日だと答える。漁港では、デパートから飛び降りて死んだはずのエイプと同じ顔の青年が漁師として働いていた。森の小屋の「初海」は、事実は多数決によって決まると説いたうえで、小湊龍司と大隈朋義を殺したのはまりなだと告発し、離散した自我を再び統一して人類をひとつの体に戻すという理想を語る。砂浜で、まりなはミカエルに1年前の事件を打ち明ける。少女を誘拐した小湊の別宅の地下室で、まりなは丸腰の小湊に銃を向けたが、壁を撃っただけだった。小湊に3発撃ち込んだのは鐘本で、小湊は命を取りとめ、事件は内調自身の手で闇に葬られた。午後6時、廃校の体育館でエフィがテレポーテーションを見せると言ってまりなを椅子に座らせ、遠くで銃声が響いた瞬間、まりなの意識は途切れる。目覚めると約3時間の記憶が消えていて、頭の中には、初海に馬乗りになって銃を向けた光景だけが残っていた。まりなは自分が初海を撃ち殺したと思い込む。深夜、ミカエルは廃校の保健室で46年分の来歴を明かす。初海とは若いころに愛し合った仲で、初海が産んだ双子の父は自分であり、その双子は8歳のときに小湊に殺された。そして自分の本当の任務は、まりなを警察から守り、逃亡を助け、2件の殺人の罪を着せ続けることだった。初海が本来狙うべきだったのはまりなではなく鐘本だった、とまで言いかけたところで銃撃を受け、ミカエルはまりなを車から降ろして自ら囮になり、岬の断崖の上でサブマシンガンの掃射を浴びる。ダッシュボードのボイスレコーダーの在りかを告げ、「愛のために」と言い残して、ミカエルは死んだ。
小次郎小次郎のケイタイは8月13日を示し、島の人々は8月7日だと言う。漁港や神社、砂浜で島民たちから出された謎かけを解いて、小次郎は東の岬の灯台にたどり着く。森の小屋の「初海」は、自分は予知の力を持つと言い、ブラーとデボラ製薬で人類をひとつに戻す計画を明かし、エフィは自分のクローンだと告げた。人間同士のDNAのわずか0.1%の違いのために人々は争っている、という初海に、小次郎はその違いがあるからこそ人は愛し合えるのだと言い返す。灯台の裏の扉は、預かっていた指輪をはめて回すと開き、地下には全室が陰圧に保たれた研究所があった。最奥の窓のないドーム型の子供部屋で、少女は振り返って名乗る。
「私は乃依じゃない!」「私の名前は――」「――紀瀬木アルト!」(紀瀬木アルト)
記憶を取り戻したアルトの求めで、小次郎は自分にも記憶回復の薬を打つ。直後、体育館では、まりなの姿をした人物がエフィの前で椅子から消える。神社で渡された初海の手紙に呼び出されて草原の丘へ駆けつけた小次郎は、まりなが初海に馬乗りになって引き金を引くのを目の前で見る。初海は死んでいた。旅館の一室で、アルトはまりなに、自分と姉は肉体を共有していること、それは人為的に作られたものであること、この島では1日を2度繰り返すことを打ち明ける。現れた小次郎は、初海を殺したのかと問い、まりなに記憶回復の薬を打って去る。その直後、アルトはスーツの男の車に引きずり込まれた。神社で全てを打ち明けたエフィは、小次郎に抱きついて言い残す。
「すべては愛のために……。母に対する愛、娘への愛、それからもうひとつの……愛のために……」(紀瀬木エフィ)
その体からラベンダーの香りを嗅ぎ取った小次郎は、犯人はエフィだと確信する。やがて薬が効きはじめ、1年前、この島の防波堤でアルトと初めて会った記憶がよみがえる。港では覆面の男にサブマシンガンで撃たれ、休暇で島に来ていた氷室恭子が加勢に現れる。まりなは研究所でエイプこと屋代億斗を問い詰め、多重身体、外の2日を島の1日と数える暦、初海が施した「教育」、デパートで死んだのは億斗の弟の那由太だったこと、自分の銃の線条痕を書き換えたのが億斗だったことを聞き出し、ボイスレコーダーを再生する。深夜、二人は崖のふちで覆面の男の車を追い詰める。20秒の猶予ののちに小次郎が引き金を引いた瞬間、まりなが彼の腕をつかみ、弾は足元へそれる。その隙を、男は見逃さなかった。
小次郎が目を覚ましたのは実際には8月14日で、ケイタイの日付は乃依の手で書き換えられていた。体育館で消えた「まりな」はまりなに扮したエフィの一人二役で、丘で初海を撃った「まりな」もエフィ、しかも空砲だった。初海の姿をした人物は、その少し前に自分で胸を撃って死んでいた。
真相解明(8月15日)
崖の下の道路で、二人の視点がついに同じ場面に重なる。情報を突き合わせた小次郎とまりなは、失われていた記憶を取り戻し、ミカエルが遺した録音を聞き、灯台の地下研究所へ向かう。夜明けまでに、1年前から続く事件の全体像が明らかになる。
覆面の男は崖から飛び降り、トラックの幌に飛び移って逃げた。二人は氷室を漁船で隣の島へ送って警察と応援を呼びに行かせ、砂浜で3日分の出来事を突き合わせる。小次郎の8月13日は丸ごと抜け落ちていて、島の暦は外の2日を1日と数えていた。小次郎の中で、1年前の記憶が最後までよみがえる。沖岸島の防波堤で、餌もつけずに魚を釣り上げた少女アルトに職業を問われ、小次郎はこう名乗っていた。
「正義の味方だ」(天城小次郎)/「約束だからね?」(紀瀬木アルト)
何かあったら助けると約束し、写真を撮るためにGPSの付いたケイタイを貸したその直後、アルトは小湊龍司に船で連れ去られた。小次郎は丸1日以上追いかけ、弥生にGPSを追わせて本土の洋館を突き止める。書斎の本棚の裏の隠しリフトで降りた地下室には、腹部を切り裂かれたアルトが倒れていた。そこへ小湊が現れ、銃を構えたまりなもいた。内調に連れて行かれた小次郎は、取調室で鐘本に記憶を消す薬を打たれ、事件もアルトも島に行ったことも、すべてを失ったのだった。まりなの側でも失われた3時間が戻る。8月13日の夜、草原の丘で「初海」は、ここ数日の事件はすべて自分の主導で行ったと自白し、自分を撃たせようとした。まりなは撃たずに空へ発砲し、その隙に手の平に隠した注射器で薬を打たれていた。まりなは誰も撃っていなかった。
ボイスレコーダーには、殺されたのは大隈朋義ではなく公安の鹿取宏務で、本物の大隈は生きているという、ミカエルの声が残っていた。肝心の犯人の名前を言う直前で、録音は途切れる。灯台の地下研究所で、小次郎はエフィと向き合い、エレベーターの消失、体育館の消失、2件の殺人の仕掛けを次々に解いていく。殺人の現場にいた「まりな」の左肩には蜜蜂のシールが無く、現場にはラベンダーの残り香があり、鹿取と大隈は家を入れ替えていた。だから犯人はまりなではない。そう言い切った小次郎は、犯人はエフィだと結論するが、エフィはその根拠のひとつひとつに問いを返す。
「動機があるのは、私だけですか? 母の忠実なしもべは、私だけですか? 小湊と顔見知りなのは、私だけですか? 法条さんになりすますことができるのは、私だけですか? 最後です―― ラベンダーの香水をつけているのは、私だけなのでしょうか?」(紀瀬木エフィ)
エフィは、3人を殺したのは母の初海で、3人目は母自身だと明かす。ところが、まりなが手術室で見つけた初海の遺体には死斑がまったく出ていなかった。皮膚のシリコンを剥がすと、現れたのはアルトの顔だった。また救えなかったと打ちひしがれる小次郎を引き戻したのは、自分が書いた1行の文字だった。8月10日の朝に少女の手の平に書いた名前が、同じ日の午後、日銀に現れた同じ顔の少女の手の平には無かった。文字のある体と無い体が、同じ日に同時に存在したのだ。乃依とアルトは、生まれつきふたつの肉体を持っていた。1年前のアルトは死んでおらず、地下室で犬に群がられる光景を見ていたから犬を嫌い、小次郎が助けに来たことを覚えていたからケイタイを「御守り」と呼んでいた。
まりなはエフィから残りの真相を聞く。本物の初海は1ヶ月前に末期ガンで亡くなっていて、その姿で動いていたのは乃依だった。初海の遺したヴィジョンには、ウイルスVOJ、多重身体、小湊と鹿取の殺害、そして初海自身の死までが書かれていた。VOJは傷の無いほうの体にだけ移されていて、アルトはそれを拒んで逃げ、姉の動きを封じるために傷のあるほうの体へ自ら記憶を消す薬を打った。大隈は思想ではなく金のためにブラーにいて、世界でただひとつVOJを宿すアルトの体を売ろうとしていた。録音には、大隈がミカエルを撃つ瞬間の声まで残っていた。港では、大隈がアルトを乗せた水上飛行機で島を出ようとしていた。滑走を始めた機体に飛びついた小次郎は、扉をこじ開けてアルトを抱え、海へ落ちる。
「遅くなって悪かったな……。助けに来たぜ……お姫様……」(天城小次郎)
反転して突っ込んできた機体のエンジンを、小次郎はグロックに残った最後の1発で撃ち抜いた。朝、灯台でまりなは鐘本から、強制捜査で研究所が押さえられ、職員も主宰も逮捕され、まりなの容疑が晴れたことを聞く。警察病院から娘のリエを連れ出したのも鐘本だった。校庭でヘリに乗せられるエフィは、本物の初海の遺体をどこに埋めたのかという小次郎の問いには答えなかった。灯台の上で、億斗はまりなをからかい続けた理由が弟を守れなかったことへの腹いせだったと明かし、ペンダントを握ると弟の遺志が伝わる気がしたから真相を話したのだと言って、連行されていった。
エンディングと後日談 エンディング
事件が片づいたあとの校庭で、小次郎はアルトと「自分」とは何かを語り合う。スタッフロールのあとには、まりなと小次郎それぞれの後日談が続く。分岐は無く、最後まで進めれば必ずこの結末になる。
校庭で、小次郎は目の前の少女のお腹に傷があるかどうかを確かめられずにいる。傷が無いほうの体ならVOJを宿していることになり、乃依とアルトがこの体から生まれ続けていくかもしれない。信じてくれないと泣いて詰め寄るアルトに、小次郎は、自分というのは情報であり、ただの数字の並びではなく、そこに込められた意味なのだと答える。
「数字の羅列の中に込められた『意味』だよ」(天城小次郎)
VOJへの不安には、大五郎がいることを答えにする。VOJを持つ母犬から、大五郎は母の複製ではない雑種として生まれた。生命は単一なものに戻ろうとはしない、だから人類をひとつに戻すという考えは成り立たない。小次郎は担保に預かっていた蜜蜂の指輪を、アルトの薬指にはめて返す。風でめくれたスカートの奥、太ももには、あのときと同じ筆跡で1行のメッセージが書かれていた。
8月16日、内調の本部長室。大隈朋義は水上飛行機が爆発する直前に脱出して生きており、拘置所で金塊の隠し場所を残らず話したため、6トンの金塊はすべて日銀に戻った。子供たちが持ち出した3千万円も回収された。鹿取美穂室長は病状の悪化を理由に辞めたが、1年前に小湊と組んで事件を闇に葬った件は伏せられたままだった。
「それじゃあ、なにもかも解決したことにはならないじゃない!」(法条まりな)/「そういうのを『なにもかも』って言うのよ、この世界では」(本部長・甲野三郎)
納得のいかないまま、まりなは大使館の要人が暗殺されたという知らせで休暇を取り消され、次の現場へ向かう。小次郎のほうは、弥生からアルトを見失ったと聞かされ、大五郎を連れてラベイユの中庭へ行く。大五郎の耳の裏には「B」の一文字のタトゥがあった。本土の街に来ていたアルトは、ママが帰ってくるまでのあいだ子犬たちの世話をするのだと言う。小次郎は大五郎を、同じ腹から生まれた子犬3匹と一緒にアルトに託した。門を抜けたところで、ラベンダーの香りが鼻先をかすめる。
作中で明かされないこと
以下は作中で明確な答えは示されていない。
- 結末で小次郎の前にいるアルトの体に、お腹の傷があるのかどうか。つまり、その体がVOJを宿しているのかどうか。
- 本物の紀瀬木初海の遺体が、どこに埋葬されたのか。
- 灯台の上で屋代億斗が最後に名乗った「本当の名前」。
- ミカエルのボイスレコーダーで途切れた、犯人の名前のその先。
- エフィの言う「もうひとつの……愛」が、誰に向けたものか。
- 大五郎の耳の裏の「B」の意味。
- 鐘本美奈代の処分と、鹿取美穂室長の1年前の罪の行方。
- 依頼人ツユザキマユミ(露崎真由美)のその後の生死と処遇。
- 獅子渡の記憶を、誰が、いつ操作したのか。
- 沖岸島の漁港で、まりなが水上飛行機のキャビンに見つけた「あるもの」。
- 8月13日の夕方、体育館でまりなが聞いた銃声がどこから来たのか。
- 8月12日の夕方に電力が戻った理由。
- まりなが海を嫌う理由と、弥生が口にする「エルディアがらみの一件」の中身。
- 氷室恭子が再調査に来た「島に伝わる不思議な風習」の中身。
- 後日談の最後に小次郎がかいだラベンダーの香りが、誰のものか。
エンディング一覧
| 種別 | エンド名 | 視点 | 結末概要 |
|---|---|---|---|
| エンディング | (名称なし) | 小次郎・まりな | 沖岸島で事件の真相が明かされ、小次郎は大隈から水上飛行機ごとアルトを奪い返す。強制捜査でブラーは壊滅し、まりなの容疑は晴れる。校庭でアルトと「自分」とは何かを語り合い、預かっていた指輪を返して、スタッフロールへ。 |
| 後日談 | (名称なし) | まりな → 小次郎 | 大隈は生きて逮捕され、金塊は日銀に戻るが、1年前の隠蔽に加担した鹿取室長は罪に問われない。まりなは次の事件へ向かい、小次郎はラベイユの中庭で大五郎をアルトに託す。 |
バッドエンドや分岐するエンディングは無い。スタッフロールのあと、後日談は自動的に続く。