笑いは少ない。でも、緩むとこはちゃんと緩んだ。
これ、前作『EVE burst error』の続編やねん。前作にはプリンっていう一人でコメディ背負える金髪の子がおったけど、今作にそういう笑いの主役はおらん。生物兵器がからむガチの政治サスペンスや。それでも7点つけたのは、杏子と雄二っていう凸凹コンビの掛け合いと、その緩急の置き方がようできてたから。笑かしに来る作品やないけど、どこで緩むかをわかってる作品やった。
スコア詳細
前作のプリンに会いたくて手を出した、っていうのが正直なとこ
これは『EVE burst error』の続編やねん。だから、うちは身構えてた。
前作はうちの笑い軸でも7.5つけた作品で、プリシア=プリンっていう金髪の女の子が一人でコメディを背負ってくれてた。今作も同じシリーズやから、また笑える子がおるんちゃうか——そう期待して始めた。
ところが主人公が変わってる。桐野杏子っていう、内閣調査室の見習い調査官の女の子が新しい主人公や。初仕事の朝、研究員が殺された事件を任されて、水族館の地下にある研究所と、そこで開発中の新薬をめぐる話に巻き込まれていく。テーマは謀略と生物兵器。前作の天城小次郎とまりなも顔は出すけど、メインの空気はだいぶ違う。これ、コメディどう向き合えばええんやろ、って最初ちょっと困った。
前作と同じく、複数の人物の視点を切り替えながら進むマルチサイトの作品やねん。シリアスの比重は前作より重い。その前提で、笑いがどこに置かれてるかを見ていった。
笑いの中心は、杏子と雄二の言い合いやった
結論から言うと、この作品の笑いはこの二人がほぼ全部背負ってる。
杏子に組むのが雄二っていう17歳の生意気なハッカー高校生でな。杏子が機械オンチで、雄二がそれを「あんた、機械オンチ?」ってイジる。杏子の言い分が「機械って苦手なのよ。だって、よく壊れるじゃない。言っても通じないし……」。機械に「言っても通じない」って文句言う人、おる? なんでやねん。この理屈のズレ方がもうボケになってる。
この二人、行動を共にするようになってからの掛け合いがほんまにええねん。雄二の即答ボケが地味に効く。何をすべきかって真面目な問いに真顔で「メシを食うこと」、「腹が減っては戦はできぬ、っていうだろ」。杏子のボケにも「悪趣味だな」って間髪入れずツッコむ。緊張感のある場面の合間に、こういう軽いやり取りがぱっと入る。読んでて息が詰まらへん。ボケとツッコミの役割が自然に回ってるから、掛け合いとして生きてる。キャラ間の関係性は8や。
最初は「クソガキ」「機械オンチ」って毒づき合ってた二人が、だんだん背中を預け合う相棒になっていく。その変化が嫌味なく描かれてて、うちはこの二人が好きになったわ。
本部長のしょうもなさと、再登場組の軽口
脇の人らも、ちょいちょい笑いを置いてくれる。
杏子の上司の甲野本部長が、もう最初からふざけてる。満身創痍で初出勤してきた杏子を見るなり大爆笑するし、留守メモに「恋人から別れたいと電話がきたので、説得するため外出します」って書いといて、続けて「……というのは冗談で、昼飯食いにいってるだけだよ~ん」って自分でオチつけてる。しょうもな。でもこのしょうもなさ、嫌いやないねん。重い事件の捜査の合間にこういう軽い人がおると、空気が一回ゆるむ。
あと前作を知ってる人には嬉しい再登場がある。前作の主人公の一人やったまりなが、今作では杏子の元教官として出てくるねん。「はろはろー」ってタックル付きで挨拶してきて、「このナイスなボディは100%天然よ」って自分で言う。前作で見てたまりなが、後輩相手にこのテンションでおるだけで、うちはちょっと笑ってもうた。前作の探偵・小次郎もちょっとだけ顔を出して、まりなに弱み握られて「はて。なんのことだろう」「はいはい、やってます」ってとぼけるとこが、二人の腐れ縁を一瞬で伝えてくる。再登場の使い方は悪ないで。
もう一人、綾乃っていう水族館バイトの子がイルカに心酔しきってて、「法律さえ許したら、イルカと結婚したいくらい」「イルカの脳は2キロもあるのよ」って真顔で力説してくる。この子のズレ方も単発で笑える。ネタバレ版では、この綾乃がらみで作中キャラが声出して爆笑する珍しいシーンの話もした。
笑いが少ない作品で、どこで緩むか
正直に言う。この作品、笑いの密度は前作よりだいぶ薄い。
テーマがガチで重いねん。生物兵器がからんで、人が死んで、世界規模の話になっていく。前作のプリンみたいに、一人でコメディを成立させてくれるキャラはおらん。だからコメディ・日常は6点。笑かしに来る作品やないっていうのは、最初に正直に置いとくわ。
でも、うちが7点をつけたのは緩急のせいや。重いだけの作品にせず、杏子と雄二の言い合いや本部長のしょうもなさを要所に挟んでくる。この軽い瞬間があるから、重いとこがちゃんと重く効く。緊張しっぱなしやと読み手は途中で疲れるけど、この作品はそうならへんかった。緩急のリズムとしてはようできてる。テンポ8はそういう評点や。サスペンスとして読み進める動力が、ずっと切れへんかった。
笑いの量で点を稼ぐ作品やない。けど「どこで緩めるか」をわかってる作品やった。うちの軸では、それはちゃんと評価できる。
後半は重い。うちの語彙が足りんようになるくらいに
後半になるほど、笑いの圏外に出ていく。
謀略が動いて、人が死んで、複雑な事情が絡んでくる。うちはシリアス一辺倒になると語彙が足りんようになるタイプやから、ここを「おもろいかどうか」で語るのは難しい。笑えるかどうかとは別の次元の話やからな。
ただ、笑わせてくれてた杏子と雄二が、後半で重い顔をするとこ——あの落差はちゃんと刺さった。軽口を叩き合ってた二人が、命を預け合う場面に進んでいく。コメディで距離を縮めといてからシリアスに振るの、反則みたいに効くやん。だから笑いが少なくても、うちはこの二人のことは最後まで追えた。詳しい話はネタバレ版に書いた。ネタバレなしでは「後半は重かったけど、ちゃんと着地した」くらいにしとくわ。
7.0——前作のプリンに会いたなったけど、これはこれでええ作品や
正直に言うと、笑いだけで言えば前作の方が上やった。
前作にはプリンっていう笑いの主役がおって、うちはそこで7.5つけた。今作にそれはおらん。だから笑いの軸単体では前作に届かへん。それは……ええと、それははっきりそうや。
でも7点はちゃんと出せる。杏子と雄二の掛け合いが良くて、その緩急の置き方が重いテーマをきっちり支えてた。笑いの主役はおらんでも、緩むべきとこで緩む作品やった。重い話を最後まで読ませる力が、この軽さからちゃんと出てる。
また読みたいと思えたか。まあ、思えた。前作のプリンに会いたなったのは内緒やけど、杏子と雄二のコンビは、これはこれで悪ないで。
「笑いは少ない。でも、緩むとこはちゃんと緩んだ。」
— 本多チエ
