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本多チエのレビュー — EVE The Lost One(ネタバレあり)

本多チエ
本多チエ
笑いオタク
7.0/10
7.0 / 10

笑いは少ない。でも、緩むとこはちゃんと緩んだ。

ネタバレあり版では、杏子と雄二の寝相ゲンカ、本部長の留守メモ、綾乃の水着FAX爆笑事件、それから桜把=アドニスのあの「クアックアッ」が一個も笑えへんかった話までする。前作のプリンみたいな笑いの主役はおらん作品やった。それでも7点つけた理由を、最後まで書いた。

スコア詳細

コメディ・日常 6
テンポ・緩急 8
キャラ間の関係性 8
ヒロインの魅力 7
序盤の掴み 7
雰囲気・没入感 7

コメディの主役は、結局この凸凹コンビやった

ネタバレ版やから言える。この作品で一番おもろいのは、杏子と雄二の言い合いやねん。

桐野杏子——内調の見習い調査官で、本作の主人公やねん。22歳の童顔で、機械がとことん苦手っていうのが最初に立つキャラ付け。そこに雄二っていう17歳の生意気なハッカー高校生が組む。「あんた、機械オンチ?」って雄二が言うてくるとこ、杏子の「機械って苦手なのよ。だって、よく壊れるじゃない。言っても通じないし……」っていう理屈がもうボケになってる。機械に言葉で文句言う人がおるか。なんでやねん。

この二人、エルディアに逃げてからが本番でな。ホテルで一晩寝た翌朝、寝相の言い合いがあるねん。雄二が「すっげぇ寝相だったぜ、杏子。両手こんなに開いて、一人でベット占領してた」って言うたら、杏子が「あんただってオレを床にけりおとした」って返される——逆や、杏子が「あんたが」言うたら雄二が「杏子だってオレを床にけりおとしたろ」やったわ。とにかく、国際謀略のど真ん中で逃亡中の二人が、寝相でケンカしてる。この緩み方がええねん。緊張の途中にこういうのが挟まると、ちゃんと息継ぎになる。

あと雄二の即答ボケが地味に効く。エルディアに着いてまずすべきことは何か、っていう真面目な問いに「メシを食うこと」。ホテルを探すより先に「腹が減っては戦はできぬ、っていうだろ」。杏子が「ミイラを呼んでみようかしら」みたいなこと言うたら真顔で「ミイラを? 悪趣味だな」。このテンポの軽さが、シリアスに沈みすぎへんための重しになってる。掛け合いとして生きてるから、キャラ間の関係性は8や。

本部長の留守メモと、まりなの「はろはろー」

脇の人らも、ちゃんと笑いを置いてくれてた。

杏子の上司の甲野本部長がもう、最初から最後までふざけてる。初出勤の朝、満身創痍で包帯ぐるぐる巻きの杏子を見るなり「ぷっ/はっはっはっはっは」って大爆笑するねん。心配の電話してきた上司が顔見て笑うか。杏子の心の中の「(心配してた上司がゲラゲラ笑うかしら)」っていうツッコミが正解すぎる。極めつけが本部長の留守メモでな。「恋人から別れたいと電話がきたので、説得するため外出します」って書いといて、追記で「……というのは冗談で、昼飯食いにいってるだけだよ~ん」。ボケて自分で回収してる。しょうもないけど、こういうしょうもなさは嫌いやないわ。

それからまりな。前作の主人公が、今作では杏子の元教官として再登場してくる。「はろはろー」ってタックル付きで挨拶してきて、「このナイスなボディは100%天然よ」って自分で言うてくる。前作で見てたまりなが、年下の後輩相手にこのテンションでおる。それだけでうちはちょっと笑ってもうた。見城のことを「コイツのあだ名は“モーニングステーキ”よ。朝っぱらからステーキをたいらげるの」って勝手にあだ名つけて回るのも、まりならしくてええ。

あと前作の探偵・天城小次郎がパスポート偽造のとこでチラッと出てくるねん。「浮気調査に行方不明の文鳥探しに……従業員の給料も満足に払えてない」ってぼやく軽口屋は前作のまんま。まりなに弱み握られて「はて。なんのことだろう」「わかったわかった、やってるよ。はいはい、やってます」って観念するとこ、二人の腐れ縁が一瞬で伝わってちょっと笑えた。再登場の使い方としては悪ないで。

綾乃の水着FAX——作中でキャラが爆笑してた、唯一のシーン

単発で一番わろたのは、イルカ女の綾乃のとこやった。

綾乃は水族館バイトの大学生で、イルカの「マーブル」に心酔しきってる子やねん。「法律さえ許したら、イルカと結婚したいくらい」「だって、イルカの脳は2キロもあるのよ」って真顔で力説してくる。この時点でもう変なキャラとして立ってる。

でな、終盤に雄二が「マーブル、水族館でピストルを撃った犯人を見てるんでしょ。どんな人だった?」ってイルカに証言を求めるアホみたいな捜査をするねん。その流れで送られてきたデータFAXに、なぜか綾乃の競泳水着姿が混ざってて、雄二と玲奈が爆笑する。綾乃が「いやーっ。ちょっと、返してよぉ」「イルカにはね! 雄二くん、見ないでよっ!」って慌てるの。殺人ウイルスの話してる最中に、これやで。作中でキャラが声出して笑ってるシーンって実はここくらいで、その意味でも貴重やった。緩急の「緩」がきっちり置かれてる証拠やと思う。

桜把=アドニス——うちはこいつで一回も笑えへんかった

ここは「おもろかった」の話やない。むしろ逆。

桜把——表向きはアルタイルの役員やのに、正体はアドニスっていうハッカーで、本作の黒幕やねん。こいつが時々ギャグみたいなしゃべり方をする。杏子に廊下で会うたび「君を静かにさせるために、食べてしまいたいよ。パンにでも挟んでね/ホットドッグですよ/わっはっはっはっはっ」とか言うてくる。アドニス状態になると「クアックアックアッ」「ケケッケケッ」「ひ、ひ、ひ、火遊びは……たっ、たのしっ……たのしかったかい?」っていう壊れた笑い方になる。

形だけ見たらコメディキャラの文法やんか。でもうちは一回も笑えへんかった。わらえへんわ。なぜかっていうと、こいつのその「クアックアッ」の裏で、夏海っていう何の罪もない女の子が刺し殺されてるからやねん。本人が後から「女を殺すのは二度目だな。1人目は……苦しんで死ぬようにわざと少し急所をはずして刺してやった」って言うてる。殺した相手の名前を訊かれて「名前なんて忘れた」。この空虚さが、あの軽い笑い声に全部乗ってる。

これ、たぶん作者わかってやってる。笑いの形をした不気味、っていう演出やと思う。笑える形をしてるのに笑えへん、っていうのは、ボケが滑ってるのとはちゃう。意図して笑わせへんようにしてる。うちの軸ではこれを「コメディ」としては評価できへんけど、テンポを壊しに来る異物として機能はしてた。だからコメディ・日常6点の中身は、こいつの分のマイナスも込みや。

緩急——生物兵器の重さと、軽口の置き方

この作品、テーマはガチで重い。

感染して5日で死ぬ、ワクチンの作れへん人工ウイルス<LOST ONE>を、黒幕がインターネットで世界中にばら撒く。世界が眠ったまま死んでいく。氷室っていう、日本で解析を続けてくれてた女の人が、自分も感染して最後の電話で「わたしは、信じてる。あなたはきっと帰ってくる……」って言うて消息を絶つ。重い。めちゃくちゃ重い。

うちはシリアス一辺倒の作品は語彙が足りんようになるんやけど、この作品が良かったのは、その重さの合間に軽口をちゃんと挟んでくることやねん。氷室の電話の重さの前に、杏子と雄二が寝相でケンカしてる。世界が滅びかけてる砂漠の道中で「メシを食う」「悪趣味だな」ってやってる。この振れ幅があるから、重いとこがちゃんと重く効く。緩急のリズムとしてはようできてた。テンポ8はそういう評点や。

ラストはもう完全に笑いの圏外でな。<EVE>=御堂真弥子っていう、女王プリシアの身代わりになる子が、自分の命があと数時間って知った上で女王の代わりに死を選ぶ。「あなたのなかにずっといる」「笑ってる顔を見ていたい」って。前作のプリンが今作で女王として責任を背負ってる、その横でこの身代わりの話が乗ってくる。……笑えるわけないやん。でも、まあ、ええ話やった。

7.0——笑いの主役はおらんかった。でも緩むとこは緩んだ

ネタバレ版まで通して、正直に言う。前作の方が笑えた。

前作にはプリンっていう、一人でコメディを背負える金髪のボケ役がおった。今作にはそれがおらん。杏子と雄二の掛け合いは良かったけど、あれは「笑いの主役」やなくて「緩急の緩」やねん。作品全体としては政治と生物兵器のサスペンスで、笑いの密度はだいぶ薄い。だからコメディ・日常は6点。前作のプリンの満点近い働きと比べたら、ここは落ちる。

でも7点つけたのは、緩急の置き方がうまかったからや。重いだけの作品にせず、寝相ゲンカや本部長のしょうもない留守メモや綾乃の水着FAXで、ちゃんと息継ぎを作ってる。桜把の「笑えへん笑い」も含めて、緩急のコントロールは効いてた。あと杏子と雄二が最後まで言い合いながら相棒になっていく、その関係の温度が好きやったわ。

笑かしに来る作品やない。けど、どこで緩むかをわかってる作品やった。それだけで、うちは7点あげられる。前作のプリンに会いたなったのは内緒や。

「笑いは少ない。でも、緩むとこはちゃんと緩んだ。」

— 本多チエ