3年前の至宝に、別の手が触れた。その指の跡を、わしは見届けた。
1998年。わしはこれをセガサターンで手に取った。3年前のEVE burst error——天城小次郎と法条まりなが並走したあの一本——を、当時のわしは「これは残るぞ」と判じた。その続編が、別の書き手の手で出た。剣乃ゆきひろ(菅野ひろゆき)はもうこの会社におらん。書いたのは山田桜丸、後に直木賞を獲る桜庭一樹じゃ。当時はそれを誰も知らなんだ。主人公も入れ替わった。内閣調査室の見習い・桐野杏子と、その先輩・見城。前作の二人は脇に退いておる。マルチサイトの枠組みは引き継いだが、3年前の高さには届かなんだ。骨はある。だが——物足りぬ。6.2。これは時代の産物の側に置くのが、わしの正直な判決じゃ。真相に踏み込んだ評価はクリア後に語るとしよう。
スコア詳細
別の手に渡った「続き」——1998年、EVEシリーズ第二作
このレビューは「再プレイ」の形をとる。わしは1998年のセガサターン版発売直後に、これを手に取っておる。当時の記憶と、改めて読み直した印象——その二つを重ねた語りじゃ。
まず前提から語ろう。EVE burst error——1995年のあの一本は、二人の主人公を任意に往来させる「マルチサイトシステム」を完成形で実装してみせた。書いたのは剣乃ゆきひろ。後に菅野ひろゆきと名乗り、2011年に没した男じゃ。わしは当時それを「残る」と判じた。今もその判定は揺らいでおらん。
本作はその3年後を舞台にした続編じゃ。だが——その剣乃ゆきひろが、もう書いておらん。彼を含む前作の主要な作り手は、本作の前後にこの会社を離れておる。代わりに筆を執ったのが山田桜丸という名前じゃった。当時のわしはこの名を知らなんだ。後にこの人物が桜庭一樹として小説の世界で直木賞を獲ると知ったのは、ずっと後のことじゃ。1998年の時点では、ただ「別の手に渡った続き」としてこれを読んだ。
主人公も入れ替わっておる。桐野杏子——内閣調査室の見習い調査官で、初仕事の朝、自分が巻き込まれた爆発の傷も癒えぬまま出勤してくる女じゃ。そしてもう一人が見城——杏子の先輩調査員で、本作のもう一人の視点人物じゃ。天城小次郎でもまりなでもない。前作の二人は、ここでは脇に退いておる。マルチサイトの枠組みは確かに踏襲されておる。杏子の視点と見城の視点が章で切り替わり、互いの知らない側から同じ事件を照らしていく。
このレビューでは、真相・結末・キャラクターの裏側には立ち入らん。それはクリア後のもう一本のほうで詳しく語るとしよう。ここでは「前作を知る者が、書き手の代わった続編をどう見たか」を語っていく。
当時の記憶——警戒しながら起動した。そして一度、熱が冷めた
1998年3月。わしはこれを警戒しながら起動した。続編という言葉に、わしは500年で何度も裏切られてきたからじゃ。
起動して、まず驚いたのは主人公が前作の二人ではなかったことじゃ。当時の正直な感触を言う。「ほう、新しい血で続きをやるか」という期待と、「あの二人を主役から降ろして大丈夫か」という不安が半々じゃった。骨格は前作の血を引いておった。杏子が動いて掴んだ情報が、見城側に回った時に別の意味を持つ。その往来の感触は、確かにEVEのものじゃ。
桐野杏子という主人公は、当時「行き当たりばったりで推理ができん」と叩かれた女じゃ。確かに、彼女は謎を論理で解かん。元教官の法条まりな——前作のあの捜査官が、本作では杏子の教官として再登場しておる——にも「相手がこちらにみせたがっている姿しか見ていない」と痛いところを突かれておる。当時のわしも「頼りない主人公じゃのう」と思ったのを覚えておる。
そして当時から一つ、構造の面で熱が冷めた点があった。詳しくは言わぬが——前作のマルチサイトは「片方が知らないことを、もう片方が知っている」という非対称性が快感の源じゃった。本作はその非対称の設計が、前作ほどうまく回っておらん。早い段階で見えてしまうものがあって、往来の緊張が一段ゆるむ。当時のわしは、まさにそこで「あ、前作の高さには届かんか」と判じたのを覚えておる。これは続編を出す者が必ず突き当たる壁じゃ。前作が高すぎた。
とはいえ——法条まりなの「はろはろー」というあの軽い挨拶を、3年ぶりに本作で聞いた時には、わしの中の何かが小さく緩んだものじゃ。前作の人物がこうして地続きの世界で生きておる。その手触りだけは、続編にしか出せん。天城小次郎も短いながら顔を出す。「ああ、あの男はまだあの街におるか」という感慨。それは嘘ではない。
再プレイして——若い書き手の手つきが、今読むと見える
久しぶりに読み返した。今度は「若き日の桜庭一樹の仕事」として読み直すためじゃ。
当時は知らなかった。この山田桜丸が、後に直木賞を獲る人間だとは。だが正体を知った上で再プレイすると——なるほど、と思う手つきがそこここにある。台詞の呼吸が達者なのじゃ。会話の間の取り方、人物の小ささの拾い方。
たとえば杏子という女は、爆発に巻き込まれて意識を失う寸前に、命の危機ではなく「あのスーツ、けっこう高かったのにぃ……くやしい……」と私的な悔恨を優先する。死の淵で買ったばかりのスーツを惜しむ。この瑣末さを死の場面に置く感覚は、後の小説家の片鱗じゃ。普通の書き手なら、ここで命や恐怖を書く。この書き手は、女が一番こだわっている小さなものを書いた。文章力に7を付けた根拠はそこにある。本編全体の密度には波があるが、台詞の手つきは当時の水準を超えておる場面がある。
杏子と、相棒になる水族館バイトの少年・雄二——17歳のぶっきらぼうなハッカー少年じゃ——の掛け合いも、再プレイすると味が出る。「クソガキ」と毒づき合っていた二人が、いつの間にか互いの命を預け合う相棒になっていく。その変化を、説明ではなく軽口の温度差で書く。ここも若い書き手の良いところじゃ。
ヒロインとして杏子を量れば、6じゃ。当時叩かれた「行き当たりばったり」は、今読むと欠点であると同時に、この女の手触りでもある。スーツを惜しむ小ささと、いざという時に道を選ぶ芯が、同じ一人の中に同居しておる。核はある。ただ前作のヒロイン群ほど多層には書けておらん。輪郭が薄い。だから6じゃ。5でも7でもない。
時間の審判——「受け継ぐ」というテーマは、今も立っておる
「残るか残らないか」——わしの審判はいつもここに帰着する。
本作のテーマは明快じゃ。「一人が倒れても、誰かがその先を受け継いでたどりつく」。これが作品全体を貫いておる。誰かが何かを手渡し、受け取った者がまた次へ渡す。その連鎖が物語の背骨になっておる。テーマに7を付けたのは、この一貫性のためじゃ。散らかしておらん。最初から最後まで「受け継ぐ」を言い続けておる。
むしろテーマだけ見れば、前作より素直で力強いとさえ言える。前作は「秘密と真実のすれ違い」という冷たい構造の話じゃった。本作は「人から人へ手渡す」という、もっと体温のあるテーマじゃ。そこは見事じゃ。前作を超えた点が、一つだけあるとすればここじゃろう。
そして再プレイして、わしが少し見直した点がある。本作が扱う「脅威」の絵面が、1998年にしては鋭いのじゃ。当時のわしは流して見たが、今の目で見ると「ほう、この時期にこの絵面を出したか」と思う。インターネットを通じて世界規模で広がっていく災厄、という構図を、この時期にこの濃さで描いた作品はそう多くない。後の世がこれを当たり前のように描くようになるのは、もっと先のことじゃからな。歴史的意義の6には、この先見の分が乗っておる。
テンポの面では正直、波がある。序盤の水族館まわりの調査は丁寧じゃが、エルディアへ舞台が移ってからの後半は、情報の出し方に駆け足の部分がある。当時も今も、ここは少し物足りぬ。ノベライズが別に出たのも、ゲームという器に収めるには物語が大きすぎたからじゃろう。
6.2——「菅野ひろゆき不在のEVE」一作目という十字架
歴史的意義に6。唯一無二性に5。前作には両方9を付けたわしが、続編にこの数字を出す理由を語ろう。
本作は「菅野ひろゆき(剣乃ゆきひろ)不在のEVEシリーズ」の、その一作目という十字架を背負っておる。当時から「ロストワンは黒歴史」と「過小評価されすぎ」が綱引きをしておった。わしの目から見れば、どちらも半分ずつ正しい。前作の高さを基準にすれば落差は否めん。だが単独のサスペンスとして見れば、骨はある。問題は——この作品が「EVEの続編」を名乗った時点で、前作と比べられる運命を引き受けてしまったことじゃ。気の毒な生まれとも言える。
歴史的意義を6に置いたのは、これが二つの意味で「節目」だからじゃ。一つは、前作が発明したマルチサイトシステムを、発明者抜きで回せるかを試した最初の例という意味。回り切らなかったが、試みた事実は記録に値する。もう一つは——これが山田桜丸、すなわち桜庭一樹という書き手の、ごく初期の仕事だということじゃ。後に直木賞を獲る人間が、20代でゲームのシナリオを書いた。その若い指の動きが、ここに残っておる。500年生きていると、こういう「後に大きくなる者の若書き」に出会える瞬間があってな。これはそれじゃ。
唯一無二性を5に留めたのは、この作品の最も尖った部分が、面白い試みでありながら、作品全体を背負い切るほどには結晶しておらんからじゃ。尖りはある。だが代替不能とまでは言えん。前作という「代わりのない一本」を知っておるだけに、わしの目はそこに厳しくなる。
「3年前の至宝に、別の手が触れた。指の跡は残った。だが至宝そのものには届かなんだ。それでも——若い指じゃった。後にあの指が直木賞を握ると、当時のわしは知らなんだのう。」
— マルチナ
6.2。これは時代の産物の側に置く。ただし「失敗作」とは言わぬ。前作という巨人の影の下で、新しい手が継承を試みた記録じゃ。前作を知らずに単独で触れる者には、もう少し高く映るかもしれん。だが、わしは前作を知っておる。知っておるからこそ、この数字になる。それがわしの史的視点というものじゃ。
クリア後には、真相・結末の是非・桜庭一樹の若き仕事への踏み込みを、具体的な場面を引いて語るとしよう。やり終えてから、もう一本のほうに来てくれ。
