柊美香のレビュー — EVE The Lost One

柊美香
柊美香
覚悟を問う者
7.5/10
7.5 / 10

前作の覚悟を、半分だけ継ぎましたわね。

わたくしは前作『burst error』をやっておりますの。だからこの続編を測る軸は一つでございました。新しい二人の探偵が、前作の覚悟を継いだか、逃げたか。生物兵器、人造の命、受け継がれる命という重いテーマを、作者が最後まで信じて書いたか。答えは「半分は継いだ。けれどその半分は本物」でございます。新主人公・桐野杏子と見城の動機が揺らがなかったこと、そしてダークなテーマから逃げなかったこと。それが7点の根拠でございますわ。

スコア詳細

主人公の造形 8
設定の整合性 7
テーマの覚悟 9
文章力 7
ヒロインの魅力 6
エンディングの満足度 8

続編をどう測るか——軸は前作と変えませんわ

『EVE The Lost One』は、『EVE burst error』の続編でございます。

前作は二人の探偵が並走するマルチサイトの謀略サスペンスでございました。倉庫街の私立探偵・天城小次郎と、内調の捜査官・法条まりな。わたくしはあの作品の覚悟を評価しておりますの。だからこの続編に求めたのは一点だけでございました。前作が持っていた覚悟を、本作も継いでいるか。

本作の舞台は港湾都市。研修明けの内閣調査室見習い・桐野杏子が、初仕事で一人の研究員殺害事件を追ううち、新薬<ADD>をめぐる国際謀略の一線へ押し出されていく。前作の主人公だったまりなが今度は元教官として杏子を導き、小次郎の探偵事務所もまた物語に絡んでまいります。前作を知る者には、過去の傷へ手を伸ばしてくる続編だとわかる作りでございますわ。鬼畜でも陵辱でもございません。生物兵器、人造の命、国家の謀略を扱うハードボイルドのサスペンス。わたくしの日頃の嗜好とは性質が異なりますけれど、問いは変わりませんの。この作者は、自分の選んだ重いテーマから逃げたか、逃げなかったか。その一点を持って測りましたわ。

杏子と見城——新しい二人の探偵の動機

前作の覚悟を継いだかどうかは、まず新主人公の造形に出ますわ。

前作が二人主人公だったように、本作も二人でございます。内調の見習い・桐野杏子と、その先輩・見城。わたくしの答えは「半分は継いだ」でございました。

桐野杏子の動機は、終始ぶれませんわ。彼女は機械オンチで、思い込みが強くなく、目の前のことにしか反応できない普通の女でございます。爆発事故に巻き込まれた初日、意識を失う寸前に優先したのは「あのスーツ、けっこう高かったのにぃ……」「くやしい……」という、ごく私的な悔しさでございましたの。ところがこの地に足のついた女が、物語が進むにつれて、自分が動くしかないと知ると即決する人間へ変わっていく。その変化に段階がございましたわ。記号で動かしておりませんの。だから終盤、彼女が背負う重さが浮きませんわ。8を申し上げます。

見城のほうが、わたくしには興味深うございましたの。前作の小次郎が「軽口と義理の男」だったのに対し、見城は「自分の好きなことしかやらない」という万能感を抱えた人物として置かれておりますわ。この先輩がどういう立場に追い込まれていくかは、ここでは申しませんけれど、前作の探偵像をそのまま反復せず、別の暗さを持った主人公を片側に据えたという一点で、本作は逃げておりませんわ。詳しくはネタバレ版で断じております。

重いテーマを、最後まで信じて書いたか

本作の核心は、扱うテーマの重さでございます。

生物兵器、人の手で作られた命、その継承という題材。これらは、扱い方を一つ間違えると安易な道具になりますの。世界を脅かすウイルスを出しておきながら、加害者の動機を「なんとなく世界を変えたかった」で済ませる。命を作っておきながら、その命を記号として消す。そういう逃げ方をする作品を、わたくしは容赦なく中途半端と判断いたしますわ。

本作はそこで逃げませんでしたの。加害者の動機には、復讐心と顕示欲という地に足のついた根がございましたわ。世界を巻き込むほどの行為の裏に、惨めさの蓄積がきちんと積まれておりますの。安易な悪意ではございませんわ。そして人の手で作られた命の扱いについても、作者は最後にそれを「人」として描き切りましたの。最も都合よく扱える存在を、都合よく消さなかった。ここに本作の覚悟がございますわ。具体的に誰がどう動くかは、ネタバレ版で申し上げます。

設定の整合性についても申し上げますわ。ウイルスの脅威がなぜ抜け道のない殺戮になるのか、なぜそれを止める鍵が一つしか存在しないのか。その論理が物語の中できちんと閉じておりますの。テーマの帰結が論理として締まっているということは、作者がこの題材を理解した上で書いているということでございます。整合性に7、テーマの覚悟に9を申し上げる根拠はここでございますわ。

物足りない点も申し上げねばなりませんわね。前作の小次郎とまりなが持っていた、人物そのものの濃さが、本作のヒロイン群にはやや薄うございますの。核のある人物と、物語の機能を果たすところで止まった人物が混在しておりますわ。ヒロインの魅力に6を申し上げたのはこのためでございます。文章も、緊張する場面の切れ味は高うございますけれど、場面によって密度に差がございました。7でございますわ。

7.5——半分は継いだ。けれどその半分は本物でしたわ

嗜好外の作品を測るとき、わたくしは問いを変えませんわ。

この続編は、前作の覚悟を半分だけ継ぎましたの。前作の人物の濃さには届かず、加害者の演出には過剰に映る箇所がございました。それでも、扱っている重いテーマから逃げなかった。新しい二人の探偵の動機が最後まで揺らがなかった。そして結末で、作者は読者に都合の良い救いを安売りしませんでしたわ。その一点に、わたくしは確かな覚悟を見ましたわ。

続編というものは、前作の覚悟に逃げ込むことも、前作を裏切ることもできてしまうものでございます。本作はどちらもいたしませんでしたの。前作とは違う暗さを、自分の足で背負いに行きましたわ。7.5。前作の7.8には届きませんけれど、逃げなかった続編に、わたくしはこの点を付けますの。

「前作の覚悟を、半分だけ継ぎましたわね。けれどその半分は、本物でございましたわ。」

— 柊美香