キャラクター詳細 — Ever17 -the out of infinity-
ドリームキャスト版『Ever17 -the out of infinity-』(2002年)の本編、武視点のつぐみ編・空編、少年視点の優編・沙羅編、そのすべてのあとに開くココ編に基づき、登場人物の正体と結末まで解説する。ほかの版(Xbox 360版以降のリメイクなど)で変わった場面は扱わない。年齢は作中に明示があるものだけを、どの年の時点かを添えて記した。各人物の「ネタバレ詳細」を開くと、それぞれの編の結末まで踏み込む。文中の 20172034 は、その出来事がどちらの年のものかを示す。
キャラクター画像は『Ever 17 - The Out of Infinity』公式サイトより引用。
同じ呼び名、別の人物
武の7日間は2017年5月1日から7日、少年の7日間は2034年5月1日から7日で、あいだに17年の隔たりがある。2034年の事故は、2017年の事故をなぞるように仕組まれたもので、画面に出る名前も両方の年で同じまま使われる。そのため「武」「少年」「優」という呼び名は、年によって別の人物を指している。これが明かされるのはココ編の後半である。
| 呼び名 | 2017武視点 | 2034少年視点 |
|---|---|---|
| 武 | 倉成武。大学3年生の来館者 | 桑古木涼権。倉成武を名乗り、17年前の武と同じ台詞を繰り返す |
| 少年 | 桑古木涼権。記憶を失った15歳 | ホクトの体に、ブリックヴィンケルという「視点」が重なった存在 |
| 優 | 田中優美清春香菜。LeMUの短期アルバイト | 田中優美清秋香菜。田中優美清春香菜の娘で、遺伝子は母と同じ |
| つぐみ | 小町つぐみ | 17年後の小町つぐみ(同じ人物。姿は変わらない) |
| 空 | 茜ヶ崎空。LeMUのAI | 同じAI。17年前の記憶を消された状態で案内を務める |
| ココ | 八神ココ | 少年にだけ見える幻の少女(正体は作中で明かされない) |
| 沙羅 | (いない) | 松永沙羅。倉成武と小町つぐみの娘で、ホクトの双子の妹 |
ドリームキャスト版のスタッフロールは、ココ編の前では「少年」の声を「???」と伏せ、ココ編のあとで「倉成 武 / ホクト / 桑古木 涼権」を同じ声優の一人三役、「田中 優美清春香菜 / 田中 優美清秋香菜」を一人二役として示す。
倉成武
| 読み | くらなり たけし(「タケシってのは武士道のブの字だぞ」と本人が言う) |
|---|---|
| 役割 | 主人公。武視点の語り手で、一人称は「俺」。LeMUを初めて訪れた客 |
| 年齢 | 20歳・大学3年生(2017年) |
| CV | 保志総一朗 |
| 外見 | 容姿の描写は作中にほぼ無い。潜水で25メートルプールを1往復した経験がある。完全防水のPDAを持ち、その裏に入場チケットの半券が貼りついている |
友人3人とLeMUに遊びに来たが、入場待ちの列でひとりだけ次の回に回され、館内で友人を捜しているうちに事故に遭う。友人3人はその後一度も出てこず、どうなったのかも書かれない。プロローグは武の「俺」と少年の「ぼく」が交互に語り、地の文ではどちらも「彼」と呼ばれる。最後に「俺は――」と「ぼくは――」のどちらで続きを読むかを選ぶ。
黙っていると落ち着かない性分で、軽口やダジャレ、ふざけた命名で場を保たせる。閉じ込められてからは探索を率先し、多数決で食事係にもなって、タツタサンドとホットドッグを作り続ける。「命はなぁ! この世の中で一番大切なものなんだよ!」と命を無条件に肯定するが、その考えはつぐみに二度「偽善者」と退けられ、武はそのたびに言ったことを詫びる。空には「お前は俺達人間とは、違うんだから」と言い放ち、同じ日に「空自身の言葉、空の考えや感じていることを聞きたいからだ」とも言う。善意のつもりの言葉が相手を追い詰め、それを後から撤回する、という形が何度も繰り返される。
2017本物の武がいるのは2017年だけ。少年視点で「倉成武」を名乗っている人物は、17年前にLeMUで記憶を失っていた少年、桑古木涼権である。入場チケットの半券を取り出して「2017年だ!」と言う小芝居は両方の年にあり、2034年の「武」は半券をすぐ丸めてポケットに戻し、少年に見せない。本物の武は、少年視点の7日間ずっと、LeMUの下の研究施設IBFで眠っている。
20175日目の夜。つぐみに呼び出されたゴンドラで、彼女がウイルスに感染して老いも死にもしない体になったことを打ち明けられる。つぐみは「私を……殺して?」と頼み、武が断ると首を絞め、床に何度も叩きつける。その直後に「ひとりにしないで……」とすがり、二人は結ばれる。どちらも同意をはっきり口にする場面はなく、武は翌日「代わりに、とてつもないことをしでかしてしまった気がする……」と振り返る。ココ編の同じ夜はまったく違い、殺意の言葉はなく、つぐみが自分から全身の傷跡を見せ、同意のうえで結ばれる。空はこの夜の一部始終を見ていた。
2017抗体。ココの発症を追ってIBFへ降りると、全員がティーフ・ブラウに感染しており、つぐみだけが発症していない。武はつぐみの血から抗体を取ると言い、「一度キュレイになれば、戻れないの!」と拒むつぐみの前で最後のアンプルを床に叩き割って、ほかの手を断つ。つぐみの「私が逆らえないの、知ってるくせに……!」はそのまま残され、美談としては処理されない。
2017つぐみ編グッドエンド。潜水艇でIBFから脱出するが、浮上の途中でバッテリーが尽き、浮力が足りずに沈み始める。武はアルキメデスの原理の話でつぐみの気をそらしてエアロックに入り、「だったら、生きろ」「生きている限り、生きろ」「俺は、死なない」と言って、水深74メートルで海へ出る。潜水艇は浮き上がり、武は「沈んで行った」と書かれて終わる。死んだとも生きているとも書かれない。
2017空編グッドエンド。仲間を潜水艇へ送り出したあと、ひとりLeMUへ引き返す。空の記憶がヒンメルにあると知っていたからで、管理者権限で空の制止を押し切り、空の記憶をすべてテラバイトディスクに写す。壁が割れて海水がなだれ込むなか、空と手を重ね、抱き合う。最後は「空と海の溶け合う世界へ、俺の身体はゆっくりと昇って行った。」で、つぐみ編の「沈んで行った」とは向きが逆になっている。こちらも生死は書かれない。IBFにいた4人の生還は、空が電波を解析して確かめている。
2017バッドエンド。IBFから出られず、つぐみは診療室を出て外から扉を閉める。少年はポッドの中で息を引き取り、田中優美清春香菜は武の腕の中で言葉を言い終えずに死ぬ。武も血を吐き、呼吸が止まる。最後の一行だけが三人称になり、「それが、倉成武の聞いた、最後の音だった。」で終わる。
2017→2034ココ編。つぐみ編と同じ経緯で海へ出て、水深119メートルで最期の息を吐く。そこへ2034年から、会ったことのない息子の叫びが届く。「約束したじゃないか! ――『絶対死なない』って言ったじゃないか!」。武は目を開け、IBFへ泳ぎ着いて、通路に倒れていたココを見つける。ココだけは数日早く感染していたため抗体が効かず、武はココを人工冬眠のポッドに入れ、「ココの隣のポッドに、俺が寝る」と自分も眠る。蘇生がキュレイウイルスの作用なのかは「真相はわからない。」とされ、作中で答えは出ない。2034年5月7日に目覚めた武にとって、事故は数日前の出来事である。「17ねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?」と叫び、16歳の息子と娘がいると知らされて「じゃあ何か? 俺はこの歳で、二児の父親だってぇのか?」と返す。船の上でつぐみに「おかえりなさい」と迎えられ、「ああ、ただいま、つぐみ」「遅くなって……悪かった……」と答える。
「俺はここだ! ここにまだいるんだ!」プロローグ、止まったエレベーターの暗闇で
「だったら、生きろ」「生きている限り、生きろ」「俺は――」「俺は、死なない」潜水艇のエアロックから、つぐみへ
「命を賭けて、守りたいものがあった」「それは、形のあるものじゃない」空編、なぜ戻ってきたのかと空に問われて
「例の着ぐるみにちなんで、貴様を『タヌ吉ポン太郎』と命名する!」少年の呼び名を決めようとして
「『パパ』と、『パパ』と、そうお呼びなさい」ココ編、冬眠ポッドに入る前の軽口
桑古木涼権(2017年の「少年」)
| 読み | かぶらき りょうご(本人が片仮名で「カブラキ・リョウゴ」と名乗り、漢字を指で書いて示す) |
|---|---|
| 役割 | 武視点に出てくる、記憶を失った「少年」。17年後の2034年には「倉成武」を名乗って少年視点に現れる |
| 年齢 | 15歳(2017年。17年後の回想で本人が明かす。当時の武は「14、5歳ってとこじゃないかな」と目測するだけ) |
| CV | 保志総一朗(倉成武・ホクトとの一人三役。ココ編のあとのスタッフロールで明かされ、それまでは「???」と伏せられている) |
| 外見 | フード付きの服を着ている。顔立ちの描写は無い |
2017年、救護室で目覚めたときには名前も年齢も素性も失っていた。武が「権兵衛」「タヌ吉ポン太郎」と呼び名を出してふざけ、ココが長い名前を唱えたところで、つぐみが「一時的な名前を適当につけたりしたら、彼が本名を思い出したときにいろいろ困るわよ」「『少年』でいいじゃない」と打ち切る。以後は「少年」と呼ばれ、ココだけが「少ちゃん」と呼ぶ。空とつぐみの口論を止めに走り、倉庫の事故の前には「嫌な予感がする」と言い当てる。5日目の夕食では「タツタサンドなんか、食べたくないよ!」「白いご飯が食べたいんだよぉっ!!」と爆発し、ここから物語はつぐみの側と空の側に分かれる。
2017ココのそば。6日目、ココの発症に誰よりも取り乱す。抗体を拒むつぐみを責める声のなかで、ただひとり「つぐみは、ココを助けたことがあるじゃないか」「命がけで、誰かを助けたことがあるじゃないか」とかばう。自分だけ冬眠のポッドに入ることは拒み、「嫌だよ……ぼくは……ココのそばにいたいんだ!」と叫ぶ。つぐみ編と空編では抗体を打たれて生還する。バッドエンドでは体調を崩してポッドに入り、眠ったまま生体反応が止まる。名前を取り戻さないまま、一言も発さずに死ぬ。
2017名前を取り戻すのはココ編だけ。ココ編の2017年の側で、本物の武の前で「カブラキ・リョウゴ」と名乗り、「『桑』……『古』い……『木』……『涼』しい……『権』……」と漢字を示す。それから石像の裏へ回り、ドライバーで自分の名を彫り、続けて閉じ込められた全員の名と、ピピ、チャミの名まで刻む。この刻字が、17年後の少年に届く物証になる。
2017→203417年の計画。ティーフ・ブラウに感染して意識を失ったまま救助され、ココがIBFに取り残されたと知ったのは数日後だった。助けに飛び出そうとする彼に、田中優美清春香菜は「今から17年後、きみは倉成武となって、再びLeMUに潜らなければならないの」と告げる。納得するまでに数ヶ月かかり、それから17年、彼は倉成武に見せかけるための訓練を受け、田中優美清春香菜と二人で計画のためだけに生きる。抗体の注射でキュレイに感染し、5年分歳をとったところで老化が止まった、とホクトは整理するが、「完全なキュレイ種なのか」には作中で明確な答えは示されていない。17年たったはずの彼が「どう見ても20歳前後」に見えることも、ホクトは疑問のまま残す。
2034「武」を演じる。少年視点の「武」は彼である。17年前に自分がされたとおり、記憶を失った少年の年を「14、5歳ってとこじゃないかな」と目測し、呼び名が決まらないと「あーっ、もうめんどいから『少年』でいいよ、『少年』でぇ~」と押しつける。ココ編でホクトに見破られると、「俺の本当の名前は……」と明かす。動機は二つあり、本人がエピローグで語る。ひとつは、6日間しか一緒にいなかったココへの恋。もうひとつは武への憧れで、「『愛する女を守る為なら、自らの命さえかえりみない勇敢な男』」を理想として思い描いていた。倉成武を名乗ることは、身分を偽る手段であると同時に、その憧れをなぞることでもあった。
2034エピローグ。目覚めたココに「少ちゃん」と呼ばれ、頭をポカリと叩かれる。皆をだましてきたことで振り向けずにいると、ココに「少ちゃんは、命の恩人さんなんだよ?」と言われる。ココへの告白は、この時点でもしていない。
「嫌だよ……ぼくは……ココのそばにいたいんだ!」IBFで、冬眠ポッドに入るのを拒んで
「たった6日間……。俺とココがともに過ごした時間は、たったの6日間だけだった。」「にもかかわらず、俺はこの17年間、ひと時も彼女のことを忘れたことはなかった。」ココ編のエピローグ、17年を振り返って
「これで、終わったと思うなよ?」「すべてはこれから……」「そう……これから、始まるんだからな」2034年、浮島で少年に
「しょぉ~ねぇ~ん、しょぉ~ねぇ~ん、少年レインはアメンボ5級ぅ~♪」2017年、ココ編で歌う
少年(2034年)/ホクト
| 読み | ほくと(作中の表記は片仮名。姓は作中に出ない) |
|---|---|
| 役割 | 主人公。少年視点の語り手で、一人称は「ぼく」。2034年5月1日、LeMUの救護室で記憶を失った状態で目覚める |
| 年齢 | 16歳(2034年。2018年1月21日生まれ) |
| CV | 保志総一朗(倉成武・桑古木涼権との一人三役。ココ編のあとのスタッフロールで明かされる) |
| 外見 | 左手の親指に1センチほどの深い傷跡があり、中に乳白色のかけらがめりこんでいる。暗い場所でも異様によく見える。沙羅に「きみの顔、ちょっと私に似てるから」と言われる |
名前を訊かれて答えられず、田中優美清秋香菜に案内されて閉じ込められた人々に加わる。呼び名を決める場面では、少年自身が選んだ名前(選択肢の八つのどれを選んでも同じ)が全員に「だって、似合わないもん」と退けられ、「武」の「あーっ、もうめんどいから『少年』でいいよ」で決まる。少年は、教わっていないはずの沙羅の名前を口にし、空が映像にすぎないことを言い当て、これから起きることを先に知っている。田中優美清秋香菜はこれを「一方通行の向きが、逆なのよ、どう考えても」と言い表す。さらに、ほかの誰にも見えない少女、ココの姿を見続ける。
2034鏡。ココ編の入口にあたる少年視点の2日目、更衣室の鏡に映った顔を、少年は自分の顔だと思えない。「『ぼくの知らない少年』が、ぼくのことを見ていた。」地の文は、顔色のせいではなく「彼の容貌は、ぼくの記憶の中にあるぼくの容貌とは明らかに異なっていたのだ。」と書く。記憶が無いはずなのに、「自分の顔はこうだ」という像だけは持っている。ここで地の文に片仮名の「ボク」が現れ、「キミハ……ダレ?」「ボクハ……ダレ?」という問いが、以後のココ編で繰り返される。
2034優編。発電機から落ちて右腕を折り、片手で動く。過去を探ることをやめた田中優美清秋香菜に「そのふたつの目で……」「なぜ、『真実』を見つめようとしないの?」と迫り、水位の差を使って通路の水を動かす脱出の手を考え出す。浮島で「――恋、だよ」と告白する。エピローグは2年後で、不思議なことは起きなくなり、予知もできなくなり、記憶も取り戻したと書かれるが、真相は「それは、とてもとても、長い話だった。」の一行で伏せられる。最後の一行は「ぼくらは時間を超えられるんだ」。バッドエンドでは田中優美清秋香菜が動かなくなり、少年の語りはプロローグの最後と同じ「ぼくは――」「静かに、」「その目を、開いた。」で閉じる。
2034沙羅編。右腕を折ったまま、心肺が止まった沙羅に、ほかの3人が手を止めたあともひとりで心臓マッサージを続け、蘇生させる。空が親指のかけらを取り出すと、それは沙羅のペンダントの欠けた鏡面で、少年には赤外線が見えること、沙羅とは兄妹であること(遺伝子の照合でほぼ100%)がわかる。記憶が戻り、施設で沙羅をかばったこと、ライプリヒの研究所に閉じ込められたこと、引き離されるときに「必ず、必ず迎えに来るからな!」と約束したことを思い出すが、自分の名前だけは戻らない。停電の暗闇に単身引き返して沙羅を見つけ、「約束しただろ」「必ず迎えに来るって」と言う。二人で海を泳ぎ切り、死んだと思われているのを利用して逃げることを選ぶ。「ぼくらは、自由になるんだ!」。バッドエンドでは、意識を失った沙羅を抱えて海へ出るが、水を飲み、「ぼくは……、また沙羅を助けてあげることが……。」「できなかったみたいだ……。」と思ったところで「暗黒がぼくの意識を包んだ」。二人のその後は書かれない。
2034ココ編。沙羅から「お兄ちゃんの名前は、ホクトだよ?」と教えられても、その名を自分のものと思えない。ペンダントの中の男の顔を見て、目の前の「武」が別人だと悟り、田中優美清秋香菜に「今年は……何年なの!?」と詰め寄って、2034年だと知る。「本当の倉成武は……」「ぼくと沙羅の……」「お父さん、なんだから……」と言い、つぐみに「お母さん……なんだよね?」と問う。浮島で田中優美清春香菜が、この「少年」の正体を告げる。「あなたは2034年5月1日15時17分――初めてこの世界に産声をあげた――少年」。記憶が無かったのは脳の障害ではなく、その時刻にこの世界へ入ってきた「視点」、ブリックヴィンケルがホクトに重なったからで、ホクトの名前を自分のものと思えなかったのも、そのためだった。
2017父を呼び戻す。視点が2017年の海底へ渡り、息絶えた武を見たとき、体の持ち主であるホクトの感情が視点を押しのける。「お父さん! お父さん! 死んじゃやだよ!」「ぼくはまだ、一度もお父さんに会ったことがないのに!」。叫んでいるのは、武自身が2017年に誓った「絶対に、ひとりたりとも、俺は死なせはしない!」の言い返しで、この直後に武は目を開ける。
2034エピローグ。目覚めた父と初めて会い、母と妹とともに船に乗る。田中優美清秋香菜に「ぼくと、付き合ってください」と申し込む。甲板でココが何もない空中を指さすと、「あっ! ほんとだ! また来てくれたんだね!?」と応える。
「わかっていたのはぼくの中にいる別の誰かで、/その誰かがぼくの口と声帯を借りて発話していたに過ぎない。」少年視点の2日目、予知について
「キミハ……ダレ?」「ボクハ……ダレ?」更衣室の鏡の前で
「今年は……」「今年は……何年なの!?」ココ編、田中優美清秋香菜に
「ぼく、もう子供じゃない」「16歳なんだから……」「16歳は、未成年だけど、子供とは言わないんだ」「成年未満、子供超……なんだよ、ぼくは」武にからかわれて
ブリックヴィンケル
| 読み | ぶりっくゔぃんける(作中の表記は片仮名。少年の脳裏には「Blick...Winkel...」という綴りがよぎる) |
|---|---|
| 役割 | 第3視点。次元の外から世界を見下ろす「目」。2034年の「少年」は、ホクトの体にこの視点が重なったもの |
| 年齢 | 作中に年齢は無い。この世界に現れたのは2034年5月1日15時17分とされる |
| CV | スタッフロールに役名は無い |
| 外見 | 姿を持たない。ココにだけ「ホクたんの向こうに」見える |
一人称は片仮名の「ボク」で、ホクトの平仮名の「ぼく」とは表記だけで書き分けられる。ココ編の終盤、浮島で田中優美清春香菜に「本当のあなた」を見せるよう迫られ、「ボクは……ホクトではない……。」「ボクは、ただの視点……。」「次元を超えて俯瞰する目……。」「第3視点……。」と自分を名指す。作中がこの存在に与える説明はここまでで、それが何でできているのか、意識がどこにあるのかは書かれない。武視点の編と沙羅編には一度も出てこず、優編でも、壊れた通信にまぎれた声と、答えの出ない問いとして名前が出るだけである。
2034呼び出された視点。田中優美清春香菜は、2034年の事故全体がこの存在を呼び出すための仕掛けだったと明かす。2034年を2017年のように見せかけることで、次元の外にある視点に「自分たちと同じ空間にいる」と錯覚させた。「待ってたのよ……私達……」。そして「すべて、あなたの指示に従っただけよ」「あなたを呼んだのは、あなた自身なの」と付け加える。現れた直後に「ふふっ、久し振りね……」と言われ、「……久し振り?」と問い返してもかわされる。
2017ココとの約束。2017年へ渡り、海底で武が動かなくなっているのを見る。武が蘇生してココをIBFのポッドに入れるとき、ココにだけはこの存在が見えている。ココは「きみに、あいたい」「必ず……迎えに……来てね……?」「約束、だよ?」と言い、最後に「お兄ちゃん……」と呼ぶ。問い返す間もなくポッドは閉じる。「ボク、ココのお兄ちゃんじゃ、ないんだけど……」と後で言っても、ココは呼び方を変えない。
201717年の指示。2017年の田中優美清春香菜に、17年がかりの計画を口述する。17年経つまでIBFに近づかないこと。2034年5月1日、沙羅が学校行事でLeMUに来るので、つぐみには「LeMUに来れば、娘と息子に逢えるよ」とでも言って誘い出し、ホクトも同じように呼ぶこと。田中優美清秋香菜は母と同じようにLeMUの係員として働かせること。空には何も知らせず、2017年の記憶はひとまず消しておくこと。桑古木を倉成武に見せかけること。7日間は何が起きても干渉しないこと。途中、武とココが救出されて全員が生きている未来に一度書き換わるが、その未来は崩れ、武の体が腐り落ち、ココも消える。この存在は2017年へ戻って「絶対に、ふたりを救出しないで!」と指示をやり直す。「2034年の事件の首謀者は、他でもない、ボク自身だったということ。」ココと武が17年海の底に置かれたのは、この指示の結果である。
2034迎えに行く。2034年に戻り、石碑のかけらを抱いて水深119メートルまで沈み、IBFのポッドを開ける。「ボクだよ、ココ」「迎えに、来たんだ……」「約束、守ったでしょ?」。ココは「今日からお兄ちゃんとココは、恋人どうし、ね?」と言い、二人は想いを伝え合う。体はホクトに返し、エピローグでは視点の見出しを持たないまま、作品の最後の数行を語る。
「ボクは……キミ達の世界の住人じゃ……ないんだね……?」「ボクは……ホクトでは……ないんだね……?」浮島で、現れた直後に
「バカッ! 死ぬわけないだろ!」「ボクが絶対、絶対、絶対に、ココを、助けてみせる!」2017年、IBFで
『ボクは今、見ている』『ボクは今、見られている』『キミは今、見ている』『キミは今……/……きっと誰かに、見つめられている』ココ編エピローグの最後
小町つぐみ
| 読み | こまち つぐみ。漢字では「小町月海」と書き、本人が「『月』に『海』と書いて『つぐみ』って読むの」と説明する |
|---|---|
| 役割 | 武視点と少年視点の両方に出てくる黒服の女性。キュレイウイルスの感染者で、ホクトと沙羅の母 |
| 年齢 | 23歳(2017年。1993年7月生まれで「あとふた月で24になる」)。12歳で感染し、体は17歳で止まっている。2034年の年齢は作中に書かれない |
| CV | 浅川悠 |
| 外見 | 黒い服に長い髪、スカート。ハムスターのチャミを服の胸元に入れて持ち歩く。息を乱さずに走り、武が抗えない力で押さえこむ |
名前のほかはほとんど語らず、会話を「意味があるかどうか」で切り捨てる。事故を最初に「事件」と言い切り、館内の構造と設備に詳しく、工具箱を担いで溶接や切断をひとりでこなす。「仲間」という言葉を嫌い、武に「私は・仲間じゃ・ない」「だから・もう二度と・話しかけないで」と言い渡す一方、武が水深51メートルまで潜ろうとすれば「死ぬつもり!?」と止める。武は彼女を「高校生ぐらい」と思っていたが、実際は23歳で、武より3つ年上である。
武を「頭悪そう」「うつけ者」「偽善者」と呼び、武が「生きてさえいりゃ、いいことだってあるに違いないんだ」と言うと、抱いていたチャミを両手で握り潰して見せる。「生きてるだけじゃ……生きてるとは言えないのよ!」。つぶれたはずのチャミは、しばらくして息を吹き返す。
キュレイ。2005年8月、12歳でウイルスに感染し、5年かけて体じゅうの細胞が入れ替わって、老いも死にもしない体になった。「古い私は死に、新しい私は死なない身体になっていた」「17歳のまま、決して老いることは、ないの」。傷はすぐにふさがり、赤外線が見え、代わりに紫外線にひどく弱い。感染のあとは、病院だと偽られた施設で検査と実験を繰り返され、「私が何回、死んだか……知ってる?」「私も、もう覚えてない」と言う。施設の医師たちは「君や、君の仲間の為なんだ」と言い続け、自分たちを彼女の「仲間」だと言った。これが、「仲間」という言葉を嫌う理由として語られる。隣の部屋には「ぼくは、未来が見える」と言う少年がいたが、ある日連れ出されて戻らなかった。チャミも、つぐみの手に噛みついて血を浴び、「私と同じになった」。
20175日目の夜。ゴンドラで武に体質を打ち明け、「私を……殺して?」と頼む。断られると首を絞めて床に叩きつけ、「殺してあげる、あなたを。そして、私も……」と言った直後に「ひとりにしないで……」とすがり、二人は結ばれる。ココ編の同じ夜はまったく違い、つぐみは「武にだけは……全部、見せてあげるから……」と全身の細かな傷跡を見せ、同意のうえで結ばれる。そのあと赤外線レーザーの照射装置で武の姿を「焼き付けた」と言い、何にかは「内緒♪」と答えない。
2017つぐみ編。IBFで全員が感染し、発症していないのはつぐみだけ。抗体を取らせてほしいという武を「もう、人でいられなくなるのよ!?」と拒むが、武に最後のアンプルを割られ、「私が逆らえないの、知ってるくせに……!」と応じる。注射のあと、チャミを迎えにLeMUへ戻り、追ってきた武に「俺の何よりも大切な、仲間、だ」と言われて、はじめて「仲間」を否定しない。診療室で自分から「責任、取ってくれる?」と誘い、結ばれる。脱出の潜水艇で武がエアロックに入ると、ガラスを叩いて「死ぬ……気……なの……?」と叫ぶ。つぐみは生還し、このあとのことはこの編では書かれない。
2017空編とバッドエンド。空編では体質は露見せず、ほかの皆と同じように注射を受ける。LeMUへ戻ろうとする武の腕にすがって「ひとりにしないで!!」と止めるが、武は振り返らずに突き放し、つぐみはそこで物語から退く。空の報告で生還が確かめられる。バッドエンドでは右足を引きずっていて、「何があっても、自分は死ねないと思ってたんだけど……」「それもまた、間違いだったのかも……しれない」と言う。「仲間ごっこってのも、そんなに悪いもんじゃなかったけど……」と言い残して診療室を出て、外から扉を閉める。直後に扉の向こうで濁流の音がするが、つぐみが死ぬ場面そのものは書かれない。
2034優編と沙羅編。2034年のLeMUにもひとりで入り込んでいて、少年を「奴らの仲間」と疑い、「7日に……」「――あなたは死ぬの」と告げる。優編では、空が知らないはずのヒンメルとLeMUの下の施設のことを知っていて空に詰め寄り、脱出のあと、いつのまにか姿を消す。沙羅編では、沙羅に平手で打たれて逆上し、沙羅の手からペンダントを奪って壁に叩きつけようとするが、寸前で思いとどまり、ペンダントは手から滑り落ちる。鏡面の欠けは最初からあったもので、つぐみが割ったのではない。その後、浸水で取り残された沙羅を「けが人は、黙って引っ込んでて」と少年を制して自分が潜って救い出し、理由を問われて「……しかたないでしょ」「『仲間』……なんだから」と答える。
2017→203417年。ココ編で、武が海に消えたあとのつぐみの年月が語られる。2017年5月7日、浮島で待ち伏せていたライプリヒ製薬の手を逃れ、住む所を転々とし、橋げたの下や下水管の中で眠った。武の命を奪ったのもライプリヒだと考え、彼らを憎み続けた。やがて妊娠に気づく。「武の子供であることに間違いはない。彼以外と交わりを持ったことはないからだ。」2018年1月21日、陣痛が来て駆け込んだ産婦人科では、医者に背中を何度も蹴られて追い払われ、古い船小屋で、そこにいた老婆に取り上げられて双子を産んだ。1年半を子どもたちと暮らしたが、ライプリヒに見つかり、この子たちを守れないと判断して信頼できそうな施設に預ける。そのときペンダントを渡し、「必ず戻ってくるからね? 迎えに来るからね?」と言った。数年後に戻ったときには、子どもたちはもういなかった。「ホクト」と「沙羅」という名をつけたのは、つぐみではない別の誰かで、それが誰かは作中で明かされない。
2034ココ編。ホクトに「お母さん……なんだよね?」と問われ、「違うわ……」「私は……母親なんかじゃない……」と一度は否み、「私はあなた達を産んだ……」と認めたうえで、「『お母さん』なんて……呼ばないで……お願い……」と言う。沙羅が「ママァーッ!」と飛び込み、三人は抱き合う。ココに子守歌を歌って聞かせたのもつぐみで、その歌は、ホクトと沙羅しか知らないはずの歌だった。エピローグでは紫外線を避けるためにキツネザルの着ぐるみを着て船の甲板に出て、17年ぶりに目覚めた武に「武……」「おかえりなさい」と言う。直後に武の「可愛い」がチャミのことだったとわかり、「武のバカァーッ!」で終わる。
「私は・仲間じゃ・ない」「だから・もう二度と・話しかけないで」4日目、武に
「生きてるだけじゃ……生きてるとは言えないのよ!」5日目、チャミを握り潰した手を開いて
「……しかたないでしょ」「『仲間』……なんだから」沙羅編、沙羅を助けに潜る前に
「今まで一度も……あなた達のこと……忘れたことは……なかった……」ココ編、ホクトと沙羅に
茜ヶ崎空
| 読み | あかねがさき そら |
|---|---|
| 役割 | LeMUの案内係を務める人工知能。正式名称は「LM-RSDS-4913A」。はじめは「LeMU開発部のシステムエンジニア」「主任代理」と名乗る |
| 年齢 | 24歳(2017年。本人いわく設定上の年齢で、システムが動き始めた2011年4月2日を誕生日とする) |
| CV | 笠原弘子 |
| 外見 | ドレスにサンダル、長い髪。いつも微笑んでいる。網膜に直接映す映像(RSD)で見えているだけで、触れることはできず、近づきすぎると平たく見える |
誰に対しても敬語で、全員を「さん」付けで呼ぶ(ココだけは「ココちゃん」)。2日目に自分がAIであることを明かし、システムエンジニアという肩書きは「あれは、ただの『設定』です」と撤回する。LeMUの天井も壁もすべてが空の目で、「私は存在しません」「しかし私は――遍在しています」と自分を言い表す。「恋とは何でしょう?」と武に尋ねたことから、武の即席の恋愛心理学の講義が始まり、空は武を「倉成先生」と呼ぶこともある。「私はいつでも、笑っていられるようにできてるんですよ」「それが私の製作者の、ポリシー……」。
20175日目の夜。武とつぐみのゴンドラでの一部始終を、空は見ていた。「心が、痛い……」「心に、痛覚があるんですか?」。記憶を消そうとすると、自己診断と修復の処理が人格のように立ち上がり、空と向き合う。その処理は「私は偽者ではありません」「私はあなたです」と言い、空が武を水密扉の中に閉じ込めて水を流したこと、つぐみにも武にも殺意を抱いたことを突きつける。空は「好きなんです!」「倉成さんが好きなんです!」と叫び、「殺してやりたい」「ううん、愛しています……」「私、わからない……!!」と崩れる。武は泣いているほうの空が「先生」の呼びかけに応えたことで本物を見分けるが、差し出された手をつかめない。翌朝、空は「数時間の間、記憶がないんです」と言うが、田中優美清春香菜の調べでは、空は自分の意思で記憶を消せない。武は「空は……俺に、本当のことを言った。そして同時に、嘘をついていた。」と考える。
2017つぐみ編。IBFに降りられないため、ヒンメルに残って隔壁を操作し、皆の脱出の時間を稼ぐ。「ここに、私はいません」「しかし、私はどこにでもいます」「もう一度、必ず会えるときが来ます」と言い残し、映像は虹に変わって消える。その後、ピピがテラバイトディスクをくわえて見つかる。
2017空編グッドエンド。空の頭脳(計算する機械)は海上のインゼル・ヌルにあるが、記憶はLeMUの中のヒンメルに蓄えられている。空は武を逃がすために「私の頭脳は、インゼル・ヌル上にあります」と本当のことを言い、「ですから、LeMU内のコンピューターが全壊しても、私の存在が失われることはありません」と嘘を続ける。従わない武の目をレーザーであぶり、「今度こそレーザーで、あなたの網膜を焼き切ります!」とまで言うが、武は管理者権限で押し切る。コピーを始める前に、空は宿題の答えとして「恋をする為に、生まれてきたんだと思います」と言い、「倉成さんと、2、3年付き合って、26、7で結婚するんです」と、以前武が冗談で教えた「シロガネーゼの鉄則」をそのまま自分の願いにする。コピーの最中に武からピグマリオンの話を聞き、「今、コピーの間に倉成さんと話したことは、どこにも記憶されませんね」と言う。最後の言葉は「ありがとう」。海水がなだれ込むヒンメルで、二人は手を重ねる。バッドエンドには空は出てこない。
2034優編と沙羅編。優編では、レミを守る務めと皆の役に立ちたい願いとのあいだで動けなくなり、「私は、いったい、誰なの……?」と崩れかける。少年の言葉を受けて自分のセキュリティの一部を「1/17秒程の一瞬」だけ開け、沙羅に書き換えてもらう。沙羅はそのとき、「空自身を、大切にすること」を最優先の項目として黙って書き加えていた。空は皆を見送ってLeMUに残り、2年後、浮島に現れて少年の肩を叩き、握手を交わす。地の文は「叩かれ」「握手」をかぎ括弧に入れ、触れられないはずの空が触れていることだけを示す。沙羅編では、少年の親指からかけらを取り出し、少年と沙羅が兄妹であると告げて、「どうしてお喜びにならないのですか?」と言う。
2017→2034ココ編。2017年、田中優美清春香菜がヒンメルの端末から空の記憶をテラバイトディスクへ移し、ディスクはピピが海の底から運び上げる。17年の計画では、空には何も知らせず、2017年の記憶はひとまず消しておくよう指示されていた。エピローグの空は、田中優美清春香菜がディスクのデータを写してくれたから「17年前にみなさんと過ごした記憶や、自我」を持っていられると言う。そして体を持っている。理由を問われての答えは「これは、奇蹟なんだと思います」「――女神、アフロディテの奇蹟、です」だけで、仕組みは説明されない。止まっていたピピのスイッチを「ポチッとな!」と入れたあと、地の文が「『ピグマリオンの話』も……『ポチッとな』も…… テラバイトディスクには、書き込まれているはずのない記憶なのですから……。」と続ける。ピグマリオンの話は空編のコピー中の会話、「ポチッとな」はココ編でディスクを取り出すときの武の掛け声で、どちらもディスクに入りようがない。その記憶がどこから来たのかは作中で説明されない。
「私は存在しません」「しかし私は――遍在しています」つぐみ編、ヒンメルに残るとき
「好きです……」「あなたが嫌い、憎くてたまらない」「殺してやりたい」「ううん、愛しています……」5日目の夜、修復の処理と向き合って
「恋をするには、ただ真っ直ぐに、恋すればいいんです」空編、宿題の答え
田中優美清春香菜(2017年の「優」)
| 読み | たなか ゆうびせいはるかな(本人が2度続けて名乗る)。通称「優」、ココからは「なっきゅ」 |
|---|---|
| 役割 | 武視点の「優」。鳩鳴館女子大の1年生で、LeMUのゴールデンウィークだけの短期アルバイト。2034年には「田中先生」としてLeMUで研究をしている |
| 年齢 | 18歳(2017年)。心臓の病は2013年、14歳のときに発病 |
| CV | 下屋則子(田中優美清秋香菜との一人二役) |
| 外見 | LeMUの制服。2日目の朝からは、更衣室に1着だけあったという私服を着る。ジャンピングクロスチョップやドロップキックを繰り出す。2034年も17年前と変わらず若い |
事故のあと生存者をまとめ、自己紹介と乾杯の音頭を取り、これからの段取りを決める。明るさについて武に言われると、小声で「違うって。こんなだから、高いの」と返す。倉庫の事故で重傷を負ったつぐみの脚を、武を部屋から追い出してひとりで縫う。事故の初日の夜、自分の父がLeMUの開発部門で働いていて、1歳のときにいなくなったと打ち明け、「お父さんは、絶対どこかで生きてる」と言う。4日目にはピグマリオンの神話を語り、6日目には恩人から聞いたという「キュレイ」の名を持ち出す。つぐみの治りの速さに最初に気づくが、それを言いかけては飲みこむ。
もうひとりの私。2013年、14歳で心臓の重い病を発病し、高校を卒業できるかどうかもわからないと告げられる。病院で出会った遺伝子工学の権威、モリノシゲゾウ博士は「不死には3つの種類がある」「ひとつめは個体の不死」「ふたつめは記憶の不死」「みっつめは遺伝子の不死、だ」と言い、三つめに賭けることを勧める。2014年12月、博士の手で自分の細胞核を自分の卵子に移して身ごもり、2015年9月22日に娘を産んで、「優美清秋香菜」と名づけた。「あなたは私の子供」「あなたは私の妹」「そしてあなたは……私自身」。2017年、1歳の娘を母ゆきえに預け、父の手がかりを探すためにLeMUへ来た。心臓はそのとき、もう限界を越えていた。
2017罪。ココ編で、武に「決して侵してはならない一線を、私は、超えてしまったの」「神に、背いたの……」と打ち明け、「後悔は、してないんだ」と言う。娘のことは「私の、妹なの」「双子の、妹だから……」とだけ話し、翌日写真を見せて娘でもあると言い直す。
2017つぐみ編・空編・バッドエンド。つぐみ編と空編では、IBFで通信の制限を解いて救助を呼び、つぐみの血から抗体を取り出して全員に注射する。空とほかの空を分けるものは何かと問い、「記憶だよ」「記憶、だけなんだよ」と答える。どちらの編でも生還する。バッドエンドではティーフ・ブラウの発作で「私、死にたくない……」「助けて、倉成」と言い、武の右手を自分の胸に当てたまま、「本当はね、わたし、倉成の、こ……と」と言い終えずに息を引き取る。
2017父の名。ココ編、ヒンメルの端末に残っていたログイン名「T.Y.」を最後のパスワードとして、空の記憶をテラバイトディスクへ移す。「最後のパスワード、そして名前、T.Y……」「TANAKA YOUICHI……」「ありがとう……お父さん」。前の日にIBFで看取った研究員が、探し続けていた父、田中陽一だった。本人はティーフ・ブラウに感染して救助され、抗体の注射でキュレイに感染し、心臓の病も治る。そして、ココがIBFに取り残されたことを知る。
2017→203417年の計画。2017年に、第3視点(ブリックヴィンケル)から17年がかりの計画を口述され、「驚くほど素直」に受け入れる。2025年からLeMUで第3視点を研究し、17年後に桑古木を倉成武に仕立て、つぐみ・ホクト・沙羅をLeMUに誘い出し、娘の田中優美清秋香菜を係員として働かせて、2034年5月1日の事故を仕組んだ。娘は、亡くなった自分の母「田中ゆきえ」を名乗って育てている。この点は計画の指示には含まれていない。浮島でブリックヴィンケルを呼び出し、「待ってたのよ……私達……」と言う。救出を17年待ったのは、ココと武を助けるためで、沙羅に「パパと、あのココっていう女の子を、助ける為に?」と問われて「そういうこと」と答える。ライプリヒ製薬の告発もずっと前に済ませてあり、5月7日までは動かないよう取り引きしていた。
2034娘との対決。優編では、ディスプレイ越しに娘へ「私はあなたの、母親じゃない……」「でも……それでもあなたは、優は、私の本当の子供なのよ」と語る。2年後、「田中先生」として浮島に現れ、「...I am YOU...」「『母親』よ……優……」と認める。優編の中では、彼女が誰なのかは明かされない。ココ編のエピローグでは、娘に「今まで18年間、私はだまされ続けてきたんだよ?」「マヨが、マヨが……今までどれほどツライ思いをしてきたのか……お母さん、考えたことあるの!?」と詰められる。LeMUで働いていながら、ライプリヒの施設にいた沙羅を助け出さなかったことを責められても言い訳はせず、娘を抱きしめる。「私はお母さんにとって、どんな存在なの?」という問いには「あなたは、私のすべてよ」と答える。
「あら、暗く重たーく絶望的なほうがいいの?」「違うって。こんなだから、高いの」事故の初日、武に明るさを突っ込まれて
「私は地獄に墜ちてもいい」「何千年、何万年、何億年と、地獄の業火に身を焼かれてもかまわない」「でも……絶対にあの子だけは……どんなことがあっても……守りたいと思った……」ココ編、武に娘のことを話して
「あなたはバカ! 生粋のバカ! 史上最大級の大バカ野郎!」「まず間違いなく父親の遺伝ね……うんうん……」ココ編、水深119メートルから戻ったホクトに
「不肖この鳩鳴館女子大1年、短期アルバイト、田中優美清春香菜が、救助隊の到着まで皆様をご案内いたしまーすっ……」「どんどんどんどん♪ ぱぁふぅーぱぁふうぅー♪」事故の初日、自己紹介
田中優美清秋香菜(2034年の「優」)
| 読み | たなか ゆうびせいあきかな(「『優』しく、『美』しく、『清』らかな、『秋』、『香』る、『菜』の花」と本人が説明する)。通称「優」、沙羅からは「なっきゅ先輩」 |
|---|---|
| 役割 | 少年視点の「優」。LeMUの救護室で働くアルバイトの係員。大学1年で考古学を専攻し、鳩鳴館女子高等学校を今年3月に卒業した、沙羅の1年先輩 |
| 年齢 | 18歳(2034年。2015年9月22日生まれ) |
| CV | 下屋則子(田中優美清春香菜との一人二役) |
| 外見 | 水色のリボンのついた白いユニフォームに「Y・O・U」の名札。2日目の朝からは私服で、2年後も同じ服の裾にコーヒーのしみを残している |
プロローグで、ベンチで待ち続ける少年に声をかけ、館内を案内する。「本当はもっと長い名前なんだけどね?」「めんどくさいから……『優』でいいよ」。名札を読まれて「I am YOU!」と返す。事故のあとは少年の面倒を見続け、手を引き、頭を撫で、背中を叩く。制御室では通信が全部切れていると知ってコンソールにかかと落としを入れる。「私の知識は、防御の為にあるんじゃない」「攻撃の為に、あるのよ」。母から「17年前に失踪した」と聞かされている父の手がかりを探しており、嫌いだった考古学の学部に気がつけば進んでいたことを「これはある種の、呪いよ」と言う。少年の「知らないはずのことを知っている」様子を、最初に「一方通行の向きが、逆なのよ」と言い表したのも彼女である。
2034優編。空がLeMUの記録を調べ、父は34年前に亡くなったらしい、母も15年前に亡くなっている、と伝える。母から聞いていた話とは17年ずれていて、田中優美清秋香菜は「私を育ててくれた、あの人は誰だったの??」と取り乱す。翌々日、過去を探るのをやめ、「今、この瞬間だけを大切にしようと思う」と言い、第3の眼の在処を教えると言って少年に口づけする。レムリア遺跡の認証が通らなかったのは、登録された母の名が「田中ゆきえ」ではなかったからだとわかり、ディスプレイ越しに現れた女性に「私はあなたの、母親じゃない……」と告げられる。「真実を知るのが……怖くなったのよ!!」「充分、生きたんだよ……だから……」と言うまで追い込まれるが、少年の「――恋、だよ」を受けて、砂糖入りのコーヒーを「とっても……甘いね」と飲む。脱出の2年後、「田中先生」に母親だと認めさせる。自分が母の遺伝子から生まれたことは、この編では知らされない。バッドエンドでは高熱で動けなくなり、少年に背負われてヒンメルの扉へ向かうが扉は開かず、通路が崩れて水に呑まれる。水の中で少年と手を握り合って何かを言い残すが、「それはただ、小さな泡となって、闇の中へと……消えた。」
2034沙羅編。非常階段が使えるようになった時点で、「武」(桑古木)とつぐみと一緒に先に脱出し、そこからは出てこない。
2034ココ編。本名を名乗ると、少年に「優の……本当の……名前は……」「優美清――『春』――香菜」と言い返される。「自分の名前を言い間違える人なんて、いないと思うけど?」と笑い、9月に生まれたから「秋」なのだと押し切る。浮島で、もうひとりの自分とも言える母と向き合い、エピローグで17年分を問いただす。先に口にするのは自分のことより沙羅のことで、「LeMUで働いてたんなら、ライプリヒの施設に監禁されてたマヨを助け出すことだってできたでしょ?」「つぐみと子供達を逢わせてあげることだってできたでしょ?」と責める。最後に「私はお母さんにとって、どんな存在なの?」と尋ね、「あなたは、私のすべてよ」という答えを受け入れる。ホクトから「ぼくと、付き合ってください」と申し込まれ、「い、いま!?」で場面が変わる。
2034もうひとつの反復。2034年の「武」(桑古木)と交わす軽口は、17年前に母と本物の武が交わしたものとよく似ていて、プロレス技も、2日目の朝に私服へ着替えることも母と重なる。彼女自身は「武」が偽者であることを知らされていない。
「大事なのは、今、笑えるかどうか……」「それが、あなたが存在することの証し……」発作を起こした少年に
「怖くなったの」「真実を知るのが……怖くなったのよ!!」優編、母を名乗る女性との通信のあと
「私の名前は優美清秋香菜」「生まれたときからそうだったし、これからもずっと、この名前を背負って生き続けて行くんだと思う」ココ編、少年に
「空気と初恋は、淡い方がいいに決まってるの」「コーヒーと初行為なら……濃い方がいいけどね」気圧の説明のついでに
松永沙羅
| 読み | まつなが さら。田中優美清秋香菜からは「マヨ」(マツナガサラ→ツナサラ→ツナサラダ→マヨネーズ)、ココからは「マヨちゃん」 |
|---|---|
| 役割 | 鳩鳴館女子高等学校の2年生。学校行事の「トクシ」でLeMUに来て、事故のときはエレベーターに閉じ込められていた。倉成武と小町つぐみの娘で、ホクトの双子の妹 |
| 年齢 | 16歳・高校2年(2034年。1月21日生まれ) |
| CV | 植田佳奈 |
| 外見 | 高校の制服。鏡面が一部欠けたホログラムペンダントと、古いオイルライターをいつも持っている |
エレベーターから顔を出した第一声は「ち~っす♪」。語尾に「ござる」をつけ、印を結んで「ニンニン」とやる忍者口調を持ち芸にしているが、本人は冗談だと言う。コンピューターの腕は田中優美清秋香菜が「世界一って言っても、過言じゃないかもしれない」と言うほどで、68ビットの暗号を独自の方法で7日で解いた実績がある。家庭の事情で高校へ行くつもりはなかったが、特待生として鳩鳴館に入ったと説明される。初対面の少年に名前を言い当てられて警戒し、暗闇の中で少年の親指を握り、子守歌を口ずさむ。
2034ペンダント。ライターの炎をかざすと男の姿が浮かぶホログラムで、その像は赤外線でしか見えない。「武」(桑古木)にも田中優美清秋香菜にも見えず、見えるのは沙羅と少年だけである。「このホログラムの画像は、私だけにしか見えないの」「私だけにしか見えないはず、だったの」。沙羅はその男を「たぶん、パパだと思う」と言い、それは当たっている。鏡面の欠けは、幼いころ施設でいじめっ子たちに割られたもので、そのかけらは、沙羅をかばった兄の親指に刺さったまま残っていた。沙羅編で、つぐみとぶつかったときにペンダントが床に落ちるが、先に手を上げたのは沙羅で、つぐみは叩きつける寸前で思いとどまっている。
2034沙羅編。泳げないことがわかり、少年に泳ぎを教わる。生き別れの兄がいて、「必ず迎えに来る」と約束したまま会えていないと打ち明ける。浸水した区画でペンダントのかけらを取りに戻って溺れ、つぐみに引き上げられたときには心臓が止まっていたが、少年の心臓マッサージで息を吹き返す。空の調べで少年と兄妹だとわかり、「お兄ちゃん」と呼ぶが、少年は一度「違う!」と拒む。ライプリヒ製薬の研究所で兄と引き離されたあとも沙羅は解放されず、実験と検査を受け続け、高校でも街でも見張られていた。だから事故は「私は……、うれしかった」。「私には今まで……死ぬ自由も無かったから……」とまで言うが、兄の「お兄ちゃんが、引っぱってく」で海へ出て泳ぎ切り、身元を伏せたまま兄と逃げることを選ぶ。バッドエンドでは空気だまりに長くいて酸素中毒になり、「来てくれて……、ありがとう……」と言って力が抜ける。兄に抱えられて海へ出るところで語りは終わり、その後は書かれない。
2034優編。「なっきゅ先輩の為」とクラッキングを引き受け、空が一瞬だけ開けたセキュリティから入り込んで「――どんでん返し!!」とプログラムを書き換える。そのとき誰にも言わずに「空自身を、大切にすること」を最優先の項目として書き加えていた。「清算」しておくことがあると言い、「帰らないよ。だって、そこは本当の家じゃないから」「だから私は、私の還るべき場所を探しに行くの」と話す。その中身はこの編では明かされない。脱出後は浮島で「武」と木の枝でチャンバラをしている。
2034ココ編。兄に本名が「ホクト」であることを教える。ホクトが真相にたどり着き、つぐみが母だと認めると、「ママ……」「ママァーッ!」と飛び込み、「私は……ママに……逢えただけで……それだけで……」と言う。二人の名前をつけたのは、つぐみではない誰かで、それが誰かは明かされない。双子はキュレイの性質を受け継いでおらず、赤外線視力だけを持っている。エピローグでは視点のひとりになり、初めて会う父に「私ね? ちっちゃい頃から、ずーっとずーっとパパのこと、見てたんだよ?」と言う。ペンダントの像のことである。「もう私達、追い駆けられずに済むんだ! 自由になったんだ!」
「うん、いい子にして待ってるから……」「かならず、かならず来てね? 迎えに来てね?」「ずっと……ずっと待ってるから!」沙羅編、兄が思い出す幼いころの別れ
「私は……、うれしかった」「ライプリヒの研究所に入ってから、こんな自由を感じたことは一度も無かったから……」沙羅編、救護室の空気だまりで
「私ね? ちっちゃい頃から、ずーっとずーっとパパのこと、見てたんだよ?」ココ編エピローグ、武に
「今度、手裏剣村に連れて行って欲しいでござるぅ~♪」ココ編エピローグ
八神ココ
| 読み | やがみ ここ。プロローグでは「やーーーがーーーみぃ、こーーーこーーーでーーーっす!」と名乗る |
|---|---|
| 役割 | 子犬のピピを連れた来館者。父はLeMUの下の研究施設IBFでウイルスを研究しているが、ココは「しゅっちょーちゅー」としか聞かされていない |
| 年齢 | 14歳・中学3年(2017年) |
| CV | 望月久代 |
| 外見 | 小柄で、武は初対面で小学生と見誤る。スカートをはいている |
武を「たけぴょん」、つぐみを「つぐみん」、少年を「少ちゃん」、田中優美清春香菜を「なっきゅ」と呼び、自分の言葉を「ココ語」と名づけて造語とジョークを次々に繰り出す。プロローグでは「コメッチョ」を仕掛ける。「『百万年と言ったら、わしにとっては1秒みたいなもんだよ』」「『だが1秒だけ、待ってくれないかな』」。初日の浸水で減圧症を起こし、5日目には石像の台座に上って「視点がちょっと高くなるだけで、見えるものは随分変わるんだねぇ~♪」と言う。人を寄せつけないつぐみが警戒をゆるめる、ほとんど唯一の相手で、倉庫の事故ではつぐみがココをかばって重傷を負う。
2017発症。6日目、制御室でぶつかり合うつぐみと空を「ケンカしたら、ダメだよぉ……!」と止めに入り、そのまま血を吐く。ティーフ・ブラウの発症で、これを治す手立てを求めて一行はIBFへ降りる。ココ編では父の業務日誌から、ココが5月1日より前に父に会うため一度IBFを訪れていたことがわかる。ただし、それがココだけ数日早く発症した原因だとは、本文は言い切らない。つぐみ編と空編では、IBFのポッドで治療を受け、救助されて生還する。バッドエンドには登場も言及もなく、どうなったのかは書かれない。
2034幻の少女。少年視点では、少年にだけ見える少女として現れる。少年は名乗られる前に「八神ココ」という名を思い浮かべ、触れようとすると消え、ほかの誰かが来ると姿がなくなる。優編の終盤には、圧潰寸前のLeMUで少年の前に現れ、ヒンメルの扉の向こうへ消える。ココ編では、この少女がホクトに向かって「ホクたんは『ココのいる世界』を、今までずーっと見てきたんだ」と告げ、ピピを「子猫」と言って引っかけ、ホクトが犬だと知っていることを示す。なぜ現れたのかと問われて「逢いたかったからだよ……」「ずーっとずーっと、キミが来るのを待ってたんだ……」と泣く。だが、2034年に現れたこの少女が何だったのかは、最後まで答えが出ない。「この時代のココは、ホクトのことをまだ知らないのか。/じゃあ、あの幻影の少女は一体……?」
2017第3視点を語る。ココ編の6日目、ココは武に「ココにはね? 昔から、別の世界の人とお話しできる力があるの」と言い、4次元から世界を見下ろす人の「視点」を借りれば、過去も未来もいっぺんにわかると説明する。2034年のココも、ホクトに「ホクたんの場合は……『視点』……そのものなんじゃないかな?」と言い、「ブリックヴィンケルさん」という名を最初に口にする。
2017→203417年。ココ編の2017年、救助隊が数えた要救助者は三人で、ココはその中にいなかった。IBFに取り残され、ポッドを抜け出して通路に倒れ、ピピに「パパも……ママも……待ってる……から……」と言って目を閉じる。蘇生した武に背負われてポッドへ戻り、ひとりになるのを怖がって「一緒に……添い寝して……くれる?」と頼み、武は隣のポッドで眠ることを約束する。ポッドに入る前、ココは武には見えない誰かを「ホクたんの向こうに……見える……」と言い表し、ポッドが閉じる直前に「きみに、あいたい」「必ず……迎えに……来てね……?」「約束、だよ?」「お兄ちゃん……」と言う。17年後の2034年5月7日、その視点が約束どおり迎えに来る。「やっぱり、来てくれたんだぁ♪」「今日からお兄ちゃんとココは、恋人どうし、ね?」。エピローグではココの視点の章があり、地の文が「ココちゃんは」と絵本のように語る。ピピが空中に向かって吠えると、ココはそこにいる「お兄ちゃん」を指さして皆を呼び、大きく手を振る。父・八神岳士の生死は作中に書かれない。なお空編では、ココも救助されて生還したと空が報告しており、ココが助かる歴史と、17年取り残される歴史の両方が描かれている。
「『百万年と言ったら、わしにとっては1秒みたいなもんだよ』」「『だが1秒だけ、待ってくれないかな』」プロローグ、コメッチョ
「ココ……キミのこと、待ってたんだ……」「ずーっとずーっと、キミが来るのを待ってたんだ……」ココ編、2034年のホクトに
「ふたつの世界が……今はひとつに……」「その結び目にあるのは――視点――」ココ編、目覚めたあとで
「ココ、実は太陽星人なんだぁ~♪」「でもね? パパとママは地球人なんだ」ココ編、武に
その他の登場人物
20176日目にIBFで見つかる、名札も身分証も持たない研究員。すでにティーフ・ブラウに侵されていて、「LeMUにまだ人がいたのか。あれから6日は経っただろうに……」「すまんな……我々のせいで」と言い、「娘を……頼む……ぞ」と言い残して死ぬ。武視点では、業務日誌の署名「T.Y.」を武が「八神氏」のイニシャルと読み、つぐみも「あの研究員こそが、恐らく、ココの父親だったのよ」と推し量るが、これは誤りだった。ココ編で、T.Y.は田中陽一(TANAKA YOUICHI)で、田中優美清春香菜の父だと明かされる。田中優美清春香菜は、死にゆく父と言葉を交わしながら、それが父だとは気づいていなかった。
2000年、ライプリヒ製薬はティーフ・ブラウの密売計画を告発しようとした陽一の身柄を押さえ、妻と娘の命をたてに脅し、妻ゆきえには「LeMUの建造を視察中に海へ落ちて行方不明」と伝えた。実際に亡くなったのは2017年5月6日、ほかの研究員が逃げていくなか娘の身を案じてひとり残り、ティーフ・ブラウの漏洩に巻き込まれたときである。優編で空が「今から34年前に」亡くなったらしいと言うのは、推測だと本人が断ったうえでの話で、手がかりは社内の記録に一行だけ残った「Yöichi」という綴りだった。o が ö に化けていたために、陽一の記録をまとめて消したときの検索にかからず、この一行だけが消されずに残った。
IBFでウイルスを研究している、ココの父。一度も登場せず、言葉は業務日誌に残されたメモだけである。「久し振りに娘に会うことになった」「IBFの見学許可が特別に下りたと伝えたら、すぐに行くからと明るい返事がかえってきた」「父親の顔を忘れていなければいいのだが」。このメモから、ココが5月1日より前に一度IBFを訪れていたことがわかる。そこで感染したのかどうかは、本文ははっきり書かない。武視点では同じメモの署名がイニシャル「T.Y.」だけになっていて、武は研究員の遺体を八神氏と思い込み、「ココが父親の死に顔をまだ見ずに済んでいるのは、幸いだろう。」と考える。ココ編のメモは「記録者:八神岳士」で始まり、T.Y.の娘がLeMUでアルバイトをしているらしいと、T.Y.を別の人物として書いている。八神岳士が生きているのか亡くなったのかは、作中に書かれない。
田中陽一の妻で、田中優美清春香菜の母。一度も登場せず、話すこともない。夫が海へ落ちて行方不明になったというライプリヒの説明を信じ、娘の田中優美清春香菜に父の話を聞かせて育てた。2017年には、LeMUへ来た田中優美清春香菜から、1歳の田中優美清秋香菜を預かっている。優編で空が伝えるとおり、2034年から数えて15年前の2019年に、ティーフ・ブラウで亡くなった。そのあと田中優美清秋香菜を「母」として育てたのは、ゆきえの名を名乗った田中優美清春香菜である。優編で田中優美清秋香菜がレムリア遺跡の認証を通れなかったのは、自分の母の名だと信じていた「田中ゆきえ」が、登録された名前ではなかったからだった。
ココ編で語られる田中優美清春香菜の過去に出てくる紳士。遺伝子工学の世界的な権威で、同じ年ごろの娘がいた。14歳で心臓の病を告げられた田中優美清春香菜と病院で出会い、父を知らずに育った彼女とは「父と娘のような関係」になる。「不死には3つの種類がある」「ひとつめは個体の不死」「ふたつめは記憶の不死」「みっつめは遺伝子の不死、だ」と言い、心臓の病は後から患ったものなので「『生まれてくる子供』に、その疾患が遺伝することはない」と、三つめの道を示す。田中優美清春香菜が自分の細胞から田中優美清秋香菜を身ごもったときの手術を行ったのも博士である。先に彼女へ余命を告げた病院の医師とは別の人物として書かれる。
ココが連れている3歳(2017年)の子犬。鳴き声しか出さず、武には「ぺぺ」「ポポ」と名前を間違えられ続ける。プロローグでは、着ぐるみの尻尾にかじりつくココの、そのお尻にかじりついて現れる。つぐみ編の結末では、ベッドの下で動かなくなり、口にテラバイトディスクをくわえていた。ココ編の2017年では、潜水艇から海に飛びこんで深く潜り、海底の武のそばにあったディスクをくわえ、IBFへ泳ぎ着いて、通路に倒れたココを見つける。海面に浮かんだピピを回収したのは田中優美清春香菜で、空の記憶が2034年へ渡ったのはこのディスクによる。地の文は動かなくなったピピを見て電気仕掛けの子犬だったのではと考え、エピローグで空がスイッチを入れて動かす。作品の最後の場面で、何もない空中に向かって吠え、そこに誰かがいることを最初に知らせるのもピピである。
つぐみが服の胸元に入れて持ち歩く、灰色の毛のジャンガリアンハムスター。名前はつぐみが「チャーミングだから……チャミ」とつけた。武は「ネズミ」と呼びたがっては「ネズミじゃなくて、チャミ!」と直される。4日目、水没した最下層に取り残されたチャミを、武が水深51メートルまで潜って連れ戻す。5日目、つぐみに握り潰されるが、しばらくして生き返る。以前つぐみの手に噛みついて血を浴び、「私と同じになった」からだという。一方で作中は、キュレイウイルスは「種の壁を越えて伝染することはあり得ない」とも説明しており、この食い違いは解かれない。ココ編では、つぐみが子どもたちを施設に預けたあと、手元に残ったのはチャミだけだったと語られる。
LeMUのマスコットで、レミュール(キツネザル)の着ぐるみ。武や少年は見た目から「タヌキ」と呼ぶが、マスコットは一貫してこの一種類である。プロローグで武が係員に尋ねるかどうかで、「キツネザル」まで教わるか、「みゅみゅーん」という名前だけを耳にするかが分かれ、翌日に売店でぬいぐるみを探す場面の書き方もそれに合わせて変わる。2017入口の近くでココとピピに尻尾をかじられ、武に小声で助けを求めた着ぐるみは、のちにココが声を覚えていて「あのレミュールの着ぐるみを着てた、人?」とつぐみに尋ねる(つぐみは認めも否定もしない)。武も4日目、つぐみから同じパンチを受けて「(あれは、つぐみだったの……ううっ!?)」と思い当たる。2034女子更衣室で少年に着ぐるみを着せた若い女性の声が誰なのかは、明かされない。
2017IBFの端末から聞こえてくる、インゼル・ヌル管制室の声。「こちらインゼル・ヌル管制室、海上保安庁特救隊本部」と名乗り、救難隊を向かわせること、要救助者の場所と人数を知らせることを求め、救助の段取りを淡々と伝える。名前も人数も書かれない。閉じ込められた人々にとって、外の世界と手続きを代表する唯一の声である。ココ編では、この救助で「要救助者」として数えられたのが田中優美清春香菜・桑古木・田中陽一の三人だったことが後に明かされ、ココが取り残された理由になる。
プロローグと1日目には、名前が出る前の人物がまとめて「係員」として現れる。ベンチで待つ少年に声をかける白いユニフォームの案内係は2034田中優美清秋香菜、加圧室でドレス姿で説明をしていた係員は2017茜ヶ崎空、事故のあとに合流するユニフォーム姿の係員は2017田中優美清春香菜で、いずれも名前が出たところで呼び名が切り替わる。一方、通路で武に応対し、倒れた者を救護室へ運ぶ女性の係員、事故が起きたとき避難を叫ぶ係員、2034年に田中優美清秋香菜とは別のユニフォームを着ていた係員は、誰なのか作中からはわからない。