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用語集 — Ever17 -the out of infinity-

『Ever17 -the out of infinity-』に出てくる施設・組織・設備・ウイルス・概念・言葉と、ゲームの構造を解説します。記述はドリームキャスト版(2002年)の内容に基づき、Xbox 360版以降のリメイク系統とは細部が異なります。▼ネタバレ詳細には真相や結末まで含まれます。末尾の「ココ編の核心」には、見出しの語そのものが物語の仕掛けに触れるものを集めました。タグをクリックするとカテゴリを絞り込めます。

施設・フロア
LeMU 施設・フロア

東京都駒ヶ原諸島M島の沖合16キロの海に沈む海中テーマパーク。洋上の人工島インゼル・ヌルの下に3つの層があり、客はエレベーターで降りて海の中を歩く。物語のほとんどがここで進む。

詳細
名前は表向き、幻の大陸レムリア(LEMURIA)にちなむとされる。しかし空は「実際には『Leiblich Medizin』と『Utopie』の頭文字を取って『LeMU』と命名されたんだそうです」と明かす。運営会社の筆頭株主である製薬会社の社名と、「理想郷」の合成である。武視点の序盤でも、田中優美清春香菜が「テーマパークであると同時に、クローズド・スペースプラントのテストモデルの側面も、このLeMUは持ってるの」と言う。真下には同じ製薬会社の研究施設IBFが隠されていて、LeMUはその上に乗っている。所在地の島の名が「M島」と伏せられているのも特徴である。
作中の言葉
空「もしも、私の画像だけではなく、このLeMUの一切合切がすべてRSDによる幻影だとしたら……どうしますか?」(ココ編、月の問答の途中で)
インゼル・ヌル 施設・フロア

LeMUの真上に浮かぶ人工島。係員の説明では、ドイツ語で「インゼル」は島、「ヌル」はゼロ。船着場や管理棟、ホテルがあり、ここが地上階「ゼロ・フロア」にあたる。

詳細
事故のあとは、たどり着けば助かる場所、つまり脱出の目標になる。LeMUを統括するレミの中央演算処理装置(マスター・スパコン)もここにあり、「空の頭脳は浮島にある」という理解のもとになる。ただし空の記憶は海の中のヒンメルに蓄えられていて、LeMUが沈めば失われるのはそちらだと、あとでわかる。船着場の石碑には「天国はどこにある?」「空の上と、あなたの足元に……」と刻まれている(→石碑の銘)。ゲーム内の綴りは Insel null。
エルストボーデン 施設・フロア

LeMUの1階で最上層。水面下17メートル。客が最初に降り立つフロア。

詳細
事故で一部の階段を残して完全に浸水し、地上へ戻る道がまず断たれる。優編の結末の脱出では、エルストボーデンの表示が目に入ったところで「あと17mだ!」と、地上までの最後の区間が数えられる。ゲーム内の綴りは Ersteboden(正規のドイツ語なら Erster Boden と分けて書くところを1語で綴る)。
ツヴァイトシュトック 施設・フロア

LeMUの第2層。水深34メートル。エレベーターホール、倉庫、会議室、売店などがある。

詳細
事故のあと、閉じ込められた人々が暮らす階になる。3日目、空が「ツヴァイトシュトックの倉庫、圧力制御用の配管に異状があります」と告げ、倉庫の浸水事故が起きる。終盤は浸水がこの階まで迫る。武は「ツヴァイトシュトックからだとしても水面下34m、ビル10階建て相当になる」と数える。ゲーム内の綴りは Zweitestock(正規なら Zweiter Stock)。
ドリットシュトック 施設・フロア

LeMUの第3層で最下層。水深51メートル。発電室や、浸水で切り離された隔離区画、開かない扉「ヒンメル」がある。

詳細
各階の間隔は17メートルで、空は「フロアをひとつ下りれば、17m深くなります」と説明する。「この下には何もない」という前提は終盤で崩れ、真下の水深119メートルの海底にIBFがあることがわかる。3階の隔離区画にあるコスミッシャー・ヴァルが完全に浸水するのが、逃げ場が減っていく節目として描かれる。ゲーム内の綴りは Drittestock(正規なら Dritter Stock)。
ハウプトプラッツ 施設・フロア

LeMUの中央を貫く巨大な円筒部。「中央広場」とも訳され、浮島へ直通するエレベーターの基部になっている。

詳細
脱出の手段としていつも最初に挙がるが、最後まで使えない。優編の6日目、少年は取りうる手段を「1:ハウプト・プラッツ(中央広場)のエレベーターを使用する。」「2:館内に12箇所設置されている非常階段を登る。」と数え上げる。通信の復旧、送風機以外の排水、潜水艇といった手段にもすべて但し書きが付き、「現時点では、脱出の望み無し」という結論になる。空編では、エレベーターのチューブの高さが51メートルと示される。
中央制御室 ちゅうおうせいぎょしつ 施設・フロア

館内の状況を把握するための部屋。扉にはドイツ語で Kontrollzentrum と書かれている。

詳細
閉じ込められているあいだの作戦本部になり、レミへの接続もここから行う。
救護室 きゅうごしつ 施設・フロア

館内の医務室。扉の表示は Rettungsstation。大型の診断装置L-MRIが置かれている。

詳細
真下に医療用の加減圧室がつながっている。負傷者や体調を崩した者はここで手当てを受ける。沙羅編の終盤、水没した救護室の天井近くに残った空気だまりで、少年は「ここは、今4.5気圧なんだ」と言い、長くいると酸素中毒や窒素酔いになると警告する。IBFの約12.5気圧とは別の数字である。
ヒンメル 施設・フロア

ドリットシュトックにある、開かない扉。扉には HIMMEL と刻まれているだけで、中について何の説明もない。ドイツ語で「天国」を意味する。

詳細
空によれば、ドイツ語で「空」、それに「天国」。空の名そのものであり、中には空の記憶を蓄える装置があり、さらにIBFへ降りる唯一の通路でもある。空の演算装置(頭脳)は浮島のスパコンにあるが、LeMUで起きた出来事の記憶はヒンメルに蓄えられていて、LeMUが沈めば「もう二度と、私達の知っている空には逢えなくなるの」。ただし武が「ヒンメルに、空の頭脳も、心も、あるってことか!?」と言う場面もあり、作中の言い方は揺れている。6日目、館内には「Öffnen Sie die Tür von HIMMEL.」(ヒンメルの扉を開けてください)というアナウンスが流れる。船着場の石碑「空の上と、あなたの足元に……」は、この扉の名に掛かっている。少年視点の空にとっては「その扉は私の管轄外なのです」という場所で、優編では、ココがこの扉の向こうへ消えて、そのまま戻らない。
発電室 はつでんしつ 施設・フロア

3階にある自家発電の設備。扉の表示は Kraftwerk。海底の熱水噴出孔からくみ上げた高温の水の熱で発電機を回している。扉が熱い。

詳細
停電を直す作業の場で、少年視点では、発電機の修理中に少年がバランスを崩して発電機の上から落ち、けがをする。熱水噴出孔の水深について、田中優美清春香菜は「水深100m」と言うが、本人が「新人マニュアルからの受け売り」と付け足しており、空の説明ではLeMUの下、水深119メートルの海底である。ココ編で少年は、自分が発電室の扉の熱さに気づいたのも、発熱する部品を月明かりと見間違えたのも、赤外線が見える目のせいだったと振り返る(→赤外線視力)。
圧力調整室(パイプ部屋) あつりょくちょうせいしつ 施設・フロア

多重隔壁の中の圧力を調整する配管が走る部屋。館内でここだけネームプレートがなく、武は「あえて呼ぶなら、圧力調整室、とでも言うのだろうか」と名付ける。

詳細
3日目、この配管の異常が倉庫の浸水事故につながる。配管の異常や安全バルブの開放は停電の原因にもなる。武視点の4日目には、水没した非常通路の先へチャミを救いに潜る入り口にもなる。
カルセル・デルフィーネ 施設・フロア

イルカを模したメリーゴーランド。数十頭のイルカが並ぶアトラクション。

詳細
空が「カルセル・デルフィーネに。私、あそこが好きなんです」と言う場所で、閉じ込められているあいだ何度も集合場所になる。空編の終盤には「カルセル・デルフィーネの部屋に入って、次の指示を待ってください」という指示が出る。レミのOSが動いていることを示すアイコンも2匹のイルカである。ゲーム内の綴りは Karussell Delphine(イルカの回転木馬)。
レムリアニッシュ・ルイーネ 施設・フロア

沈んだ大陸レムリアを模した遺跡型のアトラクション。中は迷路で、深海魚のホログラムが泳ぐ。奥には、折れたオベリスクと日輪のレリーフが並ぶ「太陽の神殿」がある。

詳細
人工物であることは最初から明らかだが、田中優美清秋香菜は「ライプリヒ製薬は『その遺跡こそレムリアが存在したことの証だ』みたいなことを、まことしやかに、それとな~く流布してるの」と指摘する。優編では、田中優美清秋香菜が太陽の神殿で膝を抱えて座り込み、母が書いた「第3視点のルーツはレムリアにある」という論文を「本当は、なんにも関係なんてないのに」と打ち明ける(→レムリア)。ココ編の2034年の側では、闇の向こうに赤く光る少女の姿が現れる場所でもある(→幻の少女)。ゲーム内の綴りは Lemurianische Ruine。
クヴァレ 施設・フロア

クラゲを模したゴンドラのアトラクション。チューブの中をフロアに沿って周回する。

詳細
終盤は移動や待避の手段として使われる。つぐみ編の5日目の夜、つぐみは武をクヴァレに連れ出し、自分の過去を語る。ココ編でも、このゴンドラの中でつぐみがキュレイウイルスと赤外線視力のことを武に打ち明ける。ゲーム内の綴りは Qualle(ドイツ語で「クラゲ」)。
コスミッシャー・ヴァル 施設・フロア

3階の隔離区画にある「宇宙クジラ」の部屋。何もない虚空に巨大なクジラが浮かぶ演出の部屋で、「それはクィクィ星へと向かう途中でのことだった。」と始まるクジラの旅の物語が流れる。

詳細
武視点でも少年視点でも、5日目にこの部屋が完全に浸水したと告げられ、3階の逃げ場が失われていく節目になる。ココ編の2034年の側では、ココがこの部屋で少年の前に現れて第3視点とブリックヴィンケルについて語り、その直後に部屋が浸水して、少年が「視点」になる。ゲーム内の綴りは Kosmisher Wal(正規のドイツ語なら Kosmischer Wal で、c が抜けている)。
EI(アイ) 施設・フロア

卵の形をした中性浮力式のエレベーター。ワイヤーではなく、床下のバラストタンクで浮力を調節して上下する。ドイツ語で「卵」。

詳細
3階の隔離区画へ出入りできる唯一の手段で、一度にひとりしか乗れない。この制約が、誰がどこにいたのかという疑問を生む。仕組みの説明には「物体にかかる浮力は、その物体が押しのけた液体の重さに等しい」というアルキメデスの原理が引かれる。終盤、空が「倉庫の隔壁が欠損。アイのシャフトにも亀裂が生じています。危険な状態です」と告げ、崩壊の合図になる。ココはこれを「アイ乗り場」と呼ぶ。
憩いの間 いこいのま 施設・フロア

中央に海とつながった池のある広場。ベンチのある休憩所で、広場の端に4体の石像が立つ。

詳細
池が干上がったあとは「池跡」と呼ばれ、みゅみゅーんのレジャーシートを広げてピクニックをする場所になる。4体の石像には、17年をまたぐ手がかりが刻まれている(→4体の石像)。
加圧室 かあつしつ 施設・フロア

浮島の側にある入館用の部屋。客はここで17分かけて6気圧まで加圧され、耳抜きのしかたと音声変換機の説明を受けてから海の中へ降りる。

詳細
緊急の場合でも、客はいったん浮島の加減圧室にとどまる必要があると説明される。海から上がっても、すぐには外に出られないということである。17分、6気圧、17メートルごとの階と、「17」という数は入館の場面から繰り返し現れる(→17年前)。
加減圧室 かげんあつしつ 施設・フロア

救護室の真下にある医療用の気圧調整室で、再圧チャンバーとも呼ばれる。減圧症の治療(高圧酸素療法)ができる。

詳細
閉じ込められているあいだは武の寝室になり、ベッドが1床ある部屋として寝場所の割り振りにも関わる。武視点の3日目の夜、このベッドにパンくずが落ちていて、のちにつぐみの飼うチャミの仕業とわかる。IBFへ降りる前後にも同じ語が使われ、LeMUからIBFへの加圧に約1時間、IBFからLeMUへの減圧に12時間かかる。この12時間が、脱出の最後の制約になる。
隔離区画 かくりくかく 施設・フロア

3階の、浸水で切り離された区画。EIでしか出入りできない。

詳細
ひとりずつしか行き来できないため、誰がそこにいたのかを確かめにくい。つぐみはしばしばこの区画の先へ姿を消し、空が「小町さんは、隔離区画の先をゆっくり移動しています」と報告する。宇宙クジラの部屋、コスミッシャー・ヴァルもこの区画にある。
ドライエリア 施設・フロア

浸水しておらず、人が通れる範囲を指す言葉。空が館内の地図で示す。

詳細
生存者がいるのは第8区画で、その対角線上、およそ100メートル先の第4区画も無事だと空は説明する。ドライエリアは時間とともに縮んでいくので、残された猶予を測る目安になる。少年視点では「ベッド(らしきもの)は、ドライエリアに4床ある。」と、寝る場所まで数えられる。
非常階段・緊急気密扉 施設・フロア

館内に12本ある非常階段と、その最上部にある浮島直結の脱出口。表示板にはドイツ語で ausgang(出口)、Öffnen(開く)と併記されている。

詳細
脱出の手段として数えられるが、使える階段は次々に失われ、最後まで頼りにならない。つぐみ編の6日目、武とつぐみは、事故の日に警報が鳴った理由を、IBFから逃げたスタッフが減圧の手続きを踏まずに緊急通路を開けたからだと推理する。沙羅編の結末では、少年と沙羅が水深34メートルを泳ぎ切り、浮島側の非常用フラップから上陸する。
タツタ売店 施設・フロア

潜水艇を象った軽食の売店。名物はマグロタツタサンド。

詳細
閉じ込められたあとは食料庫として欠かせない場所になる。武は「Subs(サンドイッチ)だからSubmarine(潜水艇)の店ってのはただの駄洒落か?」と首をかしげる。
IBF イーベーエフ 施設・フロア

LeMUの真下にある生物学研究所。

詳細
正式名は Institute für Biologische Forschung。LeMUを運営する会社の筆頭株主、ライプリヒ製薬が細菌やウイルスの研究のために先に建てた施設で、LeMUはその上に乗った形になる。水深119メートルの海底にあり、内部の気圧は約12.5気圧。診療室や潜水艇の発着プール、端末室があり、最新型の高圧酸素治療装置(カプセル・ポッド)が置かれている。ココは「LeMUのね? ずーっとずーっと下んとこにね? いーべーえふって言う研究所があるんだ」「ココのパパ、そこの研究員なの」と武に打ち明け、「このことは、みんなには内緒ね?」と付け加える。6日目、ココのティーフ・ブラウ発症をきっかけに、武たちはヒンメルを抜けてここへ降りる。来館記録には「IBF来館ゲスト登録:八神ココ」とあり、ココが5月1日より前にここを訪れていたことがわかる。診療室には白衣の研究員がひとり生き残っていて、まもなく息を引き取る。ココ編では「娘を……頼む……ぞ」と言い残す。武視点ではこの研究員をココの父と思い込むが、ココ編で田中優美清春香菜の父、田中陽一だったと明かされる(→T.Y.)。管制官の呼びかけには「第3IBF」という呼び方も出てくる。
組織・学校
ライプリヒ製薬 らいぷりひせいやく 組織・学校

日本とドイツの合弁の製薬会社。本社はフランクフルトで、役員の大半はドイツ人。LeMUを運営する株式会社レミュウの筆頭株主。

詳細
綴りは Leiblich Medizin。LeMUの名そのものがこの社名から取られていて(→LeMU)、テーマパークの真下の研究施設IBFでウイルスの研究を行っている。2000年、レミの開発に加わっていた田中陽一は、この会社がティーフ・ブラウを研究開発していることを知り、証拠を集めて公表しようとして身柄を拘束された。家族には「海へ転落して行方不明」と伝えられている。つぐみの居場所を突き止めて追ってきたのもこの会社で、2017年に浮島へたどり着いたつぐみを待っていたのは「ライプリヒの連中」だった。ホクトと沙羅も、この会社の施設で引き離されている。つぐみ編で武は、会社が事故そのものを隠蔽しようとしているのではないかと疑う。ココ編の最後には「ライプリヒ製薬、ティーフブラウウイルス蔓延に関与か!?」「一両日中にも強制捜査へ」と報じられる。
関連作
同じ社名と会社の説明(日独合弁、本社フランクフルト)は『Remember11』にも出てくる。ただしEver17の作中に、両作の出来事を結びつける記述はない。
鳩鳴館 きゅうめいかん 組織・学校

松永沙羅が通う女子高と、その系列の女子大。2年生になると「トクシ」と呼ばれる校外行事がある。

詳細
2017年の田中優美清春香菜は鳩鳴館女子大に進んだばかりで、ゴールデンウィークの短期アルバイトとしてLeMUで働いている。2034年の田中優美清秋香菜は、鳩鳴館女子高をこの3月に卒業したばかりで、沙羅の先輩にあたる。17年を隔てて、同じ学校の生徒が同じ場所に現れることになる。同名の学校は『Remember11』にも登場する。
ハッキング同好会 組織・学校

田中優美清秋香菜が鳩鳴館女子高で掛け持ちしていた同好会のひとつ。

詳細
少年視点の3日目、田中優美清秋香菜の高校時代の回想に出てきて、彼女が後輩の沙羅をこの同好会の部室に誘う場面が語られる。「さあ、どうぞ? ここが、我らが『ハッキング同好会』の部室よ」。部室には「くまんばぴ」のヌイグルミなど、何に使うのかわからない物が並ぶ。沙羅はクラッキングコンテスト(合法の暗号破りの競技)に出ていた経歴を持ち、レミへの侵入で腕をふるう。
海上保安庁特殊救難隊 組織・学校

終盤に外から通信してくる救助の側。略して「特救隊」。

詳細
民間サルベージ機関の深海潜水艇に救難隊員が同乗する形でやってくる。ココ編の2017年の側では、管制官が「LeMUの隔壁強度は、既に限界を超えている」と告げ、到着は約1時間後だと言う。救助隊が診療室から回収したのは田中優美清春香菜と桑古木涼権、それにすでに亡くなっていた研究員の3人で、ポッドを抜け出していたココは見落とされる。
設備・技術
飽和潜水仕様 ほうわせんすいしよう 設備・技術

内部の気圧を外の水圧と同じかそれ以上に高めて、外殻が水圧に押しつぶされないようにする設計。LeMU全体がこの方式で建てられている。

詳細
裏を返せば、内圧が抜けた瞬間から施設は潰れる側に回る。事故で6気圧の混合ガスが外へ抜けたことが、完全圧潰までの時限を作った。IBFも同じ方式で、救助に来る潜水艇も「飽和潜水仕様の中性浮力潜水艇」である。
混合ガスと気圧 設備・技術

館内を満たす呼吸用の気体。酸素・窒素・ヘリウムの3種類でできていて、事故の前の館内は約6気圧に保たれていた。

詳細
事故で館内は1気圧まで下がり、空は「酸素濃度:22%、窒素濃度:75%、ヘリウム濃度:3%、気温:24度……」と組成を読み上げる。作中の気圧の数字は場所ごとに違う。入館時の加圧は6気圧、減圧症の治療では約3気圧、IBFの内部は約12.5気圧、沙羅編の終盤に水没した救護室の空気だまりは4.5気圧である。
耳抜き みみぬき 設備・技術

加圧のとき、鼻をつまんで鼓膜を守る動作。加圧室で係員が指示する。

詳細
ココ編の最後、石碑のかけらを抱えて海に潜る場面では「『天国』を抱えているから、耳抜きができない。」「痛みにじっと耐える。」と書かれる。両手がふさがっていることが、そのまま痛みとして返ってくる。
音声変換機 おんせいへんかんき 設備・技術

耳に付ける小指の先ほどの装置。高い気圧の中で変わってしまう声を補正し、鼓膜を気圧差から守る役割もあると説明される。

詳細
空の姿を見せる仕組みの一部でもある。片耳を外すと空が見えなくなり、両耳を外すと空は消える。これが、空が生身の人間ではないと気づく一番の物証になる。RSDが目に像を描き、音声変換機が声の出どころを作ることで、空は「そこにいる」ように感じられる。
圧力隔壁・安全バルブ あつりょくかくへき 設備・技術

海水と館内を隔てる多層の壁と、気圧が下がったときに開く弁。壁の中を圧力調整用の配管が走っている。

詳細
停電の主な原因は、気圧の低下にともなう安全バルブの開放だった。空は2日目に隔壁の限界の予測を告げ、終盤の「倉庫の隔壁が欠損」という報告が、崩壊の最終段階の合図になる。
高圧送風機 こうあつそうふうき 設備・技術

浮島にある、館内へ高圧の混合ガスを送り込む装置。水を押し出して館内の気圧を高めるのに使う。

詳細
館内に残るわずかな排水ポンプだけでは排水が間に合わず、本命はこの送風機だが、浮島にあるので浮島に行けない限り使えない。優編では「B:高圧力送風機を使用する以外の、排水手段を見つける。」という手段に「空いわく、『他の方法など、ありえない』」と但し書きが付く。その「他の方法」になるのがサイフォン効果である。
サイフォン効果 設備・技術

水位の差だけを使って、管を通して水を移す現象。

詳細
設備に頼らない水の動かし方として、優編の脱出に使われる。少年が「このような現象のことを『サイフォン効果』って言うんだ」と説明する。ココ編の2034年の側では、ココが少年に「なっきゅと、サイフォン効果を使って脱出したこと……」と、優編で起きたことを思い出させるように言う。
アルキメデスの原理 設備・技術

「物体にかかる浮力は、その物体が押しのけた液体の重さに等しい」という原理。EIが上下する仕組みの説明として出てくる。

詳細
終盤、武が「アルキメデスの原理って知ってるか?」と、同じ原理を持ち出す。沈んでいく潜水艇を浮かせるために、自分が船の外へ出るという決断の説明として使われる。つぐみ編の結末で、武は「俺は、死なない」と言い残してエアロックから海へ出て、「俺の姿は海に溶け、やがて混ざり合って……ひとつになった。」と書かれたまま、生死を明言せずに終わる。
中性浮力・バラストタンク 設備・技術

浮力と重さを釣り合わせて、好きな深さにとどまる技術。EIは床下のバラストタンクでこれを調節して上下する。

詳細
救助に来る潜水艇も「飽和潜水仕様の中性浮力潜水艇」である。緊急避難用の射出式耐圧ポッドは「すべてなくなっている」とされ、事故の日の避難ですべて出払っていたことがわかる。残された者には、潜水艇で逃げる道もない。
Tiefe(深度アナウンス) 設備・技術

エレベーターの昇降のときなどに流れるドイツ語のアナウンス。Tiefe は「深さ」で、「Tiefe 50m.」のように深度を読み上げる。システムの再開を告げる「System wiederaufnahme.」なども流れる。

詳細
IBFへ降りる場面では「Tiefe 70m……」「80m……」「90m……」「Tiefe 119m.」と、LeMUより深い数字が読み上げられる。終盤、同じ形式のアナウンスが「Drei Minuten vor der Implosion.」(圧潰まで3分)のように、圧潰までの残り分数を数え始める。飾りのように流れていた外国語が、そのまま秒読みに変わる。5分前は、場面によって Fünf とも Funf とも表記される。
レミ(LeMMIH) 設備・技術

LeMUのすべての電子的なシステムを統括・管理するメインコンピューター。館内の管制、生体反応の検出、施設の状況把握まで受け持つ。

詳細
正式には Leiblich Medizin: Multiverfahren Intelligent Hirn System の頭文字。綴りを逆から読むと HIMMEL になる。開発が始まったのは1992年9月16日で、空のRSDシステムが動き始めたのはその11年後の4月。空は「私は、レミの末端に位置するプログラムに過ぎません」と言い、自分がレミの一機能として組み込まれていると認める。データベースには機密情報の層(Cレベル)があり、そこへの侵入が少年視点の調べものの軸になる。空編とココ編では、ヒンメルの端末で管理者専用のメンテナンスモードが開く。
LM-RSDS-4913A 設備・技術

茜ヶ崎空が名乗る「正式名称」。

詳細
空が人ではなく製品であることを示す型番。空編の5日目には、同じ名を名乗るもうひとりの空が「私は『LM-RSDS-4913A』、茜ヶ崎空」と言って現れる。終盤にはヒンメルの端末に「LM-RSDS-4913A 茜ヶ崎空」という表示が出て、それを写し取ることが、空を連れ出すことになる(→テラバイトディスク)。
RSD 設備・技術

半導体レーザーで網膜に直接像を描く表示装置。レティナルスキャニングディスプレイ(網膜走査型の表示装置)の略で、表示部を持たない。

詳細
空の姿はこの装置によって見えている。空は「RSDによって、人の形を映しているに過ぎないのです」と言う。近づきすぎると「RSD映像の表示限界が……」と、像が保てなくなる。空は武に「もしも、私の画像だけではなく、このLeMUの一切合切がすべてRSDによる幻影だとしたら……どうしますか?」と問いかける。空編の終盤には、空が「RSDのレーザーの照射レベルを少しいじらせてもらいました」と打ち明ける場面がある。沙羅編の沙羅は「空が、RSDだってわかった後は、私の監視役なんじゃないかって、疑ったりもしたんだ」と言う。
ホログラム 設備・技術

光の干渉を記録して、立体の像を再生する技術。館内のアトラクションや土産物に使われている。

詳細
空によれば、ホログラムは写真と違って「部分に全体が宿る」もので、小さなかけらからでも元の全体像を再生できる。沙羅編では、使われる光が「850nm前後の赤外線」であると説明され、赤外線が見える目を持つ者にしか見えない像がありうることにつながる(→ホログラムペンダント)。声の出どころを作る3Dサウンドとともに、空の存在感を支える技術のひとつとして語られる。
PDA 設備・技術

携帯型の総合通信端末。プロ・ダイバーズ仕様の完全防水で、静電充電に対応する。

詳細
プロローグで取り出したとたん「圏外」と表示され、閉じ込められたことを最初に告げる。館内ではもっぱら時計の代わりに使われ、武視点の4日目には電池が切れて、時刻を知る手段がひとつ失われる。
レミデータベースCレベル 設備・技術

レミのデータベースの中で、機密情報が収められた層。入るには、名前とパスワードを入力する認証画面を通らなければならない。

詳細
認証画面の欄はドイツ語で Name と Paβwort。少年視点では田中優美清秋香菜がここへの侵入を試み、名前の欄には、彼女が母の名と信じている「YUKIE TANAKA」が書き込まれている。拒否されるときの文言は「アクセス不可/名前またはパスワードが違います」と「アクセス不可/現在この名前ではログインできません」の2種類がある。ココ編で田中優美清秋香菜は「間違ってたのは、パスワードじゃなくて……『名前』だったのよ」と気づく。
ハッシュ値と暗号強度 設備・技術

侵入をめぐる技術用語。優編の4日目、沙羅と田中優美清秋香菜が、ハッシュ値、暗号強度、ソーシャルエンジニアリングといった言葉を次々に説明する。

詳細
68bitの鍵でも「2垓9514京7905兆1793億5282万5856通り」になり、LeMUのセキュリティは沙羅の見積もりで136bit。総当たりでは絶対に破れないことを数字で示す一方、パスワードの候補そのものは、計算ではなく、紙を横から見るという気づきで手に入っている(→海月の虚空に秋涼し時鳥)。田中優美清秋香菜は自分たちの行為を「情報窃盗罪っていう立派な犯罪なの」と言い、作中では「クラック」と「ハッキング」は別物だとも説明される。
思考修復処理・機密保守命令 設備・技術

空の内部の処理にかかわる言葉。空は自己診断の結果として「若干の思考ノイズ」が見つかったことなどを、事務的に報告する。

詳細
思考修復処理は「過去の履歴に遡って、学習効果をリセット」する処理で、実際には人格の巻き戻しにあたる。止めるにはシステム管理者権限が要り、空自身の意思では止められない。空編の5日目、武は巻き戻されようとする空に「俺の恋愛心理学の生徒は、茜ヶ崎空……お前だよな?」と呼びかける。恋愛心理学は、武が空に冗談半分で講じていた「授業」の名である。機密保守命令は空に課された沈黙の制約で、6日目につぐみが「さすがに人工知能の機密保守命令も解除されたか……」と言うまで、空は知っていることを話せなかった。同じころ、つぐみは空にチューリング・テストを課し、「あなたが本物のAIだってことはよくわかったわ」と言う。少年視点では、沙羅が空に「命令の優先順位を入れ替えるパッチを当てただけ」と言う場面がある。
生体反応検出装置 設備・技術

人の体温を赤外線で捉えて、館内に何人いるかを数える装置。空は「人間は恒温動物ですから、常に体が36度前後に発熱しているでしょう?」と仕組みを説明する。

詳細
表示される人数と、その場にいるはずの人数が食い違う場面が繰り返し置かれる。少年視点では「生体反応:7」「生体反応:3」といった数字が現れ、「この数字『5』は、閉じ込められたぼくらの人数と一致している」とも書かれる。RSDで映っているだけの空は数に入らない。表示と実際の顔ぶれのずれは、この物語の大きな謎のひとつになる。ココ編の2034年の側で少年の前に現れるココは、生体反応に数えられない。
ウイルス・医学
減圧症 げんあつしょう ウイルス・医学

急に気圧が下がったとき、血液に溶けていた窒素が泡になって、筋肉や静脈にとどまる症状。事故の直後にまず心配される。治療は加減圧室での高圧酸素療法。

詳細
最初の浸水のあと、ココが減圧症を起こす。治療では部屋を密閉して高濃度の酸素を入れ、約3気圧までゆっくり加圧する。浮上できる手段が見つかっても一気には上がれないのはこの症状のためで、IBFからLeMUへ戻るには12時間の減圧が要る。つぐみ編と空編の武は、その手順を待たずに緊急脱出のレバーで減圧を強行する。
カプセル・ポッド(高圧酸素治療装置) ウイルス・医学

IBFの診療室にある最新型の治療装置。中は高圧の酸素で満たされる。

詳細
田中優美清春香菜は「使い方によっては、ハイバネーションすら可能のようだけど……」と言う。ハイバネーションは冬眠のことで、少年の説明では「人間の体を、6度から7度ぐらいの低体温状態に保って、心拍数と呼吸数をギリギリまで減らす」。つぐみ・空編のバッドエンドでは、体調を崩した少年がポッドに入り、眠ったまま生体反応が止まる。ココ編では、数日早く感染していたココに抗体が効かず、武はココをポッドに入れ、「ココの隣のポッドに、俺が寝る」と自分も眠る。ポッドは17年のあいだトラブルひとつなく動き続け、2034年に開けられる。
L-MRI ウイルス・医学

救護室にある大型の診断装置。レーザーの走査でさまざまな病状を診断できるが、はじめは故障している。

詳細
修理されたあとは、感染症の診断と血縁の鑑定の両方に使われる。ココの症状はこの装置でティーフ・ブラウと診断され、表示には「Tief Blau 2017-Rev.17」と出る。キュレイの保有者を示す「Cure.Virus-P-Carrier」という表示もこの装置による。ココ編の2034年の側では、少年と沙羅が「99.99999%の確率で」2親等以内の血縁関係にあるという結果が出る。
全生活史健忘 ぜんせいかつしけんぼう ウイルス・医学

社会的な知識は保たれているのに、名前や生い立ち、家族や友人のことなど、自分の生活史のすべてを思い出せない状態。少年の症状として、空がこの病名を挙げる。

詳細
追想障害(Erinnerungsstörung)のひとつとされ、武視点の1日目の説明には記銘障害、逆行健忘、前向健忘なども並ぶ。少年自身は「ぼくは、ぼくの歴史に関する記憶だけを失ってしまったらしい」と受け止めるが、記憶がないのは脳の障害のせいではなかった。2034年5月1日15時17分、この世界の外にある「視点」がホクトに重なり、ホクトは記憶を失ってその視点になった、と田中優美清春香菜は説明する(→ブリックヴィンケル)。武視点の「少年」、2017年の桑古木涼権もまた、自分の名前を思い出せないまま過ごしている(→「少年」)。
ティーフ・ブラウ ウイルス・医学

致死率の高いウイルス。かつて世界中で猛威をふるったが、10年前にWHO(世界保健機関)が根絶を宣言したとされる。略してTB。

詳細
根絶したはずのウイルスは、改変された株としてIBFに保管されていた。診断の表示は「Tief Blau 2017-Rev.17」。発症後の死亡率は85%以上、潜伏期間は2日から7日ほどで、鼻血、吐血、めまい、脱力、目からの出血といった症状が出る。2017年5月1日前後にIBFで漏洩事故が起き、6日目にココが発症する。武、田中優美清春香菜、桑古木涼権も感染していたことがわかり、つぐみの血から精製した抗体が打たれる。オレンジのアンプルは症状を一時的に抑えるだけで、治すことはできない。つぐみ自身が「TBの正確な感染経路は、私達にはわかってないんだから」と言うとおり、感染経路は作中で特定されない。ココ編の結末では、ウイルスは2017年から数年にわたって世界中に広がり、犠牲者は数千人とも数万人とも言われ、2019年ごろから鎮まっていったと語られる。田中ゆきえも2019年にこのウイルスで亡くなっている。
キュレイウイルス ウイルス・医学

作中で語られる、宿主の遺伝子を書き換えるウイルス。

詳細
説明では、レトロウイルスの一種で、自分のRNAの遺伝子を逆転写酵素でDNAに写し取り、宿主の遺伝子に潜り込ませる。感染した細胞はガン細胞のように分裂を繰り返す。ふつうは第17染色体のガン抑制遺伝子「p53」に撃退されるが、キュレイはそのp53にも変異を起こして働かなくする。すべての遺伝子が書き換わると、宿主は「キュレイ種」という新しい種に生まれ変わる。つぐみは12歳のときに感染し、5年で細胞がすべて入れ替わって「17歳のまま、決して老いることは、ないの」と言う。キュレイの保有者の血から作った抗体はティーフ・ブラウに効き、その抗体を打たれた者もキュレイに感染する。つぐみが抗体を出し渋るのは「一度キュレイになれば、戻れないの!」だからである。
食い違いと未解決
ウイルスは種の壁を越えないと説明され、ヒトにかかるのは「ヒト・キュレイウイルス」だけとされる。ところがつぐみ編の5日目、つぐみは自分の血を浴びたハムスターのチャミが「私と同じになった」と言う。この食い違いは作中で整理されない。ココ編の武についても、地の文は「あるいはキュレイウイルスがすでに、効果を発揮し始めたのかも知れない」と書いて「真相はわからない」と続け、武が感染していたのかどうかは決まらない。
キュレイ種・サピエンスキュレイ種 ウイルス・医学

キュレイウイルスにすべての遺伝子を書き換えられた者と、その者とヒトのあいだに生まれた子を指す分類。

詳細
キュレイ種の体には3つの特徴がある。テロメアの回復(老いも衰えもしなくなる)、自然治癒力の向上、赤外線視力。p53の働きを失ったため紫外線に極端に弱く、屋外ではおもに夜しか動けない。キュレイ種とサピエンス種(純粋な人間)のあいだの子は「サピエンスキュレイ種」となり、遺伝的に優性なサピエンス種の性質を受け継ぐ。老いない、治りが早いといったキュレイ種の機能は劣性遺伝なので、子には表れない。つぐみの子であるホクトと沙羅もキュレイの性質は受け継がず、赤外線視力だけを持っている。
未解決
ココ編の2034年の側で、少年は抗体でキュレイになったはずの田中優美清春香菜と桑古木涼権について「現在の優美清春香菜と桑古木は、完全なキュレイ種ではないということか?」と考えるが、「わかんないや……」で終わる。エピローグで彼らが日中の甲板にいることも、紫外線に弱いという設定とどう合うのかは説明されない。
赤外線視力 せきがいせんしりょく ウイルス・医学

赤外線が見える目の働き。INFRAVISION とも呼ばれる。ふつうの人間に見える光の波長は、380nmから780nmまでに限られる。

詳細
赤外線が見えると、物に触れずにその温度がわかり、光のない暗闇でも目が利く。温度を持つ物はすべて赤外線を出しているので、暗闇の中では人が光って見える。キュレイ種の第3の特徴で、つぐみが持ち、キュレイの性質を受け継がなかったホクトと沙羅もこの目だけは持っている。この目を持つ者とそうでない者とでは、同じ場所で見えるものが違う。少年が発電室の扉の熱さに気づいたこと、発熱する部品を月明かりと見間違えたこと、沙羅のペンダントの像が見えたことは、みなこの目による。
テロメアとp53 ウイルス・医学

細胞の老化とガンにかかわる生物学の用語。つぐみが自分の体について「テロメアは回復し続けるようになった……」と口にする。

詳細
テロメアは染色体の両端にある塩基配列で、細胞分裂のたびに短くなるため、細胞分裂の「回数券」とも呼ばれる。キュレイ種は体内でテロメラーゼという酵素を作り、失った回数券を何度でも継ぎ足せるので、老いなくなる。p53は第17染色体にあるガン抑制遺伝子で、遺伝子に異常があれば細胞分裂を止めたり、細胞の自然死(アポトーシス)に導いたり、傷ついたDNAを直したりする。キュレイはこれを働かなくする。地の文は「キュレイウイルスとは『体細胞のすべてをガン化させてしまうウイルスである』と言えなくもない」と言い換える。
キャリア ウイルス・医学

ウイルスの保有者を指す言葉。

詳細
武視点の5日目、つぐみは「私は、キャリアなの……」と明かす。発症した病人ではなく、キュレイウイルスを体に持っている者という意味である。つぐみ編の6日目、アンプルを配ると1本余り、ティーフ・ブラウにかからないつぐみがキャリアであることが、ほかの者にも知られる。L-MRIの表示は「Cure.Virus-P-Carrier」。ライプリヒ製薬が追っていたのも、この状態の人間だった。
オレンジのアンプル ウイルス・医学

透明な小さなカプセルに入った、オレンジ色の液体の薬。

詳細
ティーフ・ブラウの症状を一時的に和らげる薬だが、治すことはできず、4本しかない。つぐみ編の6日目、ピピが運んできた4本を配ると1本余り、つぐみだけが感染していないことが露見する。武はつぐみの血から抗体を取るため、最後のアンプルを床に叩き割ってほかの手を断つ。救護室の浸透注射器(拳銃のような形の注射器)と、抗生剤などを1本にまとめた混合アンプルは、これとは別の物である。
クローン法 ウイルス・医学

空の話に出てくる法律。2010年に改正公布され、それまで禁じられていた人間のクローン受精が認められた。

詳細
省庁の許可さえあれば、誰でもクローン受精による不妊治療を受けられる。手順は「培養した体細胞から核を抜き取り、別の、既に核を抜き取ってある卵細胞の中にそれを移植し、母体子宮内に着床させる」。武は「クローンはそれぞれ別々に成長して、別個の存在になるだろ?」と返すが、空は「でも、その由来は単一です」と言い、ここから遍在の話が始まる。
作中の出来事
心臓の病で余命3〜4年と告げられていた田中優美清春香菜は、2014年12月、自分の細胞核を自分の卵子に移植して自分の子宮に着床させ、2015年9月22日に田中優美清秋香菜が生まれた。「あなたは私の子供」「あなたは私の妹」「そしてあなたは……私自身」。ふたりは母と娘であり、双子と同じく同一の遺伝子を持つ。ココ編の2017年の側で、田中優美清春香菜が武に「私の、妹なの」「双子の、妹だから……」と打ち明けるのは、このことである。
概念・伝承
レムリア 概念・伝承

インド洋にあったとされる幻の大陸。LeMUの名の由来として案内される。イギリスの動物学者スクレーターが唱え、ドイツの動物学者ヘッケルは人類発祥の地だと主張した。

詳細
名の由来は表向きの話にすぎず、実際は製薬会社の社名と「理想郷」の頭文字である(→LeMU)。ココ編で武は「スクレーターの唱えた学説は、とっくの昔に否定されてるんだ」と切り捨て、同じ種類のキツネザルが離れた土地に住んでいることから唱えられた説だと説明する。同じ場面で田中優美清春香菜は「レムリア大陸は、太平洋にあったの」と言い、インド洋の説と食い違うが、作中では整理されない。優編では田中優美清秋香菜が、母が書いた「第3視点のルーツはレムリアにある」という論文を「本当は、なんにも関係なんてないのに」と否定する。
レミュール 概念・伝承

キツネザル(Lemur)のこと。アフリカ、マダガスカル島、アジア、インドネシアに点在して生息し、レムリア大陸説のきっかけになった動物。LeMUのマスコット「みゅみゅーん」はこのキツネザルの着ぐるみである。

詳細
プロローグで武が「タヌキが……」と尋ねると、係員は「タヌキじゃなくて、レミュール」「そ。レミュール。キツネザル」と教える。ココ編のエピローグでは、紫外線に弱いつぐみが、陽射しを避けるためにこの着ぐるみを着込んでいたことが語られる。
第3の眼 だいさんのめ 概念・伝承

開けば真の知恵がわき、万物を見通せるという「第3の眼」の伝承。少年視点の2日目、その生物学的な痕跡として「頭頂眼」と「松果体」が語られる。

詳細
一部の動物には、眼球に似た構造を持つ頭頂眼という器官が実際にあり、人間ではそれが退化して松果体(ショウカタイ)として残っている。俗に言う体内時計は、この松果体あってのものとされる。ヨガの「アジナー・チャクラ」、仙道の「丹光法」、密教の「虚空蔵菩薩求聞持法」、チベット密教の「天眼通」、3つの眼を持つヒンズー教の神シヴァも引かれる。伝承と生物学を同じ語の下に並べるこの話が、第3視点という概念の入口になる。英語では the third eye と表記される。
遍在(「Y」と「W」) へんざい 概念・伝承

空が語る、自己のあり方についての話。クローンの話から始まり、分かれた二つの自己は無関係な2本の線(W)ではなく、1点でつながった形(Y)をしている、という図式になる。

詳細
倉庫の事故があった3日目、空は武に語る(武視点とココ編の両方にこの問答がある)。「私は――遍在している」「同じ空間の中に、時間の中に、複数の私が存在できるのです」。「ここにいるあなたがAの道を歩んできたとしても、別の時間軸上では、Bの道を歩んできたあなたが存在するかもしれません」「ただ、Aの道にいるあなたは、Bの道にいるあなたのことを知りません」。そして「n次元的な存在が、n次元の全体像を把握する為には、n+1次元空間へと脱出する必要がある」と続ける。2次元から3次元へ出るとYの形が見え、武視点の同じ問答では、さらに3次元から4次元へ出ると「Ψ」の字の一部であったことに気づく、とも語られる。分かれた自分たちを同時に見るには、一段上の次元へ出るしかない。この理屈は、複数の視点と複数の結末を持つこの作品の組み立てそのものに重なる。ココ編の終盤、空は「私は存在しません」「しかし私は――遍在しています」と言って武と別れる。
0次元〜4次元 概念・伝承

点、線、面、立体、時空体という次元の整理。少年視点の優編で、田中優美清秋香菜の講義として示される。

詳細
「0次元」は点の世界、「1次元」は点の連続体で直線の世界、「2次元」は平面、「3次元」は立体、そして4次元は縦・横・高さに時間の軸を加えた時空体の世界。要点は、各次元の断面が一段下の次元になるという関係である。ココ編ではココが「4次元空間の中から、ココ達の世界を見下ろさなくちゃいけないの」「ナスカの地上絵は、地上にいても見えないよねぇ?」と言う。田中優美清春香菜は、XY平面上の点ABCと、それを見下ろす点Dのたとえを使って、2034年の世界を2017年のように見せかけた理由を説明する(→2034年5月1日の事件)。
月の問答 つきのもんどう 概念・伝承

ココ編で空が武に投げかける問い。満月の晩に月を見上げていて、目を閉じても月はそこにあると思うか。世界中の人間がいっせいに目を閉じたらどうか。

詳細
空は「私がお尋ねしたのは『観測せずに、月があるかどうかを確かめる方法は存在するか?』ということです」と念を押し、「人間が世界を認識する為には、五感のうちのいずれかを使う以外に方法はありません」「逆に言えば、視点こそが、世界を作っていると言えるかもしれませんね」と続ける。着地点は「私は……月と同じなのです」。見られることで存在する空自身のあり方を言い当てると同時に、「視点が世界を作る」という第3視点の話につながっていく。
不死の3種 ふしのさんしゅ 概念・伝承

「不死には3つの種類がある」「ひとつめは個体の不死」「ふたつめは記憶の不死」「みっつめは遺伝子の不死、だ」という整理。

詳細
2014年、心臓の病で余命3〜4年と告げられていた田中優美清春香菜に、病院で出会ったモリノシゲゾウ博士が語る。博士は「第3の可能性に賭けてみては……?」と持ちかけ、優美清春香菜は自分のクローンを身ごもる(→クローン法)。作中には、老いないキュレイ種の体、ディスクに写し取られる空の記憶、親から子へ受け継がれる遺伝子と、この三つに当たるものがそろっている。
ピグマリオン 概念・伝承

ギリシャ神話の彫刻の名人。自分で彫った女性の像を愛し、やつれるまで尽くした末に、女神アフロディテがその像に命を与えた。武視点の4日目に、田中優美清春香菜が語る。

詳細
田中優美清春香菜はあわせて、期待が相手を変えるという「ピグマリオン効果」(ローゼンタールの説)にも触れる。武ははじめ「暗い。暗いねぇ、ピグマリオン……」と冷ややかだが、空編の結末では武の方から「ピグマリオンの伝説って、知ってるか?」と空に語り直す。作られた存在が愛によって命を得るという筋は、空にそのまま重なる。
未解決
ココ編のエピローグで、体を持って現れた空は理由を問われ、「これは、奇蹟なんだと思います」「――女神、アフロディテの奇蹟、です」と答えるだけで、仕組みは説明されない。その空が、空編の結末で聞いたはずのピグマリオンの話を覚えていることも、説明のつかないことのひとつである(→テラバイトディスク)。
八百比丘尼とタマテ箱 やおびくに 概念・伝承

人魚の肉(涙)を口にして不老長寿を得たという日本の伝承と、浦島の伝承。ココ編の4日目の会話に出てくる。

詳細
人魚の涙のキャンディを前に、ココは「『八百比丘尼』みたいになっちゃうよ?」と言う。田中優美清春香菜は「八百比丘尼は『人魚の涙』を飲んだことによって、不老長寿の肉体を手に入れた……」と語り、武が浦島の話を重ねると、「『タマテ箱の煙』も『人魚の涙』も、同一人物の手によって……」と、二つの伝承の結びつきを持ち出す。老いない体と、はるか先の未来へいきなり飛ばされる話は、キュレイ種と、17年眠り続けることになる者たちに通じている。
デジャヴ 概念・伝承

既視感。見覚えがあるという感覚を「そんなの、ただのデジャヴでしょ?」と打ち消すときに使われる。

詳細
実際には既視感ではなく、17年を隔てて同じ出来事が繰り返されている。少年が見覚えを感じるのは、2034年の事故が2017年の出来事をなぞって仕組まれていたからで、さらに少年に重なった「視点」は、ほかのルートで2017年の出来事を見てきている。ココ編で幻のココは「ホクたんが見たあの夢は、夢じゃないからね?」と告げる。
言葉・暗号
石碑の銘 せきひのめい 言葉・暗号

浮島の船着場にある石碑に刻まれた問答。「天国はどこにある?」「空の上と、あなたの足元に……」。プロローグで一度だけ示される。

詳細
ドイツ語の Himmel が「空」と「天国」の両方を意味することで、この銘は二重に読める。「空の上」はヒンメルに、「あなたの足元に」はLeMUの真下のIBFに掛かっている。ココ編の終盤、石碑は倒れて砕けていて、かけらを並べると「『天国』『はど』『こにあ』『る?』」「『空』『の上』『と、あ』『なたの足』『元に……』」となる。ブリックヴィンケルはそのうち「天国」と刻まれたかけらを胸に抱え、水深119メートルの海底へ沈んでいく。
I am YOU! 言葉・暗号

田中優美清秋香菜の自己紹介。名札に「YOU」とあるのを少年が「Y・O・U……?」と読むと、彼女は「I am YOU!」と返し、「私は田中……」「下の名前は優……」と続ける。日本語の「優」と英語の「you」を掛けた言葉遊び。

詳細
優編の4日目、少年は自分からこの言葉を返す。「『I am YOU!』、って」「私はあなた」「あなたは私」「『YOU are me』」「独りぼっちじゃない」。はじめは駄洒落だった言葉が、「私はあなた、あなたは私」という意味そのものとして引き受け直される。空の遍在の話や、同じ遺伝子を持つ田中優美清春香菜と田中優美清秋香菜の母娘、画面のこちら側の「あなた」を名指しする結末とも響き合う。
海月の虚空に秋涼し時鳥 うみつきのこくうにすずしほととぎす 言葉・暗号

レミのデータベースに入るためのパスワードの候補として出てくる17文字の句。プリンターの不調でバーコードのように潰れて印刷された紙を、横に寝かせて低い視線から見ると、初めて文字として読める。

詳細
最初は「クラゲノ……コクウニ……シュウリョウシ……トキトリ」と読まれ、田中優美清秋香菜が正岡子規の句「水無月の虚空に涼し時鳥」のもじりだと見抜いて「うみつきの こくうにすずし ほととぎす」と読み直す。それでも認証は通らない。ココ編で少年は、句の「秋」が、田中優美清秋香菜という本当の名前の「秋」と重なることに気づく。さらに幻の少女が告げる「ホクトのこすうみ、すぎしときに、つうず」は、この句とまったく同じ17文字を並べ替えたものである。紙を横から見なければ読めないという仕掛けは、見る位置を変えなければ全体が見えないという、この作品の主題の小さな見本になっている。ココ編の2034年の側では、少年が知らないはずのこの句を口走る場面もある。なぜ紙が潰れて印刷されていたのかは「プリンターの調子が悪かったんじゃない?」で流され、説明されない。
月と海の子守歌 つきとうみのこもりうた 言葉・暗号

古い調子の子守歌。「長弓背負いし月の精/夢の中より待ちをりぬ」と始まる。「月と海の子守歌」という呼び名は、ココが勝手に付けたもの。

詳細
1番は月と弓、2番は海と櫂の対になっていて、結びの句だけが「眠りたまふ、母に抱かれて」と「眠りたまふ、海に抱かれて」で入れ替わる。2番まで歌われる場面は限られ、2番を歌うのはココだけである。ホクトと沙羅しか知らないはずのこの歌を、ココも知っている。ココ編で明かされるところでは、2017年にココへこの歌を歌って聞かせたのはつぐみだった。
ココ語 言葉・暗号

ココが自分の言葉につけた名前。擬音と造語、ジョークを次々に繰り出し、人を独特のあだ名で呼ぶ。

詳細
武は「たけぴょん」、つぐみは「つぐみん」、少年は「少ちゃん」、田中優美清春香菜は「なっきゅ」。アメリカンジョークは「米っちょ」をもじって「コメッチョ」と呼び、プロローグから仕掛けてくる。「ひよこごっこ」には「1648年、フランスのルイ14世によって考案された、格調高い貴族的遊戯のひとつである」という、もっともらしい由緒がつく。2034年の側に現れるココは、少年を「ホクたん」と呼ぶ。ポッドで眠りにつく直前、ココはそばに見えた存在を「お兄ちゃん」と呼ぶ(→ブリックヴィンケル)。
太陽星人 たいようせいじん 言葉・暗号

ココが「ココ、実は太陽星人なんだぁ~♪」と名乗る自称。

詳細
同じ言葉を、2034年の沙羅も口にする。17年を隔てた二人が同じ言葉を持っていることの一例である。ココ編の結末では「ココとお兄ちゃんは、太陽星人なんだから」と、ココとブリックヴィンケルの間柄を呼ぶ言葉にもなる。
ヤミオニ 言葉・暗号

閉じ込められているあいだに考え出された、暗闇の鬼ごっこ。「名づけて『ヤミオニ』」。

詳細
2日目の夜に遊ばれ、空は翌日「昨日のヤミオニ、とっても面白かったんです!」と武に話す。暗闇で人を探す遊びなので、赤外線が見える目を持つ者と持たない者の差が出る場になる。空編の終盤でも「ヤミオニんときも、すぐ見つかるような場所に隠れてたろ?」と振り返られる。
Yöichi/Yükie 言葉・暗号

少年視点の優編で、レミから取り出した社内チャットのログに出てくる人名の綴り。ローマ字の母音に、ドイツ語の記号ウムラウトが付いている。

詳細
総務部人事課の男性社員Aと研究部研究第2課の女性社員Bのやりとりで、田中陽一は Yöichi、田中ゆきえは Yükie と綴られている。少年が「あっ! これ……『o』が『ö』になってる……?」と気づき、空がウムラウトの説明をする。田中陽一についての記録は、「陽一/ヨウイチ/Yoichi」を含む記述がコンピューターによって片っ端から消されていて、母音がウムラウトに化けていたこの1行だけが、検索にかからず削除を免れた。空が「今から34年前に」亡くなったらしいと言うのは、この手がかりからの推測で、本人も「推測の範囲内を出ません」と断っている。
実際には
田中陽一は2000年、ライプリヒ製薬に拘束され、家族には「海へ転落して行方不明」と伝えられた。亡くなったのは2017年5月6日で、IBFでティーフ・ブラウの漏洩事故に巻き込まれた(→T.Y.)。ゆきえはBの直属の上司で、2019年にティーフ・ブラウで亡くなっている。
T.Y. 言葉・暗号

IBFの業務日誌などに残るイニシャルの署名。

詳細
武視点では、娘に会うのを楽しみにする日誌の署名が「T.Y」とだけ記されていて、武は「恐らく、八神氏のイニシャルだろう」と読む。ココの父がIBFの研究員だと聞いていたので、この読みは自然に通り、つぐみ編でも武は「T.Y……八神氏か」と、診療室で亡くなった研究員をココの父だと思い込んだまま進む。ココ編では、同じメモが「記録者:八神岳士」で始まり、「T.Yの娘がLeMUにバイトとして来ているらしい。この事実を彼に告げるべきかどうか、私には、」と、T.Y.を別の人物として書いている。ヒンメルの端末のログイン表示も「Willkommener LeMMIH Login:T.Y」で、田中優美清春香菜はそれを最後のパスワードとして「TANAKA YOUICHI……」と読み解き、「ありがとう……お父さん」と言う。T.Y.は田中陽一、優美清春香菜の父だった。八神岳士の名が出るのはこの日誌の一箇所だけで、その生死は作中に書かれない。
呼び名
「少年」 呼び名

少年視点の語り手の呼び名。記憶を失っていて自分の名前を思い出せないため、ほかの者からも「少年」と呼ばれる。

詳細
少年視点の「少年」は、2034年のホクトである。倉成武と小町つぐみの息子で、松永沙羅の双子の兄。16歳。2034年5月1日15時17分、この世界の外にある「視点」ブリックヴィンケルがホクトに重なり、ホクトは記憶を失った。一方、武視点に出てくる「少年」は2017年の桑古木涼権で、当時15歳。こちらも自分の名前を知らないまま過ごし、名前を取り戻すのはココ編だけである。17年後、桑古木は「倉成武」を名乗って2034年のLeMUに入り、少年視点の「武」になる。武視点の「少年」と少年視点の「武」は、同じ人物である。
マヨ 呼び名

松永沙羅のあだ名。田中優美清秋香菜が付けた。

詳細
由来は「マツナガサラ」から「ツナサラ」、ツナサラダ、そしてマヨネーズ。沙羅は田中優美清秋香菜を「なっきゅ先輩」と呼ぶ。沙羅は鳩鳴館女子高の2年生で16歳。ココ編で少年の双子の妹だとわかり、つぐみに「ママァーッ!」と飛び込む。
なっきゅ 呼び名

ココが田中優美清春香菜を呼ぶあだ名。

詳細
2034年の側では、沙羅が田中優美清秋香菜を「なっきゅ先輩」と呼ぶ。17年を隔てた母と娘が、同じあだ名で呼ばれていることになる。
暮らし・持ち物
みゅみゅーん 暮らし・持ち物

LeMUのマスコット。キツネザル(レミュール)の着ぐるみで、ロゴと一緒にレジャーシートなどのグッズにも描かれている。武は見た目からタヌキと呼ぶ。

詳細
マスコットは一貫してこの1種類で、「タヌキ」は武や少年の見た目からの呼び方にすぎない。プロローグで武が係員に尋ねるかどうかで、「キツネザル」まで教わるか、「みゅみゅーん」という名前だけを耳にするかが分かれ、翌日に売店でぬいぐるみを探す場面の書き方もそれに合わせて変わる。着ぐるみの中身が誰なのかは何度も問題になる。武は4日目、つぐみから同じパンチを受けて「(あれは、つぐみだったの……ううっ!?)」と思い当たる。ココ編のエピローグでは、紫外線に弱いつぐみが陽射しを避けるためにこの着ぐるみを着て、船の甲板に出る。2034年の女子更衣室で少年に着ぐるみを着せた若い女性の声が誰なのかは、明かされない。
ピピ 暮らし・持ち物

ココが連れている子犬。「で、こっちが愛犬のピピ」。鳴き声しか出さず、武にはたびたび名前を間違えられる。

詳細
つぐみ編の結末では、ベッドの下で動かなくなり、口にテラバイトディスクをくわえている。ココ編の2017年の側では、潜水艇から海に飛び込んで水深119メートルまで潜り、海底の武のそばにあったディスクをくわえてIBFへ泳ぎ着き、通路に倒れていたココを見つける。地の文は、ピピが電気仕掛けの子犬だったのだと考える。エピローグでは空が「恐らく、バッテリー切れではないでしょうか?」と言ってスイッチを入れ、ピピの目に光が戻る。作品の最後の場面で、何もない空中に向かって吠え、そこに誰かがいることを最初に知らせるのもピピである。
チャミ 暮らし・持ち物

つぐみが飼っているジャンガリアンハムスター。名前の由来は「チャーミングだから」。

詳細
武視点の3日目から、加減圧室のベッドのパンくずや小さな足音として気配だけがあり、4日目に正体がわかる。4日目、水没した非常通路の先に取り残されたチャミを、武が水深51メートルまで潜って救い出し、つぐみは出会ってから初めて心からの笑顔を見せる。つぐみ編の5日目、つぐみはクヴァレでチャミを握りつぶして殺し、数分で生き返るのを武に見せる。つぐみの説明では、チャミはつぐみの血を浴びて「私と同じになった」。キュレイウイルスは種の壁を越えないという説明とは食い違い、作中で整理されない。ココ編のエピローグでは、みんなと一緒に船の上にいる。
タツタサンド 暮らし・持ち物

タツタ売店の名物、マグロタツタサンド。うたい文句は「マグロタツタ揚げとしょう油マヨネーズのハーモニーが絶妙です♪」。閉じ込められたあとの主食になる。

詳細
毎日食べ続けるうちに飽きと工夫が重なり、つぐみ用に味を調えた「スペシャルタツタ」や、タツタ揚げとタツタ揚げでパンを挟んだ「ドンサタツタ」が生まれる。武視点の5日目の夕食では、少年がサンドを握りつぶして「白いご飯が食べたいんだよぉっ!!」と爆発する。
人魚の涙 にんぎょのなみだ 暮らし・持ち物

陶器の古めかしいボトルに入った、売店の土産物のキャンディ。ラベルにそのまま「人魚の涙」と印刷されている。

詳細
ココ編の4日目、このボトルを見た武は「どう見ても、本物の人魚の涙じゃないよなぁ」と言い、底のシールには「名称:キャンディ」「原材料名:砂糖、水飴、酸味料、香料」とある。名前は不老長寿の伝承(→八百比丘尼とタマテ箱)から来ていて、田中優美清春香菜は「それを、誰かが勝手に『人魚の涙』って命名しただけかもしれないでしょ?」「つまり、不老長寿の液体が、実際の人魚の涙である必要はないってこと」と、名前と中身が一致しない場合の話をする。ココは「人魚の涙なんて、飲まなければよかったのに……」と、意味のわからない一言をこぼす。
ホログラムペンダント 暮らし・持ち物

館内のホロマシン(ホロクラ)で、好きな形のペンダントにホログラムを焼き付けて作る土産物。沙羅は、鏡面の一部が欠けたペンダントをいつも持っている。

詳細
沙羅のペンダントは、ライターの炎をかざすと男の姿が浮かぶホログラムで、その像は赤外線でしか見えない。「武」にも田中優美清秋香菜にも見えず、見えるのは沙羅と少年だけである。沙羅は「このホログラムの画像は、私だけにしか見えないの」「私だけにしか見えないはず、だったの」と言い、その男を「たぶん、パパだと思う」と言う。それは当たっている。2019年、ライプリヒに居場所を突き止められたつぐみが、双子を施設に預けるときに授けたものである。鏡面の欠けは幼いころ施設でいじめっ子たちに割られたもので、そのかけらは、沙羅をかばった兄の親指に刺さったまま残っていた。沙羅編で、つぐみと衝突したときにペンダントが床に落ちるが、先に手を上げたのは沙羅で、つぐみは叩きつける寸前で思いとどまっている。
テラバイトディスク 暮らし・持ち物

ポリカーボネイト製の、手のひら大の記録媒体。四角いケースに収められている。

詳細
空の記憶「LM-RSDS-4913A 茜ヶ崎空」を写し取って持ち出すために使われる。空編では、ヒンメルで空の記憶を写すあいだに武がピグマリオンの話をし、空は「今、コピーの間に倉成さんと話したことは、どこにも記憶されませんね」と言う。ココ編の2017年の側でも、ヒンメルの端末から空の記憶がディスクへ写され、武が「ポチッとな」と言ってディスクを取り出す。ディスクは海底の武のもとからピピが運び上げ、17年後の空は、このディスクのおかげで「17年前にみなさんと過ごした記憶や、自我」を持っていられると言う。ココ編の2034年の側で、ココは意味も言わずに「テラバイト・ディスク」という語を並べている。
未解決
エピローグの空は「ピグマリオンの話」も「ポチッとな」も覚えていて、地の文は「テラバイトディスクには、書き込まれているはずのない記憶なのですから……」と書く。ピグマリオンの話は空編のコピー中の会話、「ポチッとな」はココ編でコピーが終わってからの掛け声で、どちらもディスクに入るはずがない。それがなぜ空に残っているのかは、作中で説明されない。
4体の石像 暮らし・持ち物

憩いの間の広場の端に立つ4体の像。1体が南の方角に手を伸ばしている。序盤では意味が説明されないまま置かれる。

詳細
ココ編の2017年の側で、名前を取り戻した桑古木涼権が石像の裏へ回り、ドライバーで自分の名を彫り、続けて閉じ込められた全員の名と、ピピ、チャミの名まで刻む。17年後の2034年、胸に手のひらを重ねた石像に「6人の名前と、ピピ、チャミ、という記述」が残っているのが見つかり、17年前の出来事の物証になる。4体は、南を指す像、天を指す像、胸に手のひらを重ねた像、東に手を伸ばした像で、ココ編では「東に手を伸ばした石像にだけ、何も描かれていない。」と書かれる。ところが少年視点の優編と沙羅編では、東を指す像にも傷があるように書かれていて、この食い違いは作中で整理されない。
赤外線レーザー照射装置 暮らし・持ち物

つぐみが持ち歩いている装置。つぐみは「これがあると、何かと便利なの」としか説明しない。

詳細
赤外線が見える目を持つ者にだけ見える光を作れる道具で、つぐみが何者なのかを示す物証になっている。ココ編では、クヴァレのゴンドラでキュレイと赤外線視力のことを打ち明けたつぐみが、このレーザーを使って「あなたをね、焼き付けたのよ」と武に言う。
事故・出来事
2017年5月1日の事故 事故・出来事

5月1日にLeMUで起きた浸水事故。エルストボーデンが完全に浸水し、約6気圧に保たれていた館内の混合ガスが急速に外へ抜けて、残された人々が水面下に閉じ込められる。

詳細
原因はLeMUの真下のIBFで起きたティーフ・ブラウの漏洩事故で、のちの新聞記事は「2017年5月1日前後に、この研究施設においてウイルスの漏洩事故が発生した模様。」と報じる。つぐみ編では、武とつぐみが、IBFから逃げたスタッフが減圧の手続きを踏まずに緊急通路を開けたのが警報の真相だと推理する。武視点の1日目、武は入場券の半券を見て「ああ、そうそう。2017年だ! ほら、メモメモ! 書いとけ!」と言う。まったく同じ小芝居が少年視点にもあり、そちらで「2017年だ!」と言う「武」は、倉成武を名乗る桑古木涼権である(→2034年5月1日の事件)。2017年の7日間は、17年後にもう一度なぞられる原型になる。
完全圧潰推定時刻 かんぜんあっかいすいていじこく 事故・出来事

LeMUが水圧に耐えきれなくなると予測される時刻。空は「5月7日午前4時30分前後」と告げる。

詳細
つぐみが確かめたところでは、誤差は±12時間ほどある。武視点と少年視点のどちらでも、空は同じ時刻を告げる。武視点の6日目の終わりには、これとは別に「最速圧潰推定時刻」として5月6日午後4時30分という数字が示され、その時刻が迫るなかで「退路は完全に断たれた。」と書かれる。終盤にはドイツ語のアナウンスが圧潰までの残り分数を数え、ココ編では5月7日の未明にLeMUが圧潰する。
トクシ 事故・出来事

鳩鳴館女子高の2年生が行く校外行事。正式には「篤志貢献奉仕派遣」だが、「……とは名ばかりで、実際にはただの『享楽的な集団旅行プロジェクト』に過ぎなかったりする」。沙羅の代の行き先がLeMUだった。

詳細
田中優美清秋香菜の代の行き先は「ユナイテッド・ランド」という別のテーマパークで、行き先が変わったこと自体が、代の違いをさりげなく示している。2034年の事件の計画では、この行事で沙羅がLeMUに来る日が、計画を実行する日になっている。ブリックヴィンケルは「まずその日、沙羅がトクシっていう学校のイベントで、LeMUにやって来る」と指示する。
17年前 事故・出来事

作中に繰り返し現れる年数。少年視点では、田中優美清秋香菜が母から「17年前に陽一氏が失踪した」と聞かされていたことが語られる。

詳細
2034年から見た2017年までの隔たりである。少年視点の「今年」は長いあいだ2017年であるかのように語られるため、「17年前」という数字が二重に読めてしまう。優編の少年は、手に入れた情報を「1:今から34年前、優の父親『田中陽一』は亡くなったらしい。」などの6項目に整理し、情報源を4つに分けて可能性を4通りに並べるが、どれも単独では裏が取れない。ココ編の少年は「今から17年前、このLeMUで同じような事故が起きたんだ」とたどり着く。17という数は、各階の間隔17メートル、入館の加圧17分、パスワードの句の17文字、作品の題名にも現れる。
ゲームの構造
武視点と少年視点 ゲームの構造

物語の二つの入口。大学3年生の倉成武を主人公とする「武視点」と、記憶を失った少年を主人公とする「少年視点」がある。ドリームキャスト版では、最初からどちらでも選べる。

詳細
武視点には小町つぐみの「つぐみ編」と茜ヶ崎空の「空編」、少年視点には田中優美清秋香菜の「優編」と松永沙羅の「沙羅編」がある。どちらの視点も5月1日から7日までの7日間を1日ずつ進み、閉じ込められた顔ぶれも同じように見える。しかし武視点は2017年、少年視点は2034年の出来事で、少年視点の側は2017年であるかのように見せかけられている。二つの視点は同じ事件の表と裏ではなく、17年を隔てた再演だったことが、ココ編で明らかになる。2011年のXbox 360版以降のリメイク系統では、初回は武視点に固定され、少年視点はそのあとで解放される。
ココ編 ゲームの構造

全ルートのあとに解放される最終ルート。八神ココの名を冠する。

詳細
解放されるのは、つぐみ編・空編・優編・沙羅編の4つのグッドエンドをすべて見たときで、バッドエンドは条件に含まれない。入口は武視点と少年視点の二つがあり、入口ごとに固有の場面を持ちながら、5月3日から1本に合流する。1日の中で2017年の武の場面と2034年の少年の場面が交互に切り替わり、同じ言葉が両方の年で発される瞬間を継ぎ目にして、二つの時間が重なっていく。ここで2つの年、少年と「武」の正体、ブリックヴィンケル、IBFに取り残された者の行方が明かされ、ほかのルートに残された謎の多くが回収される。ただし、2034年の側で少年にだけ見えるココが何者なのかは、ココ編でも答えが与えられない(→幻の少女)。
エンドとエピローグ ゲームの構造

ドリームキャスト版のエンディングは、エンド8本とエピローグ3本の計11本。

詳細
エンドは「つぐみ編グッドエンド」「空編グッドエンド」「つぐみ・空編バッドエンド」「優編グッドエンド」「優編バッドエンド」「沙羅編グッドエンド」「沙羅編バッドエンド」「ココ編エンド」。武視点のバッドエンドは、つぐみ編と空編で共通の1本しかない。エピローグは「つぐみ・空編エピローグ」「優編エピローグ」「沙羅編エピローグ」で、優編と沙羅編のエピローグはグッドエンドに続けて流れ、つぐみ・空編エピローグだけはココ編をクリアしてから解放される。ココ編のあとにはグランドエピローグが続く。
結末の書かれ方
つぐみ編と空編のグッドエンドで、武は海の中へ消える。つぐみ編では海の底へ沈み、空編では「空と海の溶け合う世界へ」昇っていくと、逆の方向で書かれ、どちらも死を明言しないまま終わる。つぐみ・空編バッドエンドでは、つぐみが扉の外へ去り(死ぬ場面そのものは書かれない)、少年、田中優美清春香菜、武が命を落とし、ココについては登場も言及もない。沙羅編バッドエンドは、少年と沙羅が海の中で意識を失ったところで終わり、その後は書かれない。
版の違い
2011年のXbox 360版と2025年のリマスターを含むリメイク系統を扱う攻略では、エンディングを9本と数える。リメイク系統には山田七郎による追加シナリオがあり、沙羅編も大きく改められているなど、ドリームキャスト版とは細部が異なる。
『第3の眼』開眼 ゲームの構造

ココ編が解放されるときの告知。「『第3の眼』開眼――最終章:ココ編発現」。

詳細
4人のグッドエンドを見たあとに現れる。この告知と並んで、英語の2行「This story is not an end yet.」「Because only you are in the infinity loop.」が置かれている(→副題「the out of infinity」)。
つぐみ・空編エピローグ ゲームの構造

武視点のエピローグ。つぐみ編と空編で共通の1本で、ココ編をクリアすると解放される。

詳細
中身はドイツ語の2行だけである。「Eine Geschichte setzt auf / 1 Mai, 2034 fort.」(ひとつの物語は、2034年5月1日に続く)。武視点の物語の締めくくりが、別の年の日付を名指ししている。少年視点の物語が始まる日である。
ココ編の核心
第3視点 だいさんしてん ココ編の核心

少年視点で名前の出てくる古い概念。ココ編に深く関わる。

詳細
田中優美清秋香菜の母が専門にしていたという概念で、定義は「n次元上の全体像はn+1次元内から俯瞰することによってのみ認識することができる」。3次元の世界の全体を捉えるには、4次元から見下ろすしかない。優編では、母が書いた「第3視点のルーツはレムリアにある」という論文が作り話だったと、田中優美清秋香菜が明かす。その母、田中優美清春香菜は、2025年からLeMUで第3視点を研究していた。ココ編の終盤、田中優美清春香菜は「第3視点――ブリックヴィンケル――」「ホクトの向こう側にいる『あなた』――」「そう、今、私のことを見ている『あなた』……」「あなた自身のこと」と言い、この概念が、画面の外からこの物語を見ている者を指していたことを明かす。
ブリックヴィンケル ココ編の核心

少年視点で、意味のわからないまま耳にする言葉。ココ編に関わる。

詳細
ドイツ語の Blickwinkel(視角、観点)。第3視点そのものを指す呼び名で、作中では BW とも略される。優編の終盤、途切れ途切れの男の声が「………ブリック・ヴィンケル………現れ…………のか………」と言い、少年は「だいたい、なんだよ……? ブリック・ヴィンケルって……?」と問い返すが、答えは与えられない。ココ編では、ココがこの名を人の名前のように「ブリックヴィンケルさん」と呼び、少年の脳裏には「Blick...Winkel...」という綴りがよぎる。2034年5月1日15時17分、この世界の外にある視点がホクトに重なり、ホクトは記憶を失って「少年」になった。
ココ編で
2034年の事件は、ブリックヴィンケルをだまし、錯覚させて、自分たちの世界へ降臨させるために仕組まれていた。現れたブリックヴィンケルは2017年へ渡って海底の武を呼び戻し、ココと武をポッドで眠らせる。ココはブリックヴィンケルを見て「きみに、あいたい」「必ず……迎えに……来てね……?」と約束させる。ブリックヴィンケルは2017年の田中優美清春香菜に17年後の計画を口述し、2034年に戻って、二人を迎えに海の底へ潜る。「2034年の事件の首謀者は、他でもない、ボク自身だったということ。」ドリームキャスト版では田中優美清春香菜がブリックヴィンケルと言葉を交わすが、リメイク系統ではその声が聞こえない形に変わっている。
2034年5月1日の事件 ココ編の核心

ココ編で明かされる出来事。

詳細
少年視点の7日間は、2017年ではなく、その17年後、2034年の出来事だった。5月1日は2017年と同じ月曜日で、LeMUに集められた人々は、2017年と同じような事故の中に置かれる。計画したのは田中優美清春香菜と桑古木涼権で、二人はブリックヴィンケルの指示に従い、17年間をこの日のためだけに費やした。沙羅はトクシでLeMUに来る。つぐみは「LeMUに来れば、娘と息子に逢えるよ」と誘い出され、ホクトも同じように呼ばれる。田中優美清秋香菜は母と同じようにLeMUの係員として働く。桑古木は「倉成武」を名乗り、入場券の半券を見て「2017年だ!」と言ってみせる。空には何も知らせず、2017年の記憶はひとまず消しておくよう指示されていた。
ねらい
2034年の世界を2017年であるかのように見せかけて、次元の外にある視点に「自分たちと同じ空間にいる」と錯覚させ、この世界へ呼び出すこと。そうしなければ、2017年にIBFに取り残されたココと武は助からない。途中で二人をすぐに救出すると事件そのものが起きなくなるため、ブリックヴィンケルは2017年の田中優美清春香菜に「絶対に、ふたりを救出しないで!」「17年間待って!」と指示している。「2017年の世界で、ボクはボクをだますように言い、2034年の世界で、ボクはボクにだまされて出現した。」事件の首謀者は、呼び出されたブリックヴィンケル自身だった。
幻の少女 ココ編の核心

ココ編で少年の前に現れる少女の姿。

詳細
2034年の側、レムリア遺跡の闇の向こうに立つ少女は「彼女の体は発熱し、赤よりも赤い光をほのかに放っていた。」「顔は見えない。」と書かれ、赤外線が見える目にだけ映る姿として現れる。少女は「ホクト……」と呼びかけ、「ホクトのこすうみ、すぎしときに、つうず」と、パスワードの句と同じ17文字を並べ替えた言葉を告げる(→海月の虚空に秋涼し時鳥)。2034年の側で少年にだけ見え、生体反応にも数えられないココは、少年がほかのルートで見てきたことを知っていて、「ホクたんが見たあの夢は、夢じゃないからね?」と言う。やがて少年の中では「キミハ……ダレ?」「ボクハ……ダレ?」という声が繰り返され、自分と、自分を見ている者との境目が崩れていく。
未解決
この時代にそこにいたココが何者なのかは、最後まで明かされない。少年自身が「この時代のココは、ホクトのことをまだ知らないのか。/じゃあ、あの幻影の少女は一体……?」と考えるまま、答えは与えられない。
副題「the out of infinity」 ココ編の核心

作品の副題。

詳細
ココ編の解放を告げる「『第3の眼』開眼」と並んで、英語の2行「This story is not an end yet.」「Because only you are in the infinity loop.」が置かれている。この物語はまだ終わっていない、無限の輪の中にいるのは「you」だけだから。名指しされているのは登場人物ではなく、画面のこちら側で物語を見ている者で、副題の「the out of infinity」と対になる。一方で、作中の世界で時間が巻き戻る場面は一度もない。2034年の事件は人間が17年かけて仕込んだ再演で、「17年前と同じ事件が、そっくりそのまま繰り返されたから……。」と書かれるとおりである。作中の「無限」は、時間の循環よりも、見ている者を見ている者がいるという視点の果てしなさの側で使われる。エピローグの終わり近くには「世界を見ているボクのことを見ているボクがいる……。」「ボクはどこまで続くのだろう?」という言葉がある。