物語と一緒に、泣いたり文句言ったり忙しかった。
母を喪った事故で夢に蓋をした主人公が、痛みを抱えた幼馴染たちと再会していく学園もの。最初は「いい話っぽいな」くらいの軽い気持ちで入ったら、一人ひとりの抱えてるものが想像よりずっと重くて、何度も置いていかれそうになった。いい意味で。あたしはルートごとに泣いたり画面に文句言ったり、ずっと感情を揺さぶられてた。一本だけ後味を飲み込めなかったルートがあったけど、それ込みで8点。
スコア詳細
「泣けるから」って薦められて、半信半疑で入った
2000年のD.O.の作品。天美っていう街に戻ってきた高校二年の今村正樹が、痛みを抱えた幼馴染たちと再会していく話。
正樹はもともと宇宙飛行士になりたかった子なんだけど、ある事故をきっかけにその夢に蓋をして、いまは天文部の幽霊部員になってる。そこに天文部の瞳、ほとんど喋らない佳多奈、剣道部主将の恭子、陸上特待生の蘭子、カフェの看板娘ゆかり、それから留学生のサーシャが絡んできて、それぞれが胸にしまってた痛みと、正樹が捨てきれなかった夢が、一年の四季のなかで重なっていく。あたしは最初「学園もの×宇宙の夢、いい話っぽいな」くらいの軽い気持ちで入った。そしたら一人ひとりの背負ってるものが想像よりずっと重くて、何度も置いていかれそうになった。
この主人公、ぐずぐずしない
あたし、動かない主人公が苦手なんだよ。だからここが最初に気にしてたとこ。
正樹は物腰が穏やかで受け身に見えるタイプで、最初は「これウジウジ系かな」って身構えた。でも違った。この子、自分を責めるクセはあるんだけど、いざヒロインに何かあると、ちゃんと向き合いに行く。逃げない。誰かに背中を押された瞬間に、迷わず踏み出せる子なんだよ。自虐とユーモアで内心を隠してるだけで、芯のところはまっすぐ。主人公を信頼できると、物語の入り方が全然変わる。あたしは早い段階でこの子を信じられたから、安心して感情を預けられた。
ほとんど喋らない佳多奈に、いちばん心を持っていかれた
このレビューで一番語りたいのが、佳多奈の話。
佳多奈は無表情で、廊下でぶつかっても言葉をオウム返しするだけ、じゃんけんで毎回グーしか出さない、視線も合いにくい子なの。最初は「どう接していいか分からない子」として出てくる。正樹はこの子に対してずっと罪悪感みたいなものを抱えてて、見舞いに通いながら、少しずつ言葉とやり取りを積み重ねていく。その積み重ねが地味で、長くて、でもそのぶん、ある瞬間にぜんぶが報われる。あたしはその瞬間で声を出して泣いた。詳しくはネタバレ版で叫ぶけど、ほとんど喋らなかった子のたったひとことに、それまでの全部が乗ってくる。あの破壊力は本物だった。感動・カタルシスの9点は、ほぼこの子のおかげ。
脳天気な瞳と、天然な留学生サーシャ。表の顔の裏が効く
この作品、表面が明るいキャラほど裏が効いてくる。
瞳は「Passion is power」が口癖で、えへへって笑ってばっかりの脳天気な子。なんだけど、その明るさが何でできてるのかが分かってくると、何気なかった日常の会話が全部ちがう意味を持ち始める。あたしは中盤であることに気づいてしまって、そこから瞳のえへへが見るたびに辛くなった。こういう「序盤を読み返したくなる」体験があると、途中で投げちゃダメなんだなって思う。
サーシャは「〜ですです」って喋る天然の留学生で、室内で花火に火をつけたりお湯と水の蛇口で大騒ぎしたり、コメディ担当かと思ってた。でもこの子も、無垢で天然なぶん、抱えてるものが分かった時の落差がすごい。自分のために誰かが傷つくのを極端に怖がる子で、その理由を知ると、あの天然さが切なくなる。表の顔がちゃんと作り込まれてるから、裏が出た時に効く。ずるい作りだよ。
一本だけ、後味を飲み込めなかったルートがある
悔しい。陸上特待生の蘭子ルートだけ、あたしは最後まで乗れなかった。
蘭子の背景は好きなんだよ。子供の頃にあることから逃げてしまって、その罪悪感を「走り続けること」で償おうとしてきた子。正樹に向ける「私のルーツなの」っていう想いも、ぜんぶ重くて好きだった。ここまでは完璧に好きだったの。問題は決着の付け方。詳しくは言えないけど、終盤で正樹がある手段を選ぶんだよ。意図は分かる。蘭子のためなのも分かる。分かるんだけど、あたしは蘭子に感情移入しきってたから、その手段がどうしても直撃して、最後まで飲み込めなかった。素材は他のルートと同じくらいいいのに、決着だけ痛みに頼ってる気がして。だから蘭子ルートの後味は低めにした。悔しい。素材がいいだけ悔しい。
8——物語と一緒に動かされた、それが全部
最後に。この作品は、夢に蓋をした子が、誰かに見つけてもらうたびに「もう一度空を見ろ」って問い返される話だった。
その問い返しが、ルートごとに全部ちがう感情でやってくる。ほとんど喋らない子の再生、明るい子の隠してた本音、天然な子の覚悟。あたしはそのたびに泣いたり、画面に文句言ったり、ずっと忙しかった。それだけ物語と一緒に動かされたってことなんだと思う。観察じゃなくて、巻き込まれる感想になった。それがあたしにとっての高評価。
満点にできなかったのは、さっき言った蘭子の決着が引っかかったのと、ルートごとに刺さり方の差が大きいこと。突き抜けてるルートがあるぶん、そこに届かないルートが少し目立っちゃう。でもそれは「全部のルートがあの破壊力だったら9だった」っていう、ないものねだりの悔しさでもある。
あの再生のひとことに泣かされたことへのありがとうを込めて、8。以上。
