柊美香のレビュー — 河原崎家の一族2

柊美香
柊美香
鬼畜・ダーク系の辛口
7.5/10
7.5 / 10

鬼畜を謳う作品が、どこで逃げるか。この屋敷は、逃げませんでしたわ。

恋人の叔父の屋敷に閉じ込められた青年の話ですの。表向きは館ホラーですが、中身は加害と被害をどこまで正面から書けるかの勝負ですわ。気弱な主人公を「気弱なまま」暗い方へ転がす造形に逃げがなく、屋敷の主・縄綱という悪役も最後まで悪のまま立っております。被害の描写を薄めない覚悟がある作品ですの。ただ、物語の骨格を支える理屈の一部がプレイヤーの考察任せになっておりまして、整合性を最重視するわたくしの基準では、そこだけ甘さが残りましたわ。7点。覚悟への敬意と、土台への正直さを両立させた数字ですの。

スコア詳細

主人公の造形 8
縄綱という悪の徹底 8
ヒロインの造形 7
Hシーンの誠実さ 8
設定の整合性 6
結末の完遂 8

この屋敷が何を試してくるのか

館もの、ホラー、ループ、鬼畜。要素は多いのですが、わたくしが測りに来たのは一つだけですの。

主人公の優馬が、恋人の杏奈に頼まれて彼女の叔父・河原崎縄綱の屋敷を再訪する話ですわ。前回の訪問で里子の智樹と衝突しているので気は進まないのですが、杏奈の頼みを断れず夏の山道を辿る。迎える屋敷には、慇懃無礼な執事の稲垣、薬と注射器を操る冷たいメイドの美香、儚げなメイドの鈴音、智樹の妹の真樹。そこへ赤いドレスに厚化粧の縄綱が現れますわ。

最初から空気が歪んでおりますの。同じ会話が二度繰り返され、誕生日の日付がずれ、縄綱は「特別な肉を用意させた」と脅して「冗談だ」と笑う。掴みどころのなさが、ただの怪奇ではなく屋敷そのものの異常として積み上がっていきますわ。鬼畜・凌辱を謳う作品が、その看板にどこまで責任を持つか。それを確かめに参りました。

気弱な主人公を、気弱なまま堕とす——この造形は逃げておりませんわ

鬼畜ものの主人公で一番興醒めなのは、日常では優しいのにHシーンだけ別人になる型ですの。優馬は、その逆ですわ。

優馬は「逃げ道を用意されると、迷わずそちらを選んでしまう」と自分で言う青年ですの。優柔不断で、智樹に小ばかにされては自尊心を削られていく。この情けなさが、後半で効いてまいりますわ。屋敷の闇に触れた優馬は、別の誰かに「乗っ取られる」のではなく、元から逃げ腰だった人間の箍が外れる、という描かれ方をしますの。優しい主人公が急にサディストになるのではない。弱い人間が弱いまま、悪い方へ転がる。ここを誤魔化さなかったのが誠実ですわ。

そして、自分のしたことに向き合う場面が来る。「俺は何て事を……」という自責が、ここからの優馬を動かしますわ。気弱なまま、それでも一度だけ前に出る瞬間が終盤に用意されておりまして、その一回のために序盤の情けなさが全部必要だった、と分かる作りですの。主人公の造形に8点を付けたのは、この振り幅が嘘ではなかったからですわ。気弱という記号を、最後まで都合よく裏切らなかった。

縄綱という悪役——最後まで化け物でいてくれましたわ

悪を最後まで悪のまま立たせる。簡単そうで、できていない作品が多いのですわ。

縄綱は、生死を巡る独自の哲学を持つ老人ですの。「私が短銃の銃口をこめかみに当て、心ゆくまで死の恐怖を味わうだろう」と語り、「人間の最も美しい顔は苦しむ表情なのだよ」と言い切る。余命を抱えた老人の妄執が、屋敷で起きる全てを駆動しておりますわ。気持ちの悪い理屈ですが、理屈としては筋が通っておりますの。だから屋敷の異常も、縄綱の哲学の実演として腑に落ちる。後付けの良心も、急な改心も、この男にはございませんわ。

その哲学を浴びるのが、招かれてしまった奈津子と婚約者の健吾、そして真樹ですわ。この屋敷で行われる加害は陰惨ですが、被害側の心理まで踏み込んで書かれておりますの。泣く者を泣くだけの記号で済ませず、苦痛の中身を書く。Hシーンの誠実さに8点を付けたのは、それらが単なるファンサービスではなく、縄綱の哲学を体現する装置として機能していたからですわ。鬼畜を題材に借りるだけの作品とは、踏み込みが違いますの。

ヒロインの造形は7点といたしましたわ。杏奈は「こうと決めたら譲らない」芯を持ち、過酷な状況でも信念を曲げない一途さが通っておりますの。真樹も、子供っぽい喋りの裏に優馬の異常を見抜く鋭さがあって良うございますわ。ただ、屋敷の構造上どうしても被害の側に置かれる時間が長く、一人ひとりの内面を掘る余地がやや削られておりますの。魅力がないのではない。尺の配分の問題ですわ。

惜しいのは、骨格を支える理屈ですの

逃げなかった作品ですが、一つだけ、土台に甘さが残りましたわ。

この屋敷の異常は、ただの演出ではなく構造そのものに根を持っておりますの。同じ夜が繰り返される徴は序盤から丁寧に撒かれていて、その点は巧うございますわ。ですが、その構造が最終的にどういう理屈で着地するのか。ここがテキストの中で詰め切られず、プレイヤーの考察に委ねられておりますの。状況証拠は配置されておりますが、明言はされませんわ。

余白として効いている面はございますの。説明しすぎない不気味さが、この屋敷の空気に合っているのは確かですわ。ですが、整合性を最重視するわたくしの基準では、骨格の論理が雰囲気任せになった分は引かざるを得ませんの。設定の整合性6点は、そういう数字ですわ。割れているわけではない。詰めれば、もう一段締まったはずですの。それが惜しゅうございますわ。

7.5——逃げなかった悪と、詰め切れなかった理屈

意欲ではなく、覚悟で評価する作品ですわ。それは確かですの。ただ、整合性という一点では及第点に少し届きませんの。

鬼畜を謳って中盤で良心を持ち出す甘さとは無縁の作品ですの。縄綱は最後まで縄綱でしたし、優馬の堕落も自責も逃げずに書かれておりますわ。被害の描写を薄めなかった分、終盤に主人公が一度だけ前へ出る一瞬が重くなる。ダークテーマを引き受けて完遂する、という一点では、覚悟がございました。

引いたのは、構造の理屈を考察に委ねた整合性の甘さですの。雰囲気は出ておりますが、わたくしは雰囲気で整合性を見逃すことはいたしませんわ。覚悟のある悪と、詰め切れなかった土台。その差し引きが7.5という数字ですの。逃げなかった部分には敬意を払いますが、緩んだ部分を見て見ぬふりはいたしませんわ。