キャラクター詳細 — serial experiments lain
正体・結末・関係の反転まで含めて解説する。「ネタバレ詳細」を開くと、その人物の真相と最後がどうなるかまで踏み込む。
⚠ 本作は画面に話者が示されないため、どの台詞を誰が言ったかは前後のやり取りから判断している。断定できない箇所はその旨を記した。
岩倉 玲音
| 読み | いわくら れいん |
|---|---|
| 役割 | 主人公。カウンセリングを受ける側として始まり、終盤には診る側へ回る |
| 年齢 | 症状の発現が11歳、カウンセリング開始時が12歳。のちに中学2年へ進む(⚠ それ以降の年齢は作中に明示がない) |
| CV | 清水香里 |
| 特徴 | 視力が検査の限界である3.0を超える。独特の髪型は幻聴よけのまじないだと判明する |
十一歳のころから、見えないものが見え、聞こえない声が聞こえるようになった少女。十二歳で橘総合研究所に通いはじめる。学校では孤立していき、やがて通わなくなる。
父が買い与えたコンピュータ(ナビ)が唯一の出口になる。彼女はそれに自分と同じ名前をつけ、「もう一人の自分。たった一人の友達」と日記に書いた。ネットの向こうにいる年長の相手に手ほどきを受け、独学で侵入の技術を身につけていく。
父が去り、母が酒に溺れて失踪したあと、玲音は人工の父を作り上げる。父の映像と音声をもとに思考ルーチンを組み、上半身だけのロボットとして廃工場に据えた。関節のモーターの発熱を「本物のお父さんみたいに優しくてあったかい」と書いている。
⚠ この時期の日記には、その機械への身体的な接触と自身の反応を記した箇所がある。玲音は作中で十二歳と明示されているため、当サイトでは描写を引用しない。物語上は、失った父を模造品で埋めようとする試みの破綻であり、そこから彼女の自己認識が変質していく起点になっている。
その一方で、彼女には説明のつかない時間がある。血なまぐさい匂いのなかで目を覚まし、そのあいだの記憶を持たない。ある朝には拳銃を握って目を覚ます。「お父さんの中に隠しておこう」と書く。
やがて彼女は自分の複製をネットに分散させる。「これで私はネットのある限り死なない人間になった」。だが最後には、その複製にもとどめを刺す。
ネットの私も悲しい存在。だからとどめを刺したの。ねえ、痛かった?
人工の父も自らの手で壊した。「お父さんを今日処刑した。次はお母さんだ。」——後半が何を指すのかは、作中で明かされない。
日記の終盤で、語り手が交代する。「1年ぶりよ、レイン。いや、玲音。」——ここから肉体の「玲音」とネット上の「レイン」が別の話者として書き分けられる。
肉体のことを、彼女は「宿り木」と呼ぶ。この語は作中に二度しか出てこない。「死ぬんじゃないのに身体は恐怖を感じる」「私にはもともと必要ないことなのに」「この宿り木の限界」。
最後のエントリは問答の形をとる。
ワイアードで必要なものって何?
——意思と存在。あとはただのデータ
⛔ この最後の二行で初めて「ワイアード」という語が使われる。それまで彼女はずっと「ネット」と呼んでいた。呼び名が変わること自体が、移り終えたことの合図になっている。
象徴的な台詞
米良 柊子
| 読み | よねら とうこ |
|---|---|
| 役割 | 玲音の担当カウンセラー。もう一人の主人公といってよい比重を持つ |
| 年齢 | 27歳 |
| 出身 | 東京都世田谷区 |
| 所属 | 橘総合研究所 精神病理研究室ドクター |
| CV | 岡本麻弥 |
| 特徴 | カウンセラーと精神科医の両方の資格を持つ。薬に頼らず対話で進める方針をとる |
アメリカ留学から戻ったばかりで、高島教授の下では雑用に回され、クライアントを与えられずにいた。玲音は彼女にとって初めての、そして唯一のクライアントである。
初回から距離を詰めにいくタイプで、「今日から玲音ちゃんと先生は友達よ」と宣言し、やがて「先生は一人っ子だから、玲音ちゃんみたいな妹が欲しかったんだ」と言う。職業的な距離を最初から取っていないことが、のちの展開の土台になる。
彼女の崩れ方は、玲音のそれとほとんど同じ速度で進む。
医療器メーカーの営業・吉田から試作品のRMLを渡されたころから変調が始まる。⚠ 因果は作中で明示されない。時期は重なり、本人も疑い、しかし最後まで書かれない。
学会に間に合わない焦りのなか、彼女は職業的な記録であるはずのカルテに「これは私への嫌がらせなんですか?」と書きつける。日記には高島に対して「あんな奴、死んじゃえ。」と書く。
その後、高島教授が研究室で首を吊る。彼女は日記にこう書いた。
ざまぁみろ、あのハゲ。ひょっとして私の願いを神様が聞いてくれて
恋人だったタケシの結婚を噂で知り、信じていた吉田の裏切りを目撃し、彼女は玲音とそっくりの幻聴に襲われるようになる。そして日記の宛先が変わる。
玲音、聞こえる? あなたがこれを読んでいるのはわかってるんだから
⛔ そして立場が入れ替わる。カルテに「私はヒステリーを起こしてしまい、自身を見失ってしまった。もう私の手に負えない。担当を変えてください」と書いた次の記録から、書かれている対象が彼女自身になる。離人症、痛覚失認、言語性聴覚失認、自我の崩壊——玲音に対して使われていた語彙が、そのまま彼女に向けられる。
⚠ これは読者の解釈ではない。データベース側の識別番号そのものが、この地点から切り替わっている。柊子がクライアントになったことを、ゲーム自身が明示している。
対話の場でも、問う側と問われる側が反転する。
あなた、玲音……よね?
あなたは誰
——私は玲音
最後は自ら体を手放すことを受け入れる。「でも、体を持った私は消えちゃうんだね」「まだこの世界は私と玲音二人きりしかいないんだから」。研究所は研究員二名の自殺として記者会見を開く。
カルテの最後の一行は、こう締めくくられている。
私の初めての治療は無事終了した。ありがとう、私の大切なクライアント。
⚠ 誰が誰を治療したのかが、意図的にひっくり返されている。
名前を与えられない少女
| 名前 | ⛔ 作中で与えられない。データベース上は玲音とも柊子とも違う識別番号を持つ |
|---|---|
| 役割 | 二月七日の射殺事件で、中年男性を撃ち、その場で自ら死ぬ |
| 外見 | 玲音と同年代に見える少女。⚠ 事件は「女子高生による」ものとして扱われる |
この人物は音声にはほとんど現れず、映像のなかにだけいる。しかもその映像はほぼ無音である。データベース(CLN番号)が彼女に玲音とも柊子とも違う識別番号を振っていることによって、初めて「第三の人物」として立ち上がる。
二月七日、ある店で彼女は中年男性と向かい合っている。同じ店のテーブルには玲音と牧野真二がいる。玲音が壁際に気づき、牧野も振り向いて「知ってる子かい」と言った直後、彼女は中年男性を撃つ。
続く映像で、彼女は玲音のほうを見る。玲音が何か話しかけるが、口が動くだけで声は出ない。そして彼女は自分の口に銃を入れ、そのまま死ぬ。
⛔ 撃ったのも自ら死んだのも彼女であり、玲音は見ている側にいる。両者は画面上で別の人物として映る。「玲音が撃った」「玲音が自殺した」という説明は、映像と一致しない。
⚠ 彼女が玲音の見る自己幻像視と同一だとは、作中で一度も明言されない。体格と年齢が近いという状況証拠があるだけで、むしろ日記の「中学生になった」という記述と、事件の呼称「女子高生」は一致しない。牧野自身も刑事に対して「まさか彼女はまだ中学生だぜ」と言っている。
⛔ そして本作最大の仕掛けが、この識別番号にある。まったく同じ六本の映像が、前半の領域では玲音のデータとして「電線・空・認識・学校・沈黙」といった無害な語とともに並び、後半の領域では彼女のデータとして「kill/murder intent/suicide/aggression」という語とともに並ぶ。
⚠ しかもその六本を実際に見ると、映っているのは玲音か、あるいは誰でもない。電柱だけの映像、人混み、駅のホーム。彼女の姿はどこにもない。
データが人物を取り違えているのか、誰かが書き換えたのか、それとも二人が同じものだからなのか——⛔ 作中に答えはない。確実なのは、同じ映像に別人の名札と正反対の注釈が付いているという事実だけである。
美里
| 読み | みさと |
|---|---|
| 役割 | 中学で玲音の隣の席になった、たった一人の親友 |
| 特徴 | バイオリンと絵に秀でる物静かな少女 |
| ⛔ 注意 | 実在するかどうかが作中で決着しない |
玲音の日記のなかで、彼女は具体的に存在する。家に来て両親と食事をし、母親まで登場する。玲音が孤立から抜け出していた短い時期は、そのまま彼女と過ごした時期にあたる。
美里の絵に盗作の疑いがかけられたとき、玲音は自分の技術を使って独力でそれを晴らす。だが美里は、礼も別れも告げずに転校して消える。
その後、柊子が家庭教師と偽って同級生に聞き取りを行う。返ってきたのは「絶対そんな子いない」という答えだった。柊子は玲音に告げる。
あなたには、美里ちゃんなんて友達いないよね
⛔ どちらが正しいのかは、最後まで示されない。日記には母親を含めた具体的な記述があり、第三者は全員が存在を否定する。作中に判定材料は与えられない。
この一件が効いてくるのは、それが「記録が残っていることは実在の証明にならない」という本作の前提を、最初に大きく適用した箇所だからである。玲音の日記はプレイヤーが最も長く読む系統であり、その信頼性がここで揺らぐ。以後、どの記録も額面どおりには読めなくなる。
⚠ 当サイトはどちらとも断定しない。実在したとも、玲音の作り出したものだとも書かない。宙吊りのままにしておくことが、この作品の読み方として正しいと考える。
牧野 真二
| 読み | まきの しんじ ⚠ 当サイトは作中で読み上げられる名前を採っている。配役表では「牧野慎一郎(しんいちろう)」とされており、作品の内部で食い違っている |
|---|---|
| 年齢 | 29歳 |
| 職業 | 会社員。勤務先は開拓社(家電メーカー) |
| 住所 | 取り調べの身元確認で品川区の住所を読み上げられる |
| CV | 渋谷茂 |
ネットを通じて玲音と知り合った、ごく普通の会社員。彼女に頼まれてアクチュエーターのモーターを調達し、店で受け渡す。玲音が人工の父を組むための部品である。
受け渡しの席で、彼は気まずそうに言う。「まいったな。まさか君みたいな。君はいくつだ? いや、失礼。女性に歳を聞くなんて」。悪意のある人物としては描かれていない。
その席で二月七日の射殺事件が起きる。彼は目撃者として警察の取り調べを受けることになる。
刑事は、同席していた少女のことを執拗に聞く。彼は「ネットで知り合って、それで会ったんだ」「メールアドレスなんて残すような子じゃない。相当な腕だよ」と答え、少女をハッカーになぞらえる。銃の行方を問われると、こう返す。
その子が持ってったってこと? まさか彼女はまだ中学生だぜ
⚠ 刑事は「あの店ってそういう待ち合わせ場所でよく使われる」と当てこすりを言う。⛔ その当てこすりは、実際には壁際の二人(中年男性と少女)のほうに当てはまっていた——という構図が、映像を見ると分かる。彼は最後まで濡れ衣の側にいる。
二度目の取り調べのころ、彼はもう眠れていない。「デスクトップを見ていると、落ち着くんだ」と言い、玲音との接触を問われて精神的に不安定になり、自傷の痕を示す。
そして彼は取調室で自らを損なう。警察はそれを既知のもののように処理する。
⚠ 屋内で頭から血を流して倒れている男性の映像があり、盤面上の配置からこの人物が牧野であると特定できる。別カメラで撮られた同じ場面の映像も存在する。⛔ ただしこの映像は、データベース上では少女のデータとして登録されている。帰属が信用できないことは、前述の六本の件で既に分かっている。
玲音の父・玲音の母
| 名前 | ⛔ 作中に存在しない。「お父さん」「お母さん」としか呼ばれない。⚠ アニメ版の両親の名前を持ち込まないこと |
|---|---|
| 父 | 会社員。玲音にコンピュータを買い与える。娘に対しては優しい |
| 母 | 専業主婦から働きに出る。後半で酒に溺れる |
父は玲音にコンピュータを買い与えた人物で、日記のなかでは一貫して優しい。玲音が唯一まともに関係を結べていた家族といってよい。
両親の仲は、暴力を伴う喧嘩を経て壊れ、離婚する。父は家を出る。日記には父のその後が書かれず、生死も分からないままである。
母は酒に溺れ、やがて失踪する。玲音は最後の散歩に出た日、街で母とすれ違う。
私に全然気づかない、赤の他人を見るような目で見た。許せなかった。でももういいの。あの人のことは
父については、玲音が人工の父という形で作り直す。そして最後に自らの手で壊す。「お父さんを今日処刑した。次はお母さんだ。」——⛔ この「次はお母さんだ」が何を意味するのかは、作中で明かされない。
その他の登場人物
小学五・六年のころの同級生(今日子)。明るく社交的で、玲音と過ごした時間が彼女の側の記録として残っている。のちに柊子の聞き取りに応じ、美里という生徒の存在を否定するのも彼女である。玲音が普通に友人を持てていた時期を示す、数少ない外側からの証言になっている。
ネットの向こうにいる年長の協力者。玲音に侵入の手ほどきをし、嫌がらせへの報復のしかたまで教える。⛔ 玲音が探し当てたとき、その人はすでに死んでおり、ログは一年前で止まっていた。⚠ にもかかわらず、後になってウサギさん名義の明るいメールが届く。作中で説明はされない。
柊子の上司。彼女にクライアントを与えず雑用を押し付ける。⛔ 研究室で首を吊って死ぬ。柊子が日記に「あんな奴、死んじゃえ。」と書いた後のことで、彼女は「ざまぁみろ」と書く。⚠ そして玲音がその死を先に知っていた——「だって自殺なんだから」。なぜ知っていたのかは書かれない。
柊子の留学時代からの恋人。脳機科学の研究室にいた。帰国後も関係は続いていたが、柊子は彼が他の女性と結婚することを噂で知る。彼女の崩れ方を決定づける出来事のひとつになる。
医療器メーカーの営業。柊子に親切にし、試作品のRMLを渡す。彼女の変調はここから始まる。⛔ のちに柊子は彼の裏切りを目撃する。⚠ 何を意図してRMLを渡したのか、変調との因果があるのかは、最後まで書かれない。
玲音の同級生。柊子の聞き取りに応じるが、玲音のことをほとんど覚えていない。「話してないわけないんだけど、気がついたらいたって感じ」という言い方で、玲音が教室でどう扱われていたかを外側から示す。
名前も素性も持たない、ネット上の書き込みの声。玲音とも柊子とも接点がなく、物語にも絡まない。妄想めいた独白が多く、盤面の上でも他のデータとは違う場所に置かれている。物語の外側から、この世界の空気だけを伝える役割を担う。