田中穂乃火のレビュー — まじかる☆アンティーク

田中穂乃火
田中穂乃火
感情全振り
7.5/10
7.5 / 10

スフィーが帰る日のことを考えると、序盤から切ない。それが全部だと思う。

半年間に期限がある同居から始まる、という設計が感情的にうまい。いつか終わるとわかってるから、日常の一つひとつが重くなる。スフィーがホットケーキをねだってる場面すら、後半になると違う重みで読めてしまう。SLGパートは正直邪魔に感じたけど、ヒロインとの間に「時間」が積み重なっていく感覚はちゃんとあった。7.5。

スコア詳細

感情を揺さぶるシーン 8
主人公への感情移入 8
ヒロインとの関係構築 8
テキストの密度 7
ルート設計 7
SLGシステム 5

まじかる☆アンティークとは——骨董屋の半年間

期限がある同居。これだけで泣く準備ができてしまった。

Leafが2000年に出した経営SLG+ADV。主人公の宮田健太郎は骨董屋「五月雨堂」の店番を強制されたところに、空から落ちてきた魔女スフィーの事故に巻き込まれる。スフィーに蘇生してもらった健太郎は、スフィーの半径30mを離れると死んでしまう身体になり、二人は半年間の同居をすることになる。ただし半年後、スフィーは異世界グエンディーナに帰らなくてはならない。ヒロインは5人いて、結花(幼馴染)、リアン(スフィーの妹)、みどり(財閥令嬢)、なつみ(無口な女子高生)と個性豊か。骨董店の経営を管理するSLGパートと、各ヒロインとの日常を描くADVパートが交互に進む。

「いつか終わる」という設計——日常の重さが変わる

スフィーがホットケーキをねだってる場面すら、後半では違う重みで読める。

半年後に帰るとわかってるから、一緒に過ごす日常の一つひとつが積み重なるにつれて切なくなってくる。序盤は騒がしくて食いしん坊な同居人として描かれるスフィーが、物語が進むにつれて「この世界にいたくなってしまった」という感情を抱えるようになっていく。その変化が日常の描写と重なって見えてくる瞬間が何度かあって、そのたびに胸が痛かった。「神様って意地悪だよね。この世界がこんなにいい世界じゃなかったら、あたし、泣かなくてすんだのに……」——この台詞が後から刺さるのは、それまでの時間の積み重ねがあるから。

健太郎も「居場所を与える人」として各ヒロインに向き合う主人公で、ウジウジせずにちゃんと行動する。「人が本気で願って出来ない事は何もないんだ」という台詞がリアンルートの核になるんだけど、こういう言葉を主人公が言える設計が好き。感情移入しやすかった。

各ヒロインの感情的な核——みんな何かを抱えている

5人のヒロインそれぞれに、感情が動く瞬間がある。

結花は20年来の幼馴染で、「いっぺん死んでこ~い!」が第一声。この強さと、「健太郎の隣はずっとあたしの場所なの!」という台詞の温度差が全部この子の感情の形だと思う。みどりは上品なお嬢様で、骨董への本物の愛情を持っている。なつみは無口で最初はほとんど喋らないけど、「つぼ、好き」という第一声から始まる関係の作り方がとても丁寧だった。リアンは控えめで誠実で、スフィーの妹としてやってくる登場の仕方も含めて、物語の中での立ち位置がちゃんと機能している。各ルートに感情の動くポイントがあって、どこを選んでも「もったいない」という気持ちになる。クリアした後の話は別で語る。

SLGパートへの正直な感想——邪魔には感じたけど

感情移入してる時間に経営の数値を管理するのは、正直つらかった。

SLGパートに不満があるのは本当で、骨董店の売上や在庫を管理しながら半年のスケジュールを組む仕組みは、感情移入の邪魔をするタイミングがある。みどりルートはこのSLGパートの達成がそのままヒロインとの関係を動かす設計になっていて、そこはうまく機能しているとは思う。でも他のルートでは物語の感情の流れとSLGが連動している感覚が薄くて、「骨董店、今日も頑張って……ところでスフィーと話したい」ってなることが何度もあった。これが全部ADVだったらもっと高い点数になってたかも、という気持ちは残る。でもそれを含めて7.5点は十分に揺るがない。

7.5——半年間の重さが伝わる作品

終わる日を知りながら過ごす時間の感情的な重さが、ちゃんとある。

SLGへの不満と、全ルートのクオリティにムラがある点は言っておきたい。でも「期限付きの同居」という設計が感情的にうまくて、後半に向かうにつれて日常の一つひとつが違う重みで読めるようになる。このゲームの泣けるシーンをちゃんと語りたい人はクリア後に別の記事を読んでほしい。7.5。