亡き妻の墓前で高倉父が「ようやく、会えた」と言った場面で、このゲームが好きになった。
みどりルートで一番泣いたのは、みどりと健太郎の恋愛シーンじゃなかった。高倉のお父様が亡き奥さんの墓前に朴斎の美人画を供えて「ようやく、会えた」と言う場面だった。骨董と「居場所」というテーマが、ここで一番きれいに重なってる。それ以外のルートへの感想と、結花失恋BADの話もこっちでする。
スコア詳細
高倉父と「ようやく、会えた」——このゲームで一番泣いた場面
みどりルートで泣いたのは、ヒロインとのシーンじゃなかった。
みどりルートのクリスマス、健太郎とみどりが初めて一夜を過ごした翌日、高倉父が二人を亡き奥さんの墓所に連れていく場面がある。お父様は朴斎の美人画を墓前に供えて「ようやく、会えた」と言う。この美人画は「亡き奥さんに似ている」と言われていた一品で、お父様が欲しくて欲しくて手に入れられなかった骨董だった。「正しい持ち主のもとへ届く」という骨董のテーマが、死んだ人への届け物として成立している。健太郎が「いえ、愛する人を想う気持ちは同じだと言ってるだけです……」と応えた後、お父様が初めて健太郎を名前で呼ぶ。「娘のこと、よろしく頼んだぞ。 ……健太郎」。
この場面でぼろぼろに泣いた。みどりとの恋愛よりも、お父様の「ようやく、会えた」の方が刺さった。骨董屋という舞台とテーマが、ここで一番きれいに機能してる。SLGで経営賭けに勝ってきた半年の意味が、こういう形で回収される。みどりルートが他のルートと違う理由が分かった気がした。
結花失恋BAD——一番痛い台詞
失恋のバッドエンドは短いのに、一言が全部持っていく。
結花に「友達としか思えない」と伝える選択肢がある。それを選ぶと結花が走って去っていって、「あたしにとって健太郎は特別だったけど……、健太郎にとって……あたしは特別じゃなかったって事だよね……」という言葉を残す。この台詞の痛さは「20年間の片思いの終わり」という背景を知っているから来る。序盤の「いっぺん死んでこ~い!」という強さが全部消えている。「健太郎の隣はずっとあたしの場所なの!」と叫んでいた結花が、「特別じゃなかった」という言葉で走り去っていく落差が、後半にずっと胸に残った。
結花の告白受諾エンドも好きだった。「あたし達、ひとつになったんだね……」と「健太郎、重いよ……」「うん……」「健太郎……、重いけど、あったかい……」の会話が、この子の全部だと思う。いつも強がって毒舌で、それでもここでだけ柔らかくなる。20年分の積み重ねがあるからこの台詞が成立する。
なつみの自己受容と消滅END——どちらも怖い
ハッピーエンドも消滅エンドも、同じくらい怖いルートだった。
なつみルートは感情的に一番しんどかった。ユユという分裂した本音人格の存在が明かされてから、なつみが抱えてきたものの重さが分かってくる。祖母に毎晩母の悪口を聞かされ、形見の絵本を焼かれて、魔女の血を否定され続けてきた。ユユはなつみが抑圧した全部が形になったものだった。
心の世界のシーンで、なつみが「制服」を脱いで「裸になる」ことが自己受容と重なっている構造がある。制服はなつみの覆い隠そうとする部分で、裸はユユの正直な部分。その二人が融合するハッピーエンドは「やった」という気持ちより「よかった」という安堵の方が大きかった。消滅エンドは選びたくなかった。「彼女が消えた……。そして次の瞬間、この世界も……」という言葉が、心の世界が消えるというより存在ごと消えるように読めて、すごく怖かった。この怖さは、それまでのなつみとの時間があるから来る。
7.5——泣いた場面が全部あるゲーム
クリアして、泣いた場面の一覧を思い返すと、このゲームは十分に仕事をしていた。
高倉父の「ようやく、会えた」、結花失恋BADの「特別じゃなかったって事だよね」、なつみ消滅ENDの怖さ、スフィーの「神様って意地悪だよね」——泣いたシーンや胸に残ったシーンが全ルートに散らばっている。SLGが邪魔だったのは本当だし、ルートによってクオリティにムラがある点は変わらない。でも「半年間に期限がある同居」という設計が全体を通してちゃんと機能していて、それぞれのルートに感情が動く瞬間があった。7.5は揺るがない。
