郁未は最後まで逃げませんでしたわ。それだけは、認めますわ。
鬼畜ゲームではございませんの。宗教施設を舞台にした閉鎖的なダークシナリオで、主人公・天沢郁未の動機の変化が物語の核を担っております。わたくしが問いましたのは、郁未という人物が最後まで自分の物語と向き合い続けたか、という一点でしたわ。その答えは確認できました。詳しくはクリア後に申し上げますわ。踏み込み不足な部分が複数ございますけれど、7.3は「覚悟が見える」評点でございますわ。
スコア詳細
鬼畜ゲームではないけれど——それでも覚悟を問う作品でしたわ
念のため申し上げておきますわ。MOON.は鬼畜ゲームではございませんの。
1997年11月、Nexton傘下のTacticsが発売した18禁ADV+RPG作品でございます。舞台は新興宗教「FARGO宗団」の修行施設。主人公の天沢郁未(16歳)は、半年前に怪死した母の仇を討つため、ひとりでこの施設へ潜入しますの。施設内では信者をClass A〜Dで管理し、MINMES(精神訓練機械)とELPOD(自己と向き合う機械)での訓練が行われております。同じく潜入者である巳間晴香・名倉由依と合流しながら、施設の秘密へと踏み込んでいきますわ。
わたくしがこの作品を読む軸は一つでございますの。「この作者は、自分の書いた物語を最後まで信じていたか」。ジャンルは問いませんわ。鬼畜でも純愛でも、最後まで逃げずに書き切ったかどうかだけを確認しております。
MOON.についての答えは、おおむね「逃げなかった」でございますわ。ただ、積み残しもございます。それをネタバレなしの範囲でできる限り申し上げますわね。
天沢郁未という人物——動機の積み上げを確認しましたわ
主人公の評価から入りますわ。わたくしが最も重く見るのは、主人公の動機が物語を通じて一貫しているかどうかでございますの。
郁未は「母の仇を討つ」という動機を持ってFARGO施設へ潜入しますの。この動機は明確でございますわ。ただ、復讐という動機だけで物語全体を支えられるかというと、そこに疑問が生じる作品も多うございます。MOON.はそこをどう処理しているか——それを確認しながら読みましたわ。
郁未は強がりと弱さを同時に持つ人物でございますの。「本当はよくわからない……ただ悲しみをふっ切るために何かをしたいだけなのかもしれない」と自己告白できる正直さ。この人物造形は評価いたしますわ。復讐という動機に徹しきれない正直な揺れが描かれておりまして、それが後半の変化への伏線になっておりますの。動機の積み上げとして、ここは機能しておりましたわ。
施設に同居する「少年」との関係も、この積み上げと連動しております。誰であるか素性もわからない存在と閉鎖空間で関係を深める過程——郁未がそこに何を見出すかが、物語の後半の核と繋がっておりますわ。詳しくはクリア後に申し上げますわ。
施設の暗部——覚悟のある恐怖と、届かなかった部分
FARGO施設には、ダークシナリオとして問うべき部分がいくつかございますわ。
まず申し上げておきますと、施設の構造設計は論理的でございますの。Class A〜Dという階層管理、MINMES・ELPODという訓練装置、各棟の異なる機能。閉鎖空間として最低限の整合性は保たれております。覚悟の問い以前の土台として、これは通過しますわ。
施設内には暴力を担う人物も登場しますの。その人物の描写については、評価できる部分と積み残しの部分がございますわ。評価できるのは、その人物が施設の統制機能と結びついて描かれていること。届かなかったのは——加害側の「なぜ」への踏み込みが浅うございますの。なぜそうするのかを問い詰めていない。サディズムを「そういうキャラ」として置いておりますの。詳しくはクリア後に申し上げますわ。
複数の分岐ルートがございますが、そのうちいくつかに「覚悟のある結末」が含まれておりますの。すべてのルートに全力を注いでいるかというと、そこには差がありますけれど、主要な結末には逃げておりませんでしたわ。
7.3の根拠——逃げなかったことへの評価と、積み残された問い
「覚悟が見える。積み残しがあっても作品として信頼できる」——それが7.3でございますわ。
郁未という人物が最後まで自分の物語と向き合い続けたこと、エンディングが物語の積み上げの帰結として機能していること——この二点でわたくしはこの作品を信頼できますの。1997年の作品として、テーマの問いは本物でございましたわ。
8に届かない理由は申し上げた通りですわ。加害側の心理設計に覚悟が足りない部分がございますの。せっかく閉鎖組織という舞台を用意しておりながら、暴力を担う人物の「なぜ」が薄うございますわ。そこまで踏み込んでいただきとうございました。
Hシーンの評価については、物語と連動しているものと独立しているものが混在しておりますわ。詳しくはクリア後に申し上げますわ。
「郁未は最後まで逃げませんでしたわ。それだけは、認めますわ。」
— 柊美香
7.3でございます。
