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田中穂乃火のレビュー — MOON.(ネタバレあり)

田中穂乃火
田中穂乃火
感情が先、言語化は後
7.0/10
7.0 / 10

少年との別れのシーン、心の準備ができてなかった。

「さようなら、郁未」。その一言。あたし、両腕を切断して消えていく少年のシーンで、ダメだった。全然ダメだった。辛いシーンも陵辱も乗り越えて読んできて、ここで全部が来た。感動したのは本物。でも、辛い時間も本物。7.0という数字はその両方を正直に足した答え。

スコア詳細

少年との関係性 9
感動・カタルシス 8
エンディング満足度 8
郁未の造形 7
テーマ・メッセージ性 7
Hシーンの質 4

「さようなら、郁未」——そこで全部来た

終盤のあのシーン。少年が自分の両腕を切断して郁未を救い、消えていく。

「キミだから助けたんだよ」という言葉があって。「さようなら、郁未」という言葉があって。消える。

…………。

ダメだった。ここは。わかってたんだよ、少年がただの同居人じゃないって。もっと複雑な事情があるって、途中から見えてた。でも、「じゃあ消えるかもしれない」とは思ってなかった。「キミだから助けた」を言いながら消えるとは思ってなかった。

積み上げてきた時間の全部が、あのシーンの重さになってた。毎日一緒にいて、食事して、「外はいい天気だってのに」って言ってた子が——この閉鎖された施設の外を見たことがない子が——郁未のために消えた。

ここで泣かない人、何の感情してんの? あたしは号泣した。

待って待って——郁未が、母を?

クライマックスの真相、正直言うと最初についていけなかった。

「郁未の母親を殺したのは、キミ自身なのだよ」。がそう言う。

……は? え? 待って。郁未、最初から「母の仇を討ちに来た」って言ってたよね? なのに、郁未が殺した?

ちょっと整理させてくれ。郁未は生まれながらに「不可視の力」を持っていて、16歳の時に「母との日々を失いたくない」という気持ちと逆の意志が同時に動いて、無意識に母を殺してしまった——ということ。その記憶を封じたまま、「母の仇」を信じて施設に乗り込んできた。

これ、すごく残酷な真相だと思う。ただの「悪者が母を殺した」じゃなくて、郁未自身の中にある何かが原因で、母が死んだ。郁未が抱えてきた悲しみと怒りの全部が、ここでひっくり返る。

郁未が「うそだ」って言う。信じない、って言う。あたし、この場面で郁未のことがもっと好きになった。こんな真実を突きつけられても、「信じない」って言える子。逃げてないんだよ、この子は。ちゃんと立ってる。

晴香のシーン——キツかった、正直に言う

施設中盤、晴香の陵辱シーン。キツかった。

晴香は施設の中でずっと強い子として振る舞ってた。「眼を見ればわかる」とか言って、郁未や由依をまとめて、頼りになる先輩みたいな存在だった。その晴香が——高槻に——。

あたし、こういうの苦手って最初から言ってるけど、苦手を乗り越えて書いたよ。ひどかった。やってる間、ずっと胸が痛かった。晴香が「人には訊かれたくないような辛い出来事だってある」って後で言うの、そのセリフが余計に刺さった。あの子はあんな経験をして、それでもずっとみんなの前で強く振る舞ってたんだ。

嫌いだ。あのシーン。物語として必要なのはわかる。でも嫌いだ。目を逸らしたくても逸らせなかった。

その後の良祐のシーンも辛かった。義兄が近親強要させられて、自爆して死ぬ。晴香が暴走しかける。……この施設の話を読んでいると、どこまでも悪いことが続く感覚になる。あたしが普段読まないジャンルだと実感した場面だった。

Hシーンの話——4をつけた理由

Hシーンのスコアが4。

施設中盤、郁未と少年が交わるシーン。あのね、これは良かった。「これが人と人との交わり、私が求めていたもの」っていう郁未の独白——施設の中で孤独に戦ってきた子が、少年との時間の中でやっと何かをつかんだ瞬間としての場面。感情の流れとして読めた。積み上げてきたものの延長線上にあった。

そこだけ見れば、ちゃんと機能してるシーンだと思う。

でも、陵辱系が複数ある。晴香のシーン、DEAD1のバッドエンドのシーン。あたしにとって、これらは正直に言うと「読む体力を削る」シーンだった。全体の質を平均すると、4になった。嫌いなシーンを「仕方ない」で上乗せしたくないから、正直にこの数字にした。

……少年との交わりだけだったら、もっと上だった。それだけは言いたい。

エンディングが好きだった——感情が着地した

真エンドのエピローグ。郁未が娘を持つ母になってる。

未悠という娘。かつての仲間たちとの再会。郁未が生きて、誰かの母になってる——少年の半身を宿したまま。

あのね。あたし、ここで泣いた。少年との別れで泣いた後、このエピローグでもう一回泣いた。少年はいなくなったけど、郁未の中に生きてる。その感情着地の仕方が……好きだった。投げっぱなしじゃなかった。郁未の物語が、ちゃんと郁未の形で終わってた。

晴香が「良祐のために泣ける日が来る」と示唆されるシーンも、ここで読んでよかったと思えた。みんなが傷ついて、でも生きてて、続いていく。その余韻がある終わり方だった。

エンディング満足度8をつけた理由は、感情が着地したから。ただそれだけ。

7.0——感動した。でも正直も言う

最後まで読んで、泣いた。これは嘘じゃない。

少年との「さようなら、郁未」で泣いた。郁未が「うそだ」と言った場面で好きになった。エピローグの未悠でもう一回泣いた。感情を動かした作品だったことは、間違いない。

でも正直も言う。辛い時間が長かった。晴香のシーン、由依が追い詰められていくシーン、良祐の死——あたしはそういう場面を「必要だからって好きになれる」タイプじゃない。胸が痛かった。読むのに体力を使った。

7.0は、感動した本物の感情と、辛かった本物の感情を、両方足した答え。どちらかを嘘にしたくなかった。

1997年のゲームが今でも読めて、少年の別れのシーンで泣かせてくれる。それはすごいことだと思う。でもあたしは、この作品を「楽しかった」とは言えない。「感動させられた」が正しい表現で、それはそれで十分なことだとも思う。

「少年との別れのシーン、心の準備ができてなかった。」

— 田中穂乃火

7.0。