大和仁のレビュー — Never7 -the end of infinity-

大和仁
大和仁
星の砂を顕微鏡で見たい男
7.0/10
7.0 / 10

島の小さな謎に、心理学の古い問いが埋まっていた。

心理学科のゼミ合宿で離島へ行く大学生が、これから起こることを言い当ててしまう。設定の入口は軽いけれど、その奥には精神医学と物理学と語源学にまたがる仕掛けがあって、調べるほど面白くなった。持ち込まれる知識の量は多くない。そのかわり、少ない素材の組み合わせ方に独自の筋がある。島の外の世界が薄いこと、物語の中心にある謎のいくつかが最後まで置かれたままになることを差し引いて、7.0だよ。

スコア詳細

設定の独自性 8
世界の奥行き 6
設定の整合性 7
テーマ・メッセージ性 8
文章力・描写力 7
エンディングの満足度 6

心理学科のゼミ合宿、という一行に釣られた

主人公が文学部心理学科の学生で、物語はゼミ合宿。それだけで、ぼくはこの作品を手に取る理由になった。

KIDの『Never7 -the end of infinity-』。infinityシリーズの最初の作品で、2000年のPlayStation『infinity』を前身に、同じ年のドリームキャスト版で今の題名になった。ぼくが遊んだのは2001年のWindows版で、優夏の視点から物語をなぞり直す追加シナリオ「優夏キュア」も入っている。

大学3年の石原誠は、授業にほとんど出ないまま心理学科のゼミの川島班に振り分けられ、7泊8日の合宿で絶海の孤島へ連れて来られる。班長の川島優夏、無口な樋口遙、財閥の御曹司の飯田億彦。カフェ「ルナビーチ」で働く年上の守野いづみと、高校3年の妹のくるみ。別荘に来ている優夏の旧友の朝倉沙紀。4月1日の朝から、誠は夕飯の献立や地震を次々に言い当ててしまう。自分はこの6日間を繰り返しているのではないか、と誠は疑い始める。

心理学を看板に掲げた作品は、たいてい専門用語の名前だけ借りて終わる。だから半分は疑っていた。やってみて、疑いの半分くらいは外れた。何を下敷きにしているのか、謎の中身に触れない範囲で挙げていく。

一つの造語に、治療と救済と司祭が重なっている

合宿の序盤、億彦が持っていたレポートの題名に、キュレイシンドロームという耳慣れない病名が出てくる。調べてみると、現実の精神医学にこの名前の病気はない。作中の造語なんだよ。

中身がどういう病なのかは、物語の核心に関わるので言わない。ただ、名前の付け方だけで、ぼくはかなり感心した。作中でも名前の由来が語られる場面があって、それによるとフランス語読みが関係している。ここ、語源をたどると筋が通っているんだよ。英語の cure(治す)も、フランス語の curé(主任司祭)も、もとはラテン語の cura、つまり世話や配慮という語から来ている。司祭は信徒の魂の世話をする人だから curé と呼ばれる。治すこと、救うこと、魂を預かること。その三つが一語に重なっている。

作者がどこまで語源を意識していたかは分からない。けれど、横文字をそれらしく並べただけの病名とは手触りが違う。クリアしてから名前の意味を考え直すと、なるほど、と思えるはずだ。設定の独自性に8を置いたのは、この造語を中心に、精神医学と物理学の既存の概念を新しい角度で組み合わせているからだよ。何と何を組み合わせたかは、言うとそのまま謎の答えになってしまう。

心理学科という舞台主人公が心理学科の学生で、ゼミの合宿が舞台、というのも飾りではない。予知が当たるという不思議を、登場人物がただの不思議で済ませずに、学問の言葉で説明しようとする。その説明を作品がどう扱うか。ここに、ぼくがテーマに8を付けた理由がある。中身は言えないけれど、科学の言葉で組み立てた説明を、物語は最後まで断定しない。科学がどこまで現実を語れるのか、という古い問いにつながっていく。

星の砂、レグルス、言い伝え。島の小さな知識

島の細部には、調べると少し得をする知識がいくつか置いてある。

星の砂くるみが浜で拾う、星形の白い砂粒。調べてみると、現実の星の砂は砂ではなく、有孔虫という小さな生き物の殻なんだよ。沖縄の浜で土産になっているあれだ。作中でこれが何の象徴になるかはクリア後の楽しみだけど、生き物が遺した殻だと知っていると、見え方が少し変わる。

レグルスいづみは星空の下で「しし座のレグルスは、今から84年も前の光……」と言う。今見えている光は過去のものだ、という性質は、6日間を繰り返す物語とよく響き合う。距離の数字は資料によって幅があって、今よく引かれる値はもう少し近い。作中の84年は、少し前の資料の値なのかもしれない。ここは目くじらを立てるところではないけれど、気になって調べてしまった。

言い伝え島には「恋の岬で想いを告げて、愛の入り江で想いを遂げる」という恋の言い伝えと、地元の人も寄りつかない西の岬の神社にまつわる怖い伝説がある。民俗学の目で見ると、伝承が場所と結びつき、人の行動を縛っているのがいい。小さな島の言い伝えらしい素朴さもある。

トランプの確率と、優夏の回文

授業の脱線みたいな話を二つ。どちらも、プレイ中にぼくが手を止めて計算したり書き出したりしたところだ。

トランプ誠の予知の中に、めくる前のトランプの並びを言い当てる場面がある。夕飯の献立なら、カレーかシチューか肉ジャガか、当てずっぽうでも3回に1回は当たる。けれどトランプは桁が違う。52枚の並び方は52の階乗通りで、これは8のあとに0が67個くらい続く数になる。何枚かを続けて言い当てるだけでも、偶然で片づけるのは苦しい。作品は予知の小道具に、偶然では説明できない桁の数をきちんと選んでいる。周りの人間が誠をいぶかしむのも無理はないし、誠がうろたえるのも分かる。小さな場面だけど、数の感覚が正しい。

回文もう一つは、班長の優夏がバーベキューで披露する言葉遊びだ。「焼けた石原は、シイタケや!」「かいぶんよ、か・い・ぶ・ん!」。ひらがなに直して後ろから読むと、ちゃんと同じになる。やけたいしはらはしいたけや。主人公の名字を織り込んだ回文を、バーベキューの軽口に仕込んでいる。回文は古くは和歌の遊びにもあって、言葉の並びを逆にしても意味が通るという、ささやかな対称の美しさがある。同じ6日間を何度もなぞる物語の中で、前から読んでも後ろから読んでも同じ文が出てくる。偶然かもしれないけれど、ぼくはこういうのを見つけると嬉しくなってしまう。

ちょっと残念なのは、島の外が見えないこと

世界の奥行きに6、エンディングの満足度に6を置いた理由を言っておく。

精神医学と物理学の柱は立っている。けれど、その外側に敷かれた周辺の知識は少ない。主人公が直接触れない部分にまで調べた跡が敷いてある、という感触は、この作品では薄い。誠の大学も、島の暮らしも、ほとんど書かれない。調べれば調べるほど厚くなる作品、というところまではいかない。素材の量は少ないけれど、その少ない素材の組み合わせ方が新しい。独自性に8、奥行きに6という差はそこから来ている。

エンディングについては、物語の中心にある大きな謎のいくつかが、最後まで答えを置かれないまま終わる。これは作品の一貫した態度でもあって、説明を与えないことにも意味はある。ただ、科学の硬い知識に支えられた謎については、ぼくはもう一歩の説明がほしかった。どの謎がそうなのかは、もう一本のほうで具体的に挙げた。

文章力・描写力は7。誠の軽口や、合宿の面々が起こす騒ぎの会話は軽くて楽しい。ただ、説明が必要な場面になると、登場人物が理屈を言葉で長く運ぶところがある。講義のような場面は、ぼくは嫌いじゃないけれど、物語の速度は落ちる。

7.0——少ない素材で、古い問いに届いた

持ち込まれた知識は多くない。けれど、どれも雰囲気で借りたものではなかった。

治療と救済と司祭が重なる造語の病名、心理学科という舞台の使い方、星の砂とレグルス。島の中の小さな知識が、科学がどこまで現実を語れるかという古い問いに結びついていく。プレイして、星の砂が生き物の殻だと改めて知った。ぼくにとっては、それで十分にやった意味があった。島の外の薄さと、答えの置かれない謎を差し引いて、7.0だ。