「えいえんはあるよ」。この一行が業界に刻まれた瞬間に、わしは立ち会った。28年経って、まだ響きは残っておる。
1998年。Tacticsという小さなブランドから、前評判らしい前評判もなく出てきた一本じゃ。当時のエロゲー業界に、「消えていく主人公」を書いた作品はなかった。後にKeyを立ち上げる麻枝准と久弥直樹の原点でもある。今回は当時の記憶と、28年後に再びディスクを回した上での審判じゃ。残ったものと、削れたもの。両方じゃ。
スコア詳細
500年生きて初めて聞いた——「えいえんはあるよ」
1998年5月。起動して最初の一行で足を止めさせられた、あのゲームの話じゃ。
Tacticsという小さなブランドから出た恋愛ADV。プレイしたのはPC版(ボイスなし)じゃ。舞台は地方都市の高校。主人公の折原浩平という高校2年生が、毎朝叩き起こしにくる幼なじみの長森瑞佳、転校生の七瀬留美、中途失明の先輩の川名みさき、「みゅーっ」としか言えない小柄な椎名繭、スケッチブックで会話する後輩の上月澪、雨の空き地で誰かを待ち続けるクラスメートの里村茜——6人の少女と関わる、秋から冬の話じゃ。
起動して最初の行に「えいえんはあるよ」と出た。500年生きておるが、この短さで世界観を引き受けるフレーズには滅多に出会わぬ。誰の言葉か、何が「えいえん」なのか、この段階では何も明かされない。ただ問いだけが置かれる。この一行が最後まで行って初めて意味を持つ設計になっておる。
後にKeyを立ち上げる麻枝准と久弥直樹の二人がシナリオを分担しておった。当時の両名はまだ無名じゃった。これがその原点じゃ。
「消えていく主人公」——当時の業界に、これはなかった
何が当時の業界で異質だったか。
ヒロインが消える話はあった。主人公が死ぬ話もあった。だがこの作品の仕掛けは、そのどちらとも違う。ネタバレになるので詳しくは書けぬが、主人公が「現世から引き剥がされていく」構造がある。これを恋愛ADVのフォーマットで、6ルートにわたって丁寧に設計した。当時のわしの記憶では、こういうことを書いた作品は他になかった。
さらに各ルートが、「同じ問いへの異なる答え方」として設計されておる。どのヒロインの話も独立しておるのに、全ルートを終えた後に「なぜこの6人が選ばれたのか」が見えてくる。6ルートが互いを補完し合う設計じゃ。これも当時では珍しかった。
「えいえん」というシンボル句が、物語の複数の地点で、状況を変えながら反復される。最初は謎として。次第に重さを帯びながら。全ルートを終えた後、また別の意味の層として立ち現れる。同一フレーズを反復させながら意味を書き換えていく、文章設計としての巧みさじゃ。
削れなかった弱点——共通ルートの長さ
序盤はキツい。
共通ルートが長い。6人のヒロインとの距離を段階的に縮めるために必要な積み上げとしては理解できる。後から振り返れば意味のある時間じゃ。ただ現代のプレイヤーには、本題に入るまでの助走が重い。これは事実として置いておく。
当時のエロゲープレイヤーは日常パートを長く読む耐性があった。今は違う。序盤で離脱する者が多いと聞く。設計の意図はわかるし、後の感情爆発の助走として機能はしておる。それでも序盤への配慮が薄いのは、時代の産物として仕方のない弱点じゃ。
さらに、ゲームとしての難易度も問題じゃ。攻略なしで進めると、ヒロインルートに分岐できずに汎用バッドエンドに落ちやすい設計になっておる。選択肢の意味が分かりにくく、複数ヒロインのフラグが競合する仕組みのため、初見では正しい分岐に入れないことが多い。つまり、あの長い共通ルートを何周も読み直す羽目になりやすい。共通ルートの長さとこの難易度が重なると、攻略なしのプレイヤーには相当に消耗する体験になるのう。
7.2——時を超えた発明と、時に削られた装飾
最後に判決を下すとしよう。
「えいえんはあるよ」は残った。28年経って再プレイしたが、芯になるフレーズと、芯になるシーンは時間に削られておらん。本物はこういうものじゃな。共通ルートのテンポと、二人のライターの密度差という弱点も再確認したが、それらは当時の制約として敬意を持って横に置く。
業界史の中での位置づけは動かない。Keyを生んだ原型として、後の10年の「泣きゲー」の起点として、本作は残る。少なくとも次の50年は確実に残る。それが7.2の意味じゃ。8には届かなかった。だが7.2は「歴史に名を残す作品」の最低ラインを超えておる、という判決でもある。
詳細な話(永遠の盟約の正体、BADエンドがテーゼの裏返しとして機能する仕組み、麻枝と久弥の書き分けの具体的な差異)はネタバレあり版に書いた。興味があればそちらを読んでくれ。
