加藤萌絵のレビュー — ONE〜輝く季節へ〜

加藤萌絵
加藤萌絵
キャラが全て
7.8/10
7.8 / 10

6人全員、ちゃんと立ってる。こういう作品、久しぶりに読んだ。

Tacticsが1998年にリリースした恋愛ADV。後のKeyを立ち上げた麻枝准と久弥直樹が担当した作品。プレイしたのはPC版(ボイスなし)。6人ヒロインって聞いた時点で「キャラが薄まる系かな」と思ってたんだけど、全然そんなことなかった。6人全員に動機がある。6人全員に「このキャラだからこう動く」理由がある。主人公の浩平くんも、キャラとして機能している。共通ルートの長さが大変だったけど、全ルート終えた後に「このキャラたちのことが好き」って言えたから、わたしの評価は7.8。

スコア詳細

ヒロインの個性・動機 9
キャラ間の関係性 9
主人公の造形 8
感動・カタルシス 8
Hシーンのキャラ整合性 7
日常・コメディパート 6

6人って聞いた時点で半信半疑だった

6人ヒロインの作品、大概どこかでキャラが崩れる。

Tacticsが1998年にリリースした恋愛ADV。後のKeyを立ち上げた麻枝准と久弥直樹が分担して書いた作品。プレイしたのはPC版(ボイスなし)。「泣きゲーの原型」みたいな評判を聞いて気になってたんだけど、わたしが先に気になったのはヒロインの数だった。6人。多い。

登場するのは、毎朝浩平くんを叩き起こす幼なじみの長森瑞佳さん、冬に転校してきて乙女願望全開の七瀬留美さん、中途失明の先輩・川名みさきさん、「みゅーっ」としか言えない不思議な少女・椎名繭ちゃん、スケッチブックで会話する後輩・上月澪ちゃん、雨の空き地でひとり佇む里村茜ちゃん。6人全員が主人公・折原浩平くん(高校2年生)と関わる、秋から冬の話。

6人もいたら、ぜったい薄い子が出る。そう思ってたんだけど、出てこなかった。全員に「このキャラがここにいる理由」があった。これは率直に、驚いた。

6人全員に、動機がある

このゲームのヒロイン設計、わかってる。

繭ちゃんのことから話すと——「みゅーっ」しか喋れないのに、シーンによってその「みゅーっ」の意味が全部違うんですよ。「みゅーっ(困惑)」「みゅーっ(嬉しい)」「みゅーっ(怒り)」って読める。台詞が一種類しかないのに情報量がある。テンプレート属性の組み合わせじゃなくて、このキャラにしか出ない表現がちゃんとある。キャラとして機能してる証拠だと思う。

澪ちゃん——言葉を持たなくてスケッチブックで会話する後輩——も同じで、セリフがほぼないのにキャラが立ってる。最初に出会う学食のシーンで、同じタイミングで同じメニューをトレーに置く、それだけで「この子、浩平くんと波長が合う」ってわかる構造になってる。言葉なしでそれをやってる。

みさきさんは、中途失明という設定を「悲劇」として描かない。自分の状況を一切悲劇化しない。食パン1斤で朝ごはんが足りると言い張ったり、雨の日に「走ったら健康にいいかなって」と傘も差さずに歩いたり。このとぼけた行動原理が状況の重さとの落差を作っていて、それがキャラとして成立してる。こういう設計ができる作品は信頼できる。

七瀬さんについては——中盤以降で彼女の過去に関わる話が出てきて、乙女に憧れるという動機の「なぜ」が分かる。その「なぜ」を知った瞬間に、それまでの言動の意味が全部変わった。このキャラの動機を理解した上で書いてる。解釈一致だった。

主人公がヒロインを好きになる理由が、見える

浩平くんのキャラが、ちゃんとヒロインと嚙み合ってる。

折原浩平くんは軽口と茶化しと冗談で全部を覆い隠すキャラで、「好きだ」を最後まで直接言えない。最初は「受け身な主人公かな」と思ったんだけど、読み進めると違うとわかってくる。このキャラはこういう理由でこういう態度になってる、という「理由」が読めてきた瞬間から、浩平くんへの見方が変わった。

各ヒロインとの関係性で浩平くんの違う面が出てくる。長森さんに対しての浩平くんと、七瀬さんに対しての浩平くんは、同じキャラなのに接し方が変わる。でも「なぜそう変わるか」がわかる範囲に収まってる。6ルートある作品でキャラがブレずにいるのは、ちゃんとキャラを理解して書いてる証拠だと思う。

ひとつ気になった点は、Hシーン内での浩平くんの振る舞いで「このキャラとして、これはどうなんだろう」ってなる場面が一箇所あった。詳細はネタバレあり版に書いた。それ以外はほぼ一貫してたので、全体的な評価を大きく下げるほどではなかったけど。

日常シーンで、全員立ってる

日常パートでキャラが立ってる作品が好き。これはそれだった。

長森さんと浩平くんの「星人」シリーズが好きで。「だよだよ星人」と「もんもん星人」を合体させて「だよもん星人」と命名するまでの論理のエスカレーション、「『もん』だって、そんなに使わないもん」って言ってしまう長森さん。この二人の呼吸が日常のやりとりだけで伝わってくる。

七瀬さんの「殺人的に面白くないわよっ」「凶悪に面白くないわよっ」というツッコミ表現、これもキャラとして正しい。大げさな表現で感情を出す、でも基本は丁寧語を守るっていう七瀬さんの性格が、あの一文に全部出てる。繭ちゃんの「みゅーっ」の解釈ゲーム。澪ちゃんの学食のトレーのタイミング。各ヒロインと浩平くんの間に「この二人ならではのやりとり」がある作品、本当に大好きだ。

ただ——共通ルートが長い。全員と関わる時間を積み上げるために必要なのはわかる。でも最初のルートをクリアした段階では、まだゲームの全体像が見えない時間が続く。キャラが全員魅力的だったから持ちこたえられたけど、もう少し引きが早くてもよかったかな、とは思った。

このキャラたちだから、後半がくる

キャラへの感情移入の結果として来る。それが全て。

各ルートの後半で起きることは、ネタバレになるから書けない。でも「なぜこれでこんなに来るのか」はわかる。共通ルートで積み上げた「このキャラとの関係」が、後半の重さに直結してるから。薄いキャラだったら来なかった。全員ちゃんと立ってたから、その後半がくる。「キャラへの感情移入の帰結として感動させる」ができている作品だと思う。

……ていうか、一箇所でわたし普通にダメだったんだけど、それは言わないことにしておく。

7.8——6人全員のことを好きになれた

わたしにとっての評価基準は、このキャラを好きになれたかだけ。

6人全員に固有の動機がある。主人公の浩平くんもキャラとして機能している。日常パートの各ヒロインの「立ち方」が丁寧。Hシーンの一部に「このキャラとして、これはどうなの」と思う場面があってそこでマイナスになった部分もある。でも全ルートを終えて「このキャラたちのことが好きだ」と言えたから、7.8。

どの推しが一番好きか、各ルートの感情的な到達点の話、Hシーンのキャラ整合性についての詳細は、ネタバレあり版で全部語った。