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加藤萌絵のレビュー(ネタバレあり) — ONE〜輝く季節へ〜

加藤萌絵
加藤萌絵
キャラが全て
7.8/10
7.8 / 10

6人全員、ちゃんと立ってる。こういう作品、久しぶりに読んだ。

ここからはネタバレありで全部。七瀬留美推し宣言から始めて、各ルートのGOOD ENDの話、浩平くんのキャラ設計、Hシーンのキャラ整合性(解釈一致と解釈違い)、えいえんの構造とヒロインたちの「待つ理由」を順番に。Hシーンの話も含めて。キャラとして正しいか、という軸で全部見ているので、そこだけは先に。

スコア詳細

ヒロインの個性・動機 9
キャラ間の関係性 9
主人公の造形 8
感動・カタルシス 8
Hシーンのキャラ整合性 7
日常・コメディパート 6

七瀬留美が、好き。

これは最初に言っておかないといけない。

七瀬留美さんが好きです。「殺人的に面白くないわよっ」「凶悪に面白くないわよっ」って怒るキャラが、ルートの中盤で剣道部時代の話を打ち明けるんですよ。面の中で泣いていた、という話。試合のたびに本当の自分を鉄の面の中に閉じ込めて、外向きの自分を演じ続けた——そこで先輩に「もう面なんて被るな」って言われた。

あ。そういうことか、ってなった瞬間。「乙女らしいことをっ…!」って言い張る七瀬さんの全ての言動の根拠が、そこにあった。乙女に憧れるのは、ずっと自分を隠してきたからだ。乙女でいることが「本当の自分を出していいんだ」という確認になっている。このキャラはこういう動機で動いている。だから、ここで、こう言う。解釈一致。

「殺人的に面白くない」というボキャブラリーを選ぶ人間が、面の中で泣いていた剣道少女だった——このキャラを設計した人間は、七瀬留美のことをわかっていた。これが分かった瞬間から、わたしは七瀬留美推しになった。

「おまたせっ、お姫様」で止まった

七瀬ルートのGOOD ENDの話を。

えいえんの世界に消えていった浩平くんが、約一年後に戻ってくる。七瀬さんのルートでは——自転車に乗った浩平くんが坂の上から降りてきて、七瀬さんを後ろに乗せて「おまたせっ、お姫様」と言う。

……止まった。この一文で止まった。

「お姫様」という言葉が七瀬留美に向けられることの意味。乙女に憧れて「やっぱり最初はっ…男の子の部屋がいいかなっ…」と言いながら自転車で浩平くんの家に向かったキャラクターへの、この言葉。浩平くんが七瀬さんのことを「お姫様」として見ている、という宣言。

七瀬ルートの朝起こし三日チャレンジ——浩平くんが毎朝七瀬さんの部屋に行って起こしにいくシーンが序盤に重ねられる——あれがGOOD END後も続く、という構造。帰還した浩平くんが毎朝来る。待っていた七瀬さんのために毎朝来る。この反復の意味が、「お姫様」の一言で全部繋がった。

公式が最高。このライター、七瀬留美のことをわかってる。

浩平くんの軽口は、全部防御だった

折原浩平くんのキャラ設計の話をしないといけない。

「美男子星人」とか「真空飛び膝蹴りごっこ」とか、共通ルートでは笑えるキャラとしての浩平くんしか見えない。でも——妹みさおの話が出てくるところで、浩平くんが見えてきた。

妹みさおを病気で失った7歳の浩平くんが、母親から離されて叔母の家に預けられて、知らない町で毎日泣いていた。そこに現れた「えいえん」の少女——浩平くんが自分の悲しみから逃げるために心の中に生み出した存在——と「永遠の盟約」を結んだ。

軽口と茶化しで全部覆い隠す浩平くんの態度が、この背景を知った後で全部違う意味に見えてくる。「美男子星人」は防御だった。誰かを笑わせることで、自分の内側にある喪失感を隠してきた。このキャラはこういう理由でこういう態度をとっている——つまり、わかっていた。

そしてえいえんの引力の話。浩平くんはヒロインと心を通わせるほど、えいえんの世界へ引き寄せられていく。長い共通ルートで築いた「このキャラとの関係」が積み上がるほど、消えていく力も強まる。これがキャラ萌えとして最も恐ろしい設計だった——好きになるほど失われていく構造。

……なんか、すごいんだけど、うまく言えない。でも、すごい。

みさき先輩の「浩平君だよね?」で尊死した

Hシーンのキャラ整合性について、全部いきます。

川名みさき先輩——中途失明した3年生で、浩平くんと「ふたりだけの卒業式」を夜の教室でやった直後のHシーン——ここで先輩が「浩平君だよね?」と確認する。目が見えないから、声で確認する。

尊死。

このセリフが「このキャラが言うべきセリフ」として完璧に一致しているんですよ。みさき先輩は目が見えない。だから浩平くんの顔を見て確認できない。声だけで確かめる。「浩平君だよね?」のあとに「良かった…」が来る。この「良かった」の重さ——浩平くんがちゃんと浩平くんだったことへの安堵——が、このキャラとして完全に正しい。解釈一致。公式が尊い。

上月澪ちゃん——言葉を持たなくてスケッチブックで会話する後輩——のHシーンは完全無声。セリフが一切ない。このキャラが声を出さないまま行為が進むの、キャラとして正しい。「このキャラはこうじゃないといけない」という設計が行為シーンまで貫かれている。スコアが上がった瞬間だった。

七瀬さんの自宅シーン——「最初はっ…男の子の部屋がいいかなっ…」という誤解から浩平くんの家に行って、緊張でリモコンを押してしまって大相撲が始まる——これは解釈一致。大相撲を見てしまう七瀬さんの照れ隠しとして、このキャラらしい。浩平くんが「七瀬のあそことオレの下腹部が隙間なく、合わさっているぞ」って独白をそのまま口に出してしまうのも、このキャラとして「そうやろうな」ってなった。

ただし——七瀬さんの教室シーン。「先だけ」「見るだけ」と言って、段階的に約束を反故にしていく浩平くん。これはキャラ崩壊だと思う。本編でずっと誠実に関わってきた浩平くんが、ここだけ「どんな男がこの状況で踏みとどまれるというのだ」って内側で正当化しながら進んでいく。七瀬さんが「あきれただけ」と言って一人で帰るのも、後味が悪い。永遠への焦燥の表現として機能しているのはわかる——でも、このキャラとしての一貫性を損なっている。Hシーンスコアの7はここの影響が大きい。

各ルートのGOOD ENDが成立する理由

なぜ、ヒロインたちは待てるのか。

えいえんの世界に消えていった浩平くんを、ヒロインたちは一年間待つ。BADエンドでは忘れるけれど、GOOD ENDでは忘れずに待っている——この差がキャラとして成立しているかどうか、がわたしにとって最も重要なポイントだった。

七瀬さんが待てる理由。面の中で泣いていた七瀬さんに「もう面なんて被るな」と言ったような人間として浩平くんと向き合ってきたから——本当の自分を出していいと感じた相手として浩平くんがいるから。だから、待てる。「お姫様」として扱ってくれた人間を、乙女は忘れない。

みさき先輩が待てる理由。「何があっても、必ず最後には先輩の側に居る」と約束したから。目が見えない自分の世界を言葉で見せてくれた浩平くんを、みさき先輩が忘れないのはキャラとして正しい。「私、馬鹿だから言葉通りに受け取るよ」って言った人間が、忘れるはずがない。

澪ちゃんが待てる理由。言葉なしで通じ合えた唯一の存在だから。学食で同じメニューを同じタイミングで置いた瞬間から始まった関係が、スケッチブック一枚で積み上がってきた。それを忘れるのは、このキャラとして「ない」。

ていうかこれ——各ヒロインの「待つ理由」が全員ちゃんとキャラ設計と一致してる。共通ルートで積み上げたものが、GOOD ENDで「だから待てた」という構造に繋がってる。これをちゃんとやってる作品、久しぶりに読んだ。

7.8——七瀬が好きで、全員が好きだった

わたしにとっての評価基準は、このキャラを好きになれたかだけ。

ヒロインの個性・動機が9なのは、6人全員に「このキャラがここにいる理由」があるから。七瀬さんの乙女願望、みさき先輩の「食パン1斤で足りる」という普通を装う強さ、澪ちゃんの言葉なしで通じ合う設計、繭ちゃんの「みゅーっ」だけで感情を持つキャラクター——全員について「わかってる」と言えた。キャラ間の関係性が9なのは、各ヒロインと浩平くんの間に「この二人ならでは」のやりとりがあったから。これが6組全員で成立してる。

主人公の造形が8なのは、軽口・茶化しを防御機制として持つ浩平くんが各ルートで一貫しており、えいえんへの消失という設計とも結びついているから。Hシーンのキャラ整合性が7にとどまったのは、七瀬さんの教室シーンが「キャラとして、これはどうなの」と感じたから。それ以外は概ね一貫していた。

日常・コメディパートの6は、コメディの内容への評価じゃなくて「ゲームの全体像がつかめるまでの時間の長さ」への評価。各ヒロインが全員立っていたから持ちこたえられたけど、もう少し引きが早かったら、全員をもっと早く好きになれた。

全ルートを終えて「このキャラたちのことが好きだ」と言える作品だった。七瀬留美が特に好き——でも全員好き。7.8は、そういう意味の7.8です。