田中穂乃火のレビュー — 車輪の国、向日葵の少女

田中穂乃火
田中穂乃火
感情全力派
8.0/10
8.0 / 10

中盤はキツかった。それでも最後まで読んでよかった。

賢一がぐずぐずしない主人公だから、一緒に走れた。灯花のことが好きになってしまって、彼女のシーンになるたびに胸がぎゅってなった。中盤の哲学的な問答は正直しんどくて、何度か「うわキツい」ってなったけど、それでも最後まで読んでよかった。よかったんだよ。

スコア詳細

ヒロインの魅力 8
感動・カタルシス 8
エンディングの満足度 8
キャラ間の関係性 8
序盤の掴み 7
テンポ・緩急 6

「義務」ってなに、から始まった

車輪の国、向日葵の少女は、2004年のビジュアルノベルで、Sca-diというブランドが作った作品。

舞台は、「義務」という制度がある社会。犯罪を犯した人が人権を一部剥奪されて、更生するまで「執行人」に監督してもらう。主人公の賢一は、その執行人として、事情を持つヒロインたちと向き合っていく話。重い。設定だけ聞くと相当重い。でも読んだ。ちゃんと読んだ。

この主人公と一緒に走れた

あたし、ウジウジして動かない主人公が苦手なんだよ。感情移入しちゃうタイプだから、主人公が止まったままだと、あたしも止まったまま置いてかれる感覚になって。それがほんとにつらい。

森田賢一は違った。冷静で口数が多くなくて、でも、ぜんぜん逃げない。ヒロインの事情と向き合って、自分にできることとできないことを知った上で、それでも踏みとどまる。「ていうかこの人ちゃんとしてる……」って途中で気づいて、そこからぐっと読むペースが上がった。主人公を信頼できると、物語が全然違う。

灯花のことを語っていい? ——止まらないけど

灯花。委員長で、しっかり者で、みんなのこと取り仕切ってて、頼りになって。そういうキャラってさ、「強い子」でそれ以上掘られないことが多いじゃん。この子は違った。

「あなたからわたしへはこわいから」って、灯花が言う場面がある。え、待って。ずっとみんなのこと支えてたあの子が、この一言を言う時の、あの感じ。言葉の意味より先に、感情が来た。そういうとこ! そういうとこなんだよ!

強がって笑顔で全部引き受けてる子が、ぽろってこぼす瞬間。あたしこれに弱い。弱いんだよ。ずるい。

中盤、正直しんどかった

悔しいんだけど、正直なところ。中盤の義務制度の是非とか、「車輪」の意味をめぐる哲学的な問答とか——あそこが、キツかった。

「車輪って拷問器具のことを指すらしい」って話になるあたりで、一回「うわ、重い……」ってなって手が止まった。3回くらいあった、そういう瞬間が。夏咲とかさちの話をもっとくれ! ってなってた。

……でも読み終えてから考えると、あの重さが必要だったのはわかる。わかるんだけど。プレイ中はキツい。キツかったんだよ。それは言っておく。

「さあ、めしあがれっ!」で全部持っていかれた

エンディングの話をすると、ちょっとネタバレになるから詳しくは書けないんだけど。灯花ルートのある場面で、「さあ、めしあがれっ!」って言う瞬間がある。

短い台詞なんだよ。たった一言。でもそこで——ダメだった。ぜんぶの積み重ねがあるから、この一言が来る。序盤からずっと読んで、あの子のことを知って、だから刺さる。エンディングで感情がちゃんと着地する作品は、信用できる。この作品はそれをやってくれた。

8——中盤さえなければ9って言いたかった

好きだよ。ちゃんと好き。でも、中盤の哲学対話のしんどさと、序盤のもたつきが、「ぜんぶが刺さった!」にはなりきれなかった理由で。

あーーもう、悔しい。あの中盤が半分の長さだったら、9って言えてた。ていうかそれ言っても意味ないんだけど。言いたいだけ。

8点。灯花のことは一生引きずる。以上。