主人公には「この男はダメね」と思いながらも、女の子たちに引っ張られて最後まで読んだ。フォーニって子が気になってしょうがなかった。
工画堂スタジオが2004年に出した全年齢のADV。雨の降り続く音楽の街ピオーヴァで、フォルテールという特殊な鍵盤楽器を弾く学院三年生のクリス・ヴェルティンが、残り二ヶ月で卒業演奏のパートナーを探す物語。常連のお客さんに「ママ好きそうだから」って言われて始めたら、序盤こそ退屈したけど、中盤からは人間ドラマとして引き込まれた。主人公の「一応は……」が最後まで気になり続けたことと、フォーニという存在の謎が最後まで頭から離れなかったこと、その二点が強く残ってる。
スコア詳細
お客さんに「ママ好きそう」って言われて始めたら、人間の話だった
このゲームを始めたのは、お客さんのせいよ。「音楽の街が舞台の恋愛ADVで、登場人物が全員ちゃんと生きてる」って言うから。
工画堂スタジオが2004年に出した全年齢のADV、シンフォニック=レイン。プレイしたのはPC版。主人公のクリス・ヴェルティンは、世界に数百人しかいないという鍵盤楽器「フォルテール」を奏でる音楽学院の三年生。卒業発表まで残り約二ヶ月あるのに、歌い手のパートナーすら決まっていない。恋人のアリエッタとは週に一度の手紙だけが繋ぎで、クリスの部屋には「音の妖精」と名乗るフォーニという不思議な存在が同居している。
「全員ちゃんと生きてる」って言葉が当たってたかどうか、アタシの答えを先に言うと「女の子はちゃんと生きてた、主人公の男の子はちょっと物足りなかった」。それが全体の感触。
クリスという男——「一応は……」しか言えない
この主人公、口癖が「一応は……」なのよ。アタシはここで「あ、このタイプか」と思った。
先生に「パートナーは見つかったか」と聞かれたら「一応は……」、友達に「気に入ってくれた?」と聞かれたら「一応は……」。優しいのはわかる、誠実なのもわかる。でも肝心な場面でいつも一歩退く。自分はどうしたいのか、相手に何を伝えたいのか、それを言語化しないまま状況に流されていく。この男はダメね、と最初の一ルートで思った。
うちの常連さんにね、そっくりな男がいたの。悪い人じゃないんだけど、決定的な場面でいつも「まあ、なんとかなるよ」って言う人で。そういう男は気づいた時には手遅れになってる、っていうパターンをアタシはカウンター越しに何度も見てきたのよ。クリスを読みながらその人のことを何度も思い出したわ。
ただ、中盤以降にこの男が本当に動く場面はある。動く時はちゃんと動く。そこだけは認める。でも前半の印象が強くて、「腹が据わった男だ」とは最後まで言えなかったわ。
女の子たちは、みんな自分のものを抱えてた
主人公はそうでも、ヒロインたちはちゃんとしてた。全員、それぞれに重いものを持ってる。
ファルシータという先輩がいる。完璧に見えて、内側に複雑なものを抱えた子。自分のやり方しか知らないまま大人になった感じが伝わってきて、嫌いになれなかった。こういう子、いるのよ。かわいそうな育ち方をした子が、知らないうちに人を傷つける方法だけ覚えてて、本人も気づいていない。ファルの複雑さにはそういうリアルさがあった。
リセルシアという後輩がいる。旧校舎で一人歌っている子で、養父のグラーヴェという男に抑え込まれている。「ごめんなさい、ごめんなさい」しか言えない子が、少しずつ自分の言葉を持てるようになっていく。強くなるんじゃなくて、言葉を持てるようになる。その描き方が現実に近かった。こういう変化の仕方を書ける人、わかってるなと思ったわ。
トルタという幼なじみがいる。いつもクリスの側にいる、しっかり者の子。この子が一番頑張ってたし、一番気の毒だった。何をどれだけ頑張ってたかは、詳細版で。
そしてフォーニ。クリスにしか見えない音の妖精で、週に一度アンサンブルをする相手。「クリスの好きなように」ってどのシーンでも最後に言う。口癖にしては揃いすぎてて、アタシは途中から「この子、何か理由があってそう言ってるな」と思ってたわ。
恋愛の積み上げ方が嘘くさくなかった
ゲームの中の恋愛って、都合よくなりすぎることが多いのよ。このゲームはそうじゃなかった。
クリスとヒロインたちの距離の縮まり方が、段階を踏んでいた。一緒に練習して、すれ違って、少しずつ理解していく。「なんで急にそうなるの」とは思わなかった。恋愛の積み上げが自然だと、アタシはそれだけで「よかった」と思う。
クリスとトルタの関係も同じで、幼なじみの微妙な距離感、言えないこととそれでも言ってしまうこと、このさじ加減が正直だった。恋愛だけじゃない、人間関係全般として血が通っていた。
序盤はキツかった——中盤から別のゲームになる
正直に言うと、最初の一ルート目で何度か閉じそうになった。
日常パートが延々と続くの。学院に行って、練習して、友人と食べて、フォーニと話して、手紙を書いて、また練習して。この積み重ねが大事なんだとは後から分かった。でも読んでいる最中は「これ、どこに向かってるの」と思った。アタシ、序盤で掴まれないと続けられないのよ。そこは正直に言う。
中盤から、話が変わる。人間の内側が見えてくる。そこからは「やめられない」と思って読み続けた。序盤でやめなくてよかったとは思う。ただ最初の一ルートで閉じた人の気持ちはわかる、それだけが残念ね。
7.5——男はダメだけど、女の子たちが生きてた
最後にまとめると「女の子たちが自分の感情を持って生きてた」、それが一番残ってる。
主人公への「この男はダメね」という感触は最後まで変わらなかった。でもそれ以外は良かった。ファルの複雑さ、リセの回復、トルタの献身、フォーニの謎、全部に「この人間、本物っぽい」と感じた。恋愛ゲームをプレイして「女の子が自分の感情を持って生きてる」と思えることって、結構珍しいのよ。
最後のルートまで辿り着いた時、……歳をとると涙腺が緩くなっていけないね。まあ、よかった。この二人がここまで来たんだと思ったら、それだけで十分だった。クリアしてから詳しく話すわ。
7.5は、序盤の重さと主人公の「一応は」が足を引っ張った分。後半の人間描写は本物だったのよ。
