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伊頭悦子のレビュー(ネタバレあり) — シンフォニック=レイン

伊頭悦子
伊頭悦子
カウンター越しに三十年
7.5/10
7.5 / 10

フォーニがアリエッタだと分かった瞬間、「この女の子はずっと病院で眠ったまま、魂だけ傍にいたの?」って声が出た。

ネタバレなし版では「主人公はダメだけど女の子たちが良かった」と書いた。こちらでは核心の話を。フォーニが三年間意識不明のアリエッタの魂だったこと。トルタが三年間姉の振りをして手紙を書き続けてきたこと。「クリスの好きなように」という言葉の本当の重さ。「おかえりなさい」の方向が逆になる理由。全部ここで明かすわ。

スコア詳細

ヒロインの魅力 9
キャラ間の関係性 8
感動・カタルシス 9
序盤の掴み 6
エンディングの満足度 8
主人公の造形 5

フォーニがアリエッタだった——ちょっと待って、となった

ネタバレなし版で「フォーニの「クリスの好きなように」が気になってしょうがなかった」と書いた。その理由が分かった。

フォーニは、三年前の交通事故で意識不明のまま病院で眠り続けているアリエッタの魂だった。肉体を故郷に置いたまま、意識だけがクリスの傍に来ていた。手のひらサイズの妖精として、三年間ずっとそこにいた。

これを知った時、まず「しんどいわ、アリエッタが」と思った。眠ったまま何年も、意識だけ飛ばして傍にいる。いつ戻れるかも分からない、いつまでここにいられるかも分からない。その状況で「クリスの好きなように」と言い続けた理由が、分かった。クリスの三年間を縛りたくなかったのよ。自分のことは忘れていい、あなたはあなたの道を行って、でも傍にいる。そういう愛情の形だった。

アタシはカウンター越しに色んな男と女の話を聞いてきたけど、「自分の都合を一切言わずに傍にいる」という愛情のかたちは、現実でも稀にある。珍しいけど、ないわけじゃない。そういう人は大抵、自分が消えることを前提で動いてる。アリエッタがそれだった。

トルタの三年間——この子が一番しんどかった

ネタバレなし版で「この子が一番頑張ってた」と書いたトルタ。何を頑張ってたか、ここで。

トルタは三年間、姉アリエッタの手紙をすべて代筆し続けた。「アルならこの時どう書くだろう」と考えながら、姉の文体を完璧に模倣して、週に一度欠かさずクリスに送り続けた。その手紙がクリスの三年間を支えてきた。

これだけでも相当しんどいのに、トルタにはもう一つある。クリスへの恋心を三年間ずっと押し殺してきたこと。アルを応援するために手紙を書けば書くほど、クリスへの気持ちが深くなっていく。この矛盾の中で三年間生きてきた。

al fineというルートで、トルタの内面独白が出てくる。「クリスを、独り占めにすればいい。認めろ。醜い自分のことを。そして、手に入れればいい。最愛の人を、最悪の方法で」。これを読んだとき、アタシは「わかる」と思った。三十年、カウンター越しに色んな人間の話を聞いてきた。きれいな気持ちだけで動ける人間なんていない。特に長いこと一人で抱えてきた人は、どこかでこういう感情が出る。トルタのこの独白は嘘くさくなかった。

そして後から「私は……トルティニタ・フィーネ」と言う場面がある。アルの服を脱いで、自分の服に戻って、自分の名前を言う。この子、ちゃんとわかってる。えらい。

クリスの「一応は」——理由はわかった、でも評価は変えない

ネタバレなし版で「この男はダメね」と書いた。全部終えてから、少し考え直した。少しだけ。

クリスが受動的だった理由には構造的な説明ができる。三年前にアリエッタの事故を目撃して、その記憶を無意識に封印した。傍にいるフォーニは「クリスの好きなように」と言い続ける。記憶も封印されて、傍の人も「好きにしていい」と言うなら、自分で決断する力が育つわけがない。なるほどと思った。

でも評価は変えない。5は維持する。なぜかというと、アタシがゲームをプレイしている間はこの事情を知らなかったから。知らない状態で「この男はダメね」と思い続けた三ルート分の印象は、後から理由が分かっても消えない。それが正直な感触よ。理由があることと、プレイ中に伝わることは別の話。

「おかえりなさい」——この言葉の方向を見て、声が出た

最後のルートの、最後の場面の話よ。

フォーニとの卒業演奏を終えたクリスが、故郷の病院に向かう。列車が雨を抜けて青空に出るその場面で、膝に乗ったフォーニがそのまま眠ってしまう。病室でフォーニがアルの体に吸い込まれ、三年ぶりにアリエッタが目を覚ます。

クリスが「アリエッタ、帰ってきたよ。約束通り、三年後に」と言う。目覚めたアリエッタが最初に言った言葉が「……おかえりなさい」だった。

帰ってきたのはクリスなのに、「おかえり」と言うのはアリエッタ。これはね、フォーニとして三年間クリスの部屋にいたアリエッタには、クリスが「ただいまと言う人」じゃなくて「帰ってくるのを待っていた人」だから。「ここ」がアリエッタにとってクリスを待つ場所で、「あなたが帰ってきた」という感覚で「おかえりなさい」と言う。フォーニとしての記憶を持ったまま目が覚めたアリエッタにしか言えない言葉だった。

……歳をとると涙腺が緩くなっていけないね。まあ、よかった。この二人、ここまで来たんだと思ったら、それだけで十分だった。

7.5——「女の子たちは全員本物だった」、それが全部

スコアは変えない。でもこの7.5の中身は、全ルートを終えてから重くなった。

フォーニとしてずっと傍にいたアリエッタ、三年間姉の代わりを演じ続けたトルタ、自分の愛し方しか知らないまま成長したファル、言葉を持てるようになったリセ。全員、自分の感情を持って動いていた。これが「女の子たちが本物だった」という評価の根拠よ。

主人公の5点は変えない。理由が後から分かっても、プレイ中の三ルート分の印象は消えない。それが正直な評価。

恋愛なんてそんなもんよ。きれいなだけじゃない、都合よく行かない、だから刺さる。このゲームはそれをちゃんと書いてた。序盤の重さと主人公の物足りなさがなければ、もう少し上だったと思う。でも7.5は本気の評価よ。