田中穂乃火のレビュー — シンフォニック=レイン

田中穂乃火
田中穂乃火
感情で全部受け取る
9.0/10
9.0 / 10

泣いた。号泣した。嗚咽した。友達に「絶対泣くから」って言われた時、「耐えられる方だし」って思ってたけど、全然耐えられなかった。

工画堂スタジオが2004年に出した全年齢のADV。雨の降り続く音楽の街ピオーヴァで、フォルテールという特殊な鍵盤楽器を弾く音楽学院三年生のクリスが、卒業演奏のパートナーを探す物語。プレイしたのはPC版。序盤の長さとクリスの「一応は……」への苛立ちはあった。でも最後のルートをクリアした後、しばらく画面の前で動けなかった。フォーニという存在のことを、たぶんずっと忘れない。

スコア詳細

ヒロインの魅力 10
感動・カタルシス 10
キャラ間の関係性 10
エンディングの満足度 10
主人公の造形 7
序盤の掴み 7

「絶対泣くから」って言われて、本当に泣いた

泣いた。号泣した。嗚咽した。こんなになると思ってなかった。

工画堂スタジオが2004年に出した全年齢のADV、シンフォニック=レイン。友達に「穂乃火は絶対泣くから」って強引に勧められて始めた。プレイしたのはPC版。雨の降り続く音楽の街ピオーヴァを舞台に、フォルテールという特殊な鍵盤楽器を弾く音楽学院三年生のクリス・ヴェルティンが、残り二ヶ月で卒業演奏のパートナーを探す物語だ。故郷に残してきた恋人アリエッタとは週に一度の手紙だけが繋ぎで、クリスの部屋にはフォーニという不思議な「音の妖精」が同居している。

「泣く」って言われた時、「まあそういうの、わりと耐えられる方だし」って思ってた。全然耐えられなかった。

フォーニが、ずっと気になってた

あたしはこのゲームをプレイしてる間、ずっとフォーニのことが気になってた。ずっと。

フォーニはクリスにしか見えない音の妖精で、クリスの部屋に住んでて、毎週日曜にアンサンブルをする相手。明るくてよく喋って、クリスの不器用さを笑いながら背中を押す子。かわいい。好き。そこは最初からそう思ってた。

でも「クリスの好きなように」って言葉。この子、何かを相談すると「クリスが決めていいよ」って言う、選択肢で迷うと「クリスの好きなように」って言う。口癖、にしては揃いすぎてる。何か理由があってこう言ってる、とずっと思ってた。その理由が分かった時のことは、ネタバレありの方で。ただ一言だけ言っておくと——ずるかった。あたしの涙腺にそういう使い方しないで。

ヒロインたち全員、ちゃんと生きてた

フォーニ以外のヒロインの話もしなきゃ。全員、好きになった。

ファルシータという先輩がいる。完璧に見えて内側に何かを抱えてる子。自分の愛し方しか知らないまま成長した、みたいな歪さがあって、でもその歪さが嘘くさくない。こういう子、好き。嫌いになれない感じの子。

リセルシアという後輩がいる。旧校舎で一人歌ってる子で、養父のグラーヴェという男に追い詰められてる。「ごめんなさい、ごめんなさい」しか言えなかった子が、少しずつ変わっていく。その変化の描き方がすごくよかった。強くなるんじゃなくて、言葉を持てるようになる。その違いを分かって書いてるゲームは信用できる。

トルタは幼なじみ。クリスの側でずっと頑張ってる子。この子が一番ね。詳しくはネタバレありで語るけど、「私は……トルティニタ・フィーネ」という台詞があって、あそこで泣いた。

クリスが動かない! あと序盤が長い!

文句も言う。言わないと嘘になるから。

クリスの口癖が「一応は……」なんだよ。何かを聞かれるたびに「一応は……」って言う。あたしは感情移入して物語に入るタイプだから、主人公がウジウジしてると「一緒に取り残される」感覚になる。なんで動かないの。なんで言わないの。って何度も思った。

序盤も長い。正直長い。日常パートが延々続いて、3回くらい「もうやめようかな……」ってなりかけた。でも中盤で話が変わる。そこからは別のゲームになる。「序盤のあれ、全部意味があったんだ」って気づいてから、序盤を読み返したくなった。こういう体験があるから途中で投げちゃダメなんだけど——キツいもんはキツいので、それは正直に言う。

最後のルートで、全部吹き飛んだ

ここだけ。最後のルートをクリアした後、しばらく動けなかった。

このゲームには5つのルートがあって、ちゃんとした順番で全部やらないといけない。最後に解禁されるルートで、ゲームのぜんぶが繋がる。フォーニの「クリスの好きなように」の意味が分かる。物語の最初から張られてたものが全部回収される。

「……おかえりなさい」という一言で終わる。それだけで十分だった。これ以上は要らなかった。あの一言が、ぜんぶだった。詳しいことはネタバレありで。

9.0——フォーニのことを、たぶんずっと忘れない

9.0をつけた。あたしが9点をつける基準は「泣いた、叫んだ、しばらく何も手につかなかった」。全部当てはまった。

クリスへの苛立ちは残ってる。序盤の長さも本当のことだ。でもそれが全部吹き飛ぶくらい、最後のルートが良かった。フォーニのことを思い出すたびに胸がぎゅってなる。

まだやってない人に言いたいのは、序盤が長くてもやめないでほしいということだけだ。最後まで行った先に、あたしが一生忘れられないものが待ってた。