鳳凰院凶真がアホみたいに笑える。シリアスのとこは語彙が足らんけど、笑えたから許す。
2009年の5pb.のSFアドベンチャー。タイムマシン・世界線・SERN——字面はガチガチのSFやのに、序盤の半分はラボでアホやってる日常やねん。自称「狂気のマッドサイエンティスト」鳳凰院凶真こと岡部、誰彼かまわず「お兄ちゃんと呼んでくれ」と言うピザオタのダル、「トゥットゥルー♪」が口癖の幼なじみまゆり、ぼろくそ言いつつちゃんと付き合うツンデレ天才少女クリスティーナ。この4人が「未来ガジェット研究所」とかいう自称ラボでドクターペッパー飲みながらゲルバナ作ってる。シリアスはあとからガッツリ来るけど、コメディが先に居着く作品やった。8.0はそういう評点。
スコア詳細
SFと聞いてビビってたら、半分はラボでアホやっとった話
タイムマシンとか世界線とか聞いた時点で「うちには難しいやつかもなー」って構えてしもうた。
結論から言うと、構えなくてよかった。2009年に5pb.(今のMAGES.)が出した「科学アドベンチャーシリーズ」の第2弾。舞台は2010年夏の秋葉原。主人公の岡部倫太郎は、秋葉原の大檜山ビル2階を「未来ガジェット研究所」と勝手に呼んで居座ってる大学生やねん。1階の「ブラウン管工房」っていう古いテレビ修理屋の店長から、家賃をタダ同然で借りてる。
そこに集まるメンバーがいちいちおもろい。幼なじみのまゆり、ピザ体型のスーパーハカー(自称ハッカー)ダル、講演会に殴り込んだら向こうのほうが圧倒的に上やった天才少女クリスティーナ。役に立たんガジェットを順番に発明していくだけのラボやのに、誰一人として真面目にやってない。岡部本人が「俺は混沌を望む者だ」とか言うてケータイで存在しない「機関」と通話するふりしてるねん。最初それ見て「これ大丈夫か?」って思った。たぶん作者もそう思って欲しくて書いてる。
SF的な仕掛けはちゃんと始動するんやけど、それは中盤からの話。序盤はとにかくこの研究所のアホみたいな日常がメインで、うちはそこで笑い始めた。
鳳凰院凶真——主人公自身がいちばんおもろいパターン
岡部倫太郎、通称オカリン。自称・鳳凰院凶真(ほうおういん・きょうま)。
このキャラがほんまにおもろくてな。普通のヒロイン重視作品やと、主人公はツッコミ役で背景に近いほうが扱いやすいんやけど、シュタゲは違うねん。主人公自身がいちばんアホをやる。「我が名は鳳凰院凶真」「フゥーハハハ!」「これも全ては運命石の扉の選択である」——本気の顔で言う。周りはもう慣れすぎてて、まゆりは「オカリンオカリン、あのね、まゆしぃはオカリンがなに言ってるかまったくついていけないよー」で受け流す。クリスは「英雄気取りか、この厨二病患者が」とぶった切る。
岡部がケータイを耳に当てて「俺以外が触ると自動的に電源がオフになる、特別製のケータイなのだっ」とか言うシーン、あれは実はただケータイの電源が切れてるのを誤魔化してるだけやねん。本人もわかってる。わかってるのに演じきる。この空回りの全力感がうちにはツボやった。「鳳凰院凶真モード」と「素の岡部」の落差で笑いを作る構造が、シリーズ全編にわたって機能してる。
ダルはダルで「常考(じょうこう)」「乙」「ktkr」みたいなネット用語を口で喋るキャラやねん。2009年当時のネットスラングを音声でぶち込んでくる。「スーパーハカーって呼ぶなよぅ。スーパーハッカーだろ常考」って毎回ツッコむのに、岡部がまた呼ぶ。このループ自体がギャグやねん。あと「ロマンだからに決まってんじゃん常考」って、X68000にこだわる理由を聞かれた時の答え。あれだけで全部わかる、っていうキャラ。
キャラ間の関係性9はここから来てる。岡部・ダル・まゆりの3人が、すでに長い付き合いの間で出来上がってる空気感がある。新規キャラ(クリス、フェイリス、るか子、鈴羽)が入っても、既存の空気を壊さずに馴染ませる書き方が上手かった。
クリスとフェイリス——ツンデレと萌え担当の使い方が分かってる
ヒロインも一人ひとりキャラがちゃんと立ってる。
クリスティーナ——本名・牧瀬紅莉栖。アメリカ帰りの天才少女で、岡部に勝手につけられたあだ名で呼ばれて「誰がクリスティーナだ! 一言も言っとらんわ!」って毎回キレる。これも様式美やねん。クリスのおもろいとこは、表向きはツンデレやのに、深夜ひとりで@ちゃんねるに書き込んでる「コテハン疑惑」があるとこ。本人は完全に否定してるのに、ダルが「あなたはまさか、栗悟飯とカメハメ波……?」って詰めると挙動が怪しくなる。「な、なにバカなこと言ってんのよっ」って一言で全部バレるあのテンポ、うちは好きやった。
あとフェイリス——メイクイーン+ニャン²っていうメイドカフェの看板メイドで、語尾が「〜ニャ」「ポチッとニャ!」になるキャラやねん。これだけ聞くと「あ、典型的なやつね」って思うやんか。それが、実は実家がとんでもないお金持ちで、メイドの仕事は趣味で、戦略的なゲーム大会では人格変わって対戦相手をボッコボコにする側面があるねん。語尾だけメイドのまま「凶真、これはやらなければいけない使命なのニャ」みたいに、シリアスなセリフをメイド語尾で言うパターンが多い。あの違和感の使い方がうまかった。
るか子——漆原るかは柳林神社の息子で、巫女装束で居合いの稽古してる「男の娘」キャラやねん。本人は男なのに、「ボク、〇〇です……」みたいな儚げな喋り方で、岡部のことを「凶真さん」と呼んで尊敬してる。岡部が勝手に「清心斬魔流」とかいう創作流派の弟子に任命してるんやけど、るか子はそれを大真面目に修行してる。「あ、岡部さん……!」って毎回ちょっと泣きそうな顔で迎えてくれるん、ええキャラやった。
ヒロインの魅力8はこういう積み上げ。一人ひとりに「このキャラはこういう人」っていう定型があって、その定型を裏切らずに動かしてる。サブキャラのほうもおもろいねん。ブラウン管工房の店長は、いきなり岡部を殴る・無料で家賃借りてることをチクチク言ってくる・娘の綯ちゃん溺愛の偏屈おっさんで、このおっさんの存在が物語の地面を固めてた。
テンポ7——間はええんやけど、序盤がちょっと長い
ここはマイナス点。
シュタゲは「序盤が退屈で切った」「中盤の転換点から化ける」っていう評判がいまも語られる作品やねん。うちもプレイしてて「あ、これ意図的に長くしてるんやろな」と途中で気づいた。1〜5章くらいまではほぼ日常パートで、ラボの掛け合いと電話レンジ(仮)の実験・ロト6当選Dメール・「スーパーハカー」連呼みたいなネタが延々続く。コメディとして見ると密度は濃いんやけど、SFを期待して入ると「事件いつ起きるん?」ってなる。
ただ、これは作りとして必要な遅延やと思う。中盤以降にガッツリ重い展開が来た時に「あのアホみたいな日常」が効いてくる仕組みになってる。詳細はネタバレ版で言うけど、前半が長いからこそ後半が刺さる作品やねん。テンポを下げてる箇所は確かにあるけど、それが効果的に作用してるパターン。だから7点。「短くしろ」とは言いにくい。
「間」の取り方そのものは悪くない。たとえばダルの長台詞——2次元嫁の妄想を延々喋るシーンとか——あれは長さ自体がギャグになってる。岡部が呆れた顔で「ダルは本気で一度、死ねばいい」って締めるパターン、テンポとしては理想的やった。
後半は重い。うちは語彙が足らんようになる
正直、シリアスのとこは語るの得意やない。
中盤以降のシュタゲは、コメディ作品では全くなくなる。SF設定がガッツリ動き出して、人が死ぬ、世界の運命がかかる、究極の選択を迫られる。岡部はあの鳳凰院凶真の仮面を被ったまま、めちゃめちゃ重たいものを背負わされる。うちは笑い軸で読んでるから、ここから先は「おもろい/おもんない」では計れんようになってくる。語彙が足りんねん。
ただ、ええ書き方やったとは思う。前半でアホやってた岡部が、後半で素の表情を見せ始めるたびに、「あ、これあかんやつや」ってちゃんと伝わってきた。鳳凰院凶真モードのスイッチが入らんようになっていく描写が、コメディの積み上げがあるからこそ重く感じるパターン。それは構造として上手い書き方なんやと思う。
詳細はネタバレ版で。ネタバレなしで言えるのは、「後半は笑えへんけど、ちゃんと最後まで読まされた」というところまで。
8.0——岡部とラボメンに会えただけで元は取った
うちが普段つける8点台は珍しい。
シュタゲのコメディは、ギャグだけで成立してるんやのうて、キャラの作り込みから自然に出てくるおもろさやねん。岡部の厨二病、ダルのネット用語、まゆりのトゥットゥルー、フェイリスのニャ語尾、クリスのツン、るか子のあの感じ——全部それぞれ違う方向の笑いやのに、ラボに集まると一個の空気になる。これは書き手が一人ひとりちゃんとキャラを掴んでないとできへん芸当やと思う。
「キャラがおいしい」と「キャラ間の関係性が生きてる」がここまで両立してる作品はそうないわ。コメディ・日常9と キャラ関係9はそういう評点。
テンポは序盤が長くて7、ヒロインと主人公の造形は8、シリアスはうちの守備範囲外で具体評価しないけど、ええ作品やってんなあと言える出来。全部足して8.0。また読みたいか、と聞かれたら、「岡部とダルとクリスのアホみたいな掛け合いをもう一回読みたい」って思える程度には、こいつらに居着いてしまった。
「鳳凰院凶真がアホみたいに笑える。シリアスのとこは語彙が足らんけど、笑えたから許す。」
— チエ
