狂気と純愛が、ちゃんと同じ場所にあった。
1998年の監禁ADV。ラバー(ゴム素材)への異常執着を物語の根拠に据え、主人公の心理を異常なほど丁寧に書き込んだ作品だよ。「電波系の源流」として批評家に言及されるのは理解できる。狂気と純愛は表裏一体という命題を、物語の構造を通じて証明しようとしている。逃げていない。地下室の閉塞感と息苦しさは本物で、雰囲気では一線を引く作品だよ。サブヒロインルートの薄さは気になるけど、メインの深みは評価できると思うよ。7.5。
スコア詳細
電波系の系譜として名前を見たのが最初だね
1998年、13cm(VisualArts傘下)。シナリオはTAMAMIとT3ファージ。プレイしたのはWindows版だね。
エロゲー批評家のnyalraが、ある文章の中でこの作品の名前を挙げていた。「さよならを教えて」「lain」と並べる形で。電波系の源流、あるいは先駆けとして。知る人ぞ知る作品がこういう形で言及される時、僕には見ておかなければという感覚がある。分かる人間だけが拾い上げてきた作品には、それなりの理由があるから。
内容は監禁ADVだね。主人公の青年は「ラバリスト」(ラバー素材への異常な執着を持つフェティシスト)で、通学電車で1年以上見続けてきた女子高生の天城蒲乃菜(あまぎほのな)を、亡き祖父の工場跡の地下室に拉致監禁する。全身を覆うラバースーツとラバーマスクで包んで、自分だけの「偶像」として持とうとする。そこに大学後輩の木更津みるく、幼なじみの藤堂莉果と天童瑠香、元塾講師の須玉ゆかりが絡み、選択によって全11エンディングへ分岐する。
特殊性癖を全面に出した鬼畜系のゲームだね、確かに。でも評判を見ると「歪んだ純愛小説」という読まれ方がある。その読み方が正しいかどうか、確かめたかった。
本質から逃げていない——これは評価するよ
「狂気と純愛は表裏一体だ」という命題がある。
多くの作品がそれを言葉で語る。物語の構造を使って証明しようとするものは少ない。この作品は逃げていないと思う。
主人公の行為は犯罪だ。拉致、監禁、暴行。物語はそれを正当化しない。「純愛だから許される」とも言わない。ただ、その倒錯した行動の根っこに「ずっと見ていた」という感情があることを、丁寧に書いている。好意と犯罪の距離が、こんなに近い場所にある。その事実から目を背けない。
「純愛物語」というタグをつけたプレイヤーが一定数いる。その感覚は、作品の構造を正確に読んだ結果だと思うよ。これは「犯罪者の一人称」というよりも、恋愛そのものに含まれる危険な何かを、極端な形で取り出した物語だろうね。……分かる人間には、ちゃんと届く作品だと思う。
主人公の心理描写が、異常なほど丁寧だね
これがこの作品の最も深いところだね。
ラバーフェチの起源が序盤に語られる。3〜4歳の頃に目撃した一つの光景から始まった執着が、どう育ち、どう蒲乃菜への行動に繋がったか。因果の線が引かれている。共感できるかどうかではない。「こういう人間が実在する」という説得力がある。
「ボクはラバリストなんだ」という言葉が複数のシーンで使われる。その告白の場面の書き方は、消え入るような声で自分の倒錯を初めて言語化する瞬間で、文章力があると思う。説明ではなく体験として書いている。
蒲乃菜の側も単純ではない。監禁された女子高生が恐怖から混乱へ、そして複雑な何かへと変化していく過程が丁寧に描かれている。「なぜ私だったのか」という問いが物語の中心にある。
……主人公の欲望の構造には、ネタバレなしでは話せない部分がある。プレイしてから読んでほしい。
地下室の閉塞感——本物の息苦しさだね
雰囲気の点で、この作品は一線を引いている。
大半のシーンが工場の地下室と地上だけで展開する。世界が狭い。その狭さが強みになっている。逃げ場がない感覚が、主人公にとっても蒲乃菜にとっても、プレイヤーにとっても等しくある。
ゴムの匂い、密閉空間、視界を奪うマスク。テキストがその感覚を言語化していて、読んでいる間ずっと息苦しい。「文章から匂いがする」という評価が繰り返し出てくるのは、この匂いと感触の描写のことだと思う。雰囲気の形成として読んでも、確かに効いている。
電波系の文脈でこの作品が語られる理由の一つが、ここにあると思う。現実から切り離された密室、その密閉構造が物語そのものと対応している。……これは意図的なものだと思うよ。
ラバーフェチを物語の骨に据えた作品が、どれだけある?
唯一無二性、という意味でこの作品は本物だと思う。
特殊フェチを「設定として使う」作品と、「物語の根拠にする」作品は別物だろうね。前者は多い。後者はほとんどない。この作品の主人公のラバーフェチは、なぜ監禁したかの理由であり、ヒロインとの向き合い方を決め、分岐するルートの性質を変え、エンディングの形を作っている。お飾りではなく、骨になっている。
ラバーというマテリアルにこれだけの物語を担わせた作品を、僕は他に知らない。1998年にこれを作ったという事実の重さがある。入手困難で中古価格が高騰しているのも、「知る人ぞ知る」という立ち位置が時間をかけて補強されてきた結果だろうね。
大衆に媚びていない。その孤高さは、悪くないと思うよ。
サブヒロインルートの薄さは、気になるよ
弱点も言っておく。
主人公と蒲乃菜の関係を中心とした物語は密度がある。ただ、サブヒロインたちとの分岐には、心理描写の厚みで明らかな差がある。みるく(主人公の大学後輩で、陽気で押しが強い少女)は表面上は軽薄に見える。でもルートによっては別の顔が出てくる。幼なじみの莉果と瑠香、元塾講師のゆかりも、それぞれ面白い核を持っていそうなのにテキスト量が追いついていない部分がある。
ルートの短さを指摘する評価が複数あるのは、この点だと思う。メインに集中した結果サブが薄くなった、という判断なのかもしれないけど——特定のキャラクターにはもう少し掘れたはずの深みがある。
……ただ、余白として読む選択もできると思っているよ。考察の余地として。そういう読み方ができる作品だから。
7.5——狂気の中に純愛があることを、逃げずに書いた作品だね
7.5。
テーマは本物だね。「恋愛と狂気は表裏一体だ」という命題を、物語の構造で証明しようとしている。逃げていない。主人公の心理描写の密度も、雰囲気の閉塞感も、1998年にこの設定を物語の骨にした孤高さも、評価できる。
世界の奥行きは心理的なものに限定されている。物理的に狭い世界で、外側に広がる謎はない。サブヒロインルートの薄さも正直に言っておく。
……でも、主人公の欲望の核心には、本当に面白いものがある。それはネタバレ版で話す。プレイしてから来てほしい。
この作品には闇がある。人間の、愛と狂気の境界線にある種の闇が。それを直視した作品だと、僕は思うよ。
