大人の事情が、ちゃんと大人の顔で描いてあったわ。
人類滅亡まで残り一週間。逃げ出さなかった学校に残った高校生と先生たちの、最後の日々を描いた作品よ。号泣する話じゃないの。静かで、寂しくて、でも大人の本音がちゃんと詰まってる。アタシが刺さったのは、可愛い女の子たちの恋より、保健室の養護教諭や、グラウンドの年上の男みたいな、事情を抱えた大人の側だったわ。終末っていう極限を置くと、人が逃げるのか踏みとどまるのかが、きれいごと抜きで見えてくるの。それが面白かったから7.2。
スコア詳細
「滅びる前の一週間」って聞いて、つい手が伸びた話
人類が滅亡するまで、あと一週間。そういう作品があるって、お客さんから聞いたのがきっかけよ。
うちのカウンターで、ある常連さんがね、「悦子さん、世界が終わる前の一週間を、人がどう過ごすかって話なんですよ」って教えてくれたの。1999年に出た古い作品らしいわね。アボガドパワーズっていうメーカーだって。アタシはそういう業界のことは全然詳しくないから、お客さんの受け売りだけど。ともかく「終わる前の人間が、何をするか」っていう一点に、アタシは興味を持ったの。だってそれ、人間の本性が一番出るところでしょう。逃げ場のない人が、最後に何を選ぶか。アタシ、カウンターで似たような話を何度も聞いてきたから。
舞台は私立緑山高校。世界が終わるってわかった途端、校長以下のお偉いさんは真っ先に逃げ出したのよ。でも閉校宣言は出てなくて、来たい先生と来たい生徒だけが集まって、前と同じ時間割をなぞってる。終わる前なのに、学校ごっこを続けてるの。この「学校ごっこ」っていう設定が、まず切ないのよね。明日が来ないかもしれないのに、それでも「いつもの場所」にいたい人たちがいる。
主人公は耕野知裕っていう三年生でね、両親が海外出張中で連絡もつかなくて、一人暮らしの家にいても気が滅入るっていう、それだけの理由で学校に通ってる男よ。この子が校内を歩いて、教室の元カノ、保健室の養護教諭、屋上の天文部、図書室の幼なじみ、グラウンドの陸上部、それぞれが抱えてる小さな話に立ち会っていくの。月曜から土曜までの六日間。それが本作の中身よ。
第一印象——子供の恋より、大人の事情のほうが効いた
クリアして最初に思ったのはね、この作品、可愛い女の子たちより、大人のほうが本物だったってことよ。
もちろん攻略できる女の子たちも、ちゃんと書けてるの。それは後で話すわ。でもアタシの心に残ったのは、保健室にいる養護教諭の大塚留希っていう女と、グラウンドの木の下でパンばかり食べてる松原重久っていう年上の男のほうだったの。この二人、それぞれ事情を抱えてるのよ。詳しい中身はネタバレになるから言えないけど、歳を食った人間の、きれいごとじゃない事情がちゃんと描いてあった。
留希っていう女はね、一見すると豪快で、咥え煙草で軽口ばかり叩いてるの。「コロスョ?」なんて物騒な冗談を平気で言う。でも、アタシみたいに長く人を見てきた目には、この人が何か抱えてるのがすぐわかったわ。軽口で蓋をしてる人間って、いるのよ。傷ついてることを認めたら立ってられなくなるから、わざと明るく振る舞う。留希は、まさにそういう女だった。この子、もうちょっと自分のために生きなさいって、アタシ何度も言いたくなったわ。
重久のほうは、最初は好きになれなかったの。いい歳して女子高生を口説いて、ふざけたことばかり言ってる男でね。でも、この男がふざけながら、人をよく見てるのに気づいたら、見方が変わったわ。飄々としてるようで、相手の核心をぐさっと突く。こういう不器用な大人もいるのよね。
女の子たち——みんな知裕より腹が据わってるのが面白い
攻略できる女の子は四人。共通して言えるのは、この子たち、主人公の知裕より自分を持ってるってことよ。
宮森香織元カノの香織っていう子がね、アタシは一番好きだったわ。この子、中学の時に知裕と付き合って、お互いを傷つけまいとして自然消滅した過去があるの。「コトバって、口に出せば出すほど水みたいに薄くなっていっちゃう」って言うのよ。これ、恋愛の核心を突いてるでしょう。よかれと思って言葉を選ぶうちに、本音が伝わらなくなる。アタシのカウンターで、別れた男女の両方の言い分を聞いてると、だいたいこのすれ違いなのよ。香織はそういう「伝わらなさ」を、ちゃんと自分の言葉で語れる子だった。
大村いろは天文部のいろはは、身体に事情を抱えてる子よ。普段は無表情で、星の話をしてる時だけ生き生きする。「理由や原因って、重要なモノじゃないの。知ってたって、月の輝きは変わらない」っていう独特の哲学を持ってるの。最初は世の中を諦めてるような子なんだけど、この子が終盤に見せる強さがね、アタシは予想外だったわ。守られる側だと思ってた子が、守る側に回る。詳しくはネタバレになるから言えないけど、この子の芯の強さは本物よ。
敷島緑幼なじみの緑は、ずっと「ばーか」って悪態ばかりついてる子。でもこの子、本当はずっと知裕のことを想ってたのよ。長年隠してた想いを、終わりが来るからやっと言える。この「終わるから言える」っていうのが、この作品全体の仕掛けなのよね。みんな、終わりが近いから本音を出す。
稲穂歌奈一番下の後輩歌奈は、いつも体当たりで挨拶してくる元気な子なんだけど、この子の怖がり方が正直でいいの。自分が死ぬのが怖いんじゃなくて、好きなものが全部消えるのが怖い、って泣くのよ。子供らしくて、でも芯を食ってる。「赤ちゃんはよく泣くけど、泣く意味は自分でもわかってない、私たちも同じです」って言うところなんか、素朴だけど深いわ。
四人とも、知裕に引っ張られるんじゃなくて、自分から動く子たちなの。女の子のほうが先に進んでる。これは正直、面白い構造だと思ったわ。
恋愛の現実感——終末でも、人の事情はきれいに片付かない
この作品が偉いのは、終末っていう非現実的な設定を置きながら、その中の人間関係はちゃんと現実だったことよ。
世界が終わる前の一週間っていうのは、思いっきり盛り上げて、きれいな涙で締めることもできた設定なの。でもこの作品は、そっちには行かなかったわ。終末でも、人の事情はきれいに片付かないの。逃げるやつは逃げるし、すれ違うやつはすれ違う。傷を抱えた人間は、最後まで傷を抱えたまま。そこを誤魔化さなかったのが、アタシは気に入ったの。
特に大人二人の恋の落としどころがいいのよ。詳しい中身はネタバレになるから言えないんだけど、留希のほうも、重久のほうも、終末だからって都合よくハッピーエンドに転ばないの。それぞれが、自分の抱えてるものと折り合いをつけながら、最後の時間の過ごし方を選ぶ。くっつけて終わらせない勇気が、この作品にはあったわ。アタシのカウンターで見てきた大人の恋も、だいたいきれいには終わらないのよ。好きでも一緒にいられない事情とか、好きだけど譲れないものとか。そういう不揃いな感情を、この作品はちゃんと書いてた。
恋愛のすれ違いに「こういうことあるのよ」って思える現実感。これが、アタシがこの作品を評価する一番の理由ね。関係性のスコアで8を付けたのは、ここよ。
静かな寂しさが主役——号泣を期待すると外すわよ
先に言っておくわ。この作品は、泣かせにくる作品じゃないの。静かな寂しさが、ずっと底に流れてる雰囲気ものよ。
序盤の入りは、派手じゃないの。校内を歩いて、それぞれの場所にいる人と少し話して、また歩いて。ラジオのDJが「週末まではオマエと一緒」みたいなことを叫んでて、それだけが止まった時間に拍子をつけてる。最初の数十分は「これ、何が起きるんだろう」って手応えのなさを感じる人もいると思うわ。アタシ、序盤で掴まれないと続けられないタイプなんだけど、この作品の場合は、その「何も起きない感じ」自体が終末の空気だったから、不思議と苦じゃなかったの。盛り上がりを期待すると外すけど、静かな空気に身を浸せる人には合うわ。
あと、これは正直に書いておくわね。ボリュームは短いのよ。全部やっても3時間ちょっと。一週間の話なのに、一週間分の重みを積むには、ちょっと尺が足りてない感じがしたの。留希のことも、重久のことも、もっと時間をかけて見せられたら、もっと刺さったはずなのよ。短くても濃ければアタシは文句を言わないし、密度は悪くなかった。でも、これだけの事情を抱えた人たちがいながら、一人ひとりの掘り下げが「もう一歩」のところで終わってる感触は残ったわ。ボリュームのスコアを7に止めたのは、そこが心残りだからよ。
Hシーンについても一言だけ。アタシはもうそういう年齢じゃないから笑って読んでるんだけどね、この作品のそういう場面は、どれも感情の積み上げがあった上で来てたの。唐突じゃなかった。流れが嘘くさくないと、アタシは文句を言わない。エロは薄めだけど、この作品にはむしろそのくらいが合ってたと思うわ。
この男、ずっと観てる側なのよ
8まで上げきれなかった一番の理由を、はっきり書いておくわ。主人公の知裕が、ずっと受け身だったことよ。
この男ね、月曜から金曜まで、ほとんど校内をぶらぶら歩いて、人の話を聞いて、内省してるだけなのよ。「ま、てきとーに歩くか」っていうのが、この男の行動原理。女の子たちが告白したり、泣いて抱きついてきたり、誘ったりするのを、知裕はずっと受け止めてるだけ。全部、向こうから来てるの。アタシ、一人の男が物語の中で「どういう男になっていくか」を見るのが好きなのよ。でもこの男は、ほとんど最後まで観客でいたわ。
誤解しないでほしいんだけど、観察と内省の人間として描かれてるのはわかるの。この男なりの終末観を組み立てるモノローグには、ちゃんと中身があった。「結果じゃなくて、過程が大事なんだと思う。結果は他人に見せる為のもので、過程は自分が確認する為のものだから」なんて、悪くない台詞よ。でもね、考えてるだけで動かない男っていうのは、アタシの好みからは外れるの。終盤に一回だけ、この男がちゃんと動く場面があって、そこはアタシも認めた。けど、それまでがあまりに受け身だったから、点数全体は引っ張られたわ。主人公の造形を6に止めたのは、ここね。
こういう男、いるのよ。優しくて、頭も悪くなくて、人の話もちゃんと聞く。でも、自分からは動かない。気づいたら大事なものが目の前を通り過ぎてる。アタシのカウンターにも、そういうお客さんが何人もいたわ。悪い男じゃないの。ただ、見ていてもどかしいのよ。
7.2——大人の本音が、ちゃんと大人の顔で描いてあった
トータルで7.2。良かったところと、心残りなところを整理して締めるわ。
良かったのは、なんといっても大人の事情の描き方ね。きれいごとじゃない失恋、傷を抱えた人間、終末でも譲れないもの。攻略ヒロインの恋の周りで進む大人たちの話に、アタシが30年カウンターで見てきた人間と重なる感触がちゃんとあった。終末っていう極限を置くことで、人が逃げるのか踏みとどまるのかが、説教くさくなく見えてくる。この構造が、この作品の一番偉いところよ。ヒロインの魅力で8、関係性で8を付けたのはここね。
心残りだったのは、主人公がずっと受け身だったことと、全体が短いこと。動かない男を最後まで追いかけるのは、アタシのタイプにはちょっと物足りなかった。それに、これだけの事情を抱えた人たちがいながら、3時間で全部畳むには尺が足りてなかったの。もっと長く付き合えたら、もっと刺さったはずよ。
誰に勧めるかと言われたらね。静かな寂しさを味わいたい人、きれいごとじゃない大人の恋を見たい人には合うわ。逆に、派手な盛り上がりとか、号泣できるカタルシスを期待する人には、ちょっと地味に映るかもしれない。これは「終わりの前の、ささやかな日常」を描いた作品なの。看板を作ったり、星を見たり、パンを食べたり。そういう小さなことに、終末の重みが滲んでる。それを味わえる人向けよ。
……アタシね、この作品で一番好きだった台詞を書いておくわ。主人公が最後に「2人だから、何とかなると思う」「でも結局、オレはまた日常を求めて歩きつづける」って言うの。世界が終わる前日に、それでも普通の明日を求める。この欲張りで、しぶとい感じが、人間らしくて好きなのよ。終わるとわかってても、誰かと普通の日常を過ごしたい。アタシのカウンターに来るお客さんも、みんなそうだったわ。7.2。号泣はしないけど、静かに残る作品だった。クリアした人は、もう一本のほうに踏み込んだ話を書いてあるから、寄ってちょうだいね。
