田中穂乃火のレビュー — てんたま -1st Sunny Side-

田中穂乃火
田中穂乃火
感情が先、言語化は後
8.0/10
8.0 / 10

花梨がずるかった。こんな子に恋しないわけがない。

KID製の全年齢恋愛ADV。見習い天使・花梨が卒業試験として「指定した人間を幸せにする」役目で主人公の家に居候する話。読んでいくうちに花梨自身が主人公を好きになっていく——その過程の描き方がずるい。自分の恋心を「病気かな」と思う天使の純粋さに、気づいたら引き込まれていた。日常シーンの温かみと、ちゃんと積み上げてきた感情の着地が8.0の内訳。

スコア詳細

ヒロインの魅力 9
感動・カタルシス 8
キャラ間の関係性 8
日常・コメディ 8
テーマ・メッセージ性 8
エンディングの満足度 8

「泣けるから」って薦められた話

天使が「あなたを幸せにするです」と言ってくれる話。

KIDが2001年にPS1でリリース、翌2002年にWindows版が発売された全年齢の恋愛ADV。あたしがプレイしたのはWindows版。主人公の椎名は、亡くした恋人への想いを引きずりながら一人暮らしを続けている高校2年生。そこへ見習い天使の花梨が突然やってきて居候を始める。花梨の卒業試験は「椎名を幸せにすること」——でも、一緒にいるうちに試験の枠を超えた感情が動いていく。

あたしがこれをやったのは友達に「泣けるから」って薦められたから。「天使ものか、なんか甘い話でしょ」ってちょっと舐めてた。プレイした。……ごめんなさい。全然舐めていいゲームじゃなかった。

花梨さんがずるい

花梨が好き。気づいたら好きになってた。

語尾に「ですの」をつけて、料理が得意で、失敗してもすぐ「次はがんばるですの!」って立ち直る子。バーゲンに気合を入れて行くし、ガラポン抽選で特賞のホテルディナー券を引き当てたのに「ぬいぐるみがほしいですですぅ!!」って叫ぶ子(読んだとき声出して笑った)。

でも、花梨の本当のかわいさってそこじゃないと思う。

花梨はミッションとして「椎名を幸せにすること」を目標にしてる。でも一緒にいるうちに自分が椎名を好きになっていく。その自覚が、花梨にはない。他のヒロインから「椎名のことをどう思ってるの?」と問い詰められても「花梨は椎名に幸せになって欲しいだけです」って答え続ける。嫉妬心の正体がわからなくて困惑してる。

「なんで、胸が痛いんだろう」

このひとことで、あたしはもうこの子のことが好きになってた。恋を知らない天使が恋を知っていく——その過程をテキストでちゃんと描いてる。「花梨は病気になっちゃったのかな」っていうセリフに出くわした瞬間、もう引き返せなかった。ずるい。ずるくない?

ポトフと、買い物と、あの温かさ

日常パートが宝だった。

花梨が料理をして、椎名が食べて、買い物で迷って、ちょっと言い合って、また笑う——そういうシーンがしばらく続く。正直「話、進んでる?」って思う瞬間もある。日常が長い。

でも——後半になってから気づく。あの日常の一つ一つが全部「花梨と椎名が一緒にいた時間」として積み重なってるから、後半の感情が重くなる。積み上げなしに感動させようとしても刺さらない。この作品はその積み上げをちゃんとやってる。

幼馴染みの篠崎千夏相沢貴史の掛け合いも好きだった。千夏は気が強くてガサツに見えて、実は誰より繊細で。貴史はチャラいのに実は不器用で、「俺、不器用だからな」の一言が全部を説明してる。この三人組の空気感を見てるだけで楽しかった。

主人公に「動け!」って何度も叫んだ

正直に言うね。椎名がもどかしかった。

花梨が目の前でずっとがんばってて、明らかに特別な子で、明らかに想いを向けてきてて——なのに椎名は「妹みたいだな」とか言ってる。花梨が一人で悩んでるのに気づかない。

あたしは感情移入するタイプだから、読んでるうちに花梨のもどかしさが自分ごとになってくる。「見えてる!? ねえ、見えてる!?」って何度も思った。

——ただ。椎名の鈍さには理由がある。亡くした恋人への想いをまだ整理できていないから、前に進めない。それがわかってから見ると、受け身さが「ウジウジ」じゃなくて「悲しみの重さ」として見える。

理解はできる。……でも読んでる最中はやっぱりもどかしかった。折り合いがつくのは最後まで読んでから、だった。

8.0——「好き」って言わせてくれた

最後まで読んで、あたしはこのゲームが好きだと思った。

花梨が好き。花梨と椎名の日常が好き。千夏と貴史の関係が好き。後半の感情の積み上げが報われていく感覚が好き。

「大事なのは悲しい思い、辛い思いを忘れるのではなく、それらの思いとともに生きていくことだと思うです」——花梨が椎名に言うこのセリフ、あたしはここにこの作品のテーマが全部入ってると思う。シンプルだけど、最後まで一本筋が通ってる。

あと一歩——椎名がもう少し早く動いてくれてたら、あるいはメインの花梨ルート以外のヒロインももう少し丁寧に描かれてたら——もっと高かったかもしれない。でも8.0は本物の評価よ。花梨さん、ずるかった。