花梨がいなかったらやめてたかもしれない。ありがとね、花梨ちゃん。
KID製の全年齢恋愛ADV。見習い天使・花梨が「椎名を幸せにする」卒業試験で居候を始め、気づけば自分が椎名に恋してしまう話。天使設定はアタシ少し距離感があったけど、花梨の感情の動きとキャラ間のリアリズムが最後まで引っ張ってくれた。主人公の椎名がもう少し早く腹を据えていたら、7.0台に届いていた。
スコア詳細
「ピンとくると思いますよ」——お客さんの言葉から
お客さんに「ママ、ピンとくると思いますよ」って言われてやったの。
KIDという会社が2001年にPS1で出した全年齢の恋愛ゲーム。アタシがプレイしたのはWindows版(2002年)よ。高校2年生の椎名という男の子の家に、天使見習いの花梨が突然やってきて居候を始める。花梨の卒業試験が「椎名を幸せにすること」。椎名は一年前に恋人の双葉を病気で亡くして、孤独を抱えながら一人暮らしをしてる——そこへ天使が来る話。
ファンタジー設定は少し距離感があったけど、「一人で悲しみを抱えてる男の子の話」という骨格には引きつけられた。人間ドラマとして読んでみたの。
この主人公、判定が出た
椎名。アタシの判定は「最後に腹が据わった男」。それ以上でも以下でもない。
読みながらずっと思ってたのよ——「この男、いつ動くの」って。花梨が毎日がんばって、料理して、笑顔を向けてて、明らかに何か感じてるのに。椎名は「妹みたいな気がしてくる」って言い続けて、動かない。うちの常連さんでもいたのよ、こういう男。「気持ちはある、でも踏み出せない」って言い訳を三年続けて、気づいたら相手に別の男ができてて——「そんなつもりじゃなかった」って来るの。遅いのよ。
椎名の場合、動けない理由は双葉への引きずり。夢の中で双葉と向き合うシーン——双葉が「花梨ちゃんは花梨ちゃん。そうでしょ?」と言い残して去っていく場面——ここで椎名が涙を流して、「双葉の想いを断ち切ることができた」と感じる。このシーン自体はよかった。双葉が椎名を縛っていたんじゃなく、椎名が自分で縛っていた——ということが、ちゃんと整理された。
花梨が家を出たあと、「本当の幸せは花梨がいることだったんだ」と気づいて飛び出す。……歳をとると涙腺が緩くなっていけないね。まあ、遅かったけど、動いた。それだけよ。
花梨の告白——「自分の気持ちに嘘は付けないです」
ここが、この作品で一番よかった場面。
花梨は天使として「椎名に話さないで帰ろうとした」のよ。そうするのが正しいと思っていた。天使が人間に恋するのはご法度、椎名の邪魔をしたくない——全部「他者のため」という判断で動こうとしてた。
でも最終的に言うの。「花梨は椎名が好きです。椎名の傍にいたいです。自分の気持ちに嘘は付けないです」って。
これよ。アタシが花梨を評価したのはここ。自分の気持ちに嘘をつかないで、言えた。恋愛なんてそんなもんよ——きれいな事情だけじゃない、でも言わなきゃ始まらない。花梨が動いたから、椎名も動けた。椎名が「オレも花梨が好きだ。一人の女性として」と言えたのも、花梨が先に言ったからよ。
この二人の間で、動いたのは花梨の方が先だった。えらい。
双葉という女
幻として出てくる死んだ恋人——これはよく描けてた。
椎名の亡くなった恋人・双葉は、物語を通じて椎名の心の中に声として存在してる。夢や幻として対話する場面がある。アタシ、最初は「都合よく出てくる幻か」と思ってたのよ。
でも終盤の夢のシーン——双葉が「もう私がいなくても寂しくないよね」と言い残して去っていく場面——ここは違った。双葉は椎名を「縛っていた」わけじゃない。椎名が自分の悲しみに囚われていただけで、双葉自身は最初から椎名を解放しようとしてたのよ。「私はここで応援してるからね」——この一言でそれがわかる。
花梨の「悲しい思いを忘れる必要はない。そのまま、一緒に生きていく」というセリフと、双葉の在り方が同じ方向を向いてる。作品のテーマが一本通ってる、ということね。アタシはここで「ちゃんとした話を読んでいるんだな」と思ったわ。
千夏という女と、貴史という男
この二人の話が、アタシには一番刺さった。
千夏と貴史は5歳から幼馴染みで、千夏はずっと貴史のことが好き。貴史もわかってる。でも言えない。「言葉にしなくても気持ちは伝わってると思ってた俺の甘えから招いた結果」——貴史がこれを言った時、アタシは「あ、この男はわかってるじゃない」と思った。わかっていても動けなかった甘さも含めて、人間らしい。
千夏は「もう無理なの。疲れたのよ」と言う段階まで追い詰められてる。気が強くて傷つかないように見えて、実は誰より傷ついてる子。アタシのいとこの娘にそっくりな子がいてね——強がるの、でも一人のときは全然違う。千夏もそういうタイプよ。
終盤、千夏が花梨に「花梨ちゃんの気持ち、伝えてもいいと思うよ。天使とか人間とかそんなの関係無いよ」と背中を押す場面——これもよかった。千夏自身がずっと言えなくて傷ついてきた子が、花梨には「言いなさい」と言える。それがまた、千夏という人間の厚みを作ってた。
花梨ルートのエピローグで貴史が東京へ旅立つ手紙を残す——千夏が怒るのもわかるんだけど、「有名になって戻ってくる」という不格好な宣言、アタシはあれ嫌いじゃないわ。不器用な男の告白みたいなものよ。
他のルートについて
正直に言うと、花梨ルート以外は薄かった。
千夏ルートは「椎名×千夏の成就」で締まるのに、プロセスがあっさりしてた。千夏という子の厚みは花梨ルートの中でちゃんと描かれてるのに、千夏ルート本体では「なんでここで成立するの」という感じがした。花梨ルートを先にプレイしてしまうと余計にそう感じるのかもしれないけど。
七瀬結花は自分の中に「香乃」という分身を抱えてる子で、グッドEDで香乃が消えて自分一人の感情として椎名を好きになる——という構造が面白かった。でも花梨との積み上げに比べると、椎名との絆が一気に深まる感じがして、もう少し丁寧に欲しかった。
榎理香子は中学から椎名に片思いしてる後輩で、巫女という設定が面白かったのよ。でも登場時間が短くて。アタシはこの子のことをもっと知りたかった。
花梨ルートにリソースが集中してて、他が薄い——それは正直思う。プレイヤーへの分配の偏りね。
6.8——「花梨がいて助かった」
最後まで読んで、花梨に感謝した。
花梨が自分の気持ちに嘘をつかずに告白したこと——そこがこの作品の一番いい場所だった。椎名が動いたのは花梨の後で、そこは変わらない。でも花梨が先に動けたことで、二人が結ばれた。恋愛なんてそんなもんよ。どちらかが先に言うしかない。きれいじゃないけど、だから刺さるのよ。
千夏と貴史の関係性はリアルだった。双葉の描き方は誠実だった。「悲しみとともに生きていく」というテーマは、この年齢になると余計に響く。
椎名があと少し早く腹を据えていたら——でも最終的には動いたから、許せる。それだけよ。
花梨がいなかったらやめてたかもしれない。ありがとね、花梨ちゃん。
