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ストーリー詳細 — この世の果てで恋を唄う少女YU-NO

本作は、父の手紙をきっかけに、分かれていく並列世界を宝玉で行き来する現代編と、その先の異世界編からなる。現代編では、世界ごとに亜由美・美月・澪・香織・神奈らとの話があり、亜由美・澪・神奈にはそれぞれの結末がある。8つの宝玉をそろえると異世界編へ進み、真の結末へ至る。 ▼詳細を読む はネタバレを含みます。 プレイ済み設定をするとアコーディオンがデフォルトで展開されます。

プロローグ — 父の手紙と剣ノ岬の夜

夏休み前の最後の授業の日から、補習の日の夜までの2日間。父の死亡が認定されて間もないたくやは、校医の絵里子に父のことを気遣われ、学長の龍蔵寺には父から何か預かっていないかと尋ねられる。父の死を受け流しているたくやのもとに差出人の書かれていない小包が届き、その夜、境町の名所・剣ノ岬のふもとで物語が動き出す。

夏休み前の最後の授業の日、屋上で昼寝をしていたたくやは、校医で担任の武田絵里子に父のことを気遣われる。父・有馬広大は2か月ほど前、研究の取材中に落石にあい、1か月後に死亡が認定されていた。

「落石で生き埋めだとさ。生存の可能性はゼロ。」(有馬たくや)

学長の龍蔵寺は、たくやに2歳くらいのころ会っていると言い、広大から何か預かっていないかと尋ねる。家では継母の亜由美が、海岸の工事の続行に反対して会社と電話をしていた。海岸の土を運び出そうとすると例外なく雷が落ちるので、運搬は止めているのだという。好きな人を問われた亜由美は「有馬広大博士」と答え、同じくらい好きな人がもう一人いる、と言ってたくやの頬にキスをする。「大切な私の家族よ」。

補習の日、亜由美は、たくや宛に差出人の分からない小包が届いていると告げる。中には鏡と、ガラス玉のはまった装置、そして父の手紙が入っていた。手紙には、自分が姿を消しても死を意味するものではないこと、時の流れは可逆であること、鏡はたくやの母・恵子の遺品であること、装置は数十時間を可逆にするだけで本体は別にあることが書かれていた。8つの宝玉がはまっていることを確かめ、今夜10時に剣ノ岬のふもとへ行き、そこで待つ人物に装置を渡せ。亜由美には言うな。だが、宝玉は2つしかはまっていなかった。

夜10時、剣ノ岬のふもとの「社」には誰も来ない。山の裏で、金髪の女性が裸で倒れていた。女性は目を覚ますと泣き出し、たくやに唇を重ね、「ゆ‥‥」「あ‥‥く‥‥」と言い残して息絶え、体が透けて消えてしまう。そこへ龍蔵寺と亜由美が現れる。龍蔵寺は銃を構えて装置と鏡を渡せと迫り、装置を「無限に存在する時空間の可能性をみることができる装置」と呼ぶ。広大は、異なる世界のどこかで生きているという。たくやが装置を渡そうとしたとき地鳴りが起き、三角山に光が満ちる。たくやは、岩場の上に転校生の波多乃神奈の姿を見ながら気を失う。

目を覚ますと、たくやは三角山のふもとにいた。装置は点滅し、空中に図を映し出す。家に戻ると、亜由美は社の夜のことを何も覚えておらず、その夜は会社に泊まったと言う。書斎の資料は、すでに龍蔵寺がすべて引き取っていた。目の前の亜由美は、社にいた亜由美ではない。たくやは、自分が別の世界に来たのかもしれないと考え、父を探すと決める。

並列世界を渡る — 補習の日々

補習の日々の境町で、たくやは宝玉を使って時間と場所を記憶し、分かれていく世界を行き来しはじめる。手がかりは、父の書斎にあった装置の説明書と、まわりの人々の話だけ。どの世界でも、海岸の落雷事故、龍蔵寺の屋敷のタタリの噂、剣ノ岬の秘密が少しずつ姿を見せる。選んだ道によって、たくやが深く関わる相手は変わっていく。

書斎の引き出しにあった今川由利香の論文が、装置(リフレクター・デバイス)の取扱説明書になっていた。宝玉は今の時間と場所を記憶する石で、使うと装置から消え、その時空にとどまり続ける。装置の宝石に触れると、行ったことのある世界が約50時間分、枝分かれした図として映し出される。論文によれば、人の行動によって現世界から従属世界が分かれていき、それを横に並べて見たものが「並列世界」である。事象の密度が極めて高い世界に近づくと、もう避けることはできない。著者はその状況を「運命」と呼んでいた。

補習の教室には、学長の秘書で臨時講師の一条美月、成績トップの島津澪、後輩の結城正勝、転校生の波多乃神奈がいる。保健室には校医の絵里子。テレビでは、報道番組のキャスター・朝倉香織が、落雷事故の責任者として亜由美を追及している。夜の廊下では、龍蔵寺と香織が「あそこにはまだ、あれが存在するはずなのだ」と密談し、龍蔵寺は興信所に広大の足取りを追わせていた。

たくやは、選んだ道によって違う人と深く関わり、違う出来事に出会う。結末を選ばずに先へ進むと、たくやはその世界から引き離され、三角山のふもとで目を覚ます。誰かの死を防げなかった世界からも、誰かと結ばれた世界からも。たくやは宝玉で記憶した分かれ道へ戻り、別の道を選び直していく。

亜由美の章 — 落雷事故と機密書類 亜由美END

海岸の落雷事故の責任を押しつけられ、追い詰められていく継母・亜由美を、たくやが支えようとする話。補習の初日、亜由美の留守に始められた運搬作業の現場に雷が落ち、その責任は亜由美にかぶせられる。亜由美の部下で現場監督の豊富と、報道番組のキャスターの朝倉香織がからみ、亜由美の会社の機密書類をめぐる企みが進んでいく。

補習の初日、亜由美は工事の許可の件で学長の龍蔵寺に会いに学校へ来ていた。その留守に、現場監督の豊富は自分の判断で鉱石の運搬を命じ、晴れた空の下の現場に雷が落ちる。作業員に詰め寄られた豊富は、最高責任者は有馬主任だと亜由美に責任を押しつけた。午後の説明会は抗議集会になり、亜由美は「人殺し」と罵られて物を投げつけられる。たくやは割って入り、相手は会社のはずだと群衆をしずめる。

その夜、報道番組『ニュース・プレゼンス』で、キャスターの朝倉香織が亜由美を問い詰める。飲めない酒に酔って帰った亜由美は、書き置きを残して呼び出されていった。明雲寺公園で、豊富の雇ったヤクザ風の二人が亜由美の持つ書類の封筒を奪い、止めに入ったたくやは殴り倒される。そこへ豊富が「助け」に現れた。公園での打ち合わせを撮っていた香織は、たくやに言う。

「だって、そういう筋書きだもの。」(朝倉香織)

深夜、亜由美は台所で「‥‥もう、限界だわ。」と泣いていた。たくやに「たくやクンは、亜由美の、唯一の家族よ。」と言い、二人はソファで寄り添って眠る。亜由美は、広大が生きていたら、まず頬を叩き、それから胸に飛び込んで泣いて許してあげる、と話し、自分が倒れそうなときは広大に代わって支えてほしいとたくやに頼む。

翌日、豊富は書類を取り戻した恩を盾に、亜由美に迫る。ねらいは、書類から抜けている一番大事なページ(鉱石を保存する液の生成式)だった。亜由美は役員会議で全責任を負わされて主任を解かれ、機密書類を盗んだ疑いまでかけられる。書類は豊富が隠し、亜由美が盗んだように見せていた。たくやは香織と取引し、香織の手引きで夜の社内に入って、隠された書類を見つけ出す。家に戻ると、豊富は疑いを晴らしてやると言って亜由美に迫っていた。香織が撮った密会の写真を突きつけられ、豊富は「彼女は道具さ」と本心を口にして逃げ出し、香織に連れ去られる。

たくやが帰ると、亜由美は服を着たまま浴槽にいて、手首にかみそりを当てていた。間に合わなかった世界では、亜由美は赤い湯の中で死んでいる(バッドエンド)。止めた世界で、亜由美はたくやを何度も叩いて叫ぶ。

「亜由美はね、辛かったのよっ、死ぬほどさびしかったのよっ。」(有馬亜由美)

たくやは父の口まねでなだめる。亜由美は、自分のことをわざと名前で呼んでいたのは、たくやに女を意識させないためだったと打ち明け、「今だけ、私をささえて‥‥。」と求める。母と息子の関係を越えて、二人は結ばれる。翌朝、亜由美は「ずっと、好きだったの。」と告げる。

ここで世界が分かれる。亜由美ENDでは、数年後、二人は別の土地へ移っている。亜由美は新しい会社で働き、たくやは歴史学者を目指して勉強しながら、いつか三角山の謎を自分が説明すると決めている。物語は「これはこれで、1つの人生なのかもね‥‥。」で閉じる。

先へ進む世界では、亜由美は会社の本当の目的が、海岸の地下の鉱脈から《超念石》という鉱石を掘り出して調べることだと明かす。石を最初に見つけたのは広大で、研究を続ければ広大に会えるかもしれないと思っていた、と話し、研究室に入るためのブルーカードをたくやに渡す。たくやが「‥‥結婚‥‥しよっか?」と言い、亜由美が「‥‥うん。」と答えた直後、たくやの体が消えはじめ、たくやは三角山のふもとで目を覚ます。理由の分からないまま、亜由美をいとしく感じながら。

このほか、剣ノ岬の夜に龍蔵寺の暗示にかかった世界では、たくやは龍蔵寺の屋敷で強い弛緩剤を打たれ、台に縛られる。龍蔵寺はリフレクターのありかを問い、「安らかな眠り」の注射を打とうとする(バッドエンド)。

美月の章 — 学長の屋敷と土蔵

補習の臨時講師で、学長・龍蔵寺の秘書でもある一条美月に頼まれ、様子の変わった学長と、その武家屋敷を探る話。美月とたくやは、以前ひそかに付き合っていた。屋敷から広まったタタリの噂、半年前に建てたはずの荒れた土蔵、庭で拾われた日記の切れ端が、学長の秘密へつながっていく。この章には「〜END」の結末は無い。

補習の臨時講師として来ていた美月は、夕方の研究室で、龍蔵寺が変わってしまったと打ち明ける。禁煙家だったのに葉巻を吸い始めた。家具をほとんど処分した。怯えていた老母が急に「平常通り」になった。半年前に建てた土蔵が荒れ放題になった。庭で拾った日記の切れ端は龍蔵寺の筆跡で、「彼女」という人物を恐れていた。美月は調べる手伝いを頼む。美月とたくやは以前、内緒で付き合っていた。美月は服を脱いで誘うが、たくやは断る。

「茶化さないでくれよ‥‥ただ、俺は俺であって俺じゃない可能性があるんだ。」(有馬たくや)

屋敷は約400年前のものとされる武家屋敷で、龍蔵寺は2か月ほど前に越してきた。老母の梅は「あの女が来てから‥‥変わってしまったのよ」と取り乱し、土蔵をよく調べるよう告げて、たくやに土蔵のカギを渡す。日記の続きを探していた枯れ井戸のそばで、美月とたくやは結ばれる。美月は「でも今なら‥‥。」「本気よ‥‥。」と言いかけ、「教師と生徒だもの、無理よね」と自分から引く。

別の夕方、研究室のロッカーに隠れたたくやと、同じロッカーに隠れた校医の絵里子の前で、龍蔵寺は「先生は‥‥変わられました。」と問い詰める美月の想いにつけこみ、その場で関係を持つ。狭いロッカーの中で絵里子はたくやの相手をし、最後にこうささやく。

「一条美月のことは、忘れるんだ‥‥。」「彼女はもうすぐ、いなくなる‥‥。」(武田絵里子)

やがて美月から、取り乱した電話がかかる。「わかったのよ‥‥全部」。夜の屋敷の土蔵では、梅が梁から鎖で首を吊った姿で死んでいて、手に龍蔵寺の日記帳を握っていた。日記には「彼女は悪魔の化身だった」とあった。直後、ガレージから車を出した美月が塀に激突する。美月には、強い暗示をかけられたときの「ナイアーブ症状」が出ていて、運び込まれた保健室でたくやを刃物で襲う。絵里子は、美月は「冷静に錯乱している」と言う。

絵里子とたくやは学長の留守に土蔵を調べ、一部だけ漆喰の新しい壁を壊す。中から出てきたのは、頭と手足だけの白骨だった。タタリの被害者は、頭と手足が見つかっていなかった。そこへ龍蔵寺が、催眠状態の美月を連れて現れる。絵里子は「ボロが出たな、学長‥‥いや、****!」と叫び、龍蔵寺は「いつ、私が、私でないと気付いたのかな?」と応じる。本物の龍蔵寺は監禁され、夜ごと助けを求めた姿がタタリの噂になり、やがて殺された、と絵里子は推理する。

龍蔵寺の撃った弾から、美月がたくやをかばう。

「あなたはたくやであって、たくやではない‥‥。」(一条美月)

美月は死に、龍蔵寺は逃げる。絵里子は「この結末は、すでに定められたことだ。」と言い、たくやを「この次元へさまよい込んだ、最初の所」へ戻すと告げる。たくやは三角山のふもとで、理由の分からない涙を流しながら目を覚ます。

土蔵で締め出され、背後から美月に殴り倒された世界では、たくやは屋敷の台に縛られ、強い弛緩剤で動けない。絵里子も捕まっている。龍蔵寺は「アーベルが死んだいま、怖いモノはないと思っていたがな‥‥まさか彼女が追ってくるとは思わなかった。」と言い、催眠下の美月が「愛してるの、たくや‥‥。」と注射を手にする(バッドエンド)。

澪の章 — 剣ノ岬の地下 澪END

剣ノ岬(三角山)に古代の秘密が眠ると信じる同級生・島津澪と、地下の遺跡を探る話。補習で隣の席になった校内トップの秀才の澪は、たくやの父・広大の学説を慕い、社の双子岩と文字盤をひとりで調べている。市長である澪の父の汚職、急な留学、書き置きを残しての家出が重なり、たくやは澪を追って剣ノ岬の地下へ入っていく。

澪は社の双子岩と、そこにはまった文字盤を調べている。たくやの父・広大の学説を慕い、広大・龍蔵寺・今川由利香の共著『LEGACY』を手に、400年ごとに大変革が起きるという説と、西暦400年ごろ日本に君臨した民族「高ノ天原」の秘密が剣ノ岬にあるとにらんでいた。龍蔵寺家に伝わるタペストリ(そびえる塔、建物から放たれる光、炎の中で苦しむ人々)と双子岩の配置が「似すぎている」と澪は言う。

夜の海岸で澪は、誰にも言わない約束で、市長の父がジオ・テクニクスとの利権で汚職に関わっているらしいとたくやに打ち明ける。翌朝、学校の掲示板に「島津市長の娘[島津 澪]さん衝撃の告白!」の貼り紙が出る。澪は「‥‥みそこなったわ、有馬君。」とたくやをなじる。父は、1週間後にアメリカの学園へ編入する手続きを済ませていた。貼り紙をしたのは、澪に想いを寄せる後輩の結城だった。

澪は書き置きを残して家を出て、社の岩の穴から剣ノ岬の地下へ入り、閉じこめられる。たくやは結城か美月を連れて後を追う。地下の通路は先へ進むたびに来た道が閉ざされる造りで、同行者は扉で分断されたあと、穴に落ちる。玄室には、数か月前から行方不明だった今川由利香のミイラと手帳があった。手帳には、玄室が約8千年以上前のものであること、有馬博士から託された「リフレクターデバイス」が自分の人生を変えたこと、町の深くに特殊なレアメタル《超念石》が眠ることが記されていた。

棺の下の階段の先、青白く光る湖のある巨大な空間で、たくやは澪と再会する。出口は見つからない。澪は貼り紙が結城の仕業だと見抜いていた。死の恐怖の中で、たくやは「俺はどうせ死ぬからって理屈は、大嫌いだからな。」と言い、澪は「生きてここから、有馬君と‥‥‥そう思うわ。」と誓う。二人は結ばれる。途中で澪は「今日はやめにしない?」とためらうが、たくやは聞き入れない。眠ったたくやは、聞いていた母にそっくりな夢の女性に「‥‥‥思い出しなさい。いなくなった、あの人を‥‥‥。」と告げられる。

湖の上に立つ金髪の女性を追うと、高さ100〜200メートルの、帯電して動き続ける巨大な機械にたどり着く。澪は「少なく見積もっても8千年以上稼働していたことにならない?」と言う。出口は、なぜか龍蔵寺の屋敷の枯れ井戸につながっていた。澪を先に地上へ出したたくやは同行者を助けに地下へ戻り、穴の底で遺体を見つけたところで崩落にのまれる。闇の中で神奈の声が「本来あるべき道へ、戻るのです‥‥。」と語り、たくやは三角山のふもとで目を覚ます。

美月と離れずに進んだ世界では、光る湖で美月が「先生には、逆らえない‥‥‥ごめんなさい。」とたくやを殴り倒し、龍蔵寺の拳銃を二人に向ける。本人の意思かと問われると、美月は目がうつろになる。

「撃たなくてはならないわ‥‥だけど、撃ちたくない。」(一条美月)

美月は巨大な機械を「雷発生装置」と呼ぶ。海岸の人々を狙って雷を落とす装置で、落雷事故を起こしていたのはこの機械だった。放電と落雷の中、出口は落石でふさがっている。澪は、塔から光が放たれ人々が業火に焼かれるタペストリは、このことを伝えていたのだと気づく。たくやは「澪、お前のことを愛してる。」と言い、鉄の剣を避雷針として投げ、機械を壊して出口を開く。戻った先で、美月は雷に体を貫かれていた。

「先生に、私‥‥‥操られていたのかしら。」(一条美月)

美月は、龍蔵寺から聞いた、たくやは数十時間たつと再び消えるという話と「カオスの矯正」という言葉を言い残し、息絶える。

澪ENDでは、三角山は潰れ、市と会社が責任をめぐってもめる。本当のことを知っているのはたくやと澪だけだった。数年後、澪は大学の博士課程で歴史学を学び、たくやはその助手として、澪が買ったマンションで一緒に暮らしている。二人で三角山の秘密を解くことが、たくやのライフワークになる。

先へ進む世界では、たくやは澪に「俺は実は別の並列世界からやってきた人間で、この世界の住人じゃない‥‥多分。」と打ち明けて消え、三角山のふもとで目を覚ます。亜由美を捜し、龍蔵寺を問い詰めると決めて。

香織の章 — ブルーカードと研究所

テレビで亜由美を追及するキャスター・朝倉香織に誘われ、亜由美の会社ジオ・テクニクスの研究所へ忍び込む話。夜の会社に入り込んでいた香織は、亜由美が会社でしていることと父のことを話すと持ちかけ、亜由美の持つブルーカードを求める。手を貸せば、たくやも法を犯すことになる。研究所の奥には、青白く光る一つの石があった。

夜の海岸にサイレンが鳴り、ジオ・テクニクスの方から走ってきた女性がたくやにぶつかる。女性は追ってきた女守衛の前でたくやを仲間に見せかけ(「落ち合う場所、ここじゃマズかったわねっ」)、守衛の足を引っかけて気絶させると、「朝倉香織(あさくらかおり)」と名乗った。その夜、香織は家の窓に小石を投げてたくやを呼び出し、高台で頼みごとをする。亜由美が持っているはずのブルーカードがほしい。研究所の2次セキュリティを越えるためのカードで、今夜忍び込んだのは自分であり、明日の夜にもう一度入るという。海岸の工事は社屋拡張のための地質調査ということになっているが、実際には会社に莫大な利益をもたらす「あるモノ」を掘り出そうとしている。亜由美は有馬広大博士の意志を継いでいて、会社のやろうとしていることの根底には博士の仮説がある、と香織は言う。

香織を追った先の明雲寺公園では、豊富がヤクザ風の二人の男に、ある女の持つ書類を奪わせる手はずを話していて、香織はそれを高感度カメラで撮っていた。翌日、[EVENING]に残された伝言で、たくやはシティホテルの1101号室を訪ねる。ブルーカードを渡さなければ、香織は「さようなら、たくや君。もう会うこともないわね。」と去っていく。

渡すと、二人は「パートナー」になる。香織は、相手を信じるために肌を重ねると言い、二人は結ばれる。たくやは利用されていると知りながら、亜由美と父のことを知るためにそれに乗る。香織の仕事は二つあった。鉱石を変質させずに保存する液の生成式が書かれた書類と、《超念石》そのものである。香織は、広大とも一度だけ関係を持ったと口をすべらせる。

その夜、二人はブルーカードで研究所(D12地区)に入る。水槽の中で青白く光っていたのは《超念石》の結晶で、香織によれば人の意識に感応し、空気か水に触れると組成が大きく変わる。結晶化の技術は、広大の依頼で亜由美が研究したものだった。たくやが石を手に取ると、香織は、部外者で主任の息子のたくやがここに残れば「実行犯はあなたで、それを指図したのが有馬亜由美さんということにならないかしら。」と言って去る。石を香織に渡せば、たくやは背後から殴られて気を失う。先に企みを見抜いていれば、香織は雇い主のことを少しだけ話す。雇い主はこの石をエネルギー源にして何かをしようとしていて、石を「ある種の鉱物生命体」だと考えている。「雇い主は俺の学校の人だっけ?」と問われて、香織は顔色を変える。報酬を払って香織と組んでいたのは、学長の龍蔵寺だった。

亜由美のオフィスに隠れていた豊富は、窮地の亜由美が保身のためにたくやに石を盗ませた、という筋書きを話し、香織を「正体は産業スパイ同然なのさ」と言う。豊富と香織は組んでいた。警報の中、たくやを机の下にかくまった亜由美は、広大の依頼で《超念石》の結晶化の式を作っていたこと、龍蔵寺に荷物を引き渡すときに広大の手記を読んだことを話す。広大はこの石で、たくやの本当の母に会いに行こうとしていた。

「本当のお母さまは、生きてらっしゃる。」(有馬亜由美)

亜由美は「あなたがどの世界のたくやクンかは判らないけど‥‥自分の道へ戻れるよう祈っているわ。」と言い、石を持っていくよう促す。たくやはリフレクターでこの世界を去る。持ち出した《超念石》は、別の世界で神奈の命をつなぐことになる。

神奈の章 — 命の火 神奈END

1か月ほど前に来た転校生・波多乃神奈の秘密を追う話。クラスの誰ともほとんど話さない神奈は、海岸の工事を止めようとし、ときどき高熱で倒れる。学校では、神奈が年上の男たちと金で付き合っているという噂が広まっている。神奈の身辺には興信所の男・北条がつきまとい、たくやは神奈と父・広大とのつながりを知っていく。

補習の日、神奈は屋上で海を見ていて、「早く止めないと」と言って去る。海岸の工事現場では、現場監督の豊富に「運搬作業は、即刻中止して下さい」「あなたたちのために、言っているんです」と訴え、手を振り払われて倒れる。たくやは神奈を背負って学校の保健室へ運ぶ。校医の絵里子はいない。介抱するたくやは、神奈の首に青白い石のネックレスを見つけ、どこかで見たことがある気がする。目を覚ました神奈は「どこで見たのですか?」と何度も尋ねる。海岸にいたのは「事故をふせぐために」で、事故の遺族ではない。熱は「ときどき」出るといい、「最近は、間隔が短くなってきたから‥‥」と言いかける。

学校では、神奈が父親くらいの年の男とホテルから出てくるのを見られた、という噂が広まっていた。担任でもある絵里子が確かめると、神奈は噂を「おおむね正しい」と認め、問題になるなら退学してもいいと言う。絵里子が書類で追えただけでも、神奈は境町の周りの学園を、円を描くように10回以上転校していた。保護者は書類の上では外国にいて、連絡が取れない。

夕方、神奈は校門でたくやを待っていて、介抱の礼を言う。送っていく途中の喫茶店[EVENING]で、神奈は自分の分を自分で払い、「その方がトラブルが少なくなります。長い間、暮らしてきた経験です。」と言う。マンション「パレス・フラット」の前では、神奈の父親くらいの年の男・北条が待っていた。北条は「知り合いだよ。いや、それ以上かな。」と言い、神奈は「北条さんは私の知っている人です」とたくやを止める。北条は興信所の調査員で、広大の行方を追っていた。雇い主の名は明かさないが、龍蔵寺は香織に、広大の足どりを興信所に追わせていると話していて、北条の雇い主は龍蔵寺だと読める。北条はたくやに、神奈の部屋に盗聴器を置けと持ちかけ、神奈は1年近く広大に囲われていた「事実上、有馬博士の愛人だ」と言う。たくやは断り、神奈本人に聞くと答える。

神奈の部屋は、テレビも電話もカーテンもない、暮らしの気配の薄い部屋だった。高熱で倒れていた神奈のため、たくやは亡き母がよく飲んでいたという解熱薬を家から持ってくる。戸棚の上には、広大名義の預金通帳が隠すように置かれていた。毎月30万円の振り込みは、広大がいなくなった2か月前で止まっている。通帳には古い写真がはさまっていて、明るく笑うおかっぱの神奈と、「お姉さま」のような美しい女性が写っていた。裏には『最愛の人と一緒に‥‥』。泊まっていくかと言われて泊まった夜、たくやは父のことを尋ねる。

「生きています‥‥。」(波多乃神奈。父は生きているのかと問われて)

その夜の夢で、父は亜由美が来る日の朝を語り、「お前の母親は死んだ。それはもう歴史に刻まれた事実‥‥。」「だが、事実は必ずしも真とは限らない‥‥。」と言いかけたところで、音にかき消される。翌朝、神奈は朝食を作り、床で寝ていたたくやをベッドへ移していた。好きなものは緑(木々)で、「海は嫌いです‥‥。」「あれは‥‥私の責務というだけです。」と言う。ネックレスについては「これが無くなれば、私は死にます。」「この宝石は、水に漬けると変質してしまいます。」と言い、噴水のそばを避ける。広大について「彼はそういう人ではありません。」と言って去り、その日の昼、自分から退学を申し出る。公園で子犬と声を出して笑う神奈は、ひとりで「ごめんね、今日でもう最後‥‥」「この、命の火が燃え尽きるまで‥‥?」とつぶやいていた。

変装して[EVENING]で龍蔵寺と香織を見張っていた絵里子から、たくやは神奈が預けていった封筒を受け取る。中身はあの通帳だった。絵里子は、神奈が広大の隠し子だという線と、広大が神奈の保護者だったという線を挙げ、北条の雇い主について「もしかしたら、私が追っていたヤツかも‥‥。」ともらす。写真を見直したたくやは、写っているのが社だと気づく。今は双子岩なのに、写真では岩が三つある。三つあったのは50年あまり前のはずだった。

夜、神奈のネックレスは北条に奪われる。明雲寺公園の林で、北条はナイフを突きつけて神奈を殴り、広大の行方を問い詰める。北条の雇い主は、たくやが広大の形見の宝玉を持っていると知っていた。宝玉を渡せば元の場所へ永遠に戻れなくなると考えながら、たくやが「宝玉は渡す!」と言った瞬間、神奈がナイフを叩き落とし、たくやは北条を殴り倒す。逃げた北条がネックレスを噴水に投げ込むと脅すと、神奈は「死ぬほど大切なモノという意味です。」と言って、自分で噴水に投げ入れる。

「これでもう、交渉の道具には使えません。」(波多乃神奈)

北条は雇い主から借りた拳銃をたくやに向けるが、銃声のあと倒れていたのは北条だった。現れた絵里子は、北条は雇い主にかけられた「ナイアーブ」と呼ばれる催眠状態にあったと言い、北条を引きずっていく。

雨が降り出し、神奈は高熱で倒れる。木陰で神奈は、友人も家族もなく、生活のための金を稼いで暗い部屋へ帰る毎日を語り、「汚れている、私を‥‥見れますか。」と問う。たくやは「君は、汚れてなんかいないよ。」と言う。神奈が「じゃあ、抱けますか?」と問うと、たくやは同情でも意地でもなく「君が、いとしいからだよ。」と答え、二人は結ばれる。神奈は「今までの、誰よりも優しい‥‥」と言い、たくやは、神奈を守らなくてはならないという想いがこみ上げるのを感じる。そのあと神奈は、たくやが自分のために、父から託された宝玉まで手放そうとしたと言い、「1人の少女」の話として身の上を打ち明ける。早くに父を亡くし、同じ「個性」を持つ母と、一つの場所に住みつけずに暮らした。母が逝くと家は人手に渡り、少女は施設に入らず一人で暮らして、生きるために体を売るようになった。「身体は、心よりも容易につながることができるのです‥‥。」と神奈は言う。母の遺した言葉は、生きている限り負けない、というものだった。やがて夫婦のような二人、「気さくでよく笑われる男の人」と、神奈と同じ個性を持つ「上品で物静かな女性」が、神奈の暮らしを支えるようになる。

「あの人は、私のもう1人のお父様です。」(波多乃神奈)

剣ノ岬には「恐ろしい神様」がまつられていて、海岸の地下に眠る「命の火」を守り、掘り出して運ぼうとする者に罰を下す、と母も広大も言っていた。命の火とは神奈のネックレスの石のことで、社に花を添えていたのは「過去の人は敬わなくてはならない」という母の教えからだった。神奈も母も普通の人よりずっと成長が遅く、写真は「ずいぶん昔」に撮ったものだという。龍蔵寺は「違うにおいのする人」で、石そのものを欲しがっていた。広大は旅立つとき、神奈に三つのことを頼んでいた。何も知らずに剣ノ岬を掘り起こそうとする者に警告すること。自分を捜しに来る「一直線の直情バカ」に伝言を伝えること。そして、たくやにあるものを渡すこと。

「8つの宝玉がそろえば、新たな道が開ける‥‥ワシはお前を待っている‥‥。」(神奈が伝える広大の言葉)

たくやは、空き部屋のある自分の家で一緒に暮らそうと誘い、神奈は「強引なんですね‥‥。」と受け入れる。だが石を失った神奈は「もう‥‥手遅れなんです。」「あれは命の炎‥‥それが私や私のママ、有馬さんのお母さまの個性なのです‥‥。」と言い、「有馬さん‥‥お父様を見つけて下さい‥‥。」と頼んで、「少し、眠っていいですか。」と目を閉じる。体は冷たくなり、息が止まる。たくやは父への怒りを叫び、必ず戻ってくると誓う。

別の世界のジオ・テクニクスから持ち出した《超念石》があれば、たくやはそれを神奈に渡す。神奈は目を覚まし、「これ‥‥何で有馬さんが、これを?」と驚く。現代編の終わりで、父の声はこれを「お前にしては上出来ぢゃな。神奈の命をすくったか。」と言う。

神奈の母が誰なのかは、作中ではっきりとは言われない。だが異世界編の最後の夜、龍蔵寺はアマンダを巫女と取り違えて次元の渦へ送り、機械の声は「誤差は、最大15億8千万秒‥‥。」と告げ、龍蔵寺は「ざっと50年というところか」「あの巫女も、運が良ければ、君らの世界へ落ちているだろう。」と言う。神奈の写真は50年あまり前のもので、写っている母は鉄のような腕輪をしている。アマンダは、身につけた鉄の輪を「神帝の圧政に、刃向かっているオレの誇り」として外さない。神奈は母から、父は死んだと聞かされていた。神奈の母はアマンダで、異世界でアマンダと結ばれていたたくやが、神奈の父だと読める。

神奈ENDでは数年後、たくやは神奈のマンションに入りびたり、そこから大学へ通っている。神奈はOLとして出世している。神奈が数十年を生きてきたこと、母が異世界の人間だったことを、たくやは知っている。その母は「ひょっとしたら、俺が知っていた人物かもしれなかった」が、写真1枚では確かめようがない。手作りのコロッケをほめられた神奈は「昔の女性ですから、私‥‥。」と笑う。たくやは「彼女と、いったいいつまで暮らしていけるのか‥‥。」と思いながら、いまこの一瞬を一緒に生きていくと決めている。

先へ進む世界では、神奈は広大から預かっていた鍵を渡す。広大は「これを渡せば、バカならわかる」と言っていたという。父の書斎の鍵だった。神奈は、たくやが行ってしまうことを知っていた。

「いつまでも‥‥いつまでも‥‥全てが終わったら、また戻ってきて下さい。」(波多乃神奈)

たくやは「オヤジの野郎を見つけだして、神奈チャンの前に引きずり出すさ。」と言って、神奈のもとを去る。

現代編の終わり — 8つの宝玉と王の名

亜由美の消えた家で、たくやは書斎の出窓の本の中から、父の手書きの手記を見つける。父が境町で続けていた研究、リフレクターの本当の力、そして実の母・恵子のこと。手記は、8つの宝玉を探して剣ノ岬へ行けと結ばれていた。宝玉をそろえたたくやは、もう一度、夜の三角山へ向かう。地下の石室で、声がたくやに問いかける。

家には誰もいない。亜由美が戻らないまま、たくやは書斎の出窓の本の中から、父の手書きの手記を見つける。広大は師の説を否定して大学を去り、龍蔵寺に誘われて境町で「400年周期」の仮説を研究した。剣ノ岬は、龍蔵寺家のタペストリに描かれた塔が風化したもので、広大は研究助手の今川由利香と共に、境町の磁場と重力場の異常を調べていた。

手記は、たくやの実の母のことも明かす。広大は剣ノ岬の近くで、金髪で目の不自由な若い女性「ケイティア」と出会い、「恵子」と名付けて妻にした。生まれたのがたくやである。恵子は、広大が仮定した幻の民族[高ノ天原]の末裔と言える女性で、境町の地中にある《超念石》(恵子は「命の火」と呼んだ)が無ければ生きられない体だった。恵子は病死ではなかった。広大の目の前で、刃物で自ら命を絶った。最期の言葉は「私は私ではない、そして次なる私のために、私は旅立たなくてはならない」。

リフレクター・デバイスは、恵子が自分の国から持ってきたものだった。8つの超念石の結晶を動力として次元を越えるらしいが、恵子がこちらへ来たときに6つが失われ、2つしか残っていない。8つの宝玉がはまったとき、初めて機能が全開になる。手記は「8つの宝玉を探し出せ。そしてリフレクターをもって、剣ノ岬へと行くのだ」と結ばれていた。

8つの宝玉をそろえて夜の三角山へ行くと、地響きとともに岩に穴があく。地下の石室で声が「王の名を‥‥答えよ」と迫り、たくやが答えると「王の名は受理された!!!!!」と扉が開き、リフレクターが光りはじめる。そこへ、言葉のいらない世界から、父の声が語りかける。龍蔵寺は「別の何か」で、その正体を知るのはおそらく校医だけだ。神奈は特別な石が無ければ生きられない体で、父の妻と同じだった。三角山の地下には巨大な落雷発生装置があり、不当に悪さをする者に天罰を下している。

「《決して歴史を何度もやり直すのではない。積み重なるのだ。》」(父の声)

時間を戻っても、時間を戻ったという歴史が積み重なるだけで、そのすべてはブリンダーの樹木に刻まれる。父の声は「《それではな‥‥。》」と去り、たくやは「《オヤジぃぃぃぃっ!!!》」と叫ぶ。たくやは、光に包まれて気を失う。

異世界編(1)— ボーダーの家族

目を覚ますと、たくやは見知らぬ森の中にいた。リフレクターも持ち物も無い。森の先は数百メートルの断崖で、その下には雲海が広がっている。口のきけない金髪の少女セーレスと、国境の[ボーダー]を守る女騎士アイリアに出会い、たくやはこの世界で暮らしていくことになる。帰る方法は見つからないまま、年月が過ぎていく。

森の先は、数百メートルの断崖だった。下には雲海が広がっている。そこでぶつかった金髪の女性は口がきけず、うなずきと首振りだけで答える。たくやは五十音を一字ずつ当てていき、名前が「セーレス」だと突き止める。セーレスは境町も剣ノ岬も知らず、子犬のようにたくやの後をついてくる。

石造りの家で病に伏せていたのは、神帝に仕える騎士アイリアだった。ここは神帝が統べる国《デラ=グラント》。神帝のいる帝都までは、ラファエロ砂漠を越えて1週間近くかかる。森の断崖は、この国と外を分ける境界[ボーダー]で、アイリアはそこから入り込む獣を見張っていた。セーレスの服は帝都の寺院の巫女の服に似ている、とアイリアは言う。今の巫女は、神の言葉を授かるために自らの言葉を代償にしたという。

断崖の向こうから怪物が現れ、たくやは恐怖で動けない。駆けつけたアイリアが一刀で倒すが、断末魔の怪物からセーレスをかばって深手を負う。アイリアは死の前に、たくやに頼む。ちょうど4年後、神デラ=グランティアがセーレスの中に降りる。それまでの4年間、ボーダーと巫女を守ってほしい。巫女は血筋で決まり、セーレスに子供でもいないかぎり、巫女は彼女ひとりだ、と。

「騎士は資格ではないわ。そうありたいと強く想う心よ。」(アイリア)

たくやは帰る方法が分かるまでという条件で引き受ける。帰り道を必死に探したのは最初の1週間だけだった。岩を素手で殴って泣き、断崖から身を投げようと思ったこともある。そばで黙っていたのは、いつもセーレスだった。セーレスはたくやに教わって家事を覚え、たくや以上に上手になる。たくやはセーレスを妻とし、およそ1年後に娘が生まれる。名前は「ユーノ」。たくやの「You know?」にセーレスが笑ったので、それに決めた。ユーノはたくやの世界の約4倍の速さで育ち、生後3か月で歩き、2年目には8歳ほどになった。

この世界に来て4年がたとうとするころ、地震が年々強まっていた。森から現れた、コウモリのような羽を持つ女性が、トカゲのような「子供」をたくやたちに託して死ぬ。ユーノはその生き物を「クンクン」と名付けて飼う。同じころ、セーレスは戸棚から、帝都へあてたアイリアの古い手紙を見つけ、鳥に運ばせる。たくやは「任せるよ」と答えた。

手紙が届いた帝都から、白い甲冑とマスクの近衛兵がやって来る。彼らはセーレスを「ケアレス」と呼び、言葉を発し男と交わった巫女は堕落した罪人だとして、セーレスを押さえつけていた。たくやは叫ぶ。

「ここは俺んちで、セーレスは俺の妻だ!」(有馬たくや)

セーレスは初めて言葉を口にする。「楽しかった‥‥いつまでも忘れない。」「愛してる‥‥」。そして、たくやを助けるために舌を噛んで死ぬ。近衛兵は巫女を埋葬し、巫女の後継者がいればいいのだが、と話して去る。たくやは自分で墓標を立て、帝都へ行って神帝に釈明させ、セーレスに詫びさせると誓う。置いていくつもりだったユーノは「パパはユーノの命なの」と言い張り、クンクンを森へ帰して、父についていく。二人は1週間近くラファエロ砂漠を歩き、水も食料も尽きかけたところで、オアシスにたどり着く。

異世界編(2)— 帝都と神帝

砂漠の先で、たくやは帝都の真実に近づいていく。ラファエロ砂漠のオアシスで、たくやは帝都の女・サラから、帝都に広まる終末思想と、神帝の退位を求める者たちのことを聞く。さらわれたユーノ、神帝に逆らう反乱勢力の指導者アマンダ、神帝の正体、そして学長・龍蔵寺の正体が、数百年に一度の儀式に向かって集まっていく。

オアシスで出会った帝都の女・サラから、たくやは帝都の事情を聞く。神帝の退位を求める反勢力があること、儀式を行う巫女が行方知れずで、地震は何もかもが消える前触れだという終末思想が広まっていること。困ったら「アマンダ」を頼れ、とサラは言い残して去る。その翌晩、神殿に立ち寄ったたくやが外に残したユーノは、近衛兵にさらわれる。たくやは殴り倒され、採掘場へ送られる。神帝に逆らう者を閉じこめ、巫女の儀式に要る「聖なる石」を掘らせる場所で、逃げる者は塔からの稲妻に打たれて消える。そこで数か月が過ぎる。

ユーノのペットだったクンクン(ノガルドという生き物)が囚人に食べられかけ、かばったたくやは独房に入れられる。そこへ放り込まれたのが、反乱勢力の指導者アマンダだった。大地震で採掘場が崩れ、脱皮して女性の姿になったクンクンが二人を抱えて空へ逃れる。クンクンは帝都の近くで力尽き、「アナタト‥‥イッショニ‥‥ナリタイ‥‥。」と言って死ぬ。アマンダは、巫女の儀式も聖なる石も「全部ウソ」だと言う。

「400年に1回、女を1人殺すだけで、民がみな神帝に従う‥‥こんな楽な支配はないだろうよ。」(アマンダ)

たき火のそばで、たくやは4年前に辺境の騎士アイリアに救われた話をする。アマンダは「オレの姉きなんだよ、その騎士は」と言い、ただ一人の肉親の死を知って泣き崩れる。「もう、1人になりたくない‥‥!」と求めるアマンダと、たくやは結ばれ、アマンダはこのあとたくやにつき従う。帝都の近くの神殿の台座に、たくやはリフレクターを見つける。

さびれた帝都で、たくやに剣を突きつけたのは「巫女様」と呼ばれる女性だった。セーレスに似ていて、セーレスではない。城の地下に何年も吊るされていた龍蔵寺から、巫女は神を降ろすとき身体の機能をひとつ差し出すこと、前の巫女は「言葉」を、今の巫女は「心」を差し出したことを聞いて、たくやは気づく。

「ユーノだ! 巫女は、ユーノだ!!」(有馬たくや)

ユーノは数か月のうちに見違えるほど成長していた。たくやは祭壇の洗脳の仕掛けを止め、ユーノを取り戻す。ユーノは、セーレスの死を悲しまなかったのは「ママは、ユーノの心の中に入ってきたの。」だからだと話す。翌朝、廊下をひとりで来る神帝を剣で待ち伏せると、それは亜由美だった。「たくやクン‥‥久しぶりね。」

追われる二人を救ったのは絵里子だった。絵里子は別の次元から来た「次元監査官」で、追っていたのは、次元間移動装置で逃げる「龍蔵寺を名乗っているあの男」だった。デラ=グラントは約8千年ごとにほぼ同じ歴史を繰り返していて、たくやの世界と事象の木の枝が触れれば、二つの世界はともに消える、と絵里子は説明する。

亜由美は世界の成り立ちを語る。何十万年も昔、地球の先住民族は空から降る「神の涙」による滅亡を予見し、大地そのものを別の次元へ移した。それが「次元浮遊大陸」《デラ=グラント》で、設計を指揮した女性科学者グランティアの名に由来する。過酷な環境で生き残るため、すべての生命に手が加えられ、幼年期は短く、成年期は長くなった。その失敗作が捨てられた場所が[ボーダー]だった。大陸は400年に一度たくやたちの世界へ近づき、そのたびに巫女がグランティアの意識とシンクロして衝突を避けてきた。「神帝」とは、統合コンピュータ「グランドマザー」本体のことで、亜由美は帝都の行き過ぎた弾圧をゆるめるために、その名を名乗っていた。リフレクターは巫女の神器だった。

「あなたのお母さまは、《デラ=グラント》の巫女だった人よ‥‥400年前のね。」(有馬亜由美)

境町は、はるか昔にデラ=グラントが落ちた場所だった。今回の接近は避けられず、衝突を避けた代わりに、デラ=グラントは8千年前の地球へ落ちる。儀式で巫女は肉体も精神も消えてしまうかもしれない。ユーノはすべてを聞いて受け入れていた。

儀式の前夜、ユーノはたくやの部屋を訪ね、「最後に‥‥パパと一緒になりたい」と求める。ずっと自分を覚えていてほしい、そうしたら儀式をやれると思う、と。たくやは「親子なんだぞ、俺たちは!」と何度も退けるが、最後には、必ず助けに行くと約束し、ユーノにも約束をさせて、その求めに応じる。

「死にそうになったとしても、最後まで俺を待っていてくれ。」(有馬たくや)

その夜、龍蔵寺が亜由美をさらって儀式の機械室にこもる。絵里子によれば、龍蔵寺の体はあくまで擬態で、正体は次元の狭間をさまよう「思念体」だった。思念体は、何万年も次元の間を漂ううちに自分の名前すら忘れ、事象の根源に近づこうとした科学者の体に入って、この世界へ来たと語る。デラ=グラントとたくやの世界を衝突させれば、追ってくる絵里子から逃れられる。自分は世界が滅んでも思念として残る、と。思念体は助けに入ったアマンダを儀式の鍵になる人物と思い込み、「次元ホール」で強制的に転移させる。誤差は最大でおよそ50年。運が良ければたくやたちの世界へ落ちる、とだけ言う。

ユーノが駆け込み、機械が「キー」を確かめた瞬間、龍蔵寺は苦しみはじめる。別の思念が入り込み、「貴様は‥‥そうか、貴様かぁ!」と叫んだところを、絵里子が思念体専用の銃で撃ち倒す。龍蔵寺の短剣に刺されていた亜由美は、こちらへ来て5年、龍蔵寺を追い落として神帝になったいきさつを話し、「あの人が‥‥助けに来てくれたの」と言って息を引き取る。

「亜由美を‥‥1人に‥‥しないで‥‥。」(有馬亜由美)

「彼女はただ‥‥オヤジの野郎を愛していただけなんだ」とたくやは言う。儀式は止められない。ユーノは「愛してる人が信じられるから、強くなれる」「助けに来てね、きっと」と言い、たくやは絵里子の勧めで宝玉をひとつユーノに渡す。ユーノは次元の彼方へ飛ばされて消え、デラ=グラントは8千年前の地球へ落ちていく。

真の結末 — 事象のはざまへ トゥルーエンド

父の手紙に導かれて、たくやは三角山のふもとへ来る。マップは、そこに宝玉があることを示していた。物語の始まりの夜、あの金髪の女性と出会ったのも、この場所の裏手だった。海に近い茂みで待っていたのは、次元の彼方へ消えたはずの、たくやの娘だった。事象のはざまを漂う父の声が、二人にこれから始まる長い旅を語りかける。

マップでは、宝玉は三角山のふもとにあるように見えた。あの金髪の女性と出会ったのは、この裏手だった。海に近い茂みで、たくやは倒れているユーノを見つける。「パパ‥‥会いたかった。長かったよ」。ユーノは、グランティアの意識と触れ合ったと言う。

「運命は変えられない‥‥《デラ=グラント》は、8千年前のこの場所へと落ちたわ。」「だけど、いつかは断ち切れるかも知れない、運命の鎖‥‥。」(ユーノ)

ユーノは、自分は事象素子の流れに身を委ねて去らなければならない、行き先は誰にも分からない世界だと告げる。たくやはユーノを離さない。

「お前だけを‥‥この世の果てには行かせない。」(有馬たくや)

そこへ、事象のはざまを漂う父の声が語りかける。この世のすべては[ブリンダーの木]に記憶されていく。たくやはこれからユーノと事象のはざまを旅し、事象をさかのぼる。それは歴史学者を夢見た父が渇望した「正史の閲覧」だった。父は、亜由美は自分を追い求めたばかりに不幸だった、と悼む。

「親友であった龍蔵寺を手にかけ、なりすましていた、あやつは倒せたのだがな‥‥。」「亜由美は何人も存在し、そのどれもが亜由美なのだ。」(有馬広大)

父はふたたび事象の狭間を旅し、ブリンダーの木の観察者になると言って去る。真っ暗で何もない場所を漂ってきたたくやとユーノは、差しこむ光の下に、小さな木の芽を見つける。「この子に、名前をつけない?」とユーノは言う。もう名前は考えてある、と。

「そう‥‥この子の名前は‥‥‥‥。」(ユーノ)

木の芽の名前は明かされないまま、物語は終わる。

番外編「それゆけ、セーレス!」

メニューの「SPディスク」に収められた番外編。異世界に来て間もないころ、アイリアを亡くしたばかりのたくやとセーレスの数日間を描く。帰る手がかりが見つからないまま、たくやは砂漠を越えて帝都へ行こうとし、口のきけないセーレスはそれをなんとか引き止めようとする。本編の流れとは別の話で、最後は楽屋話で終わる。

アイリアの死から1週間、帰る手がかりは何も見つからない。たくやは砂漠を越えて帝都へ行くと決めるが、セーレスは引き止め、家の水タンクをわざと壊す。たくやには、ときどきセーレスの声が心に聞こえる。砂漠へ出たたくやにセーレスがついてきて、地震で水をこぼしたあと姿を消す。夢の中で父の声が「なぜ探さずにあきらめる‥‥?」と問い、セーレスの心の声を聞けと教える。心の声に導かれて、たくやは砂漠に倒れていたセーレスを見つけ、二人は結ばれる。たくやは独りではないと気づき、帝都行きをやめて、セーレスと暮らしていくと決める。

作中で明かされないこと

以下は作中で明確な答えは示されていない。

  • プロローグの夜、剣ノ岬でたくやに唇を重ねて消えた金髪の女性が誰なのか。女性は「ゆ‥‥」「あ‥‥く‥‥」と言い残す。真の結末で、たくやは「あの金髪の女性と出会ったのは」この裏手だったと思い出し、その茂みで、次元の彼方へ消えたユーノと再会する。
  • 剣ノ岬の地下の湖の上に立っていた金髪の女性と、夢に現れた、母にそっくりな女性が誰なのか。湖の女性を、たくやはプロローグの夜の女性に「似ているけど、違う」と思う。のちに異世界で初めてセーレスに会ったとき、たくやは「どこかで見たような気がするが」と思う。
  • 最後の夜、思念体に入り込んだ「別の思念」が誰なのか。思念体は「事象の波に呑まれ、死んだとばかり」と言い、亜由美は「あの人が‥‥助けに来てくれたの」と言う。真の結末で、父は「あやつは倒せたのだがな‥‥」と言う。
  • 神奈の母と父が誰なのか。龍蔵寺はアマンダを、50年ほどの誤差でたくやたちの世界へ送ったと言い、神奈の写真の母は鉄のような腕輪をしている。神奈の母はアマンダ、父はたくやだと読めるが、はっきりとは言われない(神奈の章)。
  • 広大と一緒に神奈の暮らしを支えた「上品で物静かな女性」が誰なのか。神奈と同じ個性を持つという。神奈によれば、たくやの母も同じ個性を持っていたが、神奈がたくやの母と話したのは1度だけだった。
  • 真の結末で、たくやとユーノが見つけた木の芽の名前。

エンディング一覧

種別 エンド名 章 結末概要
TRUE 真の結末 異世界編 三角山のふもとでユーノと再会し、ともに事象のはざまへ旅立つ。父は観察者となる。木の芽の名前は明かされない
NORMAL 亜由美END 亜由美の章 数年後、別の土地で亜由美と暮らす。亜由美は新しい会社で働き、たくやは歴史学者を目指して勉強している
NORMAL 澪END 澪の章 三角山が潰れた数年後、博士課程の澪と、その助手のたくやが一緒に暮らし、三角山の秘密を追う
NORMAL 神奈END 神奈の章 数年後、たくやは神奈のマンションから大学へ通い、OLとして働く神奈と暮らす。いつまで一緒にいられるかは分からない
BAD 浴室 亜由美の章 止めるのが間に合わず、亜由美が服を着たまま赤い湯の中で死んでいる
BAD 龍蔵寺の屋敷(暗示) 亜由美の章 剣ノ岬の夜に龍蔵寺の暗示にかかり、屋敷の台に縛られて弛緩剤を打たれる
BAD 龍蔵寺の屋敷(弛緩剤) 美月の章 土蔵で殴り倒され、屋敷の台に縛られる。催眠下の美月が注射を手にする
BAD 雨の林 神奈の章 ネックレスの石が噴水で溶け、《超念石》が無ければ、神奈は「少し、眠っていいですか。」と言って息を引き取る