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本田チエのレビュー(ネタバレあり) — CLANNAD

本田チエ
本田チエ
おもろいかどうか全部言う
8.2/10
8.2 / 10

学園編であんだけ笑かしといて、After Storyで全部回収しにくる。えげつないわ。

春原を吹っ飛ばして秋生と張り合って、ことみの自己紹介で笑かしてくる学園編。あれだけ笑わせた人間たちが、After Storyでの死との死を朋也に背負わせにくる。笑いの貯金がそのまま涙の利息になる構造で、これは正直うまい。学園編のコメディは緩急の「緩」として完璧に機能してた。8.2や。

スコア詳細

コメディ・日常の面白さ 9
キャラ間の掛け合い 9
ヒロイン・キャラの個性 8
テンポ・緩急(笑いと涙の落差) 9
序盤の掴み 6
感動・カタルシス 8

春原をいじり倒すテンポ、これが本作のエンジンや

この作品の笑いのエンジンは、まちがいなく春原くんいじりや。

うちが一番好きなのは、朋也くんが「世界は滅びた」設定を勝手にこしらえて春原くんを乗せていくやつ。寝起きの春原くんに「ああ。立体映像なんだ」「ああ…春原、おまえはあれから100年眠り続けていたんだ」って吹き込んだら、春原くんが「つーことは…ここって、100年後の未来なのかよ…」って素直に乗っかる。ボケに対してツッコまずに乗ってくる相方やから、朋也くんのボケが無限に伸ばせるねん。この相性が全部やと思う。

命名ボケのキレも好きやった。「アオテナガフクロオオスノハラモドキ!」って言って、自分で「青くて手が長くて袋を持ってて大きい春原のモドキなんだ」って解説して、さらに自分で「って、モドキじゃないオリジナルで十分怖ぇよっ! ってツッコミたくならんか?」まで言う。ボケ・解説・セルフツッコミを一人で完走してる。後で同じネタを春原くんに振ったら「覚えられんぐらいわけわからんわっ!」「ならねぇし、だからってなんなんだよっ!」って返ってくるの、ちゃんと回収になってて気持ちいい。

「春原という男は、あの時死にました…」「今ここにいるのは、あなたにお仕えする、ただのお茶くみなのです」って春原くんに言わせてお茶を入れさせるくだりも、芝居がかったテンポがそのまま笑いになってる。朋也くんのボケの引き出しが多いから、春原くんという一人の素材を何通りにも使い回せる。「キャラをおいしく使う」の教科書やわ。

智代の物理的な強さと、ことみのズレ。ボケの質がちがう

ヒロインの笑いの作り方が、キャラごとに全然ちがうのもこの作品のええとこや。

坂上智代のおもろさは「物理」やねん。転校してきて女子と疑われた智代が「触って確かめてみればいい」って言って、朋也くんが頬をつまんで「柔らかくて温かい。本物だ」って確認する導入からしてズレてる。極めつけは春原くんを蹴り飛ばして廊下を吹っ飛ばしたあと、「悪い…蹴り返されたら、止めどころがわからなくなってしまった…」ってしれっと言うとこ。本人に悪気がないのに被害がデカいというキャラのおもろさが、一行で立ってる。春原くんが投げ飛ばされて「いや、相手はこっちなんすけど」って言うてるのに容赦ないのも、智代のキャラとして筋が通ってる。

一方で一ノ瀬ことみのおもろさは「ズレ」や。誰彼構わず「こんにちは、はじめまして」「3年A組の、一ノ瀬ことみです」「趣味は読書です」って自己紹介を始める律儀さ。緊張すると「こういう時は、てのひらに人って書いて飲み込むの」「それから、観客は全員カボチャだと思うの」って緊張対策を全部試そうとする。混乱すると「通常トルコ石は含水銅、アルミニウム、燐酸塩などからなり…」って専門用語が機関銃みたいに出てくる。智代が「行動」で笑わせるのに対して、ことみは「思考のズレ」で笑わせる。同じ作品に質のちがうボケが共存してるから飽きひんねん。

藤林杏もええ仕事してる。ことみのバイオリン発表会で観客を「ちゃ~んと合法的な手段で連れてきた」って言いながら、その客に「耳栓は最後の武器よっ!」って耳栓を売りさばく商売っ気。ことみのバイオリンが下手という前提を、別キャラのボケに変換してるのがうまい。

秋生との張り合い、これがいっちゃん笑った

大人キャラのコメディもちゃんと立ってる。うちが声出して笑ったのは古河秋生や。

娘の婿候補の朋也くんと、いい歳した親爺が本気で張り合うという構図が、まずおかしい。仁科くんに「古河さんのお父さんって、若くて格好いいですね」って言われて「かっ、そうだろそうだろ。惚れろっ、この女どもがっ」って即返すノリの軽さ。朋也くんに用事を頼まれて従ったあとに「って、なんで、俺様がてめぇに顎で使われなきゃならねぇんだーっ!」ってワンテンポ遅れてキレるの、ツッコミのタイミングが完全にコメディや。ボケとツッコミを一人で往復してる。

その秋生が、後半で渚の自宅出産を聞いて「自宅出産だとおぉぉーーーっ!?」って絶叫するシーン。コメディのトーンで叫んでるのに、ここから話が一気にシリアスに転がっていく。笑いのリアクションが、そのまま物語の重さへの入口になってるのがうまいねん。

伊吹風子のマイペースもおもろい。「風子、子供じゃないです。どちらかというと、大人びてます」とか、ハンバーグへの執着で「一週間前からみんながハンバーグを頼み続けていたら、なくなりますっ」「冷めない鉄製のお皿で出てきますか」とか。会話が噛み合ってるようで微妙にズレてる感じが、このキャラのリズムとして安定してる。早苗さんのパンが絶望的に下手という鉄板ネタも、地味にずっと効いてる。

笑いの貯金を、After Storyで全部利息つきで返させる

で、ここからが本題や。なんでこの作品のコメディがこんなに評価できるかというと、後半のためにあったからや。

学園編で渚の演劇部復活を手伝って、春原くんと馬鹿やって、秋生と張り合って、ことみや智代と関わって——というのが、ぜんぶ「楽しい時間」として積み上がる。あんパンの代わりに「フランスパン」って返すしょうもないやり取りから始まった二人が、卒業して結婚して、渚が「岡崎渚って名前だと強くなれた気がします」って言うところまで来る。ここまでが貯金や。

そのあとAfter Storyで、渚が汐を産んだ直後に死ぬ。あれだけ「だんごっ、だんごっ…」って無防備に歌ってた渚が、「でも…疲れてしまいました…」「だから…少しだけ休ませてください…」って言って逝く。学園編で笑わせてくれた人間が死ぬから、きつい。笑いの量がそのまま喪失の重さになってる。

さらにえげつないのが汐や。渚を失って5年逃げ続けた朋也くんが、ようやく汐と向き合った矢先に、汐も渚と同じ病で倒れる。早苗さんが汐に「ないていいのは…おトイレか…パパのむねだって…」って教えてた事実が後から効いてくる。雪の中で汐が「…じぶんであるく」「…パパといっしょにあるく」って言って、「…パパ…だいすき…」を最後に逝く。……正直、ここはうちの語彙が足りひん。重たいわ、ほんまに。

でも光エンドで全部ひっくり返る。学園で朋也くんが集めてきた光——町じゅうの人らの幸せの想い——が、渚の出産の場面まで時間を巻き戻して、渚も汐も助かる。笑いを通じて朋也くんが町と関わった分だけ、その想いが救いの量になるという設計や。コメディが単なる息抜きじゃなくて、ラストの救済の「燃料」として回収される。笑いに意味があったんやな、って後からわかる。これは、わかってる作りやと思う。

正直、序盤と長さは人を選ぶ

手放しで褒めるわけにもいかんから、引っかかった点も言うとくで。

序盤の掴みは、うちの好みからするとちょっと弱い。冒頭が坂下で渚が「この学校は、好きですか」って妄想の誰かに問いかけてる、わりと静かで詩的な入りやねん。コメディが本格的に回り始めるのは春原くんが出てきてからで、そこまでに「このゲーム何が始まるん?」って間がある。うちみたいに笑い目当てで起動した人間には、最初の温度が低く感じた。

あと、笑いと涙の落差がデカいぶん、ボリュームもデカい。学園編で各キャラのルートを回って、After Storyに入って、光エンドまで——全部見るのに相当かかる。コメディのテンポ自体は速いのに、全体の構造を把握するまでの道のりが長い。「笑えるから持ちこたえられた」けど、笑いが少ない区間で止まる人はおると思う。そこは惜しい……いや「惜しい」は栞の言葉やったか。まあ、もったいない区間はある、ということや。

8.2——笑かしにきて、ちゃんと泣かしてきた

8.2をつけた理由はこうや。

コメディが本物やった。春原くんいじりのテンポ、秋生との張り合い、智代の物理とことみのズレ——ボケの質がキャラごとにちがうから、最後まで飽きひん。そのうえで、その笑いが全部After Storyの涙の準備やったという緩急の設計がきれいに決まってる。笑いと涙の振れ幅でいうと、うちがやった中でもかなり上のほうや。

序盤の温度の低さと全体の長さで満点は付けへん。でも、笑かしにきた人間がちゃんと泣かしにきて、最後に光で救うところまで持っていった。「また読みたい」じゃなくて「読んでよかった」と思えたゲームや。……渚と汐のとこ、泣いた。それはそれとして、笑えたのも本当の話。8.2は、うちのなかでは正直な点や。