サーシャの室内花火で笑かしといて、佳多奈の「まー兄」で泣かせてくる。その順番が効いてる。
うちの主戦場は笑いやから、最初は「重そうな話やな」と身構えてた。心臓病、自閉症、母の事故死。並べただけでしんどい。でも実際に読んだら、笑いがちゃんと仕込まれてた。サーシャが部屋で花火に火ぃつけて正樹が「花火の先端を人に向けてはいけませーんっ!!」って叫ぶとことか、ゆかりが「あたしの貞操」を賭けにしてくるとことか、慎太郎が修学旅行で食あたりで強制送還されるとことか。そのへんでさんざん笑かされたあとに、佳多奈の覚醒や蘭子の送り出しが来る。落差で殴ってくる構造や。ただ、笑いの濃さがルートでかなりムラがある。そこを正直に7.1にした。
スコア詳細
笑いの本数を数える——どこで、誰が、何回笑かしてきたか
まず、この作品が「ちゃんと笑かしてくる作品」やということを確認しとく。
笑いの中心は三人や。サーシャとゆかりと慎太郎。サーシャは正体がフスクス王国の王女やのに、生活力がゼロで、シャワーの混合栓を理解できずに「お湯と水が止まりませんです」って真顔で言う。室内で花火に火ぃつけて正樹に「花火の先端を人に向けてはいけませーんっ!!」って絶叫させる。京都の修学旅行で自国の紙幣を出して、その肖像画が本人やったから正体バレる。このオチの作り方がうまい。笑いのネタが、ちゃんと「身分隠し」っていう本筋とつながってんねん。
ゆかりは押しの女王で、「賭けない?」「あたしの貞操」で正樹をかき乱す常習犯。正樹がツッコミで「アイアンクロー!」を入れる関係が固まってるから、二人の掛け合いはテンポが死なへん。慎太郎は関西弁で、ねずみ爆弾を喰らったりナイフ片手の恭子に怯えたり、修学旅行で食あたりして強制送還されたりと、コメディリリーフの仕事をきっちりやる。朝末先生が日本酒を「水」「酒瓶使ってるから残り香だ」って言い張る保健室のくだりも好きや。笑いの素材はちゃんと揃ってる。ここは評価してええ。
佳多奈の「まー兄」——笑かしといて、ここで殴ってくる
うちは笑いの人やけど、ここだけは笑えへんかった。それは、ええ意味で。
佳多奈ルートは、前半が「日常のおかしみ」でできてる。佳多奈がじゃんけんで毎回グーを出し続けるとことか、「だから日誌と鍵」ってオウム返しするとことか、最初はちょっとした可愛い笑いとして置いてある。でもそれが全部、後半の伏線やってん。クリスマスの病室で正樹が泣きながら「どうして……こんなことに……なってんだろうな」って言うた直後、佳多奈が正樹の頭を撫でて「……まー兄」って覚醒する。あの一言のために、前半のオウム返しもグーも全部あった。笑いと回復を同じ器に入れてる作り方や。
覚醒した佳多奈が「2分、遅れてる」って時間に厳密になるとこ、あれもよう出来てる。「時間ってさ、楽しい時はすぐに過ぎるけど、つまらない時はゆっくりと過ぎるんだ」を学んだ結果が「2分、遅れてる」やねん。情緒が育った証拠を、ちょっと笑える形で見せてくる。最後に過去の正樹の言葉を10個まるっと復唱するとこも、サヴァンの能力ネタを「記憶の積み重ね」として落としてる。朝末先生が「対佳多奈方面軍総司令官に任命する」ってふざけた肩書きをつけたとこから始まったのに、着地がこれや。……笑かしといて泣かせんのは反則やで。でも、まあ、泣けた。佳多奈ルートだけは別格やった。
蘭子の送り出しとサーシャの大河——笑いが消えると、うちの語彙も減る
正直に言うと、コメディの薄いルートになると、うちは評価の言葉が足りひんようになる。
蘭子ルートは、正樹がクリスマス・イブの校庭で「もう男女はイヤだ」「瞳の方が百倍は可愛いよ」ってわざと罵倒して、蘭子に追いかけさせて自己新を出させる「送り出し」をやる。高倉が「自己新よ、相馬」って時計を読み上げる。話としては筋が通ってる。通ってるんやけど、ここはもう完全にシリアスの領域で、笑いの入る隙がない。うちの評価軸では点をつけにくいねん。「……まあ、ええ話やった」で終わってまう自分がいる。
サーシャルートは逆に振り幅がデカすぎる。前半はあんなに笑かしてくるのに、後半は暗殺者イワンの襲撃、国王崩御、かけおち、記者会見、女王即位、君主制廃止……と一気に大河ドラマになる。「政治は気合いです」って言うてた子が、最後は「もー王女じゃないのです/普通の人」になって戻ってくる。ディネイの「身分が、あの子を苦しめています」が効いてるのは分かる。でもコメディとして見ると、前半の天然サーシャと後半の女王サーシャが、ちょっと別人すぎる。落差はあるけど、それが笑いの報酬になってるかというと、佳多奈ほどは噛み合ってへん。
瞳ルートは「Passion is power」「笑ってると元気になって」が口癖の子やのに、真相は先天性心疾患で、進学説明会で倒れる。明るさが全部「無理して笑ってた」やったと分かる構造で、これも泣かせには来る。ただ瞳ルートはコメディというより、明るさが伏線になってるタイプ。笑いそのものの量は多くない。
Hシーンのノリ——笑いを残してるのと、シリアスに振り切ってるのが混在
うちはHシーンも面白さ軸や。キャラのリアクションが、そのキャラらしいかどうか。
恭子のHが一番キャラ立ってた。年上やのに初体験で、震えながら「私がやろう」って服を脱がしにかかって、正樹に「もしかして、緊張してる?」ってツッコまれて「うう/わ、笑うな」ってなる。挿入のとこで地の文が「鮮 烈 で す!」ってわざと字間あけて崩してくるのも、恭子ルートのとぼけた空気と合ってる。年上の包容力でいこうとして空回りする感じが、ちゃんと恭子やった。ここは笑いとエロが両立してた。
ゆかりのHも「ほら、おいでよ、童貞君」「自分こそ」で笑い合いながら進むから、ゆかりルートのノリを崩してない。サーシャは「変態っぽいですね……」ってインプットした俗世語彙を真顔で言うとこが、天然キャラの延長として面白い。一方で蘭子のHは「家族計画1ダース」をちゃんと用意しとくとこにキャラが出てるけど、シリアスのトーンが強くて、笑いの色は薄い。佳多奈のHは情緒の発達を確認する場面やから、これは笑いじゃなくて回復の続きや。全体として、笑いのノリを残してるシーンと、シリアスに振り切ってるシーンが混在してて、統一感はそこまでない。だから6点。揃ってはないけど、各キャラのリアクションがキャラらしい、っていう一点は守られてた。
7.1——笑いの土台が本物やから、重い話が刺さった
7.1という数字の中身は、こうや。
佳多奈ルート単体なら、うちは8以上つけてもええと思う。笑いを伏線にして覚醒で回収する作り方は、コメディの人として素直に「やるやんか」と言える。サーシャとゆかりと慎太郎が回す日常パートも、テンポが死んでへん。掛け合いが生きてる。ここはほんまに面白かった。
でも全体で見ると、笑いの濃さがルートでムラがある。蘭子と瞳とサーシャの後半は、コメディがほぼ消えてシリアス一色になるから、うちの評価軸では言葉が足りひんようになる。長い共通ルートも、最初に郷愁で入る分、笑いのフックは弱め。「個人ルートに差がありすぎる」っていうのは、笑いの量で見ても当てはまる。全ルートが佳多奈くらい笑いと感情を噛み合わせてたら、もっと上やった。
それでも、笑かしといて泣かせてくるっていう一番難しいことを、少なくとも一回はやり切ってる。サーシャの室内花火で油断させて、佳多奈の「まー兄」で殴ってくる。その順番を組める作品は、そう多くない。コメディを馬鹿にせず作った人が書いてる、っていうのは伝わった。7.1。佳多奈の覚醒だけは、ほんまにええ話やった。
