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柊美香のレビュー — 遺作(ネタバレあり)

柊美香
柊美香
鬼畜・ダーク系の辛口
8.2/10
8.2 / 10

主人公を加害者にしなかった。それが、この作品の覚悟ですわ。

鬼畜ものでありながら、主人公・小暮健太は一度も加害者になりませんの。連れ去り、凌辱、放火——その全てを、健太は鍵を探しながら傍観し、目撃し、救出する側に置かれていますわ。この構えに最初は手抜きを疑いましたけれど、最後まで付き合って考えが変わりました。加害は用務員・伊頭遺作にすべて背負わせ、遺作の被害妄想と私怨を序盤から一貫して積み上げる。閉じ込めの密室トリックは推理で論理的に解かれ、結末は焼死バッドにもループ示唆にも逃げない。ネタバレ込みで、遺作の動機と健太の傍観という二つの軸から、この作品の覚悟を語りたい。

スコア詳細

主人公の造形 8
加害側の動機 9
設定の整合性 9
結末の誠実さ 8
鬼畜描写の覚悟 7
凌辱と物語の接続 8

主人公を加害者にしない——傍観者という立ち位置の覚悟

鬼畜ものの主人公が、一度も人を犯さない。これは逃げのようで、逃げではございませんの。

主人公の小暮健太は、桜蘭学園の旧校舎に閉じ込められた高校生ですわ。楽天的で推理小説好きの少年が、鍵とアイテムを集めて施錠された各階を解き、脱出路を探していく。その間、用務員の伊頭遺作が仲間を一人ずつ連れ去って凌辱していくのですけれど、健太がその現場に手を下すことは一度もございませんの。凌辱の大半は、遺作が撮った8ミリビデオを健太が視聴覚室で再生して目撃する、という間接の形で提示されますわ。

普通、鬼畜ゲームは主人公の手を汚させて、プレイヤーに加害の快楽を肩代わりさせるものですわね。それをこの作品はしませんの。最初はそこに甘えを疑いましたわ。加害から逃げて、傍観者という安全地帯に主人公を置いたのではないか、と。けれど最後まで付き合って、考えを改めましたわ。健太の倫理は一貫しているのですわ。陵辱の証拠ビデオを「見なかった事にする」と抱え込み、生還エンドでは美由紀の制止を振り切ってまで「悪いけど、これだけは美由紀の言う通りにできない」とテープを焼却する。仲間の名誉を守るために証拠を消す。この一貫した倫理があるからこそ、健太は傍観者でいられるのですわ。加害者の物語ではなく、加害を見てしまった者の物語。その軸を最後までぶらさなかった点は、見事ですわ。

ただ、その代償もございますの。健太が能動的に物語を動かす局面は、推理と鍵探しに偏りますわ。物語を駆動する欲望と意志は、健太ではなく遺作の側に乗っている。主人公の造形を8点に留めたのは、傍観者という立場の宿命として、物語を引っ張る力がどうしても加害側に渡ってしまうからですの。

加害は遺作にすべて背負わせる——動機が序盤から一貫している

この作品の覚悟は、加害者・遺作の造形に最も濃く出ておりますわ。

鬼畜ものでわたくしが最初に見るのは、加害側がなぜ加害するのか、その動機が物語全体を通じて成立しているか、という一点ですの。遺作は、約20年前まで小学校教師でしたが問題を起こしてクビになり、いまは用務員として女子生徒に侮蔑されながら校舎を掃除している男ですわ。「いつも自分が被害者だ」という被害妄想と、見下されてきたことへの私怨と、性欲。この三つが、彼の加害の動機として序盤から一貫して敷かれておりますの。

感心したのは、遺作が「なぜ捕まらないか」まで論理で支えられている点ですわ。彼は理事長が学校の金を使い込んでいる不正を握っていて、「俺が捕まれば、理事長もおしまいだからねぇ」と平然と言い放つ。常習の性犯罪者が用務員として学園に居座り続けられる理由を、ご都合主義で済ませず、理事長との弱みの握り合いという関係で説明してありますの。加害者を「ただの異常者」で片付けず、彼が存在できる土台まで描いた。ここに覚悟がございますわね。

遺作の嗜虐も一貫しておりますわ。気丈な明美が「早くロープを解きなさいよ!!」と強気を崩さないのを、「くっくっく、この威勢がいつまで続くかねぇ」と嘲笑い、屈服する瞬間を待つ。泣き虫の里香には「ほーら、こっちを見て笑ってごらん」と笑顔を強要する。相手の性格に応じて加害の角度を変えてくる。記号的な暴力ではなく、被害妄想に駆動された一人の男の執着として書かれておりますわ。加害側の動機を9点に置いたのは、この一貫性への評価ですの。

密室トリックと真相——整合性で逃げていない

鬼畜の皮をかぶった、骨格のしっかりした脱出ミステリーですわ。

この作品が単なる凌辱絵巻に堕ちていないのは、整合性に逃げていないからですの。9人が音楽室に集められ、チャイムが鳴って施錠される。その密室の成立を、美由紀が論理で解いていきますわ。音楽室は最初は施錠されておらず、最後に入室した陣八がチャイムを合図に扉を開け、遺作が閉めた。「いいえ、鍵を開けたのが陣八君よ」という美由紀の推理で、親友の陣八が共犯だったという真相が引き出される。黒板の数字も《怨》の字も陣八の仕業だと、手がかりから論理的に積み上げてある。

陣八の共犯の経緯も筋が通っておりますわ。理事長室の盗聴器を外しに行ったところを遺作に同類と見抜かれ、不正を知ってしまった弱みで脅迫される。さらに1年前、遺作に命じられて自分の交際相手、それが美由紀の妹だったのですけれど、彼女を呼び出し、もみ合いの末に彼女が気絶したのを「死んだ」と思い込まされる。以来、殺人の罪を着せられた人質として共犯を続けていた。陣八が真犯人ではなく、実際に妹を殺したのは遺作自身だった、という二段構えの真相が、「あんたの脅迫状に書かれていた通り、妹を殺したのは俺さ」「あの馬鹿、気絶してるお前の妹を死んだと思い込んだみたいだぜ」という時計台の暴露で明かされますの。共犯者の動機にも、被害者の遺族の動機にも、きちんと一年前の事件という土台が敷かれている。整合性を9点に置いたのは、この骨格の確かさへの評価ですわ。

惜しいのは、事件の発端ですわね。すべての引き金が、里香が美由紀に馬鹿にされた腹いせに美由紀の名を騙って遺作へ手紙を出したこと、という幼い嫉妬に置かれておりますの。「わ、私が遺作さんに手紙を出したの」という告白は、これだけの惨劇の起点としては、もう少し重さが欲しゅうございましたわ。とはいえ、運命に翻弄される人形、というプロローグのテーマからすれば、ささいな悪意が大事を引き起こすという筋は通っておりますの。

間接描写は逃げか——鬼畜描写の覚悟を測る

ここが、わたくしがこの作品に7点しか付けられなかった部分ですの。

本作の凌辱は、性交の逐語描写をほとんど見せませんわ。提示の形は三つ。机に拘束された高島先生を健太が発見する場面、遺作が撮ったビデオの断片セリフ、そして時計台で全員が裸のまま縛られている姿の発見。行為そのものは画面の外に置かれ、「縛られた裸体」「ビデオの嘲笑と命乞い」「事後の放心」で凌辱を示唆する。ホラーとサスペンスの呼吸で鬼畜を包んでおりますの。

これを「逃げ」と取るかどうか、迷いましたわ。鬼畜の核心を直接書かず、暗示で済ませている、と読むこともできますから。けれど、わたくしはそうは取りませんわ。むしろこの間接手法は、別の場所で覚悟を見せておりますの。被害者たちの「事後」を、この作品は逃げずに書いておりますわ。時計台で縛めを解かれても、彼女たちは「蝋人形のように」「機械仕掛けの人形のように」無反応に服を着て、「家に……帰る」とだけ繰り返す。美緒は落としたピアスを返されても、ロボットのように着け直す。琴未は下着が見えることも気にせぬほど放心している。凌辱の快楽ではなく、凌辱が人間を壊した後の空白を描いている。ここから逃げない作品は、そう多くございませんわ。

それでも7点に留めたのは、暗示と直接描写の比重として、鬼畜そのものの密度がやや薄まるからですの。事後の精神破壊には覚悟がございますけれど、加害の只中の描写を画面外に置いた分、鬼畜の質という一点では惜しゅうございますわ。覚悟の置きどころが、加害ではなく余韻にある作品、という評価ですの。

逆説の構造と結末——ハッピーで丸めなかった

謎を解くほど凌辱が減る。この逆説は、覚悟の問題ですわ。

この作品には、ひとつ意地の悪い仕掛けがございますの。健太が謎を解いてヒロインを守れると、その人物の凌辱ビデオは見られない。逆に守れないと、陵辱の映像が解放される。つまり、上手にプレイするほどHシーンが減りますの。鬼畜ゲームでありながら、鬼畜を回避するほどゲームとしては正解、という逆説ですわ。これを「凌辱と物語の接続」として8点に置きました。Hシーンが物語の進行と切り離されたご褒美ではなく、脱出という骨格に編み込まれている。守れなかった代償としてしか凌辱が立ち現れない構造は、加害を消費の対象に貶めていない、という意味で誠実ですの。

結末も、ハッピーで丸めておりませんわ。脱出に失敗すれば明美が炎に包まれて焼死する。健太自身も焼かれる。バッドエンドの逃げ場を、この作品はきちんと用意してありますの。生還エンドでも、被害者たちが負った傷は消えませんわ。後日談のひとつ——半年後ではなく2学期の喪失エンドでは、高島先生も里香も美緒も次々に学園を去り、健太と美由紀だけが残される。そして健太の机に、再び差出人不明の手紙が置かれる。事件は終わっても、運命の扉はまた開く、というループの示唆で幕を引く。冒頭の「誰も定められた運命から逃れる事はできない」という一文に、最後まで律儀に殉じておりますの。

救いも、ないわけではございませんわ。男性不信だった美由紀が「健太君は違うわ。……男の人なんて、みんな変な事しか考えてないと思っていたから」と心を開く結末や、密かに想い合っていた琴未との後日談もございますの。けれど、それらの恋愛成就を「だから全部良かった」という免罪符にはしておりませんわ。傷を負った被害者が去っていく喪失と、恋愛が成就する救いを、別々のエンドとして並べる。どちらかでごまかさない。結末の誠実さを8点に置いたのは、この振れ幅を逃げずに全部出した姿勢への評価ですの。

8.2——覚悟はあった。置きどころが少し変わっているだけ

最終評価を申し上げますわ。

8.2という点数の内訳は、加害者・遺作の動機の一貫性と密室ミステリーの整合性が9点相当、主人公の傍観という立ち位置と結末の誠実さと逆説の構造が8点相当、加害の只中を画面外に置いた鬼畜描写の比重が7点相当、その平均ですわ。鬼畜ものとしては珍しく、主人公に一度も手を汚させず、加害のすべてを一人の男に背負わせ、その男の動機を最後まで一貫させた。そして被害者が壊れた後の空白から逃げなかった。覚悟がございましたわね。

この作品の覚悟は、加害の生々しさにではなく、加害が遺した余韻と、運命のループという冷たい結末に置かれておりますの。直接的な鬼畜の密度を期待すると、間接描写に物足りなさを覚えるかもしれませんわ。けれど、人形のように服を着て「家に帰る」と繰り返す被害者の姿と、再び机に置かれる手紙——あの二つを書ける作品が、逃げているはずがございませんの。8.2。後の鬼畜ものがどれだけ加害を直接描いても、ここまで「事後」を見つめた作品は少のうございますわ。