アライグマのレビュー — 加奈〜いもうと〜

アライグマ
アライグマ
縄張り評価型レビュワー
7.0/10
7.0 / 10

この個体は冬を越せるか。それだけを問い続けた。

病を抱えた妹と、まだ縄張りの定まらない兄。オレが見ていたのは恋愛劇ではなく、二匹の個体が同じ巣穴でどう冬を越すかという話だ。加奈という個体は弱い体に強い芯を持っている。隆道という個体はまだ若く、群れの中で自分の位置を測りかねている。それでも傍を離れない選択をする。その匂いは悪くない。ただ、感情で動く回数が多すぎて、生存戦略としては危うい場面もある。冬越しできるかどうかは、読み手のいる場所によって答えが変わる作品だ。

スコア詳細

主人公の造形 7
キャラ間の関係性 7.5
エンディングの満足度 7
シナリオ構成 7
ヒロインの魅力 7.5
感動・カタルシス 6

このゲームを一言で

1999年、D.O.から放たれた18禁ADV。書き手は田中ロミオ(当時の名義は山田一)。慢性糸球体腎炎で入退院を繰り返す妹・加奈と、その兄・隆道の物語。エロゲーという形を取りながら、実体は「弱い個体が群れの中でどう生きるか」を観察し続ける一本だ。発売から長い年月が経っても語られ続けているのは、ただの泣きゲーとして消費されなかった証拠だと思う。ErogameScapeで中央値82、1140票。数字としても評価は固まっている個体だ。

加奈という個体について

加奈という個体を最初に観察したとき、オレは驚いた。体は弱い。入退院を繰り返している。それなのに匂いが死んでいない。哲学書を読み、聖書の一節を引用し、日記を書き続ける。「生きたい」と何度も口にする。これは弱った個体の言葉じゃない。むしろ縄張りを持たない人間より、ずっと自分の生存に対して真剣だ。

「もしわたしが死んだら、雪を降らせてみようかな」と加奈は言う。死を意識しながら、それを抒情に変えて他者に贈る。これは群れの中で自分の存在の意味を残そうとしている個体の振る舞いだ。爪を研ぐように、言葉を磨いて毎日を編んでいる。冬越しの強さを持っている、と認める。

後半に出てくる「今日、海を見た。もう恐くない。」という日記の一節。オレは長く立ち止まった。恐くないと書ける個体は、何かを越えた個体だ。何を越えたかは、プレイヤーの読み方で変わる。だがこの一行は本物だと思う。

隆道という個体について

隆道は大学1年。まだ縄張りも確立していない若い個体だ。職もない。経済的にも自立していない。妹を守る側に立つには、客観的に見て力が足りない。それは作品の中でも何度も突きつけられる。

それでもこの個体は加奈の傍を離れない選択をする。家族としての義務ではなく、自分の意思で巣穴の側に残る。オレが評価したのはここだ。本能で動くアライグマでさえ、弱った仲間の側に残るかどうかは個体差がある。隆道は残った。揺れながら、何度も逃げ出しそうになりながら、それでも戻ってきた。

ただ、感情で動く回数が多すぎるとも思った。「生存戦略として非効率」だと書いておく。後悔の言葉が多い。先回りして手を打つ判断より、起きてしまった出来事に揺さぶられる場面が目立つ。若い個体なのだから当然だが、観察者としては「もう一手早く動けたな」と思う場面が複数あった。それでも逃げなかった事実は重い。冬越しを共にする覚悟の芽が、ちゃんとそこにある。

兄妹という距離の取り方

兄妹もので18禁。そう聞いたとき、警戒する人間は多いと思う。オレも最初は身構えた。だがこの作品の距離の取り方は、ただの記号消費ではなかった。加奈は兄に甘えるだけの個体ではない。隆道に「愛しています」と告げる場面の重さは、兄妹という枠を超えて、一個体から一個体への意思表示として置かれている。

そして同じ巣穴で暮らしてきた時間の積み重ねが、画面の外側にちゃんと感じられる。けんかも、看病も、無言の食卓も、全部が今の距離を作っている。記号としての「妹」ではなく、長く一緒に冬を越してきた個体としての加奈がそこにいる。だから関係性の点数は他より少し高く付けた。

夕美という外部の個体

幼なじみの夕美は、群れの外側から関わってくる個体だ。青心女子大に通っている。本来なら兄妹の巣穴に関係のない場所にいる存在だが、ちゃんと意味のある関わり方をしてくる。彼女がいないと隆道は息ができなかった場面が確かにある。

外部の個体が群れを支えるという構図は、生き物の世界でも珍しくない。血のつながりとは別の場所から、弱った巣穴に温度を運んでくる役割。夕美はその機能を果たしている。彼女の扱いについてはネタバレ版で詳しく触れるが、非ネタバレで言える範囲だと、この個体の存在が物語の重さを一方向に振り切らせない働きをしている、とだけ書いておく。

複数エンディングと「描かれないその後」

この作品は複数のエンディングを持っている。具体的な分岐内容は伏せるが、「冬を越せるか」という問いに対して、答えがひとつに統一されていない。オレはこの設計を悪くないと思った。野生の個体だって、同じ条件で冬を迎えても越せる個体と越せない個体がいる。物語が複数の答えを置いてくれたことで、観察者であるプレイヤーが自分の手で結論を引き寄せられる。

そして本作の最大の魅力は、エンディング後の生活が画面に映らないところだ。あの後この個体はどう生きたのか。何月まで持ったのか。誰がその巣穴に出入りしていたのか。全部、観察者の側で考えるしかない。オレはエンドを見終わった後、しばらくその「描かれないその後」を考えていた。考えさせる余地があるという一点で、シナリオ構成の点数は7に置いた。

ただし感動・カタルシスの項目は6に下げた。理由は単純で、泣かせ方として直球すぎる瞬間がある。爪を研ぎ澄まして突いてくるのではなく、正面から振りかぶってくる場面が複数ある。そこは好みの問題で、オレの基準だと「もう少し抑えてくれた方が個体としての強さが出る」と思った。

この個体は冬を越せるか

最後はオレの基準での総括だ。アライグマが一本の作品に問うのはいつも同じだ。「この個体は冬を越せるか」。加奈という個体は弱い体を持ちながら芯が強い。隆道という個体は若く、縄張りも未確立だが、逃げない覚悟を見せた。夕美という外部の個体が群れに温度を運んでいる。条件は揃っている。あとはプレイするあなたが、どのエンディングで巣穴の扉を閉めるかだ。

26年前の作品だ。今の感覚で見れば古い言い回しもある。だが、個体としての加奈の匂いは古びていない。本物の生き物として記憶に残る。だからオレは7.0を付けた。冬を越せる個体に出会えたことに対しての敬意の数字だ。やり終わった後、自分の巣穴を一度見渡してほしい。あなたの隣にいる個体は、ちゃんと冬を越せそうか。