血の繋がりがないって知らされても、それでも病室に通った男ってのはね、もう一人前なのよ。
結末を六通り全部見たわ。アタシのいるカウンターからすると、これは「妹の話」じゃなくて「ひとりの娘がどう自分の命を畳んでいくか」って話だわね。加奈って子、十六で自分の死後の段取りまで決めて、肝臓まで渡していくのよ。アタシが店で見てきた六十、七十のばあさんでもここまで覚悟決まってない人、ごろごろいるわ。
そして隆道。血が繋がってないって途中で告げられて、それでもドナーを志願して、それでも病室に行き続けた。アタシの店では、男の覚悟ってのはベッドじゃなく翌朝にわかる、って言ってきたけれどね、この男の場合は告知された翌朝にわかったわ。点数は8.0、文句なし。
スコア詳細
血が繋がってない、ってこと
これね、アタシの店のカウンターで客から聞いた話みたいだったわ。「実はうちの妹、本当の妹じゃないんですよ」ってね、酒が三杯目に入った頃にぽろっと出てくるやつ。父親の友人が亡くなって、その遺された娘を引き取った。家族はずっと黙ってた。本人たちはずっと「実の兄妹」だと思って育った。よくある話なのよ、実際。アタシも似たような話、二度三度は聞いてる。
でね、この告白がドナー検査の話に絡んで出てくるのが、よくできてるのよ。腎臓のマッチングって話に持ち込まなきゃ、両親も口を割らなかったでしょうね。「あんたたち、血が繋がってないのよ」って言葉を、命の話に乗せてようやく出してくる。親ってのも年取ると、こういう抱え方をするものなのよ。アタシ自身、客の親御さんから「実は」って打ち明けられた夜のことを思い出したわ。
でね、肝心なのは隆道って男の側よ。血が繋がってないとわかった瞬間、男の頭ってのはふたつに割れるの。「じゃあ守る義務もないか」って引くか、「血が繋がってなくても妹だ」って踏み込むか。隆道は踏み込んだ。それも勢いじゃなく、ドナーの志願って具体的な行動でね。アタシが店で見てきた中で、こういう局面で踏みとどまれる男ってのは、十人にひとりよ。本当よ。値打ちのある一点を、この子はちゃんと拾い上げたわ。
逆に言えばね、加奈ちゃんが「お兄ちゃん」って呼び続けた重みも、ここで一段増すのよ。血が繋がってないって自分でもどこかで気づいてた節があってね、それでもあの兄妹関係を守って、最後に「愛しています」までもっていった子なの。嘘で守られてきた関係を、嘘のままで終わらせなかった、ってだけで、アタシはこの子に九点払うわ。
六つの結末、アタシの採点
結末が六通りあるわけ。アタシは「男の覚悟」と「女の決断」って二本の物差しで全部見たわ。順番に行くわよ。
ED1「はじまりのさよなら」— 加奈、自分の足で旅立つ
腎移植が成功して、加奈ちゃんが生きる。やがて自立して家を出ていく。ね、これがアタシは一番好きなのよ。生かす結末、ってだけじゃなくて、生かしたうえで「家を出る」って一歩まで描いてるのがいいのよ。妹のままで囲っとくこともできたのに、書き手はそうしなかった。
女の決断としては満点よ。命を拾った娘がね、お兄ちゃんの庇護下にずっと居続けるんじゃなくて、ちゃんと自分の足で外に出ていく。アタシの店にも、難病から戻ってきた子がいてね——ああ、これはまた今度の話にするわ。とにかく、生き延びたあとに何をするかってのが本当の試験で、加奈ちゃんはそこに合格点を出してきた。男の覚悟としては隆道が及第点、ってとこね。妹を手放せたって意味で。
ED2「追憶」— 死後に声を残した女
移植が失敗して加奈ちゃんが亡くなる。一年喪に服して、ペンダントに録音された声で隆道が前を向く。これね、女の決断としてはなかなか芸が細かいのよ。死ぬ前に「これは死後に聴かせる」って意図でメッセージを録っておく、ってのは、十六の娘がやることじゃないわよ普通。
アタシの常連さんでね、若くして亡くなった奥さんが旦那にビデオレターを残してた、って話を聞いたことがあるの。あれと同じ匂いがするわ。死んだあとも「私はここにいたよ」って残し方をする女。隆道の喪明けが一年ってのも、まあ妥当な長さよ。短すぎず、長すぎず。男の覚悟ってよりは、女の覚悟に支えられて立ち上がった結末、って言うべきね。これも悪くないわ。
ED3「迷路から」— 夕美って女の覚悟
これはちょっとアタシ、唸ったわ。加奈ちゃんが亡くなって、隆道が現実否認の錯乱状態に陥っちゃう。妹がもう死んでるってことを受け入れられない男に、夕美ちゃんが加奈ちゃんのかつらをかぶって「加奈ちゃん……もう死んだんだよ」って告げる。
これね、書き方によっちゃ悪趣味になっちゃう場面なのよ。ぎりぎりで悪趣味の手前に踏みとどまってるのは、夕美ちゃんの覚悟がちゃんと書けてるからだと思うわ。だってあの子ね、自分のままじゃ隆道に届かないってわかってて、加奈ちゃんの姿を借りてでも目を覚まさせる側にまわった子なのよ。これって、自分を消すって決断なの。
アタシの店に来てたお客さんでね、亡くなった前妻の話を延々してる男にずっと付き合ってあげてた後妻さんがいたのよ。あの人と同じ匂いがするのよ、夕美ちゃんは。女の決断としては、ある意味で一番きついやつ。隆道はここで救われちゃってるけど、男としては正直、いっぺん夕美ちゃんに頭下げなさいよって思うわね。覚悟は彼女のほうが上。
ED4「雪」— 約束を果たした女
移植をせずに、家族と看取って、加奈ちゃんが静かに逝く。雪が降る。翌春にウメバチソウが咲く。「もしわたしが死んだら、雪を降らせてみようかな」って言葉が、まんま現実になっちゃうのよ。
女の決断としてはね、これも見事よ。生きるための治療を選ばずに、家族に看取られるほうを選ぶ。アタシも歳とってきたから言うけどね、これはこれで立派な決断なのよ。延命に賭ける勇気もあるけど、賭けないって覚悟もある。加奈ちゃんはちゃんと自分で選んだのよ。
男の覚悟ってより、ここは加奈ちゃんが言葉を現実にしてみせた話ね。「雪を降らせてみようかな」って軽口を、後から振り返ったらきっちり伏線にしてあるあの作り。書き手の手数として悪くないんだけれど、ちょっとだけね、「ここは泣かせにきてるな」って手の内が見えちまうのもこのへんなのよ。アタシみたいなおばさんはついね、構えちゃうの。それでも0.5引くか引かないかの瀬戸際。許す範囲よ。
ED5「おもいで」— 命の渡し方として、一番潔い
これがね、アタシは一番打たれたわ。加奈ちゃんが亡くなって、その肝臓が霧原香奈って同じ「かな」って名前の子の体の中で生き続けるの。加奈ちゃんがドナーカードを自分で持ってたって設定がね、効くのよ。ホスピスで須摩子叔母さんと過ごした時間がここに帰ってくる作りなの。
女の決断としては、これがアタシの基準では満点よ。生きてるうちに自分の死後を設計して、書面に残して、ちゃんと別の命に渡していく。十六の娘がここまで畳むのよ。アタシの店でも生命保険の名義変更ひとつできずに亡くなった大人を何人も見てきたわ。比べる相手じゃないんだけど、それでも加奈ちゃんの覚悟は、ちょっと群を抜いてる。
日記が『命を見つめて』って本になって出るのも含めてね、この子は「消えたあと」に最大限のものを残していった子なの。アタシは黙っちゃったわよ、このルートは。命の渡し方として、これ以上に潔いのはちょっと思いつかない。男の覚悟ってより、女の決断としての満点ね。
ED6「今を生きる」— 隆道が、ようやく前に進む
ED5の続きで、出版された『命を見つめて』を読んでた夕美ちゃんと、隆道が大学のキャンパスで再会する。「これ、読んだよ」「許してやってもいいかな」って。秋になって紅葉狩りまで行く。
男の覚悟としてはね、ここでようやく合格点を出すわ。加奈ちゃんを看取って、加奈ちゃんが残したものを抱えたまま、それでも次の関係を引き受けようとする。これってね、口で言うほど簡単じゃないのよ。亡くなった人を抱えたまま新しい人と歩くって、男にとっちゃ覚悟がいるの。逃げる男はいくらでも見てきたわ。
夕美ちゃんもね、ここで報われていいのよ。一番しんどい立ち位置にずっと立たされてきた子だもの。アタシは「よかったね、夕美ちゃん」って素直に思ったわ。隆道、絶対に大事にしなさいよ、って言いたくなる結末。男の覚悟と女の決断、両方そろってる唯一の終わり方かもしれないわ。
アタシの並べ方
アタシの好み順で並べるならね、ED5、ED6、ED1、ED4、ED2、ED3、って感じね。ED5を上に置くのは、加奈ちゃんの女としての覚悟が一番きれいに出てるから。ED6はその上に隆道が一歩進むから。ED1は加奈ちゃんが生きるって明るさで救われる。ED4はちょっと「泣かせ」が透けるけど、加奈ちゃんの言葉が現実になる詩の力で底上げされる。ED2は隆道の喪明けまで一年描くのが偉い。ED3は夕美ちゃんの覚悟だけが突出してて、男側がだいぶ情けない印象なのよ、アタシには。
結末満足度を7.5にしたのは、六本全部いいわけじゃないからよ。粒は揃ってるけど、突き抜けてアタシを唸らせたのはED5・ED6だけ。残りは「悪くないわね」止まり。手数として複数の終わり方を見せられること自体は買うけど、もう少しED5級が二、三個あったら9点出してたわ。
Hシーンってやつをね、アタシの基準で
断っとくけどね、アタシはもうそういう年齢じゃないから、エロいかどうかの審査はしないのよ。エレナちゃんに任せるわ、そこは。アタシが見てるのはね、「ベッドの上で男はどう振る舞ったか」「翌朝、その関係をどう扱ったか」って一点だけ。アタシの店で言ってる「男の覚悟はベッドじゃなく翌朝にわかる」って話よ。
隆道と夕美のシーンね。これは正直、男としてアタシは合格点を出さなかったわ。だってあの子、加奈ちゃんへの感情を自分でも自覚し始めてるくせに、夕美ちゃんと体を重ねちゃうのよ。それをぐじぐじ抱えたまま病室にも通うのよ。アタシの店で何度も聞いてきた「都合のいいときだけ女を呼ぶ男」のパターンに、ぎりぎり片足踏み込んでるわ。
ただね、フォローもしておかなきゃ。隆道の場合、夕美ちゃんを「捨てた」わけじゃないの。混乱しながらも誠実であろうとしてる、その葛藤は書けてる。だからアタシの判定は「翌朝にちゃんと顔向けはできた、けど自分の中での整理は最後までついてなかった男」、ってとこ。十九じゃまあそんなものよ、で済ませてあげる。ED6で夕美ちゃんに「許してやってもいいかな」って言われる側に立ったってことは、つまり許されるだけの落とし前は最終的にはつけた、ってことでもあるわけだしね。
加奈ちゃんとのシーンについてはね、アタシの口からはあまり多くは言わないことにするわ。あの子の体の状態を考えればね、これは普通の意味でのHシーンじゃないの。残された時間の中で「お兄ちゃん」と「私」じゃないところに踏み込んでいく、その一線越えの儀式みたいなものよ。ここでもしも隆道が逃げ腰になってたらアタシは点数を全部引っ込めてたところだけど、この子は逃げなかった。逃げなかった、ってだけで、アタシはもう何も言わないわ。
アタシの店ではね、女に体を許させておいて翌朝に連絡が途切れる男の話を、毎週聞いてるのよ。本当に毎週よ。それと比べたらね、隆道って男はね、まだまだ青いけど、最低限のところは守れてる男なの。だからアタシは8.0払う気になったわ。これがもし、ベッドのあとに病室から足が遠のいた、なんて展開があったら、アタシは即座にこの作品を閉じてたわ。
最後に、もう一杯
長くなったわね。アタシの店なら、ここで「もう一杯どう?」って言うところよ。ネタバレ前のレビューで言いそびれたことをここで言わせてもらうと、加奈ちゃんって娘はね、最終的にアタシの中で「店のカウンターに座ってくれてたらよかったのに」って思える数少ない女のひとりになったわ。十六で逝った娘に対してこんな感想を持つアタシも妙だけれど、それくらい、ひとりの人間として向き合える書かれ方をしてた、ってことよ。
隆道は最後まで完璧な男にはならなかった。なんなら最後の最後まで青さは残ってた。でもね、血が繋がってないって告げられても病室に通った、ドナーを志願した、夕美ちゃんに最終的に頭を下げる側にまわれた。これだけそろえば十九にしては及第点よ。アタシが店で見てきた三十、四十の男たちの何割かは、隆道に負けてるからね。
夕美ちゃんにはね、もう一杯おごりたい気持ちよ。あの子の覚悟があったから、この物語は閉じられたのよ。書き手の田中ロミオって人にも、よくぞこの夕美って子をきれいに最後まで扱いきってくれた、って言いたいわ。三角関係の脇に置かれた女を都合よく退場させる作品なんて掃いて捨てるほどあるけど、この作品はそれをしなかった。それだけでアタシはこの作品に8.0払うわ。
古い作品でね、いまの若い子には絵柄も古く見えるかもしれないけど、ここに描かれてる男と女の覚悟は古びてないの。アタシの店で生きた話を散々聞いてきた女が言うんだから、間違いないわ。一杯付き合ってくれて、ありがとう。
